異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

文字の大きさ
80 / 94

80.愚か者の末路

しおりを挟む
※残酷な描写があります。

――――――――――――――


 「ここから早く出せ…!俺を誰だと思っている!!この国の国王だぞっ!」

 美麗が城を破壊した日から二年が経った。

 美麗が一年間眠っている間、あの王族たちは最低限の世話と健康管理を行い、地下牢ではあったがそれなりの生活をさせ、誰一人欠けることなく生存していた。

 元国王カーティスとその妻カトレア、息子のフェリクスとサイラス、娘のイザベラの家族全員が地下牢に入っていた。

 それに加え、魔力拘束具を首に付けた元魔法省長官ライルと、美麗を直接的に害したメイド一人と、イカれた会話しか出来ないフェリクスの婚約者リリアーナが用意した二人のメイド。

 国を乱した王家に従っていたとして、宰相とフェリクスの側近イーサンは期限付きで幽閉となった。

 リリアーナ元公爵令嬢は他国の厳しく貧しい修道院に送った。その際、自身が送り込んだメイド二人も付けて一緒に送り込んだ。
 公爵家はもちろん財産、領地すべて没収し国外追放となった。

 サイラスは独房だったが、両腕がないため世話が大変だということで地下牢に移した。

 そのことがサイラスに希望を持たせたのか、そろそろこの地下牢から出られると思ったようで、最近また騒ぎだした。

 「サイラス、やめろ。もうお前は国王でも王族ですらもない。虚しい足掻きはただ見苦しい、やめてくれ」

 「父上、私に玉座を取られてひがんでいるのでしょう?見苦しいのは父上ですよ、ハハハ」
 
 二年間、なぜこの状態になっているのか、隣の牢にいるカーティスに諫められてもまだ己の愚かな過ちには気が付かない。

 エルドレッド皇太子殿下の提案で、一月に一度、現在の国の状況と、この者たちの最も気になる人物の近況を地下牢に大音量で流し聞かせた。

 〘現在、国民は新たに発見された薬草により、より健康な日々を送り、国民の離職率も減り、生活の満足度は前年の3割増となっている。また新たな交通手段であるバスが路線を拡大し、国民が自由に遠方まで出掛けられるようになった。
それらはすべて大聖女様のご尽力による功績であるが、大聖女様はその収益を受け取ることは無く国民に還元しておられる。無欲で国民のために働く大聖女様は、国民の憧れであり尊敬の対象である。その大聖女様は、三月後にハルバード·メイザー公爵と婚姻式を執り行うことが決まった。仲睦まじい二人に国民は今から祝福の声を送り、国をあげて祝いの祭りを一月かけて執り行う事になった〙

 「いやあぁぁぁーっっ!!ハルバード様は私の婚約者よぉーっっ!?なんでよっ!!なんであんな女と!あんなふしだらなブサイクな女!ふざっけるなぁっっ!!」

 「黙れっイザベラァ!お前殺すぞ!俺のレイにふざけたこと言うなぁっ!ああーっっ、レイ!レイ!なんで??なんでハルバードと!俺のことが好きだっただろぉ!あぁレイ、レイ、お前をめちゃくちゃにしたい―――――」

 「全員耳を塞げ」

 「やめてぇーっっ、フェリクス!もうやめて…!イザベラがいるのよ!そんなこと言葉にしないでーっ!!」

 「兄上はとうとうイカれてしまいましたね、まあもともと頭が悪いから救いようがないですね。レイではないですよ大聖女の名前は。教えませんけど。この中では俺だけが知ってる!…フフフ、あっははは!大聖女は俺のものだ!国王である俺の妻だ!」
 
 「黙れ、サイラス!……頼む教えてくれ!レイの本当の名前を教えろ!……レイのすべてをすべてを俺が知りたい、体中のすべてを……はぁはぁ、レイレイ……っ…!」

 「やめてーっっ!もうやめてぇっ!!」

 これを半年続けた。
 とりわけ俺と美麗の幸せな状況を伝えることが、一番の絶望を与えることができた。お前たちが最も苦しめた者たちの幸せな人生を想像し絶望しろ。

 そして、いよいよ牢から出す準備が整った。
 このまま牢の中で国民の税金で養う必要は無い。自分の生活は自分で何とかしてもらおう。

 美麗が移動させたメルトル村の跡地となった、今は更地となっている場所。
 国の端で隣国との間には山を挟んでいるが、メルトル村が無くなったことでその山に賊が住み着くようになった。

 エルドレッド皇太子殿下が、ここに家族全員で仲良く住んでもらおうか!メイドも付けるなんて贅沢すぎるかな?と、この更地に平民の家程度の家を建てられる材木とその道具、ニワトリ30羽と牛を2頭、野菜の種と畑を作る道具も用意した。

 優しすぎるだろ、ここまでしてやるなんて。本来なら国を奪われた王族は一族処刑なのだ。やはり将来皇帝となる器の持ち主だ。

 そして美麗には、あの元メルトル村の跡地に悪い奴が来るかも知れない、あの跡地に結界を張って、その結界には悪い奴は入れるが入ったら出られない、出られるのは心を入れ替え、人の気持ちを理解し、他人を二度と傷付けない人間になったものだけにしたいと話した。期限は50年と言って。

 「そう、あの裏山に賊が……。治安のよいこの国に入ってきてほしくないよね、わかった、50年ね?任せて!」

 そう言うと美麗はすぐにその結界を張ってくれた。

 美麗、すまない。君に頼るしかない結末にしてしまった。
 でもこれで終わりだ。君を苦しめた奴らと関わることは二度とない。アイツらが心を入れ替えることは絶対に無いから。


 秘密裏にアイツらを移送した。
 夕食を祝いの施しだと言って少しだけ多目にして眠り薬を入れた。
 眠ったところを身動き出来ないよう縄で縛り、目隠しと猿ぐつわをすると馬車の荷台に乗せ、明け方近くに運び出した。

 この前日にカトレアの母親も拘束した。

 「私は王妃の母親よ?何を言ってるのかしら、そんなでたらめばかり」

 証拠を揃え罪を伝えるが案の定、認めるわけがない。その他にも殺人、人身売買、脱税に賄賂など、してない悪事は無いほどの罪があった。

 隣に座っている元侯爵家当主を見ると、せせら笑うように俺を見ている。

 「お前ら本当に頭悪いね?この状況がわかってないの?」

 悪者は一緒に退治しよう!と言い、エルドレッド皇太子殿下もこの場にいた。

 「この国はもうなくなって、ザイカラル帝国の支配下になったんだよ?わかる?お前ら貴族は俺の采配でどうとでもなるんだよ?」

 旧ユストル王国の貴族たちは爵位をひとつ落とされても、それに異を唱えなければこのまま在住を許されている。
 恐らく伯爵位にはなるが、このままのうのうと生きていこうとしてたのだろう。

 「しかし、皇太子殿下。私たちは何の罪もありません。そんなのは濡れ衣だ」

 罪が無い…?俺は頭に血液が一気に集まる感覚を初めて知った。

 「ハルバード、いいよ?」

 エルドレッド皇太子のこの言葉が言い終わる前に目の前の男の腕を切り落とした。

 痛い、助けてと喚き散らす男に、それを見て悲鳴を上げるカトレアの母親。

 こんな馬鹿に俺の愛する父親と、そのせいで母親を、婚約者をも殺された。虚しさしか無かった。

 うるさい男を黙らせるように、そいつの胸をゆっくり剣で刺した。

 「ハルバード、手間が省けて助かったよ。害虫はさっさと始末しないと後からまた湧いてくるからね。さぁお父上と母上のお墓に行こう」


 荷馬車から護衛たちが荷物のように運び出した罪人たち。

 もしかしてと思ったが、やはり美麗の張った結界に元王族とカトレアの母親、ライル、メイドはスッと入っていった。一人くらい結界に拒絶される者がいてもいいくらいだが、やはり期待は裏切らなかった。

 メイドは目隠しも猿ぐつわも縄も解いて中に入れた。すると、

 「お願いです、助けてください!私はもう反省しました!」と、俺の方に向かって走ってきたが、結界に弾き返され通ることを許されなかった。
 反省とは口ばかりだ。

 見えない結界に何度も弾かれ、どうして!?と、こちら側に出ようと暴れている。見ていて虚しくなった。

 「せいぜい元王族のお世話でもするんだな」と言うと、目をギラギラさせ、転がされているフェリクスに向かっていった。
 
 王族とライルは縄を解かず、目隠しと猿ぐつわは外して、全員を結界の中に転がすと、元国王カーティスがこちらを見ていた。

 ただ私を見つめると、
 
 「やっと終わると思ったが、こういうことか…、ハルバードすまなかった。大聖女殿にはそもそも許されないので言うことはないが、本当にすまないことをしたと思っている。行け。あとは私の役目だ」

 恐らくこの人は……。

 今後生き抜くために家族で力を合わせるのか、賊やならず者に辱めを受け絶望の中で息絶えるのか、救いようのない我が子の人生を見届け、誇りを胸に人生を終わらせるのか。

 
 この更地、元メルトル村の跡地はコブのように旧ユストル王国の領土と接している。
 我が国に接している部分は、結界の中が見えないように高い壁で囲い、この壁に登れば結界の中の様子を見れるが、それを見る者は限られる。

 しかし、もし万が一心を入れ替え結界の外に出られるようになったとしても、この高い壁に阻まれ裏山の方から逃げるしかない。
 清い心になったとしても賊から逃れられるかどうか。
 次回ここに来るのは半年後だ。

 カーティスの瞳を思い出すと、複雑な心境になった。



しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...