身体から始まる契約結婚

高殿アカリ

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あなたの隣

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ホテルの従業員に指示を出したのだろう。
初夜のために予約していた最上階の部屋に辿り着くまで、誰とも出会わなかった。

みっともない姿を見られずに済んだことにほっとした。

丁寧な動作で私を寝台に寝かせると、彼は私の顔を覗き込んだ。

「何もされていないか?」

こくりと頷くと心底安堵した表情になった。

「はぁぁぁ、良かった」

航が私の頭を撫でる。
何度も、何度も。

まるで無事であることを確認するみたいに。

「心配してくれてありがとう」
「当たり前だ。伊織は俺の奥さんなんだから」

ふふっと笑みが溢れた。
湊と対峙して尚、笑う余裕があるのは航が私の側にいてくれるからに他ならない。

「このまま結婚式は出来そうにないな」
「ごめんなさい」

「伊織が謝ることじゃない。俺が、伊織に負担をかけたくないだけだ」

本当は聞きたいことも沢山あるだろうに、彼はただひたすらに優しかった。

「伊織、ほんの数十分だけここで一人で休めるか?」

航に問われたとき、本当はまだ怖かった。
けれどそれ以上に航の重荷になる方が嫌だった。

だから私は微笑んだ。

「私は大丈夫。迷惑かけてごめんね」
「お前は、ほんっとに」

航は辛そうな顔をした後、私の額にキスを落としてそれから部屋を出て行った。

後に残された私は、瞼を落とした。
今は何も考えたくなかった。

酷く疲れてもいた。
だけどこのまま眠ったら夢を見る。

きっと悪夢を見てしまう。

駄目だと思いながらも、睡魔に勝つことは出来なくて、いつの間にかうとうとと眠りについた。

ーーーー案の定、湊の夢を見た。
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