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2 キミが噂の?
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リュウのしかつめらしい顔を気にもせず、婦人がにこやかに声をかける。
「お若いのに、宇宙軍の士官さんですの?」
「まだ、なり立てです。ただの少尉ですよ」
「おいくつ?」
「ついこの間、21歳になりました」
「あら、うちの息子より年下だわ」
その歳でよく士官になれたわねという無言の問いに、リュウはつい反応してしまう。
「士官学校を出れば、誰だって士官になれますよ」
「士官学校を…。まあ! エリートなんですね。それなら勤務地はセントラルかしら?」
「まさか。極東地区でパトロール隊の面倒を見ているだけですよ」
極東地区と聞いて、婦人はがっかりしたようだ。極東地区にエリート士官がいるはずがない。リュウの姿を見てエリート士官じゃないかと当たりをつけたのだろう。
「それなら、このパーティにはどなたかのお供で?」
「いえ。ケイジ・ラダー氏からご招待いただきまして…」
「まあ! ケイジ・ラダー氏からご招待ですって!」
この場にいる人は、みなケイジ・ラダーから招待されたのではないのか?
「はい。みなさんそうでしょう?」
ご婦人は大きくかぶりを振る。
「違いますわ。ケイジ・ラダー氏から招待を受けた人なんて、聞いたことがなくてよ。
主人にはメタル・ラダー社から案内状が送られてきただけ。わたしはそれに便乗して。この星はケイジ・ラダー氏の持ち物で手つかずの自然が残っているでしょう、わたしたちの間では憧れの的なんです。こういう機会でもない限り、訪れることができませんのよ」
「はあ、そうなんですか」
そんなことはどうでもいいのだが。
「ホテルのサービスは超一流ですし、風光明媚で知られていて…、わたしなんて、3カ月も前から楽しみにしていたんです」
「はあ…」
話の接ぎ穂に困っていると、
「明日はなにをなさるおつもり?」
話を振られた。
「えっと…」
あんたに関係ないだろう! と思ったが、その台詞を口に出せるほどリュウは女性に冷たくはない。ご婦人をどう扱っていいのかわからず、リュウはルーインを探す。
すると、少し先で両手にグラスを持ちながら、りゅうとした男と話をしているルーインが目に付いた。
おいおい、そんなところで愛想ふりまいてないで、戻ってきてくれよ!
リュウの願いが通じたのか、ルーインがくるりと振り向いた。
視線で戻ってきてくれとお願いする。
ルーインは仕方ないなとでも言うように、話していた男を連れて近づいてきた。
「失礼します、奥様。ほら、阿刀野。お待ちかねのシャンパンだ。ところで、こちらは僕が小さい頃からお世話になっているシュタイン家の長男、リディック氏だ」
「シュタイン家?」
「ああ、うちと同じ武官の家柄だ。男ばかりの荒っぽい一家で、よくいじめられた」
ルーインがそうリディックを紹介すると、シュタイン家の名にご婦人がすごすごと離れていく。軍人たちの話は男の世界のもの、聞かない方がいいと思われているのだ。
シュタイン家はアドラー家よりも格上の武官である。シュタイン家の長男なら、30歳前とはいえ、宇宙軍の中枢にいるはずである。将来は、宇宙軍を動かす幹部候補というところか。鋭い目つきからしても、きっと、優れた軍人なのだろう。
家柄だけでなく、自信に満ち、いかにもパリッとした士官姿は、若い女性の目にはもちろん、男のリュウから見ても魅力的であった。
ルーインとリディックの二人なら、パーティ中の女性の視線を集めてもおかしくない、とリュウは思った。
「よく言うよ、ルーイン。いじめたことなんかないだろう。俺たちが構ってやってるのを、おまえが嫌がってただけだ。
ここ数年は会ってもろくに口をきいてくれなかったから、俺はてっきり嫌われてしまったと思っていた。おまえから挨拶されるなんて、どういう風の吹き回しだ。少しはうれしかったが、用件を聞いてがっかりしたぞ。紹介したい男がいるなんて、俺に言う台詞か?
リディック・シュタインと申します。お見知りおきを」
最後の言葉だけが、リュウに向けられたものだった。
「阿刀野リュウです」
「ほう。キミが、噂の、阿刀野リュウか!」
名を告げた途端に、リディックがそういうことか、とにやりと笑った。俺が何をしたんだとリュウがムッとする。
「俺が、なにか?」
「いや、せっかく士官学校を出た次男を、なぜ極東地区になど行かせなければならないんだと、アドラー家がもめてたからねえ。噂では、キミがルーインをそそのかした張本人だとか?」
「初対面の相手に、失礼だろう」
とルーインは年齢も階級も気にせずにリディックに突っかかった。ところがリディックの揶揄に、リュウが素直に謝った。
「俺も申し訳ないと思っています。止めたんですが、こいつ、言い出したら頑固で。
ルーインは操縦の腕も一流だし、軍人としてのセンスは抜群です。どこでも通用するエリート士官になれると俺は思っています。危険に巻き込みたくないし、すぐにでもセントラルに送り返したいくらいなんですが…」
リディックはほう、という顔でリュウを見ている。
「おい、阿刀野。その話は済んだだろう!」
「おまえの操縦の腕は欲しいけどな。将来のことを考えると…」
2人のやり取りに、リディックがくくくっと笑い出した。
「いや、よく分かったよ、阿刀野くん。こいつが望んで極東地区にいるってことが。それに…、キミの活躍は聞いている。
なあ、ルーイン。おまえが見込んだだけあって、阿刀野くんは極東地区で終わるような男じゃなさそうだ。どうして極東地区なんだか知らないが、早くセントラルに戻ってこいよ。望みのポストを空けてやるぞ」
リュウはセントラルに戻る気はなかったが、ルーインのために「ありがとうございます」と頭を下げた。
リディックが離れて行ってからもルーインは人知れずむくれていた。リュウに必要とされているのは、操縦の腕だけなのかと思うと腹立たしい。
「お若いのに、宇宙軍の士官さんですの?」
「まだ、なり立てです。ただの少尉ですよ」
「おいくつ?」
「ついこの間、21歳になりました」
「あら、うちの息子より年下だわ」
その歳でよく士官になれたわねという無言の問いに、リュウはつい反応してしまう。
「士官学校を出れば、誰だって士官になれますよ」
「士官学校を…。まあ! エリートなんですね。それなら勤務地はセントラルかしら?」
「まさか。極東地区でパトロール隊の面倒を見ているだけですよ」
極東地区と聞いて、婦人はがっかりしたようだ。極東地区にエリート士官がいるはずがない。リュウの姿を見てエリート士官じゃないかと当たりをつけたのだろう。
「それなら、このパーティにはどなたかのお供で?」
「いえ。ケイジ・ラダー氏からご招待いただきまして…」
「まあ! ケイジ・ラダー氏からご招待ですって!」
この場にいる人は、みなケイジ・ラダーから招待されたのではないのか?
「はい。みなさんそうでしょう?」
ご婦人は大きくかぶりを振る。
「違いますわ。ケイジ・ラダー氏から招待を受けた人なんて、聞いたことがなくてよ。
主人にはメタル・ラダー社から案内状が送られてきただけ。わたしはそれに便乗して。この星はケイジ・ラダー氏の持ち物で手つかずの自然が残っているでしょう、わたしたちの間では憧れの的なんです。こういう機会でもない限り、訪れることができませんのよ」
「はあ、そうなんですか」
そんなことはどうでもいいのだが。
「ホテルのサービスは超一流ですし、風光明媚で知られていて…、わたしなんて、3カ月も前から楽しみにしていたんです」
「はあ…」
話の接ぎ穂に困っていると、
「明日はなにをなさるおつもり?」
話を振られた。
「えっと…」
あんたに関係ないだろう! と思ったが、その台詞を口に出せるほどリュウは女性に冷たくはない。ご婦人をどう扱っていいのかわからず、リュウはルーインを探す。
すると、少し先で両手にグラスを持ちながら、りゅうとした男と話をしているルーインが目に付いた。
おいおい、そんなところで愛想ふりまいてないで、戻ってきてくれよ!
リュウの願いが通じたのか、ルーインがくるりと振り向いた。
視線で戻ってきてくれとお願いする。
ルーインは仕方ないなとでも言うように、話していた男を連れて近づいてきた。
「失礼します、奥様。ほら、阿刀野。お待ちかねのシャンパンだ。ところで、こちらは僕が小さい頃からお世話になっているシュタイン家の長男、リディック氏だ」
「シュタイン家?」
「ああ、うちと同じ武官の家柄だ。男ばかりの荒っぽい一家で、よくいじめられた」
ルーインがそうリディックを紹介すると、シュタイン家の名にご婦人がすごすごと離れていく。軍人たちの話は男の世界のもの、聞かない方がいいと思われているのだ。
シュタイン家はアドラー家よりも格上の武官である。シュタイン家の長男なら、30歳前とはいえ、宇宙軍の中枢にいるはずである。将来は、宇宙軍を動かす幹部候補というところか。鋭い目つきからしても、きっと、優れた軍人なのだろう。
家柄だけでなく、自信に満ち、いかにもパリッとした士官姿は、若い女性の目にはもちろん、男のリュウから見ても魅力的であった。
ルーインとリディックの二人なら、パーティ中の女性の視線を集めてもおかしくない、とリュウは思った。
「よく言うよ、ルーイン。いじめたことなんかないだろう。俺たちが構ってやってるのを、おまえが嫌がってただけだ。
ここ数年は会ってもろくに口をきいてくれなかったから、俺はてっきり嫌われてしまったと思っていた。おまえから挨拶されるなんて、どういう風の吹き回しだ。少しはうれしかったが、用件を聞いてがっかりしたぞ。紹介したい男がいるなんて、俺に言う台詞か?
リディック・シュタインと申します。お見知りおきを」
最後の言葉だけが、リュウに向けられたものだった。
「阿刀野リュウです」
「ほう。キミが、噂の、阿刀野リュウか!」
名を告げた途端に、リディックがそういうことか、とにやりと笑った。俺が何をしたんだとリュウがムッとする。
「俺が、なにか?」
「いや、せっかく士官学校を出た次男を、なぜ極東地区になど行かせなければならないんだと、アドラー家がもめてたからねえ。噂では、キミがルーインをそそのかした張本人だとか?」
「初対面の相手に、失礼だろう」
とルーインは年齢も階級も気にせずにリディックに突っかかった。ところがリディックの揶揄に、リュウが素直に謝った。
「俺も申し訳ないと思っています。止めたんですが、こいつ、言い出したら頑固で。
ルーインは操縦の腕も一流だし、軍人としてのセンスは抜群です。どこでも通用するエリート士官になれると俺は思っています。危険に巻き込みたくないし、すぐにでもセントラルに送り返したいくらいなんですが…」
リディックはほう、という顔でリュウを見ている。
「おい、阿刀野。その話は済んだだろう!」
「おまえの操縦の腕は欲しいけどな。将来のことを考えると…」
2人のやり取りに、リディックがくくくっと笑い出した。
「いや、よく分かったよ、阿刀野くん。こいつが望んで極東地区にいるってことが。それに…、キミの活躍は聞いている。
なあ、ルーイン。おまえが見込んだだけあって、阿刀野くんは極東地区で終わるような男じゃなさそうだ。どうして極東地区なんだか知らないが、早くセントラルに戻ってこいよ。望みのポストを空けてやるぞ」
リュウはセントラルに戻る気はなかったが、ルーインのために「ありがとうございます」と頭を下げた。
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