聖を継ぎ、魔を統べる ~そして、魔王は君臨する~

男男 女女

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第一章

第四話

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 誰もがその姿に息を呑む。怒気と共に闇を体から溢れさせ、泰然と佇む姿は正しく魔王。気の弱いものから意識を失っていく。それは、勇者とて例外では無い。
 50人いる勇者の内、6割が無意識の内に後退り、3割が腰を抜かし、一割が気を失っていた。

(これが≪色欲≫の魔王だと・・・・!?≪憤怒≫とは、比べ物にならないではないか・・・・!)

 先日一目見た時以上の恐怖と脅威を感じ、エルダもまたその姿に戦慄する。

「女王オリアナレイナよ。どうやら、反勇者組織的な輩が紛れ込んでいたようだ。余の方で処分しても構わんな?」
「・・・・で、出来れば、国の法による裁き「オリアナレイナ」っ・・・・!」
「構わんな?」
「・・・はい」

 女王もまた例外では無かった。
 先程までは毅然としていたオリアナレイナだったが、今のゼウスの姿には恐れ、冷や汗を流している。つまり、この場にいるほぼ全員が、デウスの纏う雰囲気に完全に呑まれていた。
 ほぼ全員。そう、例外もいた。
 エミリアとエンリチェッタは怯えておらず、寧ろ頬を染め見惚れていた。そして、何の反応も示さない者が一人。メイドのアンナである。アンナは一連の流れに、何の興味も無いとばかりに無関心を決め込み、無表情で佇んでいた。

「さて、許可も下りた。疾く、処刑するとしよう。・・・・・が、一つ。貴様等に言っておく事がある」

 デウスのその僅かに怒りが含まれた言葉に、心做しか全員の背筋が伸びる。そして、デウスがルーズに向けていた手を軽く振ると、血が流れ出ている箇所を中心に、闇に覆われる。止血のようだ。

「余の前で勇者を侮辱する事は、断じて許さん。天使に認められ、聖剣を手にした勇者は、敬意を表すべき存在である。故に、≪憤怒≫を討ちし勇者エルダ?には最大限の敬意を、余は示そう」
「「「「!?」」」」

 デウスの言葉に、多くの者の目が点になる。特に、勇者エルダの驚き様は凄まじい。
 オリアナレイナ達は、今回の会談に関してあらゆる可能性を話し合い、対策を講じた。その中には≪憤怒≫を討った事に対する報復、又は触発された他の魔王による宣戦布告も視野に入れていた。
 しかし、同じ大罪の魔王であるはずの≪色欲≫からは、≪憤怒≫を討ったエルダに最大の敬意が示された。普通なら敵意が向けられるはずなのに。何とも理解し難い状況である。人間達の反応も、呆けたものになっている。

「勇者たちと≪憤怒≫の戦いは見事なものであった。≪憤怒≫だけでなく、その配下の者達も軒並み倒し、その過程で一人、また一人と仲間が倒れていく中でも決して折れず、諦める事無く、最後は魔王に聖剣を突き立てた」

 デウスはその戦いの一部始終を見ていた。だからその言葉には嘘が無く、そして熱が籠る。

「あの戦いで讃えられるべきは、エルダだけでは無い。果敢に魔王達に立ち向かい、勇者として散っていった。彼の勇者達も讃えられるべきものである・・・・・。それを、それを貴様は愚弄した!!」

 怒声と共に、今まで以上の闇がデウスから噴き出る。噴き出た闇は小さな龍のような形を取り、飛び交いながら宙吊りのルーズの体を削っていく。恐怖と痛みに泣き喚くルーズだが、下顎は無く血止めとして塞がれてもいる為、声が漏れる事は無く、ただ色々な液が垂れ流しになっているばかりである。

「故に、余が貴様を処刑する」

 ルーズに向いていた、デウスの掌がゆっくりと閉じられていく。それに合わせ、ルーズが苦しみ、激しく暴れ出す。

「死の瞬間まで、己が愚行を後悔せよ。そして、地獄で永久に詫び続けろ」
「―――!――――っ!―――・・・っ!!」

 デウスの掌が完全に閉じられると同時に、ルーズの体は弾け飛んだ。周辺に血肉が散らばる。その凄惨な光景に、誰も口が開けない。

「さて、掃除も済んだ。本題と行こうか、オリアナレイナ」
「陛下。掃除と言うか、逆に散らかしているように見えます」
「む。くくく、そのようだ。エミリア、片付けよ」

 二人の余りに軽すぎる会話に唖然としていた人間達だったが、次の瞬間の光景に更に顔を引き攣らせた。
 フーッ、とエミリアが息を一つ。小指の爪ほどの大きさの火の玉が、エミリアの前方に無数に現れる。100や200では無い。1000を優に超える数だ。
 警戒し聖剣を構える勇者は、ほんの一握り。他は完全に委縮してしまっていた。特に、エンリチェッタと同様に聖力を操り、聖剣を媒介に聖術を駆使して戦うタイプの勇者は、その様子が顕著に表れている。
 勇者の扱う聖力、魔族の扱う魔力。これらは本来別の物だが、似た系統の力である為、エンリチェッタ達のような術師は感知能力が高いのだ。

「フー・・・・」

 再びエミリアが息を吹く。その音は、妙に静かになったこの空間に、嫌に響いた。
 エミリアに優しく息を吹きかけられた無数の小さな火の玉は、ゆっくりと広がり動いていく。そして完全に散らばると、ルーズだった血を、肉を、骨を、勢い良く燃やしていく。決して他を燃やす事無く、それらだけを的確に。
 血や肉や骨等は、物の数分で灰も残さず、綺麗に跡形も無く燃え尽きてしまったのだった。

「ふむ・・・綺麗になったな。今度こそ本題へと移ろう。オリアナレイナよ、座ると良い」

 一瞬の逡巡。先程の彼らの姿が頭から離れない。やはり目の前に存在しているのは魔王とその配下の魔族なんだ、とそう再認識する。それが、オリアナレイナを躊躇わせる。

(ですが・・・・・。その気になれば、私達の事など容易く殺せるはずです。それをしないのは、別に目的があるという事・・・・)

「失礼します」

 覚悟を決め、席に着いたオリアナレイナ。勇者の王と≪色欲≫の魔王が向かい合う。
 後の世に『アレクサンドレア会談』と呼ばれ、誰もが歴史の転換点と定める会談が始まった。





 緊張な面持ちのオリアナレイナ。対してデウスの方は何が楽しいのか、その顔には笑みが浮かんでいた。

「余の目的。そなたらも気になっている事だろう。がしかし、それを話す前に聞いておく事がある。今のままで、全ての魔王を倒せると思うか?」
「っ!」

 勇者としては当然、倒せる、とそう答えなければならない。しかし、エルダと≪憤怒≫の戦いに、先程見せつけられた二人の理解不能な力の一端。それらの事が脳裏を過り、どれだけ楽観視しても倒せるビジョンが思い浮かばない。倒せる、とは答えられない。

「・・・倒す」

 沈黙を破ったのはエルダだった。

「ほう?」
「≪憤怒≫は討った。魔王は倒せると証明できた以上、勇者である我等は諦めない。数十年、数百年、数千年。何年掛かろうと、戦い続ける」

 恐怖があるのだろう。デウスを睨み付ける様に気丈な態度で言い切ったエルダだが、その拳は震えを隠す様に強く握られている。爪が食い込む程に強く。その姿に感化されたか、オリアナレイナにも毅然とした雰囲気が戻ってくる。

「エルダの言う通りです。私達は勇者。天使様に選ばれ認められた以上、魔族に、魔王に屈する未来は存在しません。どんなに強かろうと、どんなに絶望的であろうと、私達は勇者として、魔王を倒す為に戦い続けます」

 堂々と、正面から魔王たるデウスを見据え、そう宣言するオリアナレイナの姿に皆の心が奮い立つ。

「ほう・・・それで?」

 デウスは面白そうに続きを促す。まだ質問には答えていない。今のは決意であり覚悟だ。デウスからしてみれば、今の宣言は当たり前の事。勇者として、当然持つべき覚悟。今欲しいのは、質問に対する答え。デウスはそれを待っている。

 今後の互いの立場を決めるであろう、その言葉を。

「ですが・・・・ですが、今のままでは全ての魔王を倒す事は到底不可能でしょう」
「陛下!?」

 オリアナレイナの発言に、ざわめきが広がる。

「お静かに」
「ふむ、しかし≪憤怒≫はエルダによって討たれた。上手くいけば、他の魔王ももしかしたらするかもしれんぞ?」

 そんな事は微塵も思っていないような顔で、デウスはそう言う。

「確かにそうかも知れません。しかし、それでは払う代償が大き過ぎます。相手が魔王である以上犠牲は付き物。それぞれ覚悟もしています。ですが、だからと言って勇者が減っていくのは歓迎出来ません。今後魔王と戦うならば、エルダと同格かそれ以上の力を持った勇者で行う事になるでしょう」
「ふむふむ、分かっておるではないか!では、答えよオリアナレイナ。シンプルに何が足りぬ?」

(私に言わせますか・・・いえ、私だからこそ、でしょうね)

 オリアナレイナが大きく息を吐く。

「・・・力が足りません」
「そうだ!お前達には力が足りない!レクサーシャ・・・アレクサンドリアのような真の聖剣の輝きが!お前達には、それが欠けている!」

(アレクサンドリア様・・・・初代の勇者様。どうして、大罪の魔王が彼女の事を知って・・・?親しげに名前を・・・?何より、なぜこんなにも聖剣に詳しいのでしょうか?)

 オリアナレイナは混乱していた。
 大罪の魔王が生まれたのは、最悪にして災厄この世の悪を具現化したような存在、『悪虐の魔王』が討たれた後だと言われている。それは、『悪虐の魔王』を討った初代勇者アレクサンドリアが、建国後に行方知れずとなり数十年後に初めて、≪色欲≫の魔王等の大罪の魔王が天使によって確認されたからである。

(それがなぜ・・・?面識がある?分かりません・・・。何を知っているというのでしょう?)

「・・・正直、貴方が何を言っているのか分からない部分もありますが、『真の聖剣の輝き』。これだけは分かります。それは、簡単に手に出来るものではありません」
「エンリチェッタ」
「っ!?な、なんじゃ!?」

 突然名を呼ばれ、声の上擦ったエンリチェッタの返事。デウスに促され、おずおずと前に出てくる。オリアナレイナは首を傾げている。

「見せてやれ」
「・・・良いのか?」
「構わん」

(何を・・・?)

 エンリチェッタの体から、途轍もない量の聖力が溢れ出る。

「なっ・・・!?」

(ま、まさか・・・!?)

 エンリチェッタの力に感嘆している者が多い中、オリアナレイナだけはその姿に驚愕を隠せない。その後に何が起きるかを知っている為。ソレの事は自身が良く知っている為。
「おお・・・」
「なんと・・・」
「美しい・・・」

 あちこちから溜息が漏れる。誰もがその姿に魅了された。
 エンリチェッタから溢れ出ていた聖力は、背中に集まると翼の形を形成した。ぼやけたものでは無く、しっかりとまるで生えているかの如き、真っ白で美しくも力強い翼を。

「どうだ?オリアナレイナ。このエンリチェッタの翼。余が引き出した」
「っ!?有り得ません!!それは、天使様との絆の一種。魔族に、魔王にそんな事が出来る筈・・・・!」
「事実じゃよ、陛下。妾がこの翼を得たのは昨日じゃ。昨晩、この魔王に何やら力を送り込まれてな。気付いたら、背中に翼が生えておった」
「!!」

 開いた口が塞がらない。そういった様子のオリアナレイナ。他の者には、女王がどうしてこれほどまで取り乱しているのかが分からない。
 確かに魔王に力を送り込まれてっていうのは、勇者として歓迎出来無い事だが、エンリチェッタの翼からは一切の邪悪さは感じられない。それどころか、『聖樹』を前にしているような、それこそ天使を前にしているような神々しさすら感じていた。

「で、ここで余の目的だ。オリアナレイナ、しかと聞け。余の目的は、勇者を育てる事だ。勇者の育成に余が手を貸そう」
「は?」

 それは何処から漏れたか。しかし、ポカンとした人間達の表情から、誰でもあり得る。

「それが出来る事は、今余が証明したぞ。余は最低でも、全ての勇者に翼は生やして見せよう」

(全ての勇者に羽を・・?確かにそれが可能なら、全ての魔王を倒す事が可能かもしれません。しかし・・・)

「なりません、陛下」
「・・・エルダ」
「話の内容は良く分かりませんが、例えあの翼が聖力によるものでも、魔王との取引によって「残念ながら、取引では無い」・・・!」

 悩むオリアナレイナを諫めようというエルダの言葉を、デウスはバッサリ切り捨てる。

「余が行ったのは、正確には力を与える事では無く、力を引き出す事。エンリチェッタの持つ聖剣の力を引き出しただけにすぎぬ」
「・・!何故貴様にそのような真似が・・・!」
「くくくく、何故であろうな?オリアナレイナよ、余の希望としては学院の教師とやらに就きたい」
「ふざけるな!!あの場所は、勇者の聖域!魔王如きがあ「眠れ」・・・・・」

 デウスの言葉に激昂して進み出てきた貴族だったが、言葉の途中で眠らされる。ドサッという音が続き、勇者では無い人間、貴族やメイドが眠っていく。異様な光景にまたも勇者達は何も出来ない。出来るのは、倒れた者達の安否確認。

「静かになったな。勇者に関する話に、ただの人間はいらぬであろうよ」

(何今のは・・・。ただ眠れって言っただけにしか・・・)

 立っているのは勇者のみ。例外は二人だけ。メイドのアンナに、玉座の隣に立つ豪華な服の男。どちらも無表情で立っている。

「そこなメイドは余が気に入っているからだが、そっちの派手な服の男は宰相辺りと睨んだのだが相違ないか」
「如何にも。儂はヘンリー・ウォルマート。この国の宰相にして、陛下の叔父だ」
「ほう。姪に仕えているのか、珍しいな。この場合人間なら、王位を簒奪する物だと思っていたのだがな」
「姪の方が、上に立つ事に優れているからな。儂に出来る事は支える事よ」

 卑屈さも感じさせず、それが当然の事であるかのようにヘンリーは答える。

「くく、恐らく宰相だからと言う理由で残しておいたが、余の力に驚いた様子も見せないし、思った以上に面白い奴だな」
「儂は、ただの人間だからな。殺される時は一瞬だ。驚いている暇があれば、己のやるべき事を為すべきだろう」
「くくく・・・・、それが一番難しいのだがな。やはり、面白い人間だ。さて、どこまで話したんだったか・・・・ああ、そうだ。余が学院の教師になるという話であったな」

 余りの自由な振る舞いに、目の前の男が魔王であるという事を再認識させられる。これが他国の人間だったら、即戦争だろう。デウスの行動は、大胆不敵な宣戦布告に他ならない。

「なぜ・・・なぜ魔王が勇者を育てるなんて事になるのですか?」
「余が待っていたからだ。魔王を討てる勇者の誕生を。そして先日、遂に魔王を討った。余はそこに希望を見たのだ。余の最終目的を叶える希望をな」

 どこか遠くを見る様に、されどその瞳に強い意志を宿らせて言うデウスの姿に、一瞬見惚れる勇者達。オリアナレイナも例外では無い。

「っ!そ、その目的を話すつもりは?」
「無い・・・訳でも無いな。そうだな。オリアナレイナ。そなただけなら教えてやらん事も無いぞ」

 再びデウスから闇が溢れる。今度は宿の一部屋ぐらいの四角形が形成される。やがて、扉が一つ現れる。

「知りたいのなら一人で、その中に入るが良い。音漏れも無く、中の様子を見る事も適わぬ。余と二人っきりで、じっくり聞かせてやろうぞ」
「っ!!」
「っ!貴様それが目的か!」

 エルダが前に進み出、聖剣をデウスへと向ける。エルダだけでは無い。ソフィアも、そして他の勇者達も、震える身体に鞭打ち恐怖を押し殺しながら前に出る。

「ふむ?まだ目的は言っていないのだが?」
「しらばっくれるな!≪色欲≫の魔王」
「・・・おお!そうか、そういう事か!くくくくはははははははっ!済まぬ、済まぬ!余がそうである以上、そう思われても仕方ないか!余が浅慮であった!」

 つまりエルダ達は、デウスがこの黒い部屋でオリアナレイナにあんな事やこんな事をするつもりだと思ったのだ。デウスが≪色欲≫の魔王だから。当然と言えば当然の反応であった。

「何を今更・・・っ」
「くくく、今の話は無かった事に「いえ、聞きましょう」・・・ほう?」
「なっ、陛下!?」

 いつの間にか、オリアナレイナは黒い部屋の扉の前に来ていた。

「≪色欲≫の魔王の最終的とやらに興味があります。勇者に敬意を示し、勇者の為に怒る。そんな魔王の目的に。その為なら体の一つや二つ、純潔の一つや二つ安いものでしょう」
「随分な覚悟だが、ソレはそんなに安いものじゃ無かろうて」
「そうです!陛下がそのような事をなさる必要は・・・!」
「エルダ。落ち着いて下さい。何も、私の全てを捧げると言っている訳ではありません。ただ、体を好きにさせるだけです。どんなに体を汚されようとも、心だけは汚させないつもりです。魔王の目的が知れるなら、やはり安いものでしょう」
「っし、しかし、それでは余りにも・・・。そ、それなら私も・・!」

 勝手に進んでいく話に、デウスは苦笑を禁じ得ない。エミリアだけでは無く、エンリチェッタも笑いを堪えるのに必死だ。

「くくく、盛り上がっている所悪いが、余は何もせぬぞ?女にはそれほど困っておらんしな。≪色欲≫ではあるが、余は紳士的だと自覚しておるぞ?」
「黙れっ!」

 エルダだけでなく、他の勇者も口々にデウスを罵倒し始める。オリアナレイナと言う存在は、彼らにとってそれほど大事だと言う証明だ。
 だが、寛大なデウスの眉間に、シワが寄り始める

「・・ふむ、いい加減鬱陶しいな」
「っ!?」

 デウスの纏う雰囲気がガラリと変わる。一瞬にして、場が静寂に包まれる。

「して、どうするオリアナレイナ。聞くか、引くか?」
「・・・ソフィアはどう思いますか?」

 これまでほとんど沈黙していた、己のもう一人の側近にオリアナレイナは問う。

「聞くのが宜しいかと」

 眼鏡を整えながら、答えるソフィア。

「ソフィア!お前!」
「落ち着いて下さい、エルダ様。良く考えてみてください。この場で最も強いのは、あの魔王です。正直全員で掛かっても勝てる気がしません。その気になれば、この場で全員を力ずくで犯す事も可能なのですよ」
「確かに、そうだが・・・」

 ソフィアの冷静な口調の正論に、エルダの怒りが小さくなっていく。

「学院長。約三日。その魔王と一緒にいて、犯されましたか?」
「犯され!?い、いや、されておらぬのじゃ。妾はまだ処・・・オホン。な、何でもないのじゃ!!」

 思わず昨夜の事を思い出し、そのまま勢いで処女である事をカミングアウトしかける。エンリチェッタの顔は赤い。

「大丈夫です。皆、それとなく気付いていました」
「んなっ!!?」

 驚くエンリチェッタに追い打ちを掛ける様に、小声で続ける。

「偶に官能小説を・・・・・いえ、なんでもありません」
「はぐはぁ!?」

 膝から崩れ落ち、orzの体勢になるエンリチェッタ。二本のアホ毛もしなっている。ソフィアは何やら秘密を握っているらしい。その様子にデウスの顔に喜色が浮かべるのを見て、恥ずかしさで死にたくなったエンリチェッタであった。

「それに、王都の女性が襲われたという話も聞いていません。エルダ様、余り心配はいらないかと」
「む、むぅ・・・」
「ソフィアの言う通りですよ、エルダ。魔王が私達に、小細工をする必要はありませんから。ただ相手が相手なので、相応の覚悟を持って、と言う話です。皆さんも武器を下げてください」

 戸惑った様子で互いの顔を見、最後にオリアナレイナの顔を見て、勇者達は武器を下ろしていく。

(相当な慕われようだな。ヘンリーとやらの言っていた事も、あながち誇張では無いのか)

「ふむ、話は纏まったようだな。では、参ろうぞオリアナレイナ」

 パチンとデウスが指を鳴らすと、扉がゆっくりと開く。中は真っ暗で何も見えないが、オリアナレイナは臆した様子も見せずに足を踏み入れた。

「エミリアよ、この場は任せる」
「はっ」

 そう言って、デウスも中に入っていった。
 十数分後、二人が部屋から出てきた時、玉座の間は血の海と化していた。





 両者の王がいなくなった玉座の間には、妙な緊張感が漂い、静まり返っていた。

「さて・・・」

 デウスが座っていた椅子に座る為に動いたエミリアに、勇者達が思わず反応する。

「そう、警戒するな。私は何もせん」
「・・・その言葉を信じろと?」

 実際に多くの魔族と対峙してきたエルダにとって、魔族の言葉ほど信じられないものは無い。敬愛する陛下を送り出すのだって、デウスを信用したからでは無く、オリアナレイナとソフィアの言葉を信用したからだ。

「別に信じなくても良い」
「くっ」

 エミリアの余裕の態度にエルダは、どこか嫉妬に似た感情を覚える。

「一つ聞いても良いですか?貴女と学院長に」

 唇を噛むエルダに代わり、ソフィアが眼鏡を上げながらエミリアと向き合う。

「答えられるものなら答えよう」
「・・・なんじゃ」

 エンリチェッタは未だに、落ち込んでいた。ソフィアへの返事には、険がある。

「・・・答えてくれるのですか?」
「?貴様が、そう望んだのだろうが。それに、陛下には勇者とは友好的にと言われているからな。一つと言わず、私に答えられるものなら、いくらでも答えよう」

 勇者達は困惑を隠せない。自分たちが知っている魔族とは、かけ離れたものに見えるから。

「では、まず学院長の翼の事です。どうやって、聖剣の力を引き出したのですか?」
「私には分からん。ただ、陛下がエンリチェッタにキ「わーっわーーっわーーーっ」・・・なんだ、エンリチェッタ」
「お主馬鹿じゃろう!?」
「何だと?殺すぞ」

 馬鹿と言われたのが気に障ったエミリアの周りに、炎が渦巻き始める。向けられる半ば本気の殺気と灼熱の炎に、エンリチェッタは恐れ後退る。

「うっ、済まぬ・・・じゃが、アレの事は・・・」
「ふん、まあいい。そう言う訳だ。他のにしろ」

 あっさりと引き下がるエミリア。ポーズだったのかもしれない。しかしこの一件で、両者のデウスの女としての明確な格付けが決まったのであった。

「で、では次です。何故、貴方達は他の魔族のように好き勝手に振る舞わないのですか?」
「?割と好き勝手に振る舞っていると思うが?」
「そういう意味ではありません。魔族と言えば、人間界に来ると必ず子供を食らい、男を嬲り殺し、女を凌辱します。だから、私達は勇者として魔族を滅してきたのです。それなのに、貴方達はそんな魔族らしい素振りを見せない。何が目的なのですか?」

 その辺りが、ソフィアには不気味だった。魔族と言えば、という当たり前の光景がどこにも見られない。まるで、同じ『人』を相手にしているような、そんな感覚。

「目的に関しては、陛下が仰った通りだ。それ以上でもそれ以下でも無い・・・事は無いが、それは今お前達の王に話している。私が論ずべき事では無いな。それと、他の魔族に関してだが、あんなモノと私達を一緒にするな」

 その声には明確な怒りが込められていた。思わず、ソフィア達の背筋が伸びる。

「魔界は各魔王によって統治されているが、中にはどの魔王にも従おうとしない馬鹿がいる。俺の方が強い、とか自惚れる馬鹿だ。この人間界で暴れるような奴は、大抵がその馬鹿だ。あんなのと一緒にするな」
「じ、自分達は違うと?」
「当然だ。≪色欲≫の魔王の配下で、人間界に行った者はいない。私も陛下も今回が初めてだ。他の魔王の配下は度々、人間界のあちこちを襲撃している様だがな。やはり、多いのは学院か?」
「そうじゃな。二日に一回のペースで襲撃される事もあるのじゃ」

 学院には勇者の卵に勇者の雛、そして『聖樹』が存在する。それらの存在は、魔王達にとっては当然目障り極まりないものだった。

「やはりな。っと、話が逸れたな。そんな訳で、人間界で暴れるような奴らはただの賊で、馬鹿だ。一緒にしてくれるな」
「・・・なるほど。それは、まるで・・・いえ」

(まるで人とは変わらないのでは?物心ついた頃から疑問だった、魔族とは何か。≪色欲≫の魔族達と関わっていれば、その答えが見つかる?)

「どうした?質問は終わりか?」

 考え込むソフィアに、エミリアが問い掛ける。デウスの命だから律儀に答えていたエミリアだったが、いい加減面倒臭くなってきていた。

「あ、すみません。次はええと・・・危ない!?」
「あ?」

 エミリアの体に鎖が巻き付いた。

「お前達!!」
「へっへへ、捕まえたぜ」

 数少ない男の勇者が、聖剣である鎖鎌をエミリアに巻き付けていた。その周りでは、約半数の勇者達が聖剣を構えて、エミリアを囲うように立っている。8:2で、男の勇者が多い。と言うか、数少ない男の勇者全員が参戦していた。

「他の質問は無いのか?」
「「「は?」」」

 何事も無かったかのように、ソフィアの方を向くエミリア。男の勇者の方は一瞥すらしない。

「て、てめぇ・・・少しばかり強いからっていい気になるんじゃねぇぞ」
「お前達止めないか!」
「うるせぇ!」

 エルダが静止の声を上げるが、聞く耳を持たない。

「このままいいようにやられて終われるかよ!俺達は勇者なんだ!こいつを倒せば、倒せなくとも捕らえれば・・・!」
「無いようなら、これで終わりだな。私はやる事が出来たようだ」

 鎖を巻き付けたまま、エミリアが立ち上がる。

「へっ、俺の鎖から逃げられると思うなよ。俺の鎖は魔族に巻き付いたら二度とぉぉおおおあ゛ああぁぁぁぁぁ!!?」

 言葉の途中で、男の勇者は鎖ごと燃え尽きた。やはり塵すら残らない。

「私は陛下ほど寛大では無い。だから貴様らは死ね。貴様等のような、ちっぽけなプライドで生きているような勇者はいらない。陛下がいなくなってから、これとは。小物に過ぎる」
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!べぎょっ!!?」

 エミリアの放つ威圧感に、恐怖のあまり聖剣を振り回しながら襲い掛かった勇者は、尻尾で頭を粉砕された。血肉に脳みそが散らばる。

「陛下の御寛大な心遣いを無下にした事を、永遠に反省しながら死ね」

 一瞬。正に一瞬。エミリアに聖剣を向けていた勇者達は、全員頭部を粉砕され、死んだ事にも気付かぬままに死んでいった。
 玉座の間は一瞬で血の海と化した。
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パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
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[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
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🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

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