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第十三話 次のクエスト

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「ちょっと、恥ずかしいかもしれません......」

 マリが、試着室のカーテンに影を映して言う。
来ている服は、さっき持って入る時に、見せてしまってはいるが、
いざ、着て見せるとなると、気恥ずかしさがあるようだ。

「じゃ、じゃーん」

 無理やり作ったようなテンションの声を出しながら、マリはカーテンを開く。
恥ずかしそうに、目線は下のほうにあった。

「萌え......」
それが、彼の一言感想。
ポカンとしたマリが、一拍置いてから、感想について追及する。

「モエ? 何ですか、モエって! ど、どうなんですか!?」

 マリが着ているのは、冒険者のような服ではない。
それらは、洞窟を出る前に、持っていたからだ。
なので、今着ているのは、完全にプライベート用ということになる。
大きい袖が特徴である、腰までの服で、後ろに大きなリボンを付けている。
足は黒いロングの靴下で、全体的に露出は少ない方であった。

「うん、似合ってる。かわいいよ」
萌えの代わりになる言葉を考えて、正直な感想を彼は言う。
実際は、必要以上に大きな袖に、必要としない後ろのリボン......。
と言ったように、必要かそうでないかの思考の方が彼の中で進んでいた。

 だが、彼の感想に、マリは顔を赤らめる。
言われ慣れているような身なりではあるが、
そう言う事を言わなそうな少年であるため、
驚きや違和感で面映ゆかったため、混乱していたかもしれない。

 店を出ると、マリに視線が集まるようになる。
今、着ているのはプライベート用である上、
元来、マリは、容姿に恵まれているのだ。
二人の関係を噂する声をマリは耳にして、また顔を赤くする。

「宿屋戻ったら、クエスト行くつもりなんだけど......」
「もちろん、分かってますよ! ただ、試しに着てるだけですから」

 にっこりと笑いながら、マリは、そう返した。
町道を歩いているだけではあるが、とても楽しそうだ。
彼は、頭の上に?を浮かべながら、歩いていた。

 それあら、宿屋で着替えを済ませると、二人はギルドに向かった。
フラグが立ちそうなほど、現在、マリの機嫌が良い。
まぁ、マリの事だから心配はないだろう、と、彼は甘い考えであった。

「これ、どうですか?」

 マリが、持ってきた依頼は、Cランクのクエストであり、
町から少し遠い所にある館の除霊というものだった。
彼としては、幽霊なんて、ただの一度も信じたことが無い。

「あれ? 先輩の世界でも幽霊って言葉ありますか?」
「まぁ、あるけど......」
当たり前のように話すマリを見て、彼はこの世界の幽霊事情を察した。

「だけど、除霊の仕方とか知らないぞ」
「大丈夫です。私が除霊魔法を使えますから!」

 幅を利かせたような態度で、任せてください、と、言わんばかりの顔をする。
今回、マリさん大活躍! だが、裏を返せば、彼の役割が無いという事だ。

 彼が何とも言えない気持ちの中、二人は、その館へ向かった。
当然、自動車や電車などは、ないので、馬車に乗る事になる。
緑豊かな自然の中、ほどよい揺れを感じながら、
館へ向かう、そのひと時は、とても心地が良い。
そして、今回のクエストの重要人物マリさんだが......

「うぅ! も、もう、ダメです......」
乗り物には、めっぽう弱かった。



 暗い道の廊下に、二人の足音が響き渡る。
冷気が背中を通り抜けるように、彼は妙な寒気がした。

「これが霊の気配か......」

 今まで味わったことの無い、この違和感の原因は、
おそらく霊であるだろう、と彼は考えた。
だが、彼は、不思議なその感覚に、なぜか興味を持ってしまう。

「ん? 霊は、まだ出てきてませんよ」

 ただの勘違いであった......。

 霊の根源である場所には特殊な方法でしか行けない、と依頼書には書かれている。
その方法というものが、廊下のランプに全て火をつけて、3周し、
中庭へ続く扉を開けるというもの。

「何かにありそうな、都市伝説だな」

 ボソッと、彼の口から愚痴が出た。
長い廊下を三周するのが面倒だったから、かもしれない。

 数分歩いていると、中庭の扉の前まで二人は来た。
すきま風が「ビュービュー」と、そこから吹いている。

「ここから、三周って事だな」
奥が見えない、暗い廊下を指差す。
 
「いえ、こうすれば」

 そう言って、マリが扉に手をかけた。すると、大きな魔法陣が映し出される。
一度は、目にしたことがある、解除魔法の魔法陣だ。

「よし。これで、入れますよ」

 当然のように、マリは重そうな扉を開ける。
すると、青い光が、暗い廊下に差し込み始めた。
ただの時短であるとは理解しているが、ズルをしたような気分に、彼はなった。

 今回は、本当にマリしか活躍しなさそうだな、と彼自身の非力に、
呆れつつも、マリが「どうぞ」というので、
その青い光に包まれるように、中に入っていった。

 部屋の扉が閉まる音と同時に、彼立ち止まった。
青い光の正体が、宙に浮いている火の玉の数々だったからだ。

「ちょっと、こんなに多いなんて聞いてませんよ!」

 マリが少し、不平な様子だ。
そう言いながらも、杖を持って、準備万端のようである。

「じゃあ、マリさんお願いします」
彼が棒読みで、そう言うと、マリは杖を大きく振りかぶる。

「はい!」
そして、強く、速く、振り落とした。

 一回の手ぶりで数十匹の火の玉が消えていく。
水をかけた炎のようで、憐んでしまいそうな光景。
彼が、感心した顔をしていると、マリが振り返る。

「実体化して、攻撃されることもあるので気をth......」

 突如として、マリの口にその火が入って行った。
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