身体から始まる契約結婚

高殿アカリ

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side.航 もう一度

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「……聞こえなかったか? 出ていってくれ、と言ったんだ」

彼女には俺の言葉が大層冷酷に聞こえたことだろう。

それも無理はない。
何せ、俺は昨夜を共にした女の顔を思い出せない自分に苛立っていたのだから。

涙目になった紬を更に無視すると、彼女はそのまま俺の命令通り部屋を出ていった。
傷ついた表情を一切隠さない紬を俺は苦々しい気持ちで見ていた。

そんなことはあり得ないと頭では理解しているが、どうしても紬の姿が打算的に思えて仕方がなかった。

幼馴染であった彼女から俺への恋心を聞かされたその瞬間から、俺は紬と向き合えなくなった。
女性特有の浅ましさが鼻につくようになったのだ。

彼女の無邪気さに恐怖する度に過去の記憶が俺を縛り付ける。
そして苦しめてくるのだ。

一人になったあと、ベッドサイドテーブルに置いていた眼鏡へと手を伸ばした。

もし昨夜も眼鏡をかけていたら、彼女の顔を見ることが出来たのではないだろうか。
それにどうしてーーーー。

「どうして彼女の肌はあんなにも心地よく感じられたのだろうか」

もう一度、逢いたい。

俺の心臓は確かにそう願っていた。
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