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9 知らなかったこと
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レイモンドと近衛隊は、宇宙のあちらこちらへと、行ったり来たりが続いていた。
忙しい中でもミスが続くと、レイモンドは戻ってから、部門ごとに特別訓練を課した。
戦闘員たちはもちろん、自分も休むヒマがなくなるのは承知していたが実践でミスをされるよりはマシだ。何と言っても、戦闘員たちの命がかかっているのだから。
そんな訳で、今夜もレイモンドが部屋に戻ってきたのは夜もかなり更けてからだった。
シャワーを浴びてスエットに着替える。
きちんと整えられたベッドに潜り込もうとして、人気のない部屋がとてつもなく寂しく思えた。昔ならベッドにもぐり込めるだけで幸せだったのに。
しばらく躊躇してから、自室を出る。向かったのは執務室をはさんで反対側。鍵などかかっていた試しのないマリオンの部屋である。
何かことが起きたら、すぐに夜勤の者が声をかけられるようにとの配慮から鍵をかけずにいると聞いたことがある。その習慣に感謝しつつ、部屋に入り込み、寝室の扉を開いた。
フットライトがベッドに眠るマリオンのシルエットをぼんやりと映し出す。
レイモンドはベッドに近寄り、その寝姿を少し眺めてから、仰向きに寝ているマリオンの横にそっと滑り込んだ。マリオンの胸に顔を寄せる。
温かい。目を覚ますかなと期待したが、目を開く気配はない。ぐっすりと眠っているようだった。物足りなく感じながらも、疲れのたまっていたレイモンドは、マリオンにすり寄ったまま、すぐに眠りに落ちていった。
朝日が差し込む頃。
ルルルルル…。控えめになる目覚まし時計を止めようとして、マリオンは自分にぴったりとくっついて眠っているレイモンドに気がついた。
いつの間にこんなところで!
そっと身体を離しながら、マリオンはレイモンドの顔を見つめる。
なめらかな肌、あんがいにくっきりとした眉、すっきりと通った鼻筋。そして、小さく赤いくちびる。美しい顔の輪郭を蜂蜜色の髪がおおっている。
乱れた髪を片手でそっと掻き上げて、そのまま頭をなでる。ふんわり柔らかい髪が、マリオンの指に絡みつく。安心しきっているのか、レイモンドは起きる気配もない。
それにしても。
どうして神様は男にこれほど美しい造作を与えたのだろうとマリオンは思う。ここしばらくの疲れだろうか、目の下にうっすらとできた隈さえ、その美貌を損ないはしない。
手に負えないほど頑固で、才能にあふれていて、誰をも従わせるだけの威厳をもつ男なのに、こうしてベッドに丸まって眠っている今は、大人になりきれない少年のように思えた。
守りたくなるような。自分がこの手で守ってやらなければならないような。
守る者など必要としない強い男なのに。
いつまでも眺めていても仕方がない。
マリオンは心の中でえいっとかけ声をかけて、ベッドから抜け出した。
マリオンが動いても、思った通りレイモンドは目を覚ましたりしなかった。疲れのせいで深い眠りについているのだ。宇宙に出ている時は、ちょっとした音や振動でもすぐに目覚めるのに、自室にいるときはリラックスしきっているかのように、熟睡する。
レイモンドが朝に弱いのも、ベッドの中でぐずぐずするのが好きなのも、1カ月前まで知らなかった。
マリオンがレイモンドを手に入れてから、いや、その反対かもしれないが…、初めて知ったことがどれほどたくさんあったことか。
意外に甘えん坊であること。
抱きしめられるのが好きなこと。
キスが上手いこと。
結構おしゃべりなこと。
イキイキとゼスチャーを交えながら話すこと。
同意がほしいときに、上目遣いで見つめること。
強情なことは知っていたけれど、言い出したら絶対に引かないこと。
そのくせ、言い過ぎたと、時々後悔していること。
心に鎧を被せていないときは、顔の表情がころころ変わること。
自信のないときは瞬きが増えること。
恥ずかしくて顔を赤らめること。
すぐにすねること。
数え上げればきりがないが、マリオンにはどのレイモンドも新鮮であった。
この愛さずにはいられない男を、わたしでさえ、冷酷だと思っていたのだ!
プライベート以外では冷たいポーカーフェイスしか見せないから、仕方ないのだが。
それほど見事にポーカーフェイスが作れることを誉めるべきなのだろう。
忙しい中でもミスが続くと、レイモンドは戻ってから、部門ごとに特別訓練を課した。
戦闘員たちはもちろん、自分も休むヒマがなくなるのは承知していたが実践でミスをされるよりはマシだ。何と言っても、戦闘員たちの命がかかっているのだから。
そんな訳で、今夜もレイモンドが部屋に戻ってきたのは夜もかなり更けてからだった。
シャワーを浴びてスエットに着替える。
きちんと整えられたベッドに潜り込もうとして、人気のない部屋がとてつもなく寂しく思えた。昔ならベッドにもぐり込めるだけで幸せだったのに。
しばらく躊躇してから、自室を出る。向かったのは執務室をはさんで反対側。鍵などかかっていた試しのないマリオンの部屋である。
何かことが起きたら、すぐに夜勤の者が声をかけられるようにとの配慮から鍵をかけずにいると聞いたことがある。その習慣に感謝しつつ、部屋に入り込み、寝室の扉を開いた。
フットライトがベッドに眠るマリオンのシルエットをぼんやりと映し出す。
レイモンドはベッドに近寄り、その寝姿を少し眺めてから、仰向きに寝ているマリオンの横にそっと滑り込んだ。マリオンの胸に顔を寄せる。
温かい。目を覚ますかなと期待したが、目を開く気配はない。ぐっすりと眠っているようだった。物足りなく感じながらも、疲れのたまっていたレイモンドは、マリオンにすり寄ったまま、すぐに眠りに落ちていった。
朝日が差し込む頃。
ルルルルル…。控えめになる目覚まし時計を止めようとして、マリオンは自分にぴったりとくっついて眠っているレイモンドに気がついた。
いつの間にこんなところで!
そっと身体を離しながら、マリオンはレイモンドの顔を見つめる。
なめらかな肌、あんがいにくっきりとした眉、すっきりと通った鼻筋。そして、小さく赤いくちびる。美しい顔の輪郭を蜂蜜色の髪がおおっている。
乱れた髪を片手でそっと掻き上げて、そのまま頭をなでる。ふんわり柔らかい髪が、マリオンの指に絡みつく。安心しきっているのか、レイモンドは起きる気配もない。
それにしても。
どうして神様は男にこれほど美しい造作を与えたのだろうとマリオンは思う。ここしばらくの疲れだろうか、目の下にうっすらとできた隈さえ、その美貌を損ないはしない。
手に負えないほど頑固で、才能にあふれていて、誰をも従わせるだけの威厳をもつ男なのに、こうしてベッドに丸まって眠っている今は、大人になりきれない少年のように思えた。
守りたくなるような。自分がこの手で守ってやらなければならないような。
守る者など必要としない強い男なのに。
いつまでも眺めていても仕方がない。
マリオンは心の中でえいっとかけ声をかけて、ベッドから抜け出した。
マリオンが動いても、思った通りレイモンドは目を覚ましたりしなかった。疲れのせいで深い眠りについているのだ。宇宙に出ている時は、ちょっとした音や振動でもすぐに目覚めるのに、自室にいるときはリラックスしきっているかのように、熟睡する。
レイモンドが朝に弱いのも、ベッドの中でぐずぐずするのが好きなのも、1カ月前まで知らなかった。
マリオンがレイモンドを手に入れてから、いや、その反対かもしれないが…、初めて知ったことがどれほどたくさんあったことか。
意外に甘えん坊であること。
抱きしめられるのが好きなこと。
キスが上手いこと。
結構おしゃべりなこと。
イキイキとゼスチャーを交えながら話すこと。
同意がほしいときに、上目遣いで見つめること。
強情なことは知っていたけれど、言い出したら絶対に引かないこと。
そのくせ、言い過ぎたと、時々後悔していること。
心に鎧を被せていないときは、顔の表情がころころ変わること。
自信のないときは瞬きが増えること。
恥ずかしくて顔を赤らめること。
すぐにすねること。
数え上げればきりがないが、マリオンにはどのレイモンドも新鮮であった。
この愛さずにはいられない男を、わたしでさえ、冷酷だと思っていたのだ!
プライベート以外では冷たいポーカーフェイスしか見せないから、仕方ないのだが。
それほど見事にポーカーフェイスが作れることを誉めるべきなのだろう。
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