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第一章
第一話
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ここはブレイブ王国にある勇者学院の門前。そこに一組の男女が立っていた。
「ふむ‥‥これは迷うな。案内が必要か……」
広大な土地、巨大な建物。それらを前にして、男がそう呟く。
「そうですね。手配しましょう」
傍らの女が、それに追従する。
「当てがあるのか?」
「いえ、ありませんが」
「‥‥一応聞くが、どうするつもりだったのだ?」
男の顔は渋いモノになっている。分かっているが、一応聞く。本当は聞きたくないが。そんな顔だ。
「その辺から攫おうかと」
「……はぁ~~。今日の目的は、話し合いだ。余計な波風を立ててどうする」
男は身体の全ての空気を出し切るかの如く、溜息を吐いた。
「……冗談です」
「なら、目を逸らすな」
二人のコントの様なやり取りに、注目が集まる。いや正確には、会話の内容はさほど注目されていない。遠巻きに人が集まり出すだけだ。しかし、誰も二人に接触しない。ただ眺めるのみ。それが安全だと、本能で分かっているから。
二人の容姿に惹きつけられ、同時に恐れを抱く。
男の髪は長く、燃えているかの如く赤い。その長い髪の隙間から垣間見える顔は、恐ろしいほど整っている。時折見られる、髪を掻き上げたり顎に手を当て思案する等の、その仕草で過剰な色気が振り撒かれる。
そして、特筆すべきはその目。まるで、闇が凝縮しているが如く黒く、暗い。白い部分もあるにはあるが、その眼の黒さは、見る者全てを恐怖させる。
また、女の方も見た目は整っている。長い銀髪の髪が頭の後ろで纏められ、冷たい美貌そう評して良いその顔からは、怜悧さが窺える。スタイルも良く、グラマラスとまでは行かないものの、出る所は出ていて十分に男の劣情を刺激する。
そして、こちらで特筆すべきはその尻尾。女の腰、尻の上辺りからは爬虫類の尾が生えていた。
「魔族‥‥」
どこからか、呟きが漏れる。だが、混乱は生じない。皆が分かっているのだ。最初から。この男と女が魔族だなんて事は。普通なら兵士を、いや勇者を呼ぶべきだろうという事も。
魔族とは、人以外の異形種達の総称である。腕が四本ある者、獣の特徴を持つ者、羽・翅・翼の生えた者、耳の尖った者、その他諸々実に様々である。
人は、自分と異なる者に恐れを抱く。力の差が大きくなればなるほど、それは顕著になる。この男女に対しても、当然恐れを抱いている。だが、それ以上に惹きつけられるのだ。妖しさに、美しさに。
「……まあ、中に入れば如何様にもなるであろう。行くぞ」
(なぜか、人は少ないようだがな……何かあったか?)
男は、学院の様子に内心首を傾げるが、それを表には出さない。
「はっ」
周りの人間たちの事なぞ気にも留めず、二人の魔族は門を潜る。
その瞬間、学院に施された結界が反応する。
「む……」
「……警報用の結界ですね」
女の言う通り学院には、魔族が侵入した際それを知らせる為の、警報用の結界が施されていた。魔族が結界に触れると、小さな魔力波が結界と連結した『結界水晶』に届くようになっているのだ。この魔力波は通常、気付く事が出来ない程に微弱なものだ。しかし、この二人は違った。
「……あそこだな」
「ですね」
その微弱な魔力波に気付き、その行き先まで見抜いた。多くの魔族がこの結界のせいで、学院への侵入に無惨な結果を残しているのにも関わらず。
「まずはあそこからだな」
「はっ」
このままでは、いずれ勇者とぶつかるのは必至。警報はその為のもの。しかし、二人は大して気にした風も無く、『結界水晶』のある方へ向かって歩き出した。
勇者を侮る愚か者か、それとも‥‥。
3分後。二人は、十数人の若い人間の女に囲まれていた。警報の原因である魔族を討ちに来た、少女達である。
学生なのだろう。皆が同じ制服を着ている。その手には剣や槍などの武器が握られ、油断なく侵入者たる二名の魔族を牽制している。
ところで、勇者の武器は聖剣と呼ばれる。剣じゃなくとも聖剣である。その聖剣を手にする事が出来るのは、勇者となった者だけである。
聖剣とは天使によって与えられる、天使の力が宿った武器である。条件が揃わないとこの世界に顕現出来ない天使が、魔族を討つために人間に力を与えたのだ。勿論、無差別と言う訳では無く、選ばれた者のみが聖剣を手にする事が出来、それが勇者と呼ばれるのである。
そんな勇者を育て上げる為の、勇者学院なのだ。
そして、人間の女学生達が手にしているのは、聖剣では無い。普通の武器である。それは、まだ少女達が勇者でないという事の証、勇者候補生という訳だ。聖剣を手にしているのは一人。魔族の男女を囲む女生徒の輪から離れ、見守るように立っている女だけである。
深く、そして濃い青色の髪をしたその女は、ロングソードとでも言うべき、長く大きい聖剣を携えていた。
「……エミリア、任せる」
男がそう頼むと、エミリアと呼ばれた女が男に一礼し前に出た。
「我々は、ここの学長?に話があって来た。暴れるつもりは無い。だから、道を開けろ。邪魔だ」
エミリアの言葉に数名がざわつく。
これまで学院に侵入してきた魔族達は、一つの例外も無く敵意を剥き出しにし暴れた。そして、勇者や勇者候補の生徒に討たれた。それが、様式美の如く決まった流れだった。
だから惑う。今回侵入してきた魔族は、対話を望むと言う。口こそ悪いものの、敵意も全く無い。襲い掛かって良いものなのか、と。
「気にするな。敵意が無かろうと、侵入してきた魔族である事に代わりは無い」
静かにされど堂々と、聖剣を抜き放ちながら勇者が言う。
(ほう‥‥!)
男の顔が喜色に染まる。それは、思い掛けない所で思い掛けないモノを見れた、そういう喜び。
その笑みは、過剰な色気と共にあった。
「「「「っ!?」」」」
警戒し様子を窺っていた女達が息を呑み、その男の色気に呑まれる。そして同時に、勇者に恐怖が襲う。
(危険だ!!この男はここで‥‥!迅速に‥‥!!)
「掛か『眠れ』……!」
得体の知れない恐怖に、危機感を抱いた勇者が指示を飛ばすも、その声は男に依って遮られる。
『眠れ』ただその一言で、勇者以外の女達が眠りその場に崩れ落ちた。強力で唐突な催眠だったにも拘らず、女生徒達は穏やかな表情で寝息を立てている。勇者も無事だった訳では無い。一瞬意識が飛びかけるも、そこは流石勇者。耐えて見せた。
「耐えたか……フフフフ」
(だが、動けまい)
男の読み通り、勇者は既にフラフラ。聖剣を杖代わりにして、体を支えている状態だ。
「くっ……」
近付いて来る男を、気丈にも睨みつける。既に負けたと言っても過言では無い状況だが、勇者の心は折れていない。だからこそ、聖剣に選ばれる。
「陛下、程々に」
呆れたように、しかしどこか微笑ましそうに、女が溜息を吐きながら言う。
「分かっておる」
(っ!?『陛下』だと……!?)
魔族が『陛下』と呼ぶ存在、そんなものは一つしかない。
「き、貴様、魔王か……っ!?」
女の群青の様な瞳が、男を射抜く。
「ふむ、自己紹介がまだであったな」
男の体から、闇が溢れ出す。溢れ出した闇が、何かを模り始める。玉座だ。男がその禍々しき玉座に腰掛け、エミリアが傍らにそっと立つ。
「余は大罪を司る魔王が一柱、≪色欲≫が魔王である」
その言葉と共に、長い歴史の中で初めて、魔王が人間界に君臨した
学院の廊下を歩く三人に、すれ違う生徒の視線が集まる。
先頭を歩く者は良い。この学院の生徒であると同時に、勇者でもあるから。しかし、続く二人は違う。女は尻尾が生えており、男も見るからに禍々しい闇を纏っている。一目で分かる。二人は魔族だと。魔族と見て襲い掛かってくる者が居ないのは、先頭を歩くのが勇者だからだろう。
魔族が勇者に連れられ、勇者学院を歩いている。異様な光景である。
「陛下、いい加減ソレ仕舞われたらどうです?皆驚いていますよ」
「あった方が、魔王らしくないか」
「そんな事しなくても、陛下は誰よりも魔王です」
「で、あろうな」
「はい。我々配下は、その姿を見ただけで濡れますから」
「くははははっ、そうかそうか!何とも愛い奴よ!」
魔族が敵地、勇者学院でする会話では無いだろう。緊張感の欠片も無い。現に、彼らを引き連れて歩く勇者の顔には、苛立ちが浮かんでいる。
「くっ‥‥」
(なぜ、私が……っ!しかし、私だけでは敵わないのも事実。ここは、学長の力を借りて……!)
そう心で決意を固める女勇者。実はこの女勇者、魔王の男が名乗りを上げた瞬間、気力を振り絞り剣を振るった。
だが、届かなかった。いや、届いてはいた。しかし、魔族を滅する力を持つはずの聖剣が、魔王の体をなぞるように振り抜かれるも、その体を切り裂く事は無かった。まるで、模造刀で攻撃したかのような手応えであった。
(何かカラクリがあるはず。それを暴けば、いかに魔王と言えども……!)
女勇者がそんな決意をしているとも知らず、魔王は暢気にキョロキョロと学院内を見回している。その目には、何もかもが新鮮で珍しく映っているらしい。
やがて一行は、剣とそれを包み込む羽の生えた女の意匠が大きく施された、豪華な扉の前に辿り着く。扉の上部には、『学長室』というプレートが掲げられていた。
「ヘレナです。魔族を連行してきました」
「くくく。連行、か」
勇者の言葉を、魔王が嗤う。気にしてはダメだと、勇者は言葉を続ける。
「学長に対処をお願いしたく」
「……入るのじゃ」
静かな、そして厳かな声。だが、その声は緊張からか、僅かに震えていた。
扉が開かれると、ヘレン、魔王、エミリアの順に入っていく。
「む?」
二人の魔族が部屋に入り切った途端、四方から影が襲い掛かる。その数、優に十を超える。が、その全てが一瞬で床や壁に叩きつけられた。
「「「っ!」」」
「愚か者が……」
エミリアの尻尾がうねっている。そういう事だ。
エミリアはそこから一歩も動かず、尻尾のみを動かして影を撃退したのだった。尻尾の鱗は逆立ち、触れれば切れそうだ。戦闘モードという事だろうか。
叩きつけられた影は、床や壁に染み込むように消えていった。
「っ!‥‥魔族が何用じゃ?」
そう言って杖型の聖剣を構えるのは、部屋の主と思しき小柄な少女。童女と言ってもいいくらいの、小さな勇者だった。
茶色がかった黒く長い髪をそのまま垂らし、頭のてっぺんからは触角のように――アホ毛と言うのだろうか――髪が二本飛び出ている。
先程の影は、この少女の力によるものだろう。瞬殺だったため分からなかったが、その影一体一体は新米勇者に匹敵する程の力を有していた。つまりこの小さな勇者は、それを十を超える数で生み出せるほどの力を持ち、更にエミリアは、それらを片手間で瞬殺できるほどの力を持つという事である。
「ほう……!」
(この少女もか‥‥少女?)
童女の問いには答えず、またしても魔王は嬉しそうに色気を振りまく。内心での疑問はやはり、おくびにも出さない。
「っ!?なんじゃ、お主は!?」
溢れ出す魔王の色気に、勇者である童女の本能が警鐘を鳴らす。
「≪色欲≫の魔王、デウスだ。以後お見知りおきを、学長殿?デウスとでも呼んでくれ」
「魔王じゃと!?それも≪色欲≫が動いたと!?」
童女の記憶では、魔王が直々に人間界に攻め入った記録など無い。そして、≪色欲≫の魔王が何かしらの動きを見せた記録も無い。どちらもこの国、いや、この世界の長い歴史において、初めての事だった。
魔王デウスは童女が驚いているのを余所に、来客の為にあるのであろうソファに深く座る。
「さぁ、話し合いをしよう。初対面で殴り合うのは、野蛮人のする事だ。知識を有し、道徳を重んじる文明人たる我々には、相応しくなかろう。理性的に行こうではないか」
「くっ‥!」
皮肉であり、挑発だった。
「座るが良い。学長よ」
この空間を支配しているのは、間違いなく魔王デウスである。
デウスは穏やかな笑みを浮かべ、エミリアはその傍らに静かに佇む。学長はデウスの対面に座り、勇者はその背後で戦意を漲らせていた。
「さて、今一度自己紹介でもするか。余は名乗ったが、ぬしらの事を余は知らんでな。先程名乗った通り、余は≪色欲≫の魔王・デウスである。そして、こっちはエミリア。余の右腕だ」
デウスは魔王らしく尊大に、深き闇を纏いながら。エミリアは主人の紹介に、静かに頭を下げるのみであった。
「……エンリチェッタ・スコラーリ、ここの学長じゃ」
「‥‥‥‥‥ヘレナ」
学長エンリチェッタは苦々し気に、ヘレナは不承不承。それぞれ名を名乗る。
「……して、何をしに来たのじゃ魔王よ」
「ふむ、余が怖いのか?震えているぞ?」
「っ!」
震えを誤魔化すように、エンリチェッタは杖を強く握りしめる。勇者が魔王を前に臆したなど、外聞が悪い。しかし、それも仕方の無い事だ。
エンリチェッタはこれまで、多くの魔族と対峙してきた。そして、多くの魔族を打ち倒して来た。その中には、大罪の魔王の配下で幹部やら、四天王やらと呼ばれていた強力な魔族もいた。
ゆえに、自身があった。経験から、そして今日までの結果から来る自身が。条件さえ揃えば魔王ですら討てるという自信が、エンリチェッタにはあった。
しかし、その自信は≪色欲≫の魔王を前にした瞬間、粉々に砕け散った。
『次元が違う』
魔術師タイプの勇者であるがゆえに、その絶望的な差をはっきりと感じてしまった。この学長室にいて、禍々しい魔力が近付いて来るのが感じ取れた。だから、先制で不意打ち気味に仕掛けた。しかし、それは禍々しき魔力の持ち主である魔王では無く、その配下の者に容易く捌かれたのだった。
(これが大罪の魔王‥‥)
その距離は果てしなく遠かった。ヘレナは気付いていない。だから、未だ戦意を失わずにいられる。だけど、エンリチェッタは違った。
エンリチェッタは魔術師タイプの勇者。それゆえ、魔力と聖力には鋭い。だから、気付いた。魔王の纏う闇が、可視化出来る程に濃密な魔力である事に。魔術師タイプの者で、あれを見て恐れない者はいない。ヘレナが気付いていない理由はここにある。戦士タイプの勇者であるヘレナは、その闇に危機感を抱いても、恐怖は湧かないのだ。
「……これでどうだ?」
デウスが纏っていた闇が、消えてなくなっていく。それと同時に、デウスの魔王としての気配が小さくなっていく。
「……感謝するのじゃ」
「くくく、良い。余が不明であった」
エンリチェッタは不思議に思っていた。未だに、自分が生きている事を。ともすればこちらを気遣うようにも見える、この魔王の態度を。
「……本当に何の用なのじゃ」
三度目の質問。一度目と二度目は、恐怖によるものだった。三度目は違う。純然たる疑問から来る問いである。
「勇者を育てに来た」
「っ!?」
「なっ!?貴様ふざけっ!!!?」
デウスの答えに声を荒げた、ヘレナの首にエミリアの尻尾の先が添えられていた。
「何度も見逃すと思ったら、大間違いだ。死にたくなければ黙ってろ」
「‥‥っ!!」
エミリアに叩きつけられた、本気の殺意にヘレナの体が硬直し、あれほど漲っていた戦意が見る見る萎んでいく。
(こ、これが魔族だと‥‥!?知らない……こんなのは知らない‥‥!)
彼女には矜持があった。学院に侵入してきた魔族を討伐する、学院治安部隊の副リーダーとしての矜持が。今回の侵入者も、候補生の訓練がてら倒すつもりだった。これまでがそうであったし、勇者として負けるはずがないと思っていたから。しかし、蓋を開けてみればこのザマだ。魔王には言葉一つで見動きを封じられ、聖剣は何故か効かない。そして、その配下にも殺気で見動きを封じられ、尻尾の動きには反応すら出来なかった。
ヘレナの心を折るには十分だった。
「‥‥ヘレナを放してやってくれぬか?責任は妾が取るのじゃ。妾に出来る事なら何でもしよう」
「が、がくちょ……」
魔王に頭を下げる、勇者学院(ブレイブ・ロード)の学長。その原因は自分にある。ヘレナの心は完全に折れた。
「……では、近こう寄れ」
「っ!?……分かったのじゃ」
その要望に一瞬息を呑み、即座に覚悟を決め、エンリチェッタは魔王に近付く。聖剣は手放さない。
「ふむ。遠いぞ」
「きゃっ……!?」
数歩離れた所まで近づき足を止めたエンリチェッタを、デウスは引っ張り抱きすくめる。エンリチェッタの小柄な体は、ソファに座るデウスの膝の上に、そして腕の中にすっぽり納まった。
「ふむふむ。……やはりか」
「ちょっ……なっ‥‥あっ……んんっ!」
(なぜ……このような‥‥!?)
その行為には厭らしさの欠片もない。頭を撫で、髪を梳き、腕を撫で、足を撫でているだけである。絵面的には通報ものだが、≪色欲≫の魔王であるデウスには関係の無い事だ。
そして、その何でもない筈の行為に、エンリチェッタの体は激しく反応する。どこかに触れられる度に、口からは熱い吐息が嬌声と共に漏れる。
何かを調べる様に童女を弄る魔王は、納得したように呟くと、エンリチェッタを解放―――したりせずに優しく抱き締め、その首筋に口を寄せ甘く噛みついた。
「んあぁぁっ!!」
「くくくく、やはりそうか」
一際大きい嬌声を上げぐったりとするエンリチェッタの姿に、ヘレナは更なる絶望に落とされた気持ちになる。学院の頭であり、最強の勇者の一角であるエンリチェッタに、希望を持っていたから。彼女なら何とかしてくれると。
その希望すら砕かれた。ヘレナの瞳から光が消えていく。
「『眠れ』」
「……」
精神的に落ち込み、耐性が下がっていたヘレナは、デウスの言葉に容易く意識を飛ばしたのだった。
エンリチェッタの肌はしっとりと汗ばみ、デウスに体を預けるその姿は、まるで事後を思わせるものである。エンリチェッタが小柄である事と、デウスが20代半ばの青年に見える事も、どこか退廃的で背徳的な雰囲気を醸し出している。
しかし、そんな事実は一切ない。
「……満足か」
「何がだ?」
ノロノロと体を起こしながら、エンリチェッタが声を出す。その声は弱弱しい。そして、侮蔑の瞳でデウスを見ている。
「満足かと聞いておるのじゃ。……ふん、流石は≪色欲≫の魔王じゃ。このような幼い躰にも、欲情するとはの」
≪色欲≫の魔王は、その名の通りの性欲を司る。ただ触れるだけで、快楽を与える事など造作も無い事なのだと、その快楽によって種族を問わず女を堕とし、性奴隷にすると、そう言われている。
故に、古来より女の敵として認識されてきた。しかし、≪色欲≫が実際に動きを見せた事など有史以来一度も無かった。天使からの情報で、その存在と特性は知っていたが、どこか眉唾物だった。だが、今証明された。≪色欲≫の魔王は女の敵であると。
「ふむ。何か誤解があるようだな」
(何が誤解じゃ、妾の体を弄っておきながら‥‥っ!≪色欲≫は危険じゃ。やはり、ここに来た目的は女生徒か)
学院の生徒は、九割が女子である。いや、勇者自体、九割を女子が占める。この理由は単純。聖剣の元たる天使が、過ぎた欲を嫌う為である。男は力を手に入れた途端、豹変し欲に走る者が多い。女にもいない訳では無いが、男の方が多かった。
結果として、天使は滅多な事では男に聖剣を与えなくなったのだった。
「ここの生徒には手を出させんぞ。妾の命に代えても……っ!」
エンリチェッタの体から聖力が溢れ出す。魔王の闇とは比べ物にならないが、その光は勇者数百人分に相当する。
「やはり、何か誤解している様だな」
(だが、これでこそ勇者だ。例え絶望的であろうと、何かを守るために勇ましく戦う者。素晴らしい!それでこそ、ガブリエルの契約者だ!!)
デウスは一見、落ち着いたように言葉を発するが、内心では狂喜していた。
「エンリチェッタよ。お前は、女だ」
「だから何じゃ!?」
突飛なデウスの発言に、エンリチェッタは激昂する。その体の周りに、聖力が幾何学な陣を描いていく。
「余の手は、女にしか快楽を与えん。男は当然与えられんし、女では無い女、即ち未成熟な女にも快楽は与えられん」
「‥‥」
「貴様は余の手に反応した。それ即ち、貴様が女である事の証明である。初めは子供かとも思うたが、しっかりと大人の女であるようだ」
「何が言いたいのじゃ……!皮肉か……!?」
魔王は嗤う。エンリチェッタを見下すように。
「どうやったか、詳しい方法は分からんが、聖剣の力で若さを手にしたのであろう?で、どうだ?力は手に入ったか?」
「っ!!?」
(な、なぜ……!?)
デウスの言葉に、エンリチェッタは激しく動揺する。
「天使は、真っ直ぐな勇者の願いにしか答えん。欲から来る願いは、一顧だにしない。なれば、貴様の願いは自ずと決まってくる。願ったのだろう。魔王を打ち倒せるほどの力を得る事を」
「!?」
まさにその通りだった。エンリチェッタは願った。聖剣を手にした時、初めて会った天使に、魔王を倒せるほどの力を願ったのだ。
その応えは『NO』。聖剣は最初から魔王を討ち滅ぼすだけの力を有しているから、と。だから、天使は代わりに時間を与えた。聖剣の力を100%引き出せるようになって見せよ、と。しかし、―――
「底が見えた、か?」
「っ!」
そう、見えてしまった。自分では、聖剣の力を完全に引き出す事が出来ない事が。長く生き、誰よりも修練に明け暮れたからこそ、見えてしまったのだ。
(妾の力は、序列一位の勇者には及ばぬ。それでも、幹部クラスの魔族は屠れる自信があった。事実何度も屠って来た。だが、それも先程‥‥)
エンリチェッタの纏う光が小さくなっていく。これまでの人生を全て、否定されたようなものだった。自分は何の為に力を求め、何の為に力を振るって来たのか。
「力が欲しいか?」
「っ……!」
デウスの言葉に、エンリチェッタの体が跳ねる。
「力が欲しいか?」
「な、何を……!?」
「言ったであろう?勇者を育てに来た、と」
魔王が立ち上がり、迷える少女に手を差し出す。
それは、甘く魅力的で蠱惑的な、そして背徳的な薫の誘惑だった。
街道を、一台の馬車が走っている。
「くははははははっ、これが馬車か!見ろ、エミリア!馬が引いておるぞ!尻も痛い!くははははは!!!」
「陛下、はしゃぎ過ぎです」
魔王は上機嫌に、初めての馬車に揺られていた。
乗る前から馬車に興味津々だったデウスは、乗ってからも溢れる好奇心を抑えようとはしなかった。それが、この現状である。
楽しそうに笑うデウスを、エミリアは微笑ましそうに眺めていた。それは主と言うよりも、大切な弟を見る様な目だった。
「まあ、そう言うな。折角の機会だ。楽しまなくてどうする!して、エンリチェッタよ。あとどれほどで着くのだ?」
「……半刻もせぬのじゃ。王都は学院から一番近い都市じゃからの」
一行は、ブレイブ王国王都へと向かっていた。
結局、エンリチェッタは魔王の手を取った。力が欲しかった事は否定出来ない。一番の理由であるとも言っても良い。
しかし、『勇者を育てる』と言った魔王の言葉が本当なら、それは願っても無い事だ。魔王の手によって、魔王を討てる勇者が育てられるのだから。嘘である可能性は、殆ど考えない。魔王の力を持ってすれば、そのような面倒臭い事をしなくても、容易く人間界は滅ぼせるし、好きなだけ蹂躙できる。
しかし、自分一人だけで判断出来る事でも無い。だから、王都へ向かう。この国の王と話をする為に。
「誘っておきながら、なんだが‥‥手を取るとは思わなんだ」
「……自分でも未だ良く分からぬ。欲に負けたのか、恐怖に負けたのか。ただ……」
「余としては、何でも良いのだがな。エンリチェッタは余の手を取った。それで十分だ。余は、其方が気に入った」
(っ!)
嬉しそうに笑う魔王。その笑顔にエンリチェッタは、胸が締め付けられる。
(頭の毛が動いている?激しいな……)
見れば、エンリチェッタの頭のてっぺんから飛び出る、二本の毛が激しく揺れていた。好奇心に誘われるがままに、デウスの手がエンリチェッタの頭に伸ばされる。
「っ!?」
激しく揺れる二本の毛を撫でる様に、頭ごと撫でられる。毛は一瞬抑えられるが、手が離れると再び跳ね、先程よりも激しさを増して、揺れ出す。
その下では、エンリチェッタが顔を真っ赤に染めていた。
「はぁ~……」
エミリアがその様子を見て、深い溜息を吐く。彼女は気付いていた。エンリチェッタの小さな変化に。エミリアは、それを何度も間近で見てきたから。
エンリチェッタは、心の奥底で喜んでいた。見た目のせいで、これまでまともに『女』扱いされる事は無かった。それが、相手は魔王と言えども『女』として扱われ、強制的にではあるが『女』としての幸せをも与えられた。それだけでは無く、終始紳士的に接された事も要因であろう。エンリチェッタは、自身では気付いていないが、その心はどうしようもなくデウスに惹かれていたのだ。
(またですか……)
これまでもデウスは、無自覚に女を堕とす事があった。意識してやる事もあるのだが、その時は大抵、既に無自覚に堕とした後だった事が多い。天然の誑しだった。
今も、エンリチェッタの頭を撫で、その反応を楽しんでいる。跳ねる二本の毛を、本当に楽しんでいるだけなのだ。別に色っぽい理由などは、そこには存在しない。その為、顔を真っ赤にして俯く、エンリチェッタにも気付いていなかったりする。
(はぁ~……)
再び心の中で、深い溜息を吐くエミリア。
王都は、もう直ぐ目の前だ。
「ふむ‥‥これは迷うな。案内が必要か……」
広大な土地、巨大な建物。それらを前にして、男がそう呟く。
「そうですね。手配しましょう」
傍らの女が、それに追従する。
「当てがあるのか?」
「いえ、ありませんが」
「‥‥一応聞くが、どうするつもりだったのだ?」
男の顔は渋いモノになっている。分かっているが、一応聞く。本当は聞きたくないが。そんな顔だ。
「その辺から攫おうかと」
「……はぁ~~。今日の目的は、話し合いだ。余計な波風を立ててどうする」
男は身体の全ての空気を出し切るかの如く、溜息を吐いた。
「……冗談です」
「なら、目を逸らすな」
二人のコントの様なやり取りに、注目が集まる。いや正確には、会話の内容はさほど注目されていない。遠巻きに人が集まり出すだけだ。しかし、誰も二人に接触しない。ただ眺めるのみ。それが安全だと、本能で分かっているから。
二人の容姿に惹きつけられ、同時に恐れを抱く。
男の髪は長く、燃えているかの如く赤い。その長い髪の隙間から垣間見える顔は、恐ろしいほど整っている。時折見られる、髪を掻き上げたり顎に手を当て思案する等の、その仕草で過剰な色気が振り撒かれる。
そして、特筆すべきはその目。まるで、闇が凝縮しているが如く黒く、暗い。白い部分もあるにはあるが、その眼の黒さは、見る者全てを恐怖させる。
また、女の方も見た目は整っている。長い銀髪の髪が頭の後ろで纏められ、冷たい美貌そう評して良いその顔からは、怜悧さが窺える。スタイルも良く、グラマラスとまでは行かないものの、出る所は出ていて十分に男の劣情を刺激する。
そして、こちらで特筆すべきはその尻尾。女の腰、尻の上辺りからは爬虫類の尾が生えていた。
「魔族‥‥」
どこからか、呟きが漏れる。だが、混乱は生じない。皆が分かっているのだ。最初から。この男と女が魔族だなんて事は。普通なら兵士を、いや勇者を呼ぶべきだろうという事も。
魔族とは、人以外の異形種達の総称である。腕が四本ある者、獣の特徴を持つ者、羽・翅・翼の生えた者、耳の尖った者、その他諸々実に様々である。
人は、自分と異なる者に恐れを抱く。力の差が大きくなればなるほど、それは顕著になる。この男女に対しても、当然恐れを抱いている。だが、それ以上に惹きつけられるのだ。妖しさに、美しさに。
「……まあ、中に入れば如何様にもなるであろう。行くぞ」
(なぜか、人は少ないようだがな……何かあったか?)
男は、学院の様子に内心首を傾げるが、それを表には出さない。
「はっ」
周りの人間たちの事なぞ気にも留めず、二人の魔族は門を潜る。
その瞬間、学院に施された結界が反応する。
「む……」
「……警報用の結界ですね」
女の言う通り学院には、魔族が侵入した際それを知らせる為の、警報用の結界が施されていた。魔族が結界に触れると、小さな魔力波が結界と連結した『結界水晶』に届くようになっているのだ。この魔力波は通常、気付く事が出来ない程に微弱なものだ。しかし、この二人は違った。
「……あそこだな」
「ですね」
その微弱な魔力波に気付き、その行き先まで見抜いた。多くの魔族がこの結界のせいで、学院への侵入に無惨な結果を残しているのにも関わらず。
「まずはあそこからだな」
「はっ」
このままでは、いずれ勇者とぶつかるのは必至。警報はその為のもの。しかし、二人は大して気にした風も無く、『結界水晶』のある方へ向かって歩き出した。
勇者を侮る愚か者か、それとも‥‥。
3分後。二人は、十数人の若い人間の女に囲まれていた。警報の原因である魔族を討ちに来た、少女達である。
学生なのだろう。皆が同じ制服を着ている。その手には剣や槍などの武器が握られ、油断なく侵入者たる二名の魔族を牽制している。
ところで、勇者の武器は聖剣と呼ばれる。剣じゃなくとも聖剣である。その聖剣を手にする事が出来るのは、勇者となった者だけである。
聖剣とは天使によって与えられる、天使の力が宿った武器である。条件が揃わないとこの世界に顕現出来ない天使が、魔族を討つために人間に力を与えたのだ。勿論、無差別と言う訳では無く、選ばれた者のみが聖剣を手にする事が出来、それが勇者と呼ばれるのである。
そんな勇者を育て上げる為の、勇者学院なのだ。
そして、人間の女学生達が手にしているのは、聖剣では無い。普通の武器である。それは、まだ少女達が勇者でないという事の証、勇者候補生という訳だ。聖剣を手にしているのは一人。魔族の男女を囲む女生徒の輪から離れ、見守るように立っている女だけである。
深く、そして濃い青色の髪をしたその女は、ロングソードとでも言うべき、長く大きい聖剣を携えていた。
「……エミリア、任せる」
男がそう頼むと、エミリアと呼ばれた女が男に一礼し前に出た。
「我々は、ここの学長?に話があって来た。暴れるつもりは無い。だから、道を開けろ。邪魔だ」
エミリアの言葉に数名がざわつく。
これまで学院に侵入してきた魔族達は、一つの例外も無く敵意を剥き出しにし暴れた。そして、勇者や勇者候補の生徒に討たれた。それが、様式美の如く決まった流れだった。
だから惑う。今回侵入してきた魔族は、対話を望むと言う。口こそ悪いものの、敵意も全く無い。襲い掛かって良いものなのか、と。
「気にするな。敵意が無かろうと、侵入してきた魔族である事に代わりは無い」
静かにされど堂々と、聖剣を抜き放ちながら勇者が言う。
(ほう‥‥!)
男の顔が喜色に染まる。それは、思い掛けない所で思い掛けないモノを見れた、そういう喜び。
その笑みは、過剰な色気と共にあった。
「「「「っ!?」」」」
警戒し様子を窺っていた女達が息を呑み、その男の色気に呑まれる。そして同時に、勇者に恐怖が襲う。
(危険だ!!この男はここで‥‥!迅速に‥‥!!)
「掛か『眠れ』……!」
得体の知れない恐怖に、危機感を抱いた勇者が指示を飛ばすも、その声は男に依って遮られる。
『眠れ』ただその一言で、勇者以外の女達が眠りその場に崩れ落ちた。強力で唐突な催眠だったにも拘らず、女生徒達は穏やかな表情で寝息を立てている。勇者も無事だった訳では無い。一瞬意識が飛びかけるも、そこは流石勇者。耐えて見せた。
「耐えたか……フフフフ」
(だが、動けまい)
男の読み通り、勇者は既にフラフラ。聖剣を杖代わりにして、体を支えている状態だ。
「くっ……」
近付いて来る男を、気丈にも睨みつける。既に負けたと言っても過言では無い状況だが、勇者の心は折れていない。だからこそ、聖剣に選ばれる。
「陛下、程々に」
呆れたように、しかしどこか微笑ましそうに、女が溜息を吐きながら言う。
「分かっておる」
(っ!?『陛下』だと……!?)
魔族が『陛下』と呼ぶ存在、そんなものは一つしかない。
「き、貴様、魔王か……っ!?」
女の群青の様な瞳が、男を射抜く。
「ふむ、自己紹介がまだであったな」
男の体から、闇が溢れ出す。溢れ出した闇が、何かを模り始める。玉座だ。男がその禍々しき玉座に腰掛け、エミリアが傍らにそっと立つ。
「余は大罪を司る魔王が一柱、≪色欲≫が魔王である」
その言葉と共に、長い歴史の中で初めて、魔王が人間界に君臨した
学院の廊下を歩く三人に、すれ違う生徒の視線が集まる。
先頭を歩く者は良い。この学院の生徒であると同時に、勇者でもあるから。しかし、続く二人は違う。女は尻尾が生えており、男も見るからに禍々しい闇を纏っている。一目で分かる。二人は魔族だと。魔族と見て襲い掛かってくる者が居ないのは、先頭を歩くのが勇者だからだろう。
魔族が勇者に連れられ、勇者学院を歩いている。異様な光景である。
「陛下、いい加減ソレ仕舞われたらどうです?皆驚いていますよ」
「あった方が、魔王らしくないか」
「そんな事しなくても、陛下は誰よりも魔王です」
「で、あろうな」
「はい。我々配下は、その姿を見ただけで濡れますから」
「くははははっ、そうかそうか!何とも愛い奴よ!」
魔族が敵地、勇者学院でする会話では無いだろう。緊張感の欠片も無い。現に、彼らを引き連れて歩く勇者の顔には、苛立ちが浮かんでいる。
「くっ‥‥」
(なぜ、私が……っ!しかし、私だけでは敵わないのも事実。ここは、学長の力を借りて……!)
そう心で決意を固める女勇者。実はこの女勇者、魔王の男が名乗りを上げた瞬間、気力を振り絞り剣を振るった。
だが、届かなかった。いや、届いてはいた。しかし、魔族を滅する力を持つはずの聖剣が、魔王の体をなぞるように振り抜かれるも、その体を切り裂く事は無かった。まるで、模造刀で攻撃したかのような手応えであった。
(何かカラクリがあるはず。それを暴けば、いかに魔王と言えども……!)
女勇者がそんな決意をしているとも知らず、魔王は暢気にキョロキョロと学院内を見回している。その目には、何もかもが新鮮で珍しく映っているらしい。
やがて一行は、剣とそれを包み込む羽の生えた女の意匠が大きく施された、豪華な扉の前に辿り着く。扉の上部には、『学長室』というプレートが掲げられていた。
「ヘレナです。魔族を連行してきました」
「くくく。連行、か」
勇者の言葉を、魔王が嗤う。気にしてはダメだと、勇者は言葉を続ける。
「学長に対処をお願いしたく」
「……入るのじゃ」
静かな、そして厳かな声。だが、その声は緊張からか、僅かに震えていた。
扉が開かれると、ヘレン、魔王、エミリアの順に入っていく。
「む?」
二人の魔族が部屋に入り切った途端、四方から影が襲い掛かる。その数、優に十を超える。が、その全てが一瞬で床や壁に叩きつけられた。
「「「っ!」」」
「愚か者が……」
エミリアの尻尾がうねっている。そういう事だ。
エミリアはそこから一歩も動かず、尻尾のみを動かして影を撃退したのだった。尻尾の鱗は逆立ち、触れれば切れそうだ。戦闘モードという事だろうか。
叩きつけられた影は、床や壁に染み込むように消えていった。
「っ!‥‥魔族が何用じゃ?」
そう言って杖型の聖剣を構えるのは、部屋の主と思しき小柄な少女。童女と言ってもいいくらいの、小さな勇者だった。
茶色がかった黒く長い髪をそのまま垂らし、頭のてっぺんからは触角のように――アホ毛と言うのだろうか――髪が二本飛び出ている。
先程の影は、この少女の力によるものだろう。瞬殺だったため分からなかったが、その影一体一体は新米勇者に匹敵する程の力を有していた。つまりこの小さな勇者は、それを十を超える数で生み出せるほどの力を持ち、更にエミリアは、それらを片手間で瞬殺できるほどの力を持つという事である。
「ほう……!」
(この少女もか‥‥少女?)
童女の問いには答えず、またしても魔王は嬉しそうに色気を振りまく。内心での疑問はやはり、おくびにも出さない。
「っ!?なんじゃ、お主は!?」
溢れ出す魔王の色気に、勇者である童女の本能が警鐘を鳴らす。
「≪色欲≫の魔王、デウスだ。以後お見知りおきを、学長殿?デウスとでも呼んでくれ」
「魔王じゃと!?それも≪色欲≫が動いたと!?」
童女の記憶では、魔王が直々に人間界に攻め入った記録など無い。そして、≪色欲≫の魔王が何かしらの動きを見せた記録も無い。どちらもこの国、いや、この世界の長い歴史において、初めての事だった。
魔王デウスは童女が驚いているのを余所に、来客の為にあるのであろうソファに深く座る。
「さぁ、話し合いをしよう。初対面で殴り合うのは、野蛮人のする事だ。知識を有し、道徳を重んじる文明人たる我々には、相応しくなかろう。理性的に行こうではないか」
「くっ‥!」
皮肉であり、挑発だった。
「座るが良い。学長よ」
この空間を支配しているのは、間違いなく魔王デウスである。
デウスは穏やかな笑みを浮かべ、エミリアはその傍らに静かに佇む。学長はデウスの対面に座り、勇者はその背後で戦意を漲らせていた。
「さて、今一度自己紹介でもするか。余は名乗ったが、ぬしらの事を余は知らんでな。先程名乗った通り、余は≪色欲≫の魔王・デウスである。そして、こっちはエミリア。余の右腕だ」
デウスは魔王らしく尊大に、深き闇を纏いながら。エミリアは主人の紹介に、静かに頭を下げるのみであった。
「……エンリチェッタ・スコラーリ、ここの学長じゃ」
「‥‥‥‥‥ヘレナ」
学長エンリチェッタは苦々し気に、ヘレナは不承不承。それぞれ名を名乗る。
「……して、何をしに来たのじゃ魔王よ」
「ふむ、余が怖いのか?震えているぞ?」
「っ!」
震えを誤魔化すように、エンリチェッタは杖を強く握りしめる。勇者が魔王を前に臆したなど、外聞が悪い。しかし、それも仕方の無い事だ。
エンリチェッタはこれまで、多くの魔族と対峙してきた。そして、多くの魔族を打ち倒して来た。その中には、大罪の魔王の配下で幹部やら、四天王やらと呼ばれていた強力な魔族もいた。
ゆえに、自身があった。経験から、そして今日までの結果から来る自身が。条件さえ揃えば魔王ですら討てるという自信が、エンリチェッタにはあった。
しかし、その自信は≪色欲≫の魔王を前にした瞬間、粉々に砕け散った。
『次元が違う』
魔術師タイプの勇者であるがゆえに、その絶望的な差をはっきりと感じてしまった。この学長室にいて、禍々しい魔力が近付いて来るのが感じ取れた。だから、先制で不意打ち気味に仕掛けた。しかし、それは禍々しき魔力の持ち主である魔王では無く、その配下の者に容易く捌かれたのだった。
(これが大罪の魔王‥‥)
その距離は果てしなく遠かった。ヘレナは気付いていない。だから、未だ戦意を失わずにいられる。だけど、エンリチェッタは違った。
エンリチェッタは魔術師タイプの勇者。それゆえ、魔力と聖力には鋭い。だから、気付いた。魔王の纏う闇が、可視化出来る程に濃密な魔力である事に。魔術師タイプの者で、あれを見て恐れない者はいない。ヘレナが気付いていない理由はここにある。戦士タイプの勇者であるヘレナは、その闇に危機感を抱いても、恐怖は湧かないのだ。
「……これでどうだ?」
デウスが纏っていた闇が、消えてなくなっていく。それと同時に、デウスの魔王としての気配が小さくなっていく。
「……感謝するのじゃ」
「くくく、良い。余が不明であった」
エンリチェッタは不思議に思っていた。未だに、自分が生きている事を。ともすればこちらを気遣うようにも見える、この魔王の態度を。
「……本当に何の用なのじゃ」
三度目の質問。一度目と二度目は、恐怖によるものだった。三度目は違う。純然たる疑問から来る問いである。
「勇者を育てに来た」
「っ!?」
「なっ!?貴様ふざけっ!!!?」
デウスの答えに声を荒げた、ヘレナの首にエミリアの尻尾の先が添えられていた。
「何度も見逃すと思ったら、大間違いだ。死にたくなければ黙ってろ」
「‥‥っ!!」
エミリアに叩きつけられた、本気の殺意にヘレナの体が硬直し、あれほど漲っていた戦意が見る見る萎んでいく。
(こ、これが魔族だと‥‥!?知らない……こんなのは知らない‥‥!)
彼女には矜持があった。学院に侵入してきた魔族を討伐する、学院治安部隊の副リーダーとしての矜持が。今回の侵入者も、候補生の訓練がてら倒すつもりだった。これまでがそうであったし、勇者として負けるはずがないと思っていたから。しかし、蓋を開けてみればこのザマだ。魔王には言葉一つで見動きを封じられ、聖剣は何故か効かない。そして、その配下にも殺気で見動きを封じられ、尻尾の動きには反応すら出来なかった。
ヘレナの心を折るには十分だった。
「‥‥ヘレナを放してやってくれぬか?責任は妾が取るのじゃ。妾に出来る事なら何でもしよう」
「が、がくちょ……」
魔王に頭を下げる、勇者学院(ブレイブ・ロード)の学長。その原因は自分にある。ヘレナの心は完全に折れた。
「……では、近こう寄れ」
「っ!?……分かったのじゃ」
その要望に一瞬息を呑み、即座に覚悟を決め、エンリチェッタは魔王に近付く。聖剣は手放さない。
「ふむ。遠いぞ」
「きゃっ……!?」
数歩離れた所まで近づき足を止めたエンリチェッタを、デウスは引っ張り抱きすくめる。エンリチェッタの小柄な体は、ソファに座るデウスの膝の上に、そして腕の中にすっぽり納まった。
「ふむふむ。……やはりか」
「ちょっ……なっ‥‥あっ……んんっ!」
(なぜ……このような‥‥!?)
その行為には厭らしさの欠片もない。頭を撫で、髪を梳き、腕を撫で、足を撫でているだけである。絵面的には通報ものだが、≪色欲≫の魔王であるデウスには関係の無い事だ。
そして、その何でもない筈の行為に、エンリチェッタの体は激しく反応する。どこかに触れられる度に、口からは熱い吐息が嬌声と共に漏れる。
何かを調べる様に童女を弄る魔王は、納得したように呟くと、エンリチェッタを解放―――したりせずに優しく抱き締め、その首筋に口を寄せ甘く噛みついた。
「んあぁぁっ!!」
「くくくく、やはりそうか」
一際大きい嬌声を上げぐったりとするエンリチェッタの姿に、ヘレナは更なる絶望に落とされた気持ちになる。学院の頭であり、最強の勇者の一角であるエンリチェッタに、希望を持っていたから。彼女なら何とかしてくれると。
その希望すら砕かれた。ヘレナの瞳から光が消えていく。
「『眠れ』」
「……」
精神的に落ち込み、耐性が下がっていたヘレナは、デウスの言葉に容易く意識を飛ばしたのだった。
エンリチェッタの肌はしっとりと汗ばみ、デウスに体を預けるその姿は、まるで事後を思わせるものである。エンリチェッタが小柄である事と、デウスが20代半ばの青年に見える事も、どこか退廃的で背徳的な雰囲気を醸し出している。
しかし、そんな事実は一切ない。
「……満足か」
「何がだ?」
ノロノロと体を起こしながら、エンリチェッタが声を出す。その声は弱弱しい。そして、侮蔑の瞳でデウスを見ている。
「満足かと聞いておるのじゃ。……ふん、流石は≪色欲≫の魔王じゃ。このような幼い躰にも、欲情するとはの」
≪色欲≫の魔王は、その名の通りの性欲を司る。ただ触れるだけで、快楽を与える事など造作も無い事なのだと、その快楽によって種族を問わず女を堕とし、性奴隷にすると、そう言われている。
故に、古来より女の敵として認識されてきた。しかし、≪色欲≫が実際に動きを見せた事など有史以来一度も無かった。天使からの情報で、その存在と特性は知っていたが、どこか眉唾物だった。だが、今証明された。≪色欲≫の魔王は女の敵であると。
「ふむ。何か誤解があるようだな」
(何が誤解じゃ、妾の体を弄っておきながら‥‥っ!≪色欲≫は危険じゃ。やはり、ここに来た目的は女生徒か)
学院の生徒は、九割が女子である。いや、勇者自体、九割を女子が占める。この理由は単純。聖剣の元たる天使が、過ぎた欲を嫌う為である。男は力を手に入れた途端、豹変し欲に走る者が多い。女にもいない訳では無いが、男の方が多かった。
結果として、天使は滅多な事では男に聖剣を与えなくなったのだった。
「ここの生徒には手を出させんぞ。妾の命に代えても……っ!」
エンリチェッタの体から聖力が溢れ出す。魔王の闇とは比べ物にならないが、その光は勇者数百人分に相当する。
「やはり、何か誤解している様だな」
(だが、これでこそ勇者だ。例え絶望的であろうと、何かを守るために勇ましく戦う者。素晴らしい!それでこそ、ガブリエルの契約者だ!!)
デウスは一見、落ち着いたように言葉を発するが、内心では狂喜していた。
「エンリチェッタよ。お前は、女だ」
「だから何じゃ!?」
突飛なデウスの発言に、エンリチェッタは激昂する。その体の周りに、聖力が幾何学な陣を描いていく。
「余の手は、女にしか快楽を与えん。男は当然与えられんし、女では無い女、即ち未成熟な女にも快楽は与えられん」
「‥‥」
「貴様は余の手に反応した。それ即ち、貴様が女である事の証明である。初めは子供かとも思うたが、しっかりと大人の女であるようだ」
「何が言いたいのじゃ……!皮肉か……!?」
魔王は嗤う。エンリチェッタを見下すように。
「どうやったか、詳しい方法は分からんが、聖剣の力で若さを手にしたのであろう?で、どうだ?力は手に入ったか?」
「っ!!?」
(な、なぜ……!?)
デウスの言葉に、エンリチェッタは激しく動揺する。
「天使は、真っ直ぐな勇者の願いにしか答えん。欲から来る願いは、一顧だにしない。なれば、貴様の願いは自ずと決まってくる。願ったのだろう。魔王を打ち倒せるほどの力を得る事を」
「!?」
まさにその通りだった。エンリチェッタは願った。聖剣を手にした時、初めて会った天使に、魔王を倒せるほどの力を願ったのだ。
その応えは『NO』。聖剣は最初から魔王を討ち滅ぼすだけの力を有しているから、と。だから、天使は代わりに時間を与えた。聖剣の力を100%引き出せるようになって見せよ、と。しかし、―――
「底が見えた、か?」
「っ!」
そう、見えてしまった。自分では、聖剣の力を完全に引き出す事が出来ない事が。長く生き、誰よりも修練に明け暮れたからこそ、見えてしまったのだ。
(妾の力は、序列一位の勇者には及ばぬ。それでも、幹部クラスの魔族は屠れる自信があった。事実何度も屠って来た。だが、それも先程‥‥)
エンリチェッタの纏う光が小さくなっていく。これまでの人生を全て、否定されたようなものだった。自分は何の為に力を求め、何の為に力を振るって来たのか。
「力が欲しいか?」
「っ……!」
デウスの言葉に、エンリチェッタの体が跳ねる。
「力が欲しいか?」
「な、何を……!?」
「言ったであろう?勇者を育てに来た、と」
魔王が立ち上がり、迷える少女に手を差し出す。
それは、甘く魅力的で蠱惑的な、そして背徳的な薫の誘惑だった。
街道を、一台の馬車が走っている。
「くははははははっ、これが馬車か!見ろ、エミリア!馬が引いておるぞ!尻も痛い!くははははは!!!」
「陛下、はしゃぎ過ぎです」
魔王は上機嫌に、初めての馬車に揺られていた。
乗る前から馬車に興味津々だったデウスは、乗ってからも溢れる好奇心を抑えようとはしなかった。それが、この現状である。
楽しそうに笑うデウスを、エミリアは微笑ましそうに眺めていた。それは主と言うよりも、大切な弟を見る様な目だった。
「まあ、そう言うな。折角の機会だ。楽しまなくてどうする!して、エンリチェッタよ。あとどれほどで着くのだ?」
「……半刻もせぬのじゃ。王都は学院から一番近い都市じゃからの」
一行は、ブレイブ王国王都へと向かっていた。
結局、エンリチェッタは魔王の手を取った。力が欲しかった事は否定出来ない。一番の理由であるとも言っても良い。
しかし、『勇者を育てる』と言った魔王の言葉が本当なら、それは願っても無い事だ。魔王の手によって、魔王を討てる勇者が育てられるのだから。嘘である可能性は、殆ど考えない。魔王の力を持ってすれば、そのような面倒臭い事をしなくても、容易く人間界は滅ぼせるし、好きなだけ蹂躙できる。
しかし、自分一人だけで判断出来る事でも無い。だから、王都へ向かう。この国の王と話をする為に。
「誘っておきながら、なんだが‥‥手を取るとは思わなんだ」
「……自分でも未だ良く分からぬ。欲に負けたのか、恐怖に負けたのか。ただ……」
「余としては、何でも良いのだがな。エンリチェッタは余の手を取った。それで十分だ。余は、其方が気に入った」
(っ!)
嬉しそうに笑う魔王。その笑顔にエンリチェッタは、胸が締め付けられる。
(頭の毛が動いている?激しいな……)
見れば、エンリチェッタの頭のてっぺんから飛び出る、二本の毛が激しく揺れていた。好奇心に誘われるがままに、デウスの手がエンリチェッタの頭に伸ばされる。
「っ!?」
激しく揺れる二本の毛を撫でる様に、頭ごと撫でられる。毛は一瞬抑えられるが、手が離れると再び跳ね、先程よりも激しさを増して、揺れ出す。
その下では、エンリチェッタが顔を真っ赤に染めていた。
「はぁ~……」
エミリアがその様子を見て、深い溜息を吐く。彼女は気付いていた。エンリチェッタの小さな変化に。エミリアは、それを何度も間近で見てきたから。
エンリチェッタは、心の奥底で喜んでいた。見た目のせいで、これまでまともに『女』扱いされる事は無かった。それが、相手は魔王と言えども『女』として扱われ、強制的にではあるが『女』としての幸せをも与えられた。それだけでは無く、終始紳士的に接された事も要因であろう。エンリチェッタは、自身では気付いていないが、その心はどうしようもなくデウスに惹かれていたのだ。
(またですか……)
これまでもデウスは、無自覚に女を堕とす事があった。意識してやる事もあるのだが、その時は大抵、既に無自覚に堕とした後だった事が多い。天然の誑しだった。
今も、エンリチェッタの頭を撫で、その反応を楽しんでいる。跳ねる二本の毛を、本当に楽しんでいるだけなのだ。別に色っぽい理由などは、そこには存在しない。その為、顔を真っ赤にして俯く、エンリチェッタにも気付いていなかったりする。
(はぁ~……)
再び心の中で、深い溜息を吐くエミリア。
王都は、もう直ぐ目の前だ。
0
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