宙(そら)に散る。

星野そら

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3 コスモ・サンダーの襲撃

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 ビ~~~。サイレンが宇宙軍極東地区本部に鳴り響いた。
 続いて館内放送が流れる。

「民間輸送船からのSOSをキャッチ。惑星リンドンの南西、座標XZ228、YZ61。繰り返す。民間輸送船からのSOSをキャッチ。惑星リンドンの南西、座標XZ228、YZ61……」

 その声にかぶって、司令本部からの指示が出る。

「極東地区のはずれで、民間輸送船が海賊の急襲に遭っている。出動準備についている第4部隊。阿刀野少尉、ただちに出動だ。その他の部隊も、全員待機しておけ」

 ライトマン少佐からの命令で、リュウたち第4部隊は10分たらずの間に出動態勢を整えた。リュウは宇宙艦『ジェニー』の操縦席に座ったルーインを振り仰ぐ。動力計をチェックしてからうなずいたルーインを見て、

「ライトマン少佐、第4部隊、出動します」

 リュウの報告が終わらぬうちに、ルーインはレバーを倒した。『ジェニー』は一瞬ブルっと震えたかと思うと、ものすごい勢いで宙港を飛び出した。宇宙艦が壊れないかと思うほどの急激な発進。厳しい加速と重力に、乗組員の顔が歪む。

「コスモ・サンダーだろうな」

 リュウの言葉にルーインが、ああ、と同意する。確実な手さばきで宇宙艦を操りながら、

「こちら、操縦士のアドラー少尉。済まないがスピードを最優先させてもらう。しばらく我慢してくれ」と。

 それでも、間に合うかどうか。
 ここしばらくは、出動回数こそ多かったものの、小さい規模の小競り合いが主だった。だが、今回は海賊の規模がデカイし、すでに交戦状態に入っているようである。
 あのときのような惨事を目の当たりにするのはイヤだ。
 略奪され尽くした宇宙船をなすすべもなく回収するのは、たまらない。

 そんな隊長の胸の内などお見通しのルーインである。幸いに、現場はそれほど遠くない。どの段階で民間輸送船がSOSを出したか知らないが、何としても間に合わせてみせる!

『ジェニー』がワープから抜け出した宙域には、民間輸送船の姿はなかった。コスモ・サンダーの宇宙船だけがぽっかりと漂っていた。
 戦闘のせいだろうか、宇宙船は傷つき、力をなくしているように見えた。

「SOSを出した輸送船はどこなんだ?」

 リュウの問いかけに、モニターを凝視していた宙航士が頭を捻った。

「わかりません。モニターには海賊の宇宙船しか写っていません」
「サーチをかけろ!」
「すでに、サーチしています。でも、この宙域、惑星が多いので、陰に隠れているとサーチがききません」
「保護しようにも居場所がわからなければなあ。うまく襲撃から逃れてくれていればいいんだが…。仕方がない。先にコスモ・サンダーの相手をするか」

 リュウが決断した頃には、コスモ・サンダーの宇宙船は動きを取り戻し、惑星の陰へと逃れようとしていた。

「アドラー少尉、逃がすな。全員、戦闘態勢!」
「ラジャー」

 ルーインが短く応えて追跡を開始した。本来ならば、海賊の船など追いかけたくない。リュウにはあまり、コスモ・サンダーとかかわってほしくないのだが。この宙域には民間輸送船が見あたらず、満身創痍という感じのコスモ・サンダーの船があるだけである。
 取りあえず押さえて調べるのが宇宙軍の仕事だろう。ここで逃がせば、本部に帰ってから何をやっていたんだと追及される。
 仕方がない。

「阿刀野隊長」

 副官席についていたエヴァがリュウに話しかける。

「なんだ」
「海賊の宇宙船ですが、おかしくないですか?」
「どこが?」
「あいつら、こっちが威嚇射撃をしても反撃してきません。あんな船で逃げ切れると思っているんだろうか。それとも、反撃しない理由でも?」

 エヴァが首を捻るのも当然であった。逃げてはいるのだが、どうも動きがおかしい。
 レイモンド率いる中央艦隊の近衛隊がコスモ・サンダーの宇宙船を掌握している最中だとは誰も知る由もなかった。

「ルーイン、ビームで捕らえてくれ。ダンカン、戦闘準備だ。乗り込むぞ」

 艦内放送に告げると、リュウは艦橋をエヴァに託す。ダンカンたちに合流しに行くつもりなのだ。

「阿刀野! ボロボロに見えたって、相手はコスモ・サンダーだぞ。いつ、反撃してくるかわからない。もっと冷静になれ」

 ルーインの諫め声もリュウの耳には届かない。足早に艦橋を去る姿に、ルーインは大きなため息だ。

「アドラー少尉、隊長を止めても無理ですよ。なんなら、ご一緒されますか。操縦席はちゃんと守っておきますから」

 エヴァの申し出に、ルーインがうなずいた。

「済まない、エヴァ。コスモ・サンダー相手だと、阿刀野隊長は何をやらかすかわからないからな、行ってくる」

 言い置いて後を追うルーインを見て、エヴァが苦笑をもらす。危険を顧みないのはどっちもどっちだ。だが、阿刀野隊長はアドラー少尉に愛されている、と。
 自分にしても、阿刀野隊長の背後を守ってもらうためにアドラー少尉を送り出したのだから何も言えない。誰もが阿刀野隊長を守りたいと思っているのだ。
 何事もなければいいが、どうもあの船の様子はおかしいとエヴァは思っていた。


 ガガガガガッ。
 ビームで捕らえたコスモ・サンダーの宇宙船にレーザーを浴びせて、外壁のドアを開ける。蹴破ったドアを入ったところに待ち受けている海賊はいなかった。遮断扉を開け、空気が充満するのを待って気密服を脱ぎ捨てる。

「ダンカン、おまえは通信室とコンピュータを押さえたら、その足で、格納庫、貨物室へ回れ。こっちは、艦橋を制圧する」
「りょ~かい!」

 軽く敬礼する相手に注意を促す。

「相手は海賊だ。気を抜くなよ。できれば命は奪いたくないが、危険を感じたらレーザーをぶっ放してもかまわない」

 ダンカンは言われなくてもというように、にやりと笑う。

「隊長こそ、気をつけてくださいよ。艦橋で指揮してるやつらだって、銃くらい撃てますからね。いくぞ!」
「よしっ、俺たちも行こう。アドラー少尉、おまえは半分率いて、左から回ってくれ。俺は右から行く」
「わかった」

 いまだにどこからも反撃がないのを不思議に思いながらも、リュウはテキパキと指示を下す。宇宙艦レベルではないが、そこそこの大きさである宇宙船のあちこちへと仲間が散っていく。リュウも4~5人の戦闘員を引き連れて、艦橋を目指した。
 戦闘員のひとりが艦橋のドアに手をかけた。

「隊長、開いています。どうしますか?」
「もちろん、入る。レーザーを構えておけよ」

 いうやいなや、リュウはドアに向けてレーザーを連射してから、部屋に飛び込んだ。戦闘員が同じようにレーザーを手に次々と続く。当然あるべきはずの反撃に備えて、誰の手も引き金にかかっていた。
 なのに。艦橋にいる海賊たちはシンとしたまま。
 操縦席についていた男が、降参の印しに軽く手を挙げた。幹部だろう数人の男たちも同じように無抵抗であった。

 なんなんだ、これは! 全員の思いを隊長であるリュウが代弁した。

「抗戦、しないのか?」

 艦橋にいるのに、第一線の戦闘員のようにたくましい男たちであった。その中のリーダー格であろう男が口を開く。

「宇宙軍に刃向かうのを禁じられた」

 悔しさが滲み出ていた。

「ほう、それでおとなしく従っているのか?」
「逆らったら命がない。抵抗しなければ、宇宙軍は殺さないと言われた」

 誰に禁じられたのだ? なぜ?

「責任者はどこにいる」
「船長室だ。そちらの責任者と話がしたいそうだ。俺たちに刃向かうことを禁じたくらいだから、乱暴はしないだろうさ。恐くて腰が抜けなければ、行けばいい」

 試すような台詞に、リュウはかっとなった。

「場所は?」
「ひとつ下の層。ほぼ、真下になる」
「よしっ、行ってくる。おまえたちはこいつらを拘束しておいてくれ」
「隊長! 罠だということも考えられますよ」
「いや、嘘はなさそうだ。話し合おうというんだろう、行ってやる。アドラー少尉と合流したら、船長室に来るよう伝えてくれ」
「わかりましたっ。気を付けてください」
「ああ」
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