上 下
9 / 33

第九話 残念なブタ

しおりを挟む
 二人が受けたクエストの依頼人は、畜産農業を営む、老夫婦である。
エレファントピッグによる被害は、ここ数ヶ月と続いている、と二人は聞いた。

 実際に、被害現場に行ってみると、檻が壊されている。
鉄格子が数十本と、折られていた。

(あれ? 豚なんじゃ......)

 たしかに、豚ではあるそうだ。
だが、魔物は、魔力を備えているので、ただの豚ではない。
大きさは、あまり変わらないが、突進されたら一溜りもないほどの衝撃をもっている。

「そういえば、襲われる家畜は何なんですか?」
依頼主の老爺にマリは、興味本位で尋ねた。
壊された檻を見つめて、老爺は困ったように言う。

「満月の夜、必ず豚が襲われてしまうんじゃ」
老爺は、顔を下げて嘆息する。
そんな中、二人がもった感想は一期一句変わらなかった。

(共食いじゃん......)

 そもそも、何故、その魔物は豚に進化してしまったのだろうか?
それに、特徴である長い鼻は、いつ使うのか?
などという疑問が生まれるが、彼は異世界という理由で片付ける。

「夜まで、わしの家で休んでなさい」

 老爺が、小さな建物を指さす。二人が目線を変えて見ると、
老婆がほうきを持ち、曲がりそうにない腰で、お辞儀した。

「じゃあ、上がらせてもらうか」
お言葉に甘えて、二人は老夫婦の家に上げてもらうことにする。

 二人に、老夫婦は個室を用意してくれた。
家の中は和室のようであり、彼は、老夫婦が異世界転生者でないかと疑う。

「よし。作戦でも立てておくか」
夜になるまでは、まだまだ時間があったので、彼は元気よく言う。
当たり前のように言ったのだが、マリはきょとん、と首を傾げた

「エレファントピッグは、弱いですよ」
「え? そうなの?」
「はい。Eランク冒険者が受けれるぐらいですから」

 突進されたら危険である、とは言われているものの、
鼻が弱いので、正面衝突して来ることは、基本ないそうだ。
本当に残念な生き物である。

 作戦は不要であるため、二人は時間を潰さなければならなくなった。
しかし、お互い生まれた世界で異なるという事もあり、会話は弾む。
彼は、学校での行事やアニメやゲームなどの話をして、
マリは、魔法学校での授業などについて話した。

「そろそろ、お願いしますぞ」
老爺が扉を開けて、二人を呼びかける。

「よし、さっさと終わらせて帰りますか」
彼が立ち上がると、マリも杖を持って立ち上がる。
冷たい夜風が吹く、薄暗い外に、二人は出る。

(帰る場所は、無いんだけど......。)



「あ、あれじゃ無いですか!」
「そんな、すぐには、出てこないだろ......。あ、あれだ」

 森がある方向に、二つの丸い光が現れる。豚の目が光っているのだ。

(イノシシは昼行性だったけど、
家畜化した豚となって、夜行性になったのか......。うむ、意味が分から。)
この世界で、進化論が成り立っていない事を彼は、
また異世界という理由で片付ける。


「だんだん、近づいて来てますね」
マリの言うとおり、その光は少しずつ大きくなって見える。

 豚小屋の檻の前で、待ち構えていた彼は、警戒を始めた。
それがエレファントピッグに伝わり、ある程度の距離で立ち止まる。

 緊迫した空気の中、風の音が、その場を流れる。
彼が固唾を飲んだ瞬間、ソイツは勢いよく走り出した。

「って、突進してこないんじゃないのかよ!」
ソイツは確実に、彼の方向へと向かいだした。
彼は身構えるが、あと一歩という所で、向きを変える。
鉄でできた檻に突っ込もうとした。

 ソイツの勢いからして、檻が破られる事を悟った彼は、
慌てて、硬化魔法を行使した。
鉄格子が、黒くキランと光沢を放つ。
それを知らずに、ソイツは、そのまま檻に激突した。

───ゴン!

 鳴り響く金属の音。ソイツは、檻の前でグッタリと倒れた。

「痛そうな音ですね......」

 マリが、かわいそうな目で見る。
マリからすると、頭の上に星が回っているように見えた。

「でも、これで終わりって、やりがいが無いですよ。」
プクっと顔を膨らませて、マリがフラグを立てるが、
次にやってくる仲間は、現れそうに無かった。

「もしかしたら、同じ仲間である豚を、
助けようとしてたんじゃないかって思うんですけど」

 マリが、ボソッと言った。
そう考えると、悲話である。
だが、彼の発言で、マリの感情は変わっていく。

「こいつ、食べれるのかな?」

 一見、無慈悲な発言。
だが、彼は異世界に来てから、一度も食事をしていない。
一般的な感性の持ち主であるはずだ。

「普通の豚より、おいしい可能性はありますね......」
マリも、彼の発言に乗っかる。

 二人は、スキルによって、食事を必要としない体だ。
だが、美味しい食べ物が食べられないという訳ではないのだ。
現に、マリはギルドの酒場で、食事を済ませている。

「キュー......」と、気絶しているその豚を見て、
二人は、同時に舌なめずりした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

追放された不出来な聖女は、呪われた隣国騎士の愛で花開く

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,485

普通の勇者に、僕はなりたかった。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

三分推理

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

聖女の魔力を失い国が崩壊。婚約破棄したら、彼と幼馴染が事故死した。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,049

浮気を許せない僕は一途な彼氏を探しています

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:937

ギミックハウス~第495代目当主~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

パーティーに裏切られた暗黒騎士はレベル1から錬金術師でやり直し!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1,216

同期に恋して

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:325

処理中です...