異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

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40.気が気じゃない side第一王子フェリクス

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 大聖女殿はすぐに辺境の砦に赴くと言ってくれた。

 国民のために大聖女の力を使うと言ってくれた通り、被害状況を理解しすぐさま行動に移してくれたのだ。

 そして砦に向かう時間もかかるため、大聖女の転移魔法で移動することになった。
 魔物と瘴気、兵士の状態を確認する名目で私も同行することにした。

 私は心の中で歓喜した。
 あの大聖女の魔法をこの目で見て体感出来るのだ。こんな機会は無いだろう。

 それでもいつか大聖女殿が私の謝罪を受け入れてくれて、そして私の妻になってもらえたら、その時は常にそばにいて唯一無二の魔法を好きなだけ見せてもらうのだ。

 一旦砦の状況を見てくると言い、私たちの目の前から一瞬で消えて、気配も無く戻ってきた時は驚いて言葉も出なかった。
 教科書で知ってはいたが、目の前で実際に見ると、このような神の魔法を使える大聖女殿にあらゆる感情が湧き起こる。

 そして砦に向かう時、実際に結界と転移魔法を体感した。

 結界は大聖女が持つ気質も含まれるのか、結界内にいるだけで気持ちが穏やかで柔らかい感情に満たされた。

 彼女を抱きしめたい衝動にかられ、親愛の情を伝えようとしたがあからさまに拒絶された。

 『私の仕事をするだけ。感謝の言葉も不要』と言われ、口づけようとした手も隠されてしまった。
 こんな調子ではいつお互い名前で呼び合える仲になれるのか不安がつのる。

 その後、辺境伯領の当主であるハルバードに会うと私の心は掻き乱された。

 私たちの前では常に硬い表情の大聖女が、ハルバードを見惚れているような顔をしている。

 その上、私が拒絶された親愛の情を示す挨拶も受け入れ、なんと手の甲に口づけまで許している。
 あのハルバードは人誑しではあるが、あれほど頑な大聖女の心にスルリと入り込む手管に、羨ましいを通り越して憎しみを感じた。

 一番ショックだったのは、
大聖女殿が私たちには絶対に教えなかった名前をハルバードにはあっさりと伝え、お互い名前で呼び合っているではないか!何故だ!将来夫となるであろう私が一番最初にその名を呼びたかったのに… 

 大聖女殿はレイと言う名前だった。
 レイ、名を呼んで私に目を向けて欲しい。その名前を呟けば、敵意剥き出しの大聖女殿に睨まれてしまった。
 
 それからの大聖女殿の活躍は我々の想像を遥かに超えていた。
 
 まずは怪我人を治したいと言う心優しい大聖女の意向に沿って、救急棟に行けばあっという間にすべての患者を回復させた。

 一番驚いたのは、失った足を再生させたことだった。
 前聖女は治癒は出来ても、失ったものを再生するという力は無かった。

 幻影なのではと疑いたくなるほど再生に要する時間は一瞬で、足を取り戻した男は不自然さも無く歩いて見せた。

 素晴らしい、大聖女とはなんと素晴らしい力を持っているのか。この奇跡の力を惜しみなく使うこの女性を、なぜ蔑ろにしてしまったのか悔やんでも悔やみきれない。

 しかも治癒の力をこの度初めて使ったと言うではないか。
 なんという肝の座った女性だろう。そのことを恥ずかしそうに笑った顔に私は撃ち抜かれてしまった。

 なんて可愛らしいんだ!
 遠のく意識の中、側近のイーサンからみぞおちに一発くらい「殿下しっかりして下さい」と言われなければ、そのまま気を失っていただろう。

 その後は、何かにつけハルバードと良い雰囲気で、ハルバードが自身の馬に乗って欲しいと言った時も、私の馬で良いではないのかと言ったが聞いてももらえなかった。

 そして、常に距離の近いノアという男。平民のはずなのに何故かハルバードとは旧知の仲のように見えた。それは私の側近イーサンに調べさせることにした。

 結局ノアの馬に乗った大聖女殿はノアとピタリとくっ付き、降りる際はハルバードのエスコートを受けていた。

 またあの男は馴れ馴れしく大聖女殿の手を取り、ここぞとばかりに抱き締めていた。そのことに大聖女殿も気が付いていないのか、ハルバードの人誑しの無せる技なのか、私のイライラも収まる時がない。

 我々が討伐拠点の森に到着してすぐ魔物の群れが現れた。
 私も剣を携えてはいるが、立場上後方での待機となる。

 魔物も大型の群れが近付いて来ているが、瘴気により視界も悪い。辺境の兵士たちでなければこのような状況で数ヶ月も耐えられないだろう。

 まずは辺境の兵士たちの戦力を確認し、魔物に押されるようであれば私の連れて来た騎士たちを参戦させよう。

 そう思った矢先、魔物が目の前で消滅した。
 見るとハルバードの横に大聖女殿がいた。あのような前線に出ていたのか、私の第一王子という立場上そうせざる負えないが、後方で戦況を見るしか無い自分に歯がゆさを感じた。

 この森の拠点に三月も駐留しているとあって、この度大聖女殿もいるため一時撤退することになった。

 各々撤退の準備をしていると、突然辺り一面真っ白な光が広がり、それは上空にも登っていた。

 間違いなく大聖女殿の力だ、光の発生した方へ向かうと、まただ、ハルバードと大聖女殿が両手を繋ぎ微笑み合っている。
 これにはもう我慢ならなかった。

 ハルバードに対し苦言を呈すると、そうではないと言い、大聖女にも『あなたに何か言われる筋合いは無い』ようなことを言われてしまった。

 ハルバードと手を繋ぎながらあのように言われるとショックだった。本当ならあの小さな神の手を握れるのは私だけのはずなのに。

 側近のイーサンに、
 「殿下、聖女様と王族の婚姻は過去の例でいくと王命ですが、あの大聖女様に王命は通用しませんよ、何せこの世界最強なんですから。
 これだけ嫌われてるのに追いかけると、ますます逃げてしまいますよ。諦めましょう?他国にでも逃げられたら目も当てられませんから」
と言われたが、
好きな人を、愛する人を簡単に諦められるものなのか?

 「わかっている!私の咎だ。これもすべて自業自得なのだ。そんなことはわかっている。でも、簡単に諦めることは出来ない。頼む、協力してくれ」

 「うーん、これも殿下のためなんですがね。貴方とも長い付き合いですから、常識的な範疇のことだったら協力しますよ」

 「すまない、助かるよ。私も必死なんだ。ん?常識的な範疇?…媚薬は常識的な範疇に入る―――」
 …グフッ…!
 
 「殿下、御冗談を続けられるのなら2発目は顔ですよ?」

 イーサンも無駄に鍛えているからな…、みぞおちに入った一撃で声も出せなかった。
  





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