異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

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78.正しく戻す

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 辺境の地で新規に始めた事業ばかりで、工事の資材が届かなかったり、発注していた教科書の数が合わなかったりなどの小さなトラブルはあったが、なんとか皆で協力しながら解決した。

 とりあえず、工事での事故や学校で風邪などが蔓延したりといった、怪我や病気がなければすべて良しとした。

 私は何かあればすぐに駆けつけたいとは思っているが、これだけ色々と責任を持つとなかなか思い通りにいかない時もある。

 「やっぱりマーゴットさんの置き薬だなー、私がたどり着く前に飲んでおいてもらえると安心だ」

 瞬間移動でメルトル村に行くと、いつもお約束で目の前にいるはずのマーゴットさんがいない。

 え?マーゴットさん…何かあったの?
 私はダッシュでマーゴットさんの家に走ると、玄関に草の入ったカゴがまたぶん投げてあり、家に入るとマーゴットさんがベッドで寝ていた。

 「マーゴットさん!どうしたの!?」

 「おや、レイかい?なんだか昨日から身体がおかしいんだよ」

 明らかに熱のありそうな顔をしていた。
 いやっ!マーゴットさん死んだらやだ…

 私は有無を言わさず、すぐにマーゴットさんの手を握り癒しの力を注いだ。

 「ん?気のせいだったかな?なんだか治ったようだ、レイ、お茶を淹れるから飲んでいきな」  

 良かった……。マーゴットさんに何かあったら、私は、私は………。
 って、ちょっと!
 
 「マーゴットさん!身体が痛いとか変な時にはこの薬飲んでって言ったのに!ここ!目の前に置いていったでしょ!?」

 「あら、これかい?何かなとは思ったけどアンタのくれた薬だったのかい」

 もう!このやり取り3回目!毎日見に来ないと心配でハゲそう。

 このメルトル村は高齢者がほとんどで、皆が自分のことで精一杯なところがある。

 常々思ってはいたけど、もう様子を見ている段階ではないかもしれない。

 私はカイル食堂に行った。

 「ララさん、この村の皆さんの家族ってみんな王都にいるんだよね?」

 「あーそうだね、ほとんどそうかな。みんな出て行ったらなかなかこの忘れられた村には戻ってこないからね」

 私はマーゴットさんの息子さんたちも、この村にマーゴットさんの様子を見に来たいと思っているが、なかなかそれが叶わないことを話した。

 「もう少し距離が近ければねー、この村は国の端っこだから」

 そう、水の神ハロウトが引きこもるために切り抜いて、ぶん投げた土地がここメルトル村なのだ。

 「このままの村の状態で、王都に近くなったらみんなどうかな?嫌かなー?」

 「嫌ではないでしょ?喜ぶんじゃない?家族との距離が物理的に近くなるんだから」

 「ララさんは?ララさんは困らない?」

 「困るもんか、私からアンタに会いに行ける距離になるんだから」

 私の都合でこの村に帰って来たり、出ていったりしてた。ララさん、私に会いたいと思ってくれてたんだ。私はララさんの膝の上で少し泣いた。

 その後、この村の人たち全員に、村はこのままの状態で、村の場所を元あった場所、瘴気の沼のあった場所に戻すのはどうかと聞いてみた。王都に近くなるよと言って。

 みんな最初は難色を示していた。
 まずどういうことだ?と一言目。
 そんなこと出来るのか?と二言目。
 さすがに騙してるのか?と三言目。
 まあ王都に近いのは良いなと四言目。
 村の皆が良いなら良いよと、全員が同じ事を言った。
 一卵性なの?中身同じ人?

 良いんだね?全員良いって言ったね?

 よし、決行しよう。

 一応また国王陛下であるエルドレッドさんには聞かないとダメだよね?国の地図が変わるし。

 「美麗?もう俺の想像の域を超えてるんだけど…?」

 そうかー、でもエルドレッドさんに会うときはハルも一緒じゃないとダメだから、聞いて見たけど…

 「いや、エルドレッド陛下のところにはもちろん一緒に行くよ?」

 王都の城に行くと、突撃なのにすぐに執務室に通してくれた。

 「やあレイ殿、先日以来だね?今日は来てくれて嬉しいよ。ゆっくり出来るかな?美味しいデザートがあるんだ、季節限定の」

 執務室のメイドさんがあり得ない速さで、デザートをこれでもかとテーブルに並べている。何かの特訓なのかな…?

 「わぁー美味しそうですね!嬉しい!このコモモのタルト、初めて見た!美味しそう~!」

 うんうんとエルドレッドさんも嬉しそうにしている。エルドレッドさんももしかしたらタルトが好きなのね?スイーツ仲間として気が合いそう…フフフ。

 「そうだろー?さあ遠慮なく食べて?」

 ハルが横で、餌付けする気だなチッと舌打ちしていた。ん?

 そして、5個目のタルトに手を伸ばそうとした時、ハルが優しい顔で私を見ていて我に返った。はっ!違う、ここスイーツバイキング会場じゃなかった……

 「エルドレッドさん、私食べに来たんじゃなくて、すごく美味しかったけど、引っ越しのことでご相談があって…」

 エルドレッドさんが持っていたフォークをカシャンと落とした。わかるー、美味しくて力抜ける時あるもん。

 「ひ、引っ越し?レイ殿、ど、どこに行かれるのです?この国のデザート以外に美味しいデザートなんてありませんよ!?」

 え?そうなんだ……。デザートのお店は王都に集中してるから、やっぱり王都に近い方がいいんだ!

 「それなら余計に移りたいです!美味しいデザートは私の生きがいなので!」

 「…!それなら私の権力を使って世界中のデザート職人をわが国に集めます。それなら、引っ越ししなくても良いですよね?」

 エルドレッドさん、権力振り回してまでスイーツが好きなんて、それなら尚更この王都に近付かないと。それに関しては権力バンザイと言わせてもらいましょう!

 「ですが私のスイーツ好きはご存知―――」

 「あーはいはい、俺がちゃんと説明するから。美麗?今日も本当に可愛いね、好きだよ?」

 そう言うとハルはエルドレッドさんに、私がメルトル村を本来あった場所に村ごと戻したいと思っている[こと]、村の住人には全員了承を得ている、国の地図が変わるが良いか、とさっき私が説明したはず?のことを、もう一度エルドレッドさんに説明した。

 「ああ、そういうことでしたか!なんだそんなことか!良かった!そんなことならいくらでもオッケーですよ!あーびっくりした……!」

 エルドレッドさんが快諾してくれたので、村のみんなの気が変わらないうちにと、2日後に引っ越すことにした。

 「ん?引っ越しかい?わたしが?どこに行くんだい?」
 マーゴットさんはララさんに任せた。

 最初は、もうこのまま皆も一緒にドーンと行こうかと思ったけど、さすがに何かあったらこの人数の対応が出来なかったら困るので、まずは村人全員を村の広場に集めてカプセルバリアで覆い、元王都の城、今は新しくなった城の広場に瞬間移動した。

 「おお~っ!……ここはどこだ?」

 「だから王都の城だって言ってるだろ?」

 「おお~っ!王都なのか?どうやってここに来たんだ?」

 「だからレイの魔法だって言ってるだろ?」

 ララさんにお任せして良かった。ちゃんとわかりやすく説明してくれてる。

 「ララさんありがとう!そしたら私は村を移して来るね!」

 「わかったよ!気を付けてね!」

 失敗する気はしないけど、とりあえず元瘴気の沼の近くには近寄らないよう周囲にバリアを張った。

 メルトル村の境界線の外から、

 『この村の土地を正しく元に戻して欲しい』

 ゴゴゴゴゴゴーッッ!!と地鳴りがしたあと、私の目の前がきれいな更地になった。
 よし、沼のあった場所に行かないと!

 また瞬間移動し、あのハロウトが引きこもった元瘴気の沼の前に降りた。

 まさかピッタリとパズルのように村がはまっていた。
 念のため、村の周囲や中を確認したが異常はなさそうだった。

 すぐに王宮の広場に戻ると、ララさんが疲れていた。

 「だからぁ、レイがぁ、魔法でぇ、移動させてるって言ってるだろ?……あー!レイ!早かったね、助かった……」

 その後、エルドレッドさんのご配慮で、メルトル村の村人の家族を城の大広間に招き、皆で食事をした。

 「レイ様!ウィルです、マーゴットの息子の。お元気でしたか?この度は本当にありがとうございました…!母と距離が近くなってこんなに嬉しいことはありません!」

 他のご家族の方にも同じように言っていただいて、本当に良かった。

 「レイ殿!王宮の塔の上から見ていました!信じられない…!村を移動させるなんて、本当に奇跡の力だ…!村人のために尽力して頂いてありがとうございます!さあ、お疲れでしょう?美味しいデザートを用意しておりますよ!私と一緒―――」

 「エルドレッド陛下、美麗はこれから久しぶりに辺境の城に戻って休暇を取ることになっております。お申し出はありがたいのですが、我々はこれで失礼致します」

 え…?スイーツ……。スイーツのお誘いを断ったことない記録更新が途絶えた…

 「美麗?俺と一緒に二人でデザートの方がいいだろ?まあ俺のデザートは美麗だけど。ずっと忙しかったよね?俺は寂しかったよ?」
 
 何かわからない圧で「帰ります」と言うと、エルドレッドさんは泣きそうな顔をしたが、ハルはものすごく機嫌の良い時の顔で笑った。


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