鎮西八郎為朝戦国時代二転生ス~阿蘇から始める天下統一~

惟宗正史

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第三十三話

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 二月も末になり九州北部が荒れ始めていた。
 まず動いたのは一族を殺され復讐に燃える龍造寺隆信。隆信は筑前の少弐領に侵攻し少弐領を荒らしまわったが、ここに宗筑後入道が動いて隆信を撃退。
 この隆信の動きに怒った少弐冬尚は筑前、筑後、肥前の国衆に大動員をかけて隆信を滅ぼそうとするが、直家の調略を受けている各地の国衆はこれを拒否。逆に少弐の威信を失わせることになる。ここで少弐は頼みの綱の大友に救援を求めるが、大友もまた龍造寺一族の粛清を行った少弐に対する不安と、大内との戦からこれを拒否。
 まさしく少弐は直家の謀略にかかり四面楚歌となったのである。
 ここで少弐と正面から対立する隆信が動いた。重臣であり実母が後妻となり一門となった鍋島清房を為朝に派遣してきたのである。
 隈本城本丸。宗運が縄張りして総奉行を務める隈本城もようやく本丸が完成し、他家からの使者はここで迎える手筈になっていた。
 その本丸には為朝と宗運がいた。
「鍋島清房……確か柳川城攻防戦の時に俺を追撃してきた武士だったな」
「左様。龍造寺家の中でも精鋭といえる『赤熊武者』を率いて戦場を疾駆している猛将ですな。今は龍造寺隆信殿のご母堂を後妻に迎えて一門となり、名実ともに龍造寺家の屋台骨と言えるでしょう」
「その重臣中の重臣を送ってきた……と、なると龍造寺は俺との関係を少なくとも敵対していたくない、ということか」
「でしょうな。今の肥前は九州北部の嵐の中心。龍造寺と少弐の勝利者次第で大きく情勢は動くでしょう」
「そしてそこには直家の謀略も絡んでくる……よし! だいたいわかった。義久、鍋島殿を連れてきてくれ」
「はは!」
 本丸の階段のところに控えていた義久は為朝の言葉に返事をすると会談を降りていく。
 そしてしばらくすると厳つい顔に大きな傷を持つ漢が上がってくる。その傍らには男によく似た為朝より年少の少年がついてきていた。
 為朝が漢をみると、漢もまっすぐに為朝をみてくる。
(ふむ、いい目をする)
 その目をみて為朝は漢のことが気に入った。無骨でまっすぐな性格を表している為朝好みの漢の気配がする。
 漢は為朝から視線を外すとふわりと座り、頭を下げる。
「龍造寺隆信が臣・鍋島清房と申します」
「知っている。筑後と肥後の国境以来だな、鍋島殿」
「あの時、私が為朝殿を討っていれば立場は龍造寺家はもっと飛躍していたと後悔しております」
 清房の言葉に宗運の眉尻がピクリと動く。
 だが、為朝はそんな清房の言葉を豪快に笑い飛ばした。
「ははは!! はっきりと物を言う気持ちのいい漢だ!!」
 そこまで言うと為朝は真剣な顔になって清房をみる。
「面倒なことは省いて本題を聞こう。俺と敵対する龍造寺が何用でここに来た」
 為朝の言葉に清房も生真面目な顔だった表情をさらに厳しくして頭を下げる。
「龍造寺を助けていただきたい」
 その言葉に為朝が口を開く前に傍らに控える宗運が口を開く。
「調子のよい話だな。我らは龍造寺に大きな将兵を討たれた。その遺族のことを思えば少弐と龍造寺が争う状況は願ってもないことだ」
 宗運の言葉に論戦は宗運と清房に移ったことを確信した為朝は、表面上不愉快な表情を浮かべながら清房という漢をみる。
 宗運の言葉に清房もまた口を開く。
「戦の勝敗は兵家の常。それに我ら龍造寺も為朝殿の軍に多大な被害を受けております。そこはお互い様でしょう」
「お互い様というか。それを言うならば我らは隈庄親昌殿という重臣を失っている。だが、龍造寺にあの時の戦で重臣を失ったという話は聞かないが?」
「重臣を失っていなくても兵を多数失っております。そしてその兵の大半を失ったのがその隈庄殿の最後の奮戦のせい……為朝殿は重臣を、我らは大事な兵を失った。それゆえのお互い様でしょう」
 さらに論戦を続けようとする宗運を為朝は手を挙げて制する。宗運も一度頭を下げると黙り込む。
 そして今度は為朝が口を開く。
「よし、では先の戦いのことはお互い様として忘れる……ことはできぬが、その恨みは俺が飲み込むとしよう。それで? 龍造寺は俺に何を求める?」
 話すのが宗運から為朝に移ったことで、交渉の分水嶺だと思ったのか、清房は一度息を吸い込むと口を開く。
「少弐家の重臣・宗筑後入道殿を討っていただきたい」
 その言葉に為朝は無言で顎に手を当てる。それをみながら清房は言葉を続ける。
「宗筑後入道を討てば筑後の諸家は雪崩をうって為朝殿に従いましょう。それ即ち為朝殿による筑後の統一。そして宗筑後入道さえいなければ我ら龍造寺が少弐に負ける道理なし」
 そこで清房は一度言葉を切ると鋭い眼差しで為朝を射抜く。
「為朝殿は筑後を。我ら龍造寺は筑前の少弐領を分割支配したいのです」
 言い切った清房をみながら為朝は清房をみる。
 そして為朝は手を下に降ろすと口を開く。
「駄目だ」
 為朝の拒絶の言葉に清房の表情が歪む。
「恐れながら申し上げます!!」
 すると清房の傍らに控えていた少年が緊張した様子で大きな声を挙げた。
「此度の分割案でございますが!!」
「これ!! 彦法師丸!!」
「鍋島殿、よい」
 少年の言葉を止めようとする清房を為朝は制する。
「小僧、俺の前で発言するのだ。覚悟はしているであろうな?」
 為朝の脅しに少年の瞳に恐怖が映るが、すぐに覚悟を決めた表情になる。
「父に連れられてここまできた時点で命の覚悟はできております!!」
 その言葉に為朝はニヤリと笑った。
「いいだろう、言ってみよ。しかし、それが的外れであれば鍋島殿と小僧の首は斬って龍造寺と手切れだ」
 為朝の言葉に清房から彦法師丸と呼ばれた少年はゴクリと唾を飲むと、一度勢いよく頭を下げてから口を開いた。
「為朝様がお気になされているのは大宰府……特に交易都市博多の支配権だと思われます!!」
 その言葉に為朝と宗運が思わず驚く。彦法師丸の言う通りだったからだ。
 隈本湊を作り、交易を中心に動いている為朝達にとって、交易都市・博多は絶対に抑えておきたい都市である。それは篠栗栄を通じて対馬宗氏からも今後の支援をする上で絶対条件だと言われているのである。
 現在、博多を支配しているのは少弐家である。その少弐家の領地を龍造寺が奪うということになれば為朝を支持する倭寇勢力からの突き上げが出てくることになる。そうなれば今度は龍造寺を討って博多を実力で支配するしかない。やってできないことではないだろうが、それをやるには時間と金が大きくかかる。そのために為朝と宗運は龍造寺による博多支配を認めるわけにはいかなかった。
 無言の本丸の中を彦法師丸の緊張した声が響く。
「我らが博多をとったとしても、交易の知識のない我ら龍造寺には意味がありません!! それならば最初から為朝殿に大宰府を博多の支配権を差し上げるのがよろしいかと!!」
 言い切った彦法師丸を為朝は無言で見つめる。まだ幼い彦法師丸の肩は小さく震えていた。
「彦法師丸、何故、俺が博多を欲しがっていると思った?」
「為朝殿の立場になって戦をすることを考えました」
「ほう」
 為朝の興味深そうな相槌に、彦法師丸は身体を乗り出す。
「為朝殿は交易を重視なさる。これは九州の全てが知っている事実。そして先の筑後侵攻も博多を目標にしていたと考えれば、阿蘇山を挟んで敵対している大友を無視して北伐を開始したことも説明がつきます!!」
「では、彦法師丸。お前が俺だったとして、この後どうやって博多を落とす算段をつける?」
 為朝の問いに彦法師丸は顔を真っ赤にして考え込む。そして思いついたかのように口を開いた。
「龍造寺を始めとした国衆を為朝殿に従わせます!! これをすれば大きな戦は少弐との戦だけで済み、人や金子も少なくて済みます!!」
 悪くない答えであった。
 為朝は視線を清房のほうに戻す。清房は彦法師丸の言葉が為朝達の核心をついたと思ったのか黙って為朝をみていた。
「鍋島殿、この小僧は?」
「私の次男で彦法師丸と申します」
 清房の言葉に為朝は頷く。
「良かろう。彦法師丸の胆力を勝って龍造寺と組む」
「ありがたく!!」
 為朝の言葉に清房は勢いよく頭を下げるが、そこに宗運が口を挟む。
「為朝様のお言葉故、龍造寺とは組もう。しかし!! 龍造寺は為朝様に従属する。そして大宰府と博多は為朝様のものとする。この二つの条件を飲めれば、だ」
 宗運の言葉に清房は大きく頷く。
「承知しました。その二つの条件、必ずや主君・隆信に飲ませてみせます」
「鍋島殿、もう一つ条件をつけよう」
 為朝の言葉に清房の顔に緊張が走る。それに対して為朝は人好きする笑いを浮かべる。
「彦法師丸を俺に預けてくれんか? 一人前の漢にして返してやるが」
 その言葉に清房は安堵の溜息を吐く。
「彦法師丸は人質として為朝殿にお預けいたします。どうか一人前の漢に育ててくだされ」
 最後に父としての本音を溢して清房は頭を下げる。それをみて彦法師丸も慌てて頭を下げた。
 それをみて為朝は両手で一回手を叩く。
「よし!! 決まりだ!! 俺は龍造寺と組む!! あとの細かいところは宗運の弟の親房に任せる。何かあれば親房に言え」
「はは!!」
 清房と彦法師丸は頭を下げると義久に連れられて本丸から去っていく。
 完全に人の気配がなくなってから為朝は宗運に話しかけた。
「直家の調略、うまくいったようだな」
「ですな」
 龍造寺を為朝に従わせる。この調略は直家が行っていた。その成果があっというまに表れたのだ。
「直家には父の旧領だけじゃ足りないな。三国くらいやるか?」
「それほどの領地を与えても構わない才ですな」
 為朝の言葉に宗運が頷く。そしてそのまま宗運は言葉を続ける。
「それにしても思わぬ拾い物ですな。鍋島彦法師丸……あの若さであの才。鍛えればどこまで伸びるかわかりませんぞ」
「そこだ、宗運。ここは一つもうすぐやってくる宗滴翁に彦法師丸を預けてみようと思ったのだが」
「ほほう。いいかもしれませんな。あの若さであれば変な自尊心などはなく、素直に宗滴殿の教えを受け入れるでしょう」
「だろう? 彦法師丸がいずれ龍造寺に戻るとしても俺の従属国衆だ。その一翼が強いにこしたことはない」
 為朝の言葉に宗運も頷く。
「宗滴殿に鍛えられた才能ある童……楽しみが増えましたな」
「全くだ」
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