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4 鮮やかな腕前
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それから、2時間弱。
レイはタクが送ってきたプログラムのすべてのテイクを、ほぼ完璧にクリアしていた。
同じ規模の宇宙船に不意打ちされたテイク、何隻かの敵に囲まれたテイク、乗っている宇宙船に故障があったテイク、敵の基地がある惑星に強制着陸させられて、そこから逃走するテイク…、さまざまな事故、戦闘が想定され、困難な状況が繰り広げられる。
なのに。操縦席に座った男は軽々と敵船を撃ち倒し、わが物顔でバーチャル宙空を飛び回る。
攻撃は冷静、的確を究めている。推進機関のある場所へ、司令室へ…、確実に相手を葬り去る場所にミサイルを撃ち込んでいく。
しかも、攻撃するだけではなく、敵の数が多いとわかると、くるりときびすを返し(いや宇宙船を旋回させるのが、きびすを返すように見えるのだ!)、わざわざ難しい宙域、小惑星帯へと敵を誘い込む。
敵のミサイルとさまざまな大きさの惑星の間を縫って自在に飛び回る宇宙船。
有利に攻撃を仕掛けていたはずのコンピュータ側の宇宙船が小惑星に突っ込んで炎上する。
そうでなくとも、浮遊物の間に隠れ、敵を一隻ずつ確実に潰していく。どうすれば、そんなことができるのだ、と思うほどである。
スティーブはテイク・スリーあたりから言葉をなくしていた。
タクのプログラムを易々とクリアする見事な腕に、いやコンピュータを上回る奇想天外な動きに、我を忘れて見入ってしまった。
ルーインが自主訓練を終えてカプセルから出てきたのを見て、思わず叫んだほどだ。
「ルーイン! ここへ来てみろ。勉強になるから、おまえも見ておけ」
教官のただならぬ様子に、驚いた顔で教官用コントロールブースに近寄ってきたルーインも、モニターに釘付けになった。今まで見たこともないような鮮やかな操縦。
「教官、このプログラムは何ですか? 見たこともない。それに…、操縦しているのは誰なんですか?」
「あ、ああ。これは宙航プログラム作成を担当しているメンバーが趣味で作った戦闘プログラムだ。それを…。操縦席に座っているのは、阿刀野のお兄さんだ」
「阿刀野のお兄さん? なぜ、そんな人が」
「阿刀野を迎えにきたんだが、待っている間に操縦してみるかと誘ったら、これだ」
絶句するルーインに向かって、スティーブも肩をすくめるしかない。
連合宇宙軍でも優秀な操縦士として知られていたスティーブである。そのスティーブが悪戦苦闘してクリアできなかったプログラムを、初めてカプセルの操縦席に座った男が、苦もなくクリアしていくのだ。
タクはこのプログラムはプリンス・レベルだと言っていた。
が、訓練生の兄が、一般人がこれほど鮮やかにクリアしていくとは。
──世の中は広いな。俺もタクもまだまだ世間を知らないということか。
それとも、阿刀野の兄が天才なのか?──
すべてのテイクをクリアし終えたレイが、カプセルから出てきた。
2時間にも渡って敵と格闘していたとは思えない涼しげな顔であった。
教官用コントロールブースでモニターを睨んでいたルーインが目を丸くした。その美貌に、そして見せつけられた操縦とのギャップに驚いたのだ。
ルーインの呆気にとられた顔を見るのは初めてだと、スティーブの頭にはどうでもいいことが浮かぶ。まともに阿刀野の兄のことを考えられないせいだった。
「い、いかがでした? プログラムを作ったものに感想を聞かせてやりたいんですが」
「ありがとうございました。楽しかったですよ。こんなおもしろい場面になんて、めったに出くわしませんからね」
おもしろい場面! めったに出くわさない! 阿刀野の兄は、しれっとした顔でとんでもないことを言った。
「バーチャルもいいもんですね。ただ…、そうですね。コンピュータの限界なのか、真正面からの攻撃が多すぎるような気がします。たった一隻の宇宙船を沈めるだけだからそれほど頭は使わないんでしょうが…、それでももっと多彩な攻撃が仕掛けられるんじゃないでしょうか」
自分ならそうするとレイは言外ににおわせた。
「プログラムを作るのも楽しいでしょうね。味方の宇宙船も増やして、大きな戦闘シーンなんていうのがあったらいいな」
訓練プログラムではなく、ゲームを楽しんだ後のような、余裕の台詞である。
「あの…。どこで操縦を学ばれたんですか」
ルーインの突然の質問に、レイがこの男は誰というようにスティーブを振り仰いだ。
普通は教官と話している途中で訓練生が口を挟んだりすることは許されないはずなのだ。
レイのまなざしは、質問を許したスティーブを非難するように冷たかった。ごくりと唾を飲み込み、スティーブが応える。
「こいつは、阿刀野くんと同じ訓練生のルーインです。あなたが戦闘プログラムに取り組んでいる最中にカプセルから出てきたので、コントロールブースに呼びました」
「あんな操縦、見たことがありません。僕は未熟ですが…。幼い頃から親父や兄に乗せられて、いろんな宙域を飛び回ってきました。でも、あなたがされたような操縦ははじめてで…」
レイはルーインの言葉を静かに受け止めた。
「俺の操縦はセオリーから外れてた? 習うより慣れろって感じだったし、宇宙軍の操縦とはかけ離れているかもしれないね。参考になんてならない。真似をしたら怪我をするよ。
それより、キミのことはリュウから聞いているよ。リュウに言わせると、キミは俺に似ているんだって」
「とんでもない。僕にはあんな操縦などできないし…」
それに、あなたのように、輝くほど美しくはないという台詞は、上官ではなくとも、年上の男性にいうには失礼な気がして、ルーインは言葉を呑み込んだ。
レイはタクが送ってきたプログラムのすべてのテイクを、ほぼ完璧にクリアしていた。
同じ規模の宇宙船に不意打ちされたテイク、何隻かの敵に囲まれたテイク、乗っている宇宙船に故障があったテイク、敵の基地がある惑星に強制着陸させられて、そこから逃走するテイク…、さまざまな事故、戦闘が想定され、困難な状況が繰り広げられる。
なのに。操縦席に座った男は軽々と敵船を撃ち倒し、わが物顔でバーチャル宙空を飛び回る。
攻撃は冷静、的確を究めている。推進機関のある場所へ、司令室へ…、確実に相手を葬り去る場所にミサイルを撃ち込んでいく。
しかも、攻撃するだけではなく、敵の数が多いとわかると、くるりときびすを返し(いや宇宙船を旋回させるのが、きびすを返すように見えるのだ!)、わざわざ難しい宙域、小惑星帯へと敵を誘い込む。
敵のミサイルとさまざまな大きさの惑星の間を縫って自在に飛び回る宇宙船。
有利に攻撃を仕掛けていたはずのコンピュータ側の宇宙船が小惑星に突っ込んで炎上する。
そうでなくとも、浮遊物の間に隠れ、敵を一隻ずつ確実に潰していく。どうすれば、そんなことができるのだ、と思うほどである。
スティーブはテイク・スリーあたりから言葉をなくしていた。
タクのプログラムを易々とクリアする見事な腕に、いやコンピュータを上回る奇想天外な動きに、我を忘れて見入ってしまった。
ルーインが自主訓練を終えてカプセルから出てきたのを見て、思わず叫んだほどだ。
「ルーイン! ここへ来てみろ。勉強になるから、おまえも見ておけ」
教官のただならぬ様子に、驚いた顔で教官用コントロールブースに近寄ってきたルーインも、モニターに釘付けになった。今まで見たこともないような鮮やかな操縦。
「教官、このプログラムは何ですか? 見たこともない。それに…、操縦しているのは誰なんですか?」
「あ、ああ。これは宙航プログラム作成を担当しているメンバーが趣味で作った戦闘プログラムだ。それを…。操縦席に座っているのは、阿刀野のお兄さんだ」
「阿刀野のお兄さん? なぜ、そんな人が」
「阿刀野を迎えにきたんだが、待っている間に操縦してみるかと誘ったら、これだ」
絶句するルーインに向かって、スティーブも肩をすくめるしかない。
連合宇宙軍でも優秀な操縦士として知られていたスティーブである。そのスティーブが悪戦苦闘してクリアできなかったプログラムを、初めてカプセルの操縦席に座った男が、苦もなくクリアしていくのだ。
タクはこのプログラムはプリンス・レベルだと言っていた。
が、訓練生の兄が、一般人がこれほど鮮やかにクリアしていくとは。
──世の中は広いな。俺もタクもまだまだ世間を知らないということか。
それとも、阿刀野の兄が天才なのか?──
すべてのテイクをクリアし終えたレイが、カプセルから出てきた。
2時間にも渡って敵と格闘していたとは思えない涼しげな顔であった。
教官用コントロールブースでモニターを睨んでいたルーインが目を丸くした。その美貌に、そして見せつけられた操縦とのギャップに驚いたのだ。
ルーインの呆気にとられた顔を見るのは初めてだと、スティーブの頭にはどうでもいいことが浮かぶ。まともに阿刀野の兄のことを考えられないせいだった。
「い、いかがでした? プログラムを作ったものに感想を聞かせてやりたいんですが」
「ありがとうございました。楽しかったですよ。こんなおもしろい場面になんて、めったに出くわしませんからね」
おもしろい場面! めったに出くわさない! 阿刀野の兄は、しれっとした顔でとんでもないことを言った。
「バーチャルもいいもんですね。ただ…、そうですね。コンピュータの限界なのか、真正面からの攻撃が多すぎるような気がします。たった一隻の宇宙船を沈めるだけだからそれほど頭は使わないんでしょうが…、それでももっと多彩な攻撃が仕掛けられるんじゃないでしょうか」
自分ならそうするとレイは言外ににおわせた。
「プログラムを作るのも楽しいでしょうね。味方の宇宙船も増やして、大きな戦闘シーンなんていうのがあったらいいな」
訓練プログラムではなく、ゲームを楽しんだ後のような、余裕の台詞である。
「あの…。どこで操縦を学ばれたんですか」
ルーインの突然の質問に、レイがこの男は誰というようにスティーブを振り仰いだ。
普通は教官と話している途中で訓練生が口を挟んだりすることは許されないはずなのだ。
レイのまなざしは、質問を許したスティーブを非難するように冷たかった。ごくりと唾を飲み込み、スティーブが応える。
「こいつは、阿刀野くんと同じ訓練生のルーインです。あなたが戦闘プログラムに取り組んでいる最中にカプセルから出てきたので、コントロールブースに呼びました」
「あんな操縦、見たことがありません。僕は未熟ですが…。幼い頃から親父や兄に乗せられて、いろんな宙域を飛び回ってきました。でも、あなたがされたような操縦ははじめてで…」
レイはルーインの言葉を静かに受け止めた。
「俺の操縦はセオリーから外れてた? 習うより慣れろって感じだったし、宇宙軍の操縦とはかけ離れているかもしれないね。参考になんてならない。真似をしたら怪我をするよ。
それより、キミのことはリュウから聞いているよ。リュウに言わせると、キミは俺に似ているんだって」
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