歌えない彼女と、才能のない作詞家の僕。

高殿アカリ

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第2章 夏空の少女

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彼女の名前はミナミと言った。
今をときめく歌姫で、彼女が新曲を出すたびにオリコンチャートに彼女の名前が乗らない日は無かった。

その愛らしい見た目と気持ちいいほどに伸びていく声に、国中の誰もが魅了されていた。

例えば、ポチが時代に残る永遠の歌姫なのだとしたら、ミナミはこの時代を築き上げる歌姫だと言えるだろう。

そのことは本人もよく理解していて、時代に旋風を巻き起こしたそのあとは、誰かの良き妻となるか、ひっそりと咲く脇役女優になろうと画策しているらしい。

そんな未来の幸福のために、彼女は歌手としての忙しい時間をわざわざ割いてまで、料理教室に通ったり、演技指導を受けに行ったりしているのだ。

事務所や業界など彼女を取り巻く関係者たちは、歌を歌っているだけでお金になるミナミに対して将来のことを見据えた習い事などさせてくれない。

ボイトレや作詞作曲のレッスンは、彼女の喉を潰すほどスケジューリングしているというのに。

だから、彼女はきっと一人きりで戦っている。
自分のためだけに自分の未来のために、自分の手で道を切り開いているのだ。

そうやって戦っているから、当然のごとく彼女はいつだって疲れている。
そして、限界まで疲れ切った時、彼女は僕の部屋を訪ねてくるのだ。

売れる見込みのない僕を見て、安心を得るのだという。
そして、僕を見て安心している彼女を見て、僕もまたそんな彼女が可哀想だと安心する。

これまた、歪んだ関係なのだ。

「玉木はその惨めな姿が一番だよ。だから、永遠にそのままでいてよ?」

意地悪に片口を上げながら、まるで呪いのような言葉ばかりを吐いて、気の済むまで僕の作った歌詞にメロディをのせるのだ。

そうやってストレスを発散させたあと、彼女はいやにすっきりとした顔つきで、僕の部屋を後にする。

次の日にはまた、ミナミはミナミとしてテレビの向こう側で煌めいている。
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