異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

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58.目覚める

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 私の手を優しく握る人がいる。

 誰だろう?……この柑橘系の匂い……

 でも瞼が重たくて開けられない。まだ眠い。もう少し眠ってもいい?眠たくて……

 (レイ様……)
 
 ……ん?
 ……これはハルバードさんの声?

 私の指先に何か柔らかいものが触れたのは?
 お、起きたほうが良いのかな?
 夢?夢かもしれない?………。

 「…ん」

 「レイ様……?」

 「……ん…ハルバードさん?」

 「レイ様… 私です、ハルバードです。目が覚めましたか?……良かった、良かった…!もう一月も目が覚めなくて、私は、私は…… 今、医者を呼んできます」

 それから私は診察を受けて、ここが辺境の城だということを思い出し、泣きながら部屋に入って来たブリジットさんとハンナさんにしがみつかれて泣かれ、そのあと身の回りのお世話をしてくれた。

 お医者さんはもう何とも無いから、栄養を摂って少しずつ身体を動かしていくように言われた。

 一月も寝ていたけど元気だった。
 着替えてソファーに座っていると、ハルバードさんが面会に来たとブリジットさんが教えてくれた。

 「レイ様、気分はいかがですか?」

 私が答える前にブリジットさんが、

 「レイ様、ご当主様は毎日毎日レイ様が心配でずっと付き添っていたのですよ、仕事もそこそこに、もう泣きそうな―――」

 「ブリジット!余計な事は言わなくていいよ!もう…」

 ブリジットさんはクスクスと笑って
 「はいはいお邪魔な者は出ていきます。レイ様また後ほど伺います」
と言って出て行った。

 「あの、ハルバードさん、ご心配お掛けして申し訳ありませんでした」

 「いえ謝らないでください。ただ目覚めないレイ様を毎日見ていたら、このままレイ様が目覚めなかったらと不安になってしまって…」

 「……私一月も眠っていたんですね」

 「ええ、あの瘴気の沼を浄化した後、倒れてしまって。魔力を最大限使ったから、身体に負担となったのでしょう」

 「それじゃああの沼はあのまま綺麗な湖のままなのですね?」

 「ええ、それなんですが、あの水の神がいたから水が満たされていたようで、今では水位が半分以下になってしまい、干上がる日は近いかと。もとは何も無い土地を水の神が切り抜いただけの場所なので」

 あの湖、メルトル村と同じかたちだったよね…

 「そうですか…。ハルバードさん、この世界の地図を見せて欲しいのですが」

 「地図…ですか?ええ、それは構いませんが、レイ様、お仕事はもう少し休まれてからの方が私は安心しますが…」

 ハルバードさんは縋るような目で私を見る。
 何となく気が付いてきたけど、もしかしてハルバードさん、わざとやってない……?

 「クスクスクス、レイ様は本当に可愛いですね」


 そして自覚してやっているだろう顔の良さを存分に発揮するかのように、優しい微笑みで私を見つめる。

 か、顔が熱い…もれなく耳も!
 もう!わざとやってる!

 「クスクス、レイ様、とても愛おしいです。でも私は気になることがあるんです」

 イ、イト、イトオシイ…?って愛おしいってこと?
 更にその美しい顔で私を見つめ続け、畳み掛けてくる。コロ、コロサレル……。

 「レイ様、レイ様は水の神に結婚はしないと仰っていましたね?あれは本心なのですか?」

 今度は眉毛を少し下げてウルウルした目で聞いてくる。
 私の心の臓がぁ~誰かぁ~

 「へ?え?あっあぁ、あれはそうです、結婚はできないと思ってて、この世界では今の私の年齢だと不祥事案件だし、よその世界から来た私を―――」

 「はぁ~良かった、そんなことだったんですね。レイ様、私は…」

 そう言ってハルバードさんは私の手をとった。

 「私はレイ様が好きです。
 この世界に連れてこられて、悲しいことも辛いこともたくさんあるのに、ご自分の力を躊躇なく弱っているものに分け与える。
 女神が言った通り、貴女は強欲さが無く、相手を思いやれる優しい人だ。
 私はこの数ヶ月で貴女のその優しさや可愛らしさにどんどん惹かれていきました。こんな感情は生まれて初めてです。
 どうか私とともに生きていってはくれませんか。私は生涯貴女を大切にし、貴女だけを愛していきます」

 ……っ! プッ、プロ、プロポーズ…?ハルバードさんが私に…?どうしよう、どうしよう…!

 振り返ったがノアさんは、もちろんいない…
 ハルバードさんは真剣な目をして私を見ている。

 「あっあの、ハルバードさん、正直私どうして良いかわからなくて、このような、その告白は、初めてで……」

 ハルバードさんの顔がパッと笑顔になる。

 「元の世界でもこの世界でも私が初めてなのですね?
 そうですね、病み上がりのレイ様にいきなり戸惑わせることを言ってしまい、申し訳ありません。
 ただこの一月、貴女を失ってしまったらと考えたら恐ろしくなり、少し焦ってしまいました。
 でも私のこの思いは決して揺るがず、変わることはありません。

 それではレイ様、婚約を前提に私を貴女の恋人にして頂けませんか?
 もし私のことが気に入らなければ、婚約はせず…その後は友人として、……友人では本当は悲しいのですが、友人関係を継続して頂ければ…」

 いきなりで思考が追い付かない……

 だけど、願ってもないお申し出だよね、お母さん?
 良いよね恋人からで、お父さん…
 とても良い人だし、良い匂いするし…

 「…はい、わかりました。では、こ、恋人からでよろしくお願いします」

 「……っ!レイ様、ありがとうございます…!レイ様、少し触れますよ?」

 ハルバードさんはそっと私に近付くと、愛おしいという表情を隠しもせず右手で何度も私の頬を撫でた。

 そして私をすっぽりと包み込むように優しく抱き締めた。

 「あぁずっとこうしたかった。こんなに嬉しいなんて、私にこんな幸せをくださって、レイ様ありがとうございます」
 
 そう言うと私の頭にスリスリと頬ずりをした。
 私もギュッとした方が良いのかな、おずおずと両手をハルバードさんの背中に回した。
 大きな背中。薄いように見えて筋肉の厚い胸板に少し驚いた。どさくさに紛れてまたクンクンする。

 するとハルバードさんは更に私をギュッと抱き締めた。

 「はぁ本当はこのまま…いや、レイ様好きです、すごく好きです」

 そう言ってまた私をギュッとすると私の両肩を持って私から離れ、
 
 「……このままでは…危険なので、私は、一度退室して、仕事を、してきます。夜は一緒に食事をしましょう」
 
 そして、愛していますと言って私のおでこにチュッと唇を付けると、真っ赤な顔で出ていってしまった。

 っ……!? えっ…!?
 もうなに!? 私、一生分の青春が急に今日やってきたの??
 どうしたらいいの!?

 お父さんお母さん!私、超絶イケメンの甘々で優しい彼氏ができたよ!
 どうしよう、生まれて初めての彼氏なのに、いきなりこんな素敵な人で良いの!?初心者にはハードモードなんじゃないの!?
 
 脳内で悶絶してると、ニヤニヤを堪えたような顔したブリジットさんがやってきた。

 「レイ様、おめでとうございますと言わせてくださいませ。さあさ、これからドレスやティアラの準備で忙しくなりますね!
 ああそうだわ、部屋の改築も見積もりがいるわね、それからお出しするお料理も料理長と相談しないと……」
 
 ブリジットさんの何やらかなり先走った独り言は聞こえないフリをした。

 

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