宙(そら)に散る。

星野そら

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11 総督に値する男?

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「あんたのところにも、連絡が来ただろう? ゼクスターはどういうつもりなんだ。いくら前総督の遺志だからと言って、突然現れた男に、なんで俺たちが従わなくちゃならない」

 西部艦隊のハーディ司令官が部屋に足を踏み入れた途端に、いらいらと歩き回っていた男が文句を言う。

「わざわざ、極東地区から呼び戻してすまなかったな、トニー。カルロス、こっちがトニーだ。いま、極東地区で暴れ回っているイエロー・サンダーの頭だよ。トニー、こっちがカルロスだ。第6艦隊の司令官だ」
「よろしく、トニー。キミも次期総督の就任には反対のようだな」
「もちろん俺は反対だ。ゴールドバーグの息子だと言うだけだろう? そいつに力があるのか? 俺たちの上に立つことができるのか? 無理だね」

 ふんっと言うようにトニーが吐き捨てた。

「確かにな。まだ30歳になるかならないかの若僧だ。突然現れて、総督にってほど、コスモ・サンダーは甘くはない」
「まあまあ、2人とも。ここで文句を言っていてもどうにもならんだろう。総督が亡くなられてから1年。遺書にはゴールドバーグ・ハンターに総督を譲ると書かれていた」
「ゼクスターがそのまま総督の座に就く方がまだましだ」

 カルロスが冷静に分析する。

「それでも力が足りないだろうがな…、ここ2年ほど、7つの艦隊がバラバラだったからひとつにまとめるのは大変だ。それを、どこから引っ張り出してきたのか分からない、ゴールドバーグ・ジュニアだと。
 そもそもゴールドバーグは女のためにコスモ・サンダーを放りだした男だ。そんな男の息子に、総督が務まるわけがないと思わないか?」

 自分の言いたいことを代弁してくれるようなカルロスの言葉に、ハーディは重々しくうなずく。
 ハーディはもうすぐ50歳に手が届く壮年の司令官である。西部艦隊を任されていることからも分かるように、力のある司令官なのだ。トニーやカルロスにしても、一目置いている。
 総督が病に倒れたときに、コスモ・サンダーのために尽くしてくれと言われたのだ。その時から、総督への目があるのではないかと密かに考えていたのである。総督は無理でも、総督代理としてマリオン・ゼクスターを補佐し、実権は自分が握るということも考えていた。
 ところが、ここへ来て、大きくシナリオが狂った。次期総督はゴールドバーグ・ハンターに、と。

 ハーディはその知らせを聞くとすぐにゼクスターに連絡をとった。まさか、彼が納得するはずがないと。
 ところが。

「ゼクスターは全面的にゴールドバーグ・ジュニアを支持するそうだ」

 総督としてコスモ・サンダーをまとめることができるのはゴールドバーグ・ジュニアだけだと、マリオンは断言した。どうしてそこまで信頼しているのかは分からなかったが、自分よりその男の方が適任だと言い切った。

「わたしは、納得できなくてな」
「そりゃあ、そうだ。その若僧よりも、あんたの方がずっと総督に向いているぜ」
「いいのかい、トニー。わたしが総督になったら、いまみたいな極東地区での無茶は認めないぞ…。この間も、手痛い失策をしていたじゃないか」

 トニーは頭をかいた。

「あれは、ちょっとした手違いだ。宇宙軍にしてやられるなんてヘマは、もうしない」
「そうか、ならいいが。で、ゴールドバーグ・ジュニアに罰をくらったのか?」
「ミスを犯した部下を出頭させたが…。処分の通達をしたのはゼクスターだ。次期総督は、まだ実権を握ってないらしい」
「そうか。総督承認の会議は2カ月後だが…。俺は前に本部へ行ったときに、そいつに会った。ゼクスターに連れられて出てきたよ」

 ハーディの言葉に、カルロスが驚きの表情を浮かべる。

「本部で会ったのか?」
「そりゃあ、どんな男か気になる。顔を拝んでおこうと思ってな」
「それで?」

 トニーが興味津々の様子で続きを促す。
 ハーディはその会見を思い出して、また、腹が立った。人がわざわざ訪ねていってやったのに、さんざん待たされたのである。2時間近くも待って、話ができたのはほんの10分ほどだった。
 その男は、緑の瞳、金の髪を持ち、滅多にないほど整った容貌をしていた。どこかで会ったことがあるように思えたが、もしかしたら、在りし日のゴールドバーグに似ているからかも知れないとハーディは思った。

 冷静な態度、堂々とした話し口調には、威厳が感じられた。
 しかし、総督としてコスモ・サンダーに君臨する意識はないように思えた。自分の意志ではなく、仕方がないからそこにいるという風に。

 ハーディは迷っていたのだ。ゴールドバーグが本当に総督に値する男なら、自分がコスモ・サンダーを動かす夢をあきらめてもいいと思っていた。それを見極めたいと思ったのだが、待たされて、焦らされて、そっけなく扱われて。
 見極めがつかなかった。

「若いな。人の上に立った経験はないだろう。俺は総督に仰ぐにはもの足りない」

 まだ、迷っていたのに、口からはそんな言葉が飛び出した。

「だろうなあ。それじゃあ、総督承認会議では派手に反対してやるか」
「ああ、そうだな。他の司令官とも話し合ってみる。ゴールドバーグに与する奴はいないと思うが、ゼクスター派は多いからな。しばらく時間をくれ。どうするか考える」
「わかった。わたしは、ハーディ司令官が総督になってくれればと思うよ」

 カルロスの言葉ににやりと笑いながら応えた。

「ありがとう。艦隊をしっかりまとめておいてくれよ。なにがあるか分からないからな」
「いいぜ、物騒なことは好きだしな」
「おいおい、しばらくはかき回す程度にしておいてくれ」

 ハーディが言うと、トニーはにやりと笑った。

「できるだけ、期待に添うようにするよ」
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