宙(そら)に散る。

星野そら

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2 レイモンドの思惑

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「いいでしょう、正直にいいます。おまえは甘すぎるとわたしは思う。どの艦隊が向かってきても叩きつぶせる自信があるのでしょうね?
 わたしはおまえができると言ったら本当にできるのだと知っています。でも、ほかの司令官たちは知らない。ゴールドバークは意気地がないと決めつけます。思い上がらせると、後で大変な思いをするのはおまえです。
 レイモンド、中央艦隊とアーシャの率いる第5艦隊、そして第7艦隊は今でもおまえのものですよ。総督承認会議で、後、一つ、二つはわたしたちに従うでしょう。少なくともコスモ・サンダーの半数以上になります。わたしたちが、宇宙一大きな海賊団というのにはかわりはありません。だから、そのまま押し切ればコスモ・サンダーは形の上では手に入ります。しかし、それでは今と同じだ」
「はあ、俺に従うヤツが、そんなにいるの?」

 レイモンドは変なところでため息をついた。

「はい。確実に」
「それじゃあ、余計に。手出しされないんじゃないの?」

 それは、違う。奴らは絶対に攻めてくる。情報の集まる本部がコスモ・サンダーの要だから、みんな本部がほしいのだ。勢力争いが広がり、宇宙全体が荒れるだろう。
 しかし、強情なレイモンドのことだ、言い出したら引かないのはいつものことだ。

「わかりました。わたしが反対しても無駄だと言うことはよくわかりました」

 レイモンドがちらりと不安そうな顔になる。

「そんな言い方、しないでくれる? マリオン、あなたが俺と一緒にいてくれるかどうか不安になってしまう」
「わたしの意見をいれないなら、おまえと一緒にいくのはイヤだと言ったらどうするんですか。考え直してくれるんですか?」
「ん~。一生懸命説得する。うんってうなずいてくれるまで」

 マリオンは両手を広げて、小さく上げた。
 結局、レイモンドは意見を変えないだろう。うなずくまで話し合いが続くだけだ。

「降参です」

 レイモンドの顔がパッと明るくなった。

「よかった。マリオンが反対したらどうしようかって、心配だったんだ」

 必死で反対したのだが…、レイモンドには全く通じていないようだった。
 どう考えても、読みが甘いし、楽観的すぎると思う。しかし…。
 いいだろう、どんなことになっても。
 俺にはレイモンドに意見を変えさせることも、突き放すこともできないのだ。あきらめの境地でいるマリオンの耳にレイモンドの声が聞こえる。

「それでね。この総督就任騒ぎが落ち着いたらだけど、考えていることがあるんだ」
「何ですか?」
「マリオンは海賊の本分ってなんだと思う?」
「本分ですか? 考えたことはありませんが…」

 今まで、前総督に命じられたことを、忠実に実行してきただけだ。

「俺はね、他の宇宙船や惑星を襲って略奪することじゃなくて、眠っている財宝を探すことじゃないかと思うんだ」
「宝探し、ですか…」

 実現しそうにない、ロマンチックな夢だとマリオンは思った。

「あっ! マリオン。今、とても仕事にはならないって考えただろう!」
「それは…、そうです。どうして艦隊を維持していくんですか」
「うん、普通なら艦隊を維持するのは無理だろうけど。あのね…、マリオンは惑星開発って知ってる?」
「惑星開発?」
「そう。貴重な鉱物が眠っている惑星を見つけ出して、鉱山を中心に惑星を開発するんだ。鉱物資源の生産システムを確立して、販路を開拓する。そして流通経路を保証する。ねえ、これなら俺たちにもできると思わない?」

 レイモンドが提案したのは大事業であった。

「一般の人が近寄りそうもない宙域を飛ぶことも、危険な惑星を調査することも俺たちならできる。宝の眠る惑星を開発して守ることも、生産された荷を運ぶことも、俺たちならできるよ」

 確かに、レイモンドの得意分野だろう。しかし。

「夢のような話ですね。確かに、わたしたちは宇宙に関しては詳しいかも知れないし、危険を顧みずにチャレンジできるでしょう。宇宙を飛ぶ技術も、敵と戦う力もある。
 でも、惑星開発にはそれなりのノウハウが必要でしょうし、販路の開拓などできるわけがない。わたしたちは海賊ですよ。誰が信用してくれると言うんですか」
「わかってる。俺たちだけじゃ無理かも知れない。でも、助けてくれる人がいたらできるんじゃないかって、考えてたんだ」
「誰が海賊を助けてくれるんですか。おまえに心当たりがあるのですか」
「頼んでみないとわからないけど、メタル・ラダー社を知ってる?」
「もちろんです。宇宙全域で手広く事業をしている大企業ですからね」
「メタル・ラダー社の社長を知ってるんだ。貴重な鉱物の眠る惑星開発の仕事をやらないかって誘われてた。俺に仕切ってくれないかって。人の手配からすべて。必要なノウハウは提供するからと」
「それは、いつの話ですか。その男はおまえが海賊だと知っていたんですか?」
「ううん、知らない。俺を『クーリエ』だと思ってた。でも、いち『クーリエ』の俺に宇宙一の大企業の社長が、一緒に事業をやらないかって声をかけてくれた。俺ならできるって保証してくれた」

 レイモンドの話にマリオンは瞠目した。いつ、そんな大企業の社長と知り合いになったのだ。その男に大きな事業を任されるほどの信頼を得ていたのか?
 レイモンドはコスモ・サンダーから離れていた10年の間に、さまざまな人と知り合い、その力を認められていたのだ。
 マリオンは誇らしいような、寂しいような複雑な心境だった。

「いまのおまえの立場では無理ではないですか。仮にコスモ・サンダーを名乗らなくても、コスモ・サンダーがいくつかに分かれてしまっても、おまえが海賊の総督であることに違いはない。一流企業が海賊など相手にするでしょうか。
 それに、メタル・ラダー社の鉱山は極東地区にたくさんあります。うちの第4艦隊、イエロー・サンダーが略奪したことも1度や2度じゃないでしょう」
「ん~、無理かなあ。惑星開発の仕事ができたら、輸送なんかも増えるし、略奪行為をしなくても生きていけると思ったんだけどなあ。いろんな宙域を飛び回って、宝探しをするのは楽しそうだし」

 無邪気に言うレイモンドに、コスモ・サンダーのことを考えているんだかいないんだかとマリオンは苦笑をもらす。

「聞いてみなくちゃわからないじゃない。とにかく、ケイジ・ラダー氏に連絡して、一度、会ってみるよ。なせばなるし、やりがいのある堅気の仕事があれば、無駄に罪を重ねずに済むんだから」
「そうなれば、いいですね」
「あ~。マリオンったら、俺のことまるっきり信じてないな。これでもミスター・ラダーには信用されてたんだからね」

 口を尖らせて文句を吐いたレイモンドは、その後、真面目な顔になって言った。

「あのね、マリオン。俺はもう、宇宙軍に追われたり、誰かに後ろ指をさされるような真似はしたくないんだ。できれば、まっとうな海賊になりたい。そんなもんがあるかどうかわからないけど。
 もちろん、闘わなくちゃいけないときに尻込みはしないよ。仲間が大切だからね。それに、せっかくマリオンと一緒にいられるようになったんだ。今は死にたくない」

 レイモンドがきれいに微笑んだ。

「そうですね。わたしももう少し長生きしたくなりました」

 いつ死んでもいいと覚悟を決めていたのに。いつしか、この心地いい時間が続けばいいと願うようになった。

「まあ、それは後の話です。コスモ・サンダーを割るにしても、どうするにしても、承認会議で話し合う必要があるでしょう?」
「ん~。俺としては少しでも早く、このゴタゴタから解放されたい。こっちの力を試すような小細工や嫌がらせにはうんざりだ。どうせなら、これからのコスモ・サンダーのためになるようなことに力を使いたいね」

 目を輝かせるレイモンドに、この男は人を束ねる大変さなどへでもないのだとマリオンは思う。自分についてくるものたちを守り、導くためなら命を張るのだ。それが自分の義務であるかのように。当たり前に。
 思った通り、レイモンドはトップに君臨できるだけの器の持ち主のようだ。


「ゴールドバーグ様ッ!」と声がして戦略室のドアが開いた。
「なんだ、ポール? 騒がしいな」
「済みません。通信室から、極東地区のはずれ、ついこの先ですが、コスモ・サンダーの宇宙船が民間輸送船を襲っていると連絡が入りました…。どうしますか?」
「なんだとっ! 俺の目の前で略奪などさせるか!」

 叫んだレイモンドのエメラルド・グリーンの瞳には、グレイの縞がくっきりと浮いていた。ぐっと食いしばった歯のあいだから、それでも冷静に告げる。

「航路を変更だ。現場に急行するように操縦士に指示してくれ」
「はいっ!」

 きびすを返したポールの後ろ姿に、つぶやきが。

「ねえ、マリオン。どうして俺たちは海賊なんだろうね」
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