宙(そら)に舞う。 〜レイとリュウ〜

星野そら

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3 操縦訓練マシーン

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 レイが足を踏み入れた部屋は、広くて整然としていた。その中に、いくつものカプセルが並んでいた。

「まだ訓練生が使っているのもありますが。あの端のマシーンが、先ほどまで阿刀野くんが使っていたものです」

 レイが近寄ろうとするのを見て、スティーブがあわてて声をかけた。

「教官用コントロールブースのモニターで操縦プログラムを再現しようかと思っていたのですが…」
「乗ることはできないんですか。ここに所属する訓練生しか使えないんでしょうか」
「そんなことは、ないですが…」

 スティーブはつい答えていた。
 ほんとうは、この操縦ルームは訓練生や兵士たち専用である。ミスをすればきついダメージが待っているから、一般人に勝手に使われては困るのである。
 しかし、操縦を生業にしているなら…とスティーブは勝手に判断する。

「ゲームと違って訓練用のプログラムなので、操縦ミスをしたり、宇宙船にダメージがあったりすると、操縦士にもそれなりの苦痛が与えられるようになっているんですよ。急激な重力とか、回転とか。慣れていないと、なかなかキツいですから…」
「聞いています。でも、スムーズに操縦できれば大丈夫なんでしょう?」

 レイはにっこりと笑った。

「それはそうですが…」
「こう見えても、身体は丈夫にできています。リュウが耐えられるなら、俺にも耐えられます」

 言い切ったレイが、止める暇もなくするりと操縦席に収まった。手際よくレシーバーを付ける。
 カプセルから引きずり出すのもおとなげないかと諦めたスティーブは、レシーバーを通して、レイに声をかけた。

「操縦は普通の宇宙船と同じです。阿刀野さんは初めてだから、簡単なプログラムで操作を試してみられますか?」
「できれば、リュウがミスったプログラムをやらせてください」

 スティーブはしぶしぶプログラムをセットした。自分で言ったんだから、後で泣いてもしらないぞと思いながら。
 レイの目の前のスクリーンが離陸を待つ宙港の様子に変わった。テイクが始まったのだ。

 ──ふ~ん。本格的だな──

 レイはいつものように左手を操縦レバーにかけた。
 慣れた宇宙船ではないが、コンピューターのモニターを確認しながら、右手は滑るようにパネルを操作していく。
 スムーズな離陸。そして、指示された宙域へと進路を取る。すばやくワープをこなすと…、飛び出したところが荒れた宙域という設定だった。
 浮遊物がいくつも行く手を遮る。レイはその宇宙嵐に果敢に挑んでいく。現実にはめったにない状況である。
 同じ障害物の多い宙域でも、小惑星帯とは異なり、自然の宙天が起こす宇宙嵐になどなかなか遭遇できないのだが…。それは、強い嵐の中で航路を保ちながら、次々に現れる浮遊物をかわしていくプログラムであった。

 宇宙塵の中に突入すると視界が利かなくなった。レーダーを頼りに進む。
 と、突然目の前に現れた大きな障害物。
 レイは、考えることもなくその浮遊物をミサイルで粉々にふっとばした。反射神経が勝手に仕事をしたというところだ。そして、その真ん中を悠然と突っ切っていく。
 目的地へのタイム設定があるのも気に入った。難しい設定であればあるほど、チャレンジ精神をかき立てられるレイである。何だか楽しくなってきて、踊るような操作でクリアしていくと、さっと視界が開け、目的地の宙港が見えてきた。
 流れるように着陸する。タイムもらくらくクリアしていた。

 スクリーンに「パーフェクト!」と点滅が現れ、テイクが終わったことを告げていた。
 5分程度の短いテイクであるが、決して簡単とは言えないプログラムである。
 阿刀野の兄がそこそこの腕だろうと思ってはいても、ひどいダメージを与えてしまわないかと心配していたスティーブは、あまりにも鮮やかな操縦に目を奪われた。
 いくつもの浮遊物を何でもないように避け、避けきれない大きな浮遊物は一瞬の迷いもなくミサイルで吹き飛ばした。実践慣れした技術。そして、パーフェクトの表示。
 コンピュータは小さなミスも見逃さないので、完璧にこなしたつもりでもパーフェクトの表示が出ることはめったにないのである。スティーブ自身がやっても満点に届かないことが多い。
 それが…、コンピュータはレイの操縦にミスひとつ見つけられなかったのだ!
 スティーブはレシーバーを通じてレイに話しかけた。

「このテイクは簡単すぎたようですね」
「リュウはどこで操縦不能になったんですか。こんな簡単なシーンでミスっているようでは、実際に宇宙船を飛ばすのはまだまだ先ですね」

 レイが溜め息をついたのを耳にして、スティーブは憤然とした。
 士官訓練センターでは、離陸、着陸、ワープ、スムーズな宙空操作ができるようになれば本物の宇宙船を使った宙域での訓練に移ることができる。
 そして、もしもの時のために、めったに出会うことのない悪条件下での操縦をバーチャルで体験する。この障害物の多いプログラムは、悪条件下のプログラムの中でも仕上げの部類に入るのだ。それなのに!

「もう少し高度なプログラムを試してみられますか」
「いいんですか! できれば、おもしろいものを試したいな…」

 スティーブの頭に、つい先日、タクが送ってきた戦闘シーンの盛り込まれたプログラムが思い浮かぶ。
 暇な時にチャレンジしようとセットした試作品である。スティーブ自身は先日、ひとつめのプログラムを試して散々な目に遭っていた。
 この男は、先ほど簡単に障害物をクリアした。確かな腕をもっているとスティーブは確信していた。

 しかし。自然の中で起こる宇宙嵐や宇宙塵、浮遊物、小惑星帯と違って、戦闘では相手、つまりコンピュータが攻撃を仕掛けてくる。
 たとえばチェスで、コンピュータの創り出した名人相手に、無謀な闘いを挑むようなものである。操作ミスをすれば、当然のように強烈なダメージ。
 タクがお遊びで作るプログラムは訓練用というより趣味の世界である。意外性にあふれていると言えば聞こえはいいが、めったに遭遇することもない設定のため訓練生や士官用のプログラムに採用してもらえない。
 訓練生はもちろん、操縦士を鍛え直すリプログラムとしても難しすぎると批判されている。

「訓練生にはやらせていない戦闘プログラムがあるんですが、いかがですか?」
「へえっ~、戦闘ですか。おもしろそうですね。戦闘なんて、普通は体験できない、バーチャルならではですね」
「ただし、宇宙船を大破させたりしたら強烈なダメージを食らいますよ。それでも、よろしいですか」

 スティーブが念を押す。

「もちろんです。実践で宇宙船を大破させたら命がないですからね。強烈なダメージがあってもおかしくない」

 舌なめずりしそうな、うれしそうな声であった。
 脅しはきかない。訓練生の保護者を気絶させたりしたら、なにをやらせたのだと注意を受けるかもしれない。
 しかし、責任を取って教官を辞めろとまではいわれないだろうとスティーブは覚悟を決めた。

「では、プログラムをスタートします。辞めたくなったら、いつでもおっしゃってください。強制終了しますから」
「ラジャー」

 レイは、管制官に応じるように、気軽な返事をした。
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