美味いだろ?~クランをクビにされた料理人の俺が実は最強~

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第31話 エルフの森の宴会

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「どうだ? 美味いだろ」
「「うん」」

 このエルフの里の入口に陣取って2日目の昼を迎えた。
 今食べているのは、今朝、狩って来たばかりの鹿の魔物だ。

 『サンダーレインディア』大きな二本の角の間に常に電気を纏っている。
 後ろ足二本で立ち上がったら、要注意だ。

 角と角の間に貯めた電気を一気に解き放ち襲い掛かる。
 直撃しなくても、感電して麻痺状態に陥る危険性が高くとても厄介だ。

 ただし。

 解っていれば話は別だ。
 木の枝にミスリルのフォークを括りつけた物を、二本足で立ったタイミングに合わせて地面に突き刺す。

 避雷針の様に電撃を集め、地中へと逃がしてしまう。
 ここが最大のチャンスポイントでもある。

 電撃を撃ちだすと、5秒ほどの硬直状態に入る。
 俺は素早く、サンダーレインディアの腹の下に潜り込み、愛用の捌き包丁で、柔らかい腹部から解体する。

 動物系の魔物であれば、内臓を失って生き残る敵はほぼ居ないので、意外に対処は楽なんだ。

 ただし、獲物の足の長さがある程度無いと、潜り込めないけどな。

 鹿系の肉は運動量がとても多いため、足の肉は筋が多くて硬い。
 美味しく食べれるのは、背中部分のロースかヒレ肉がお薦めだ。

 バラ肉の部分を骨付きリブの状態で調理するのも、脂がのって美味い。
 今日はヒレ肉を使った。

 魔物のサンダーレインディアは体も普通のトナカイよりかなり大きく、ヒレ肉でも5㎏程の塊だ。

 料理名は、『サンダーレインディアの塩釜焼』だ。

 香辛料を擦り込み、表面を強火で炙る。
 これをしておかないと、蒸し焼きにする時に旨味がドリップになって必要以上に抜けてしまう。

 それを、塩を卵白で粘土程度の柔らかさに調整した物で包み、ミスリルとセラミックで作られた鍋に入れ、蒸し焼きにする。

 塊が大きいので、じっくりと40分程だ。
 塩釜がしっかりと固まって、岩のようになる。
 わずかに茶色く色づいている。

 大き目の金属製の皿の上に移し、塩釜をハンマーでたたき壊す。
 中から、香りが立ち上がる。

「うわー凄いいい匂い!」

 チュールとフィルも匂いの良さに引き付けられている。
 割った塩釜を取り除き、食べやすいサイズに切り分ける。

 切り口はピンク色で、ジューシーな汁が表面に浮き出る。

「柔らかーい」
「幸せー」

 大好評だった。
 俺も、少し大きめに切り分けた一切れを口に運ぶ。
 
 うん。
 満足だ。

 まだ、ロース肉や、骨付きリブ、もも肉、ネック、すね肉と美味しく食べれる部分は、たくさん残ってる。

 徐々に使って行こう。

 俺達が食事をしていると、人の気配がした。

「フィル。チュール。気を付けろ」
「「うん」」

 俺も気配がした方に注意を向ける。

「何か用か?」

 そう言って、捌き包丁を構える。

「ま、待て。敵ではない。あまりにいい匂いがしていたから、思わず誘い出されてしまった」
「誘い出された? 結界の中からか?」

「あ、ああ」
 
 そう言ってその妙に容姿の整った男は、美しい金髪をかき上げて見せた。
 耳がとがってる。

「エルフか?」
「ああ、見ての通りだ。ナディアが戻ってきた後に長老に命じられて、結界の中からお前たちが、無法行為を行わないか、監視していた」

「なる程な。そんな事俺達に言っていいのか?」
「ああ。この二日間ずっと見ていたが、害意が無いのは解ったからな。この里の若衆のリーダーをしている、ヤヌスだ」

「ナディアの友達のカインとフィルとチュールだ。折角だ、ヤヌスも飯食ってけ」
「いいのか?」

「ああ。美味いぞ」
「すまん。ご馳走になる」

「酒も飲むか?」
「ワインはあるか?」

「ああ、この肉に合う赤ワインのフルボディで少し口当たりの甘めの物を出そう」
「いいな」

 美味い肉と、美味い酒で、俺達は結界の前で盛り上がっていた。

 飲み始めて、2時間も経っただろうか?

 つまみが足りなくなって、俺は簡単に調理できるものや、作り置いたものを次々に出し、みんなで楽しんでいた。

 すると、再び結界の中から、気配を感じた。

「ヤヌス。監視の任務中に何してるんだお前は。交代の時間に居ないから心配して人数を集めて来たんだぞ……」
「ああ。もうそんな時間だったか。スマン」

 そこにはエルフの男性ばかりが4人程居た。

「まぁ折角ですから、皆さんも一緒にどうですか? お酒も料理もまだまだたくさんありますよ?」

 そう、誘ってみた。
 フィルとチュールも「みんなで一緒だと、楽しいですよ?」
 と、笑顔で誘う。

 ヤヌスも、「この人達は間違いなく良い人だ。獣人の女の子がこんなに楽しそうに人間と一緒に行動してるだけでも信用できる。何よりも酒と料理が、死ぬほど美味い!」

 そう言って誘った。

「全くお前はもう。少しは危険に思えよ。先日もう少しでこの森を焼き払われる所だったんだぞ?」

 そう言いながらも、4人のエルフも、ヤヌスの隣に腰を下ろした。
 チュールがワイングラスを渡し、フィルが極上のワインを注ぐ。

 俺は、人数が増えたから、『サンダーレインディア』のロース肉を取り出して、ステーキを焼き始めた。

 そのまま夕方近くまで盛り上がっていると、また結界の向こうからエルフが現れた。

 今度は女性もいる。
 10人程だ。

 俺は思った。

 エルフって…… 危機感薄くねぇか?
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