宙(そら)に散る。

星野そら

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6 取り引き

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「どんな話でしょうか」
「無駄な闘いはしたくない。このまま、黙って引き上げてほしい」

 台詞は頼みだが、命令口調であった。

「なぜ、そんなコスモ・サンダーに都合のいい話を呑まなくてはいけないんですか。僕たちは民間輸送船のSOSで出動したんです。襲ったコスモ・サンダーの宇宙船を捕まえたんだから、海賊たちを拘束して、本部まで連れて帰って当然ではないですか」
「ふ~ん。じゃあ、SOSを出した輸送船はどこにいるんだい。キミたちが出会ったのは、傷ついたコスモ・サンダーの宇宙船だけだったろう?
 証拠もないのに俺たちをむりやり連れて帰るって? それで、痛めつけて襲撃の事実を吐かせるわけ? ……宇宙軍はそんな手は使わないだろう?」
「…ッ!」
「いま捕まるわけにはいかなくてね。それで、取り引きの提案なんだ」
「取り引き?」
「輸送船は俺が保護した。無傷でキミたちに引き渡すよ。輸送船のヤツらは保護したのがコスモ・サンダーだとは思っていない。多分、宇宙軍だと思っているだろう。だから、キミたちが輸送船をコスモ・サンダーから保護したことにすればいい。
 コスモ・サンダーは命からがら逃げ出したとでも言ってくれ。いや、後でこの宇宙船は爆破するつもりだから、撃ち落としたとでも、自爆したとでも報告してくれてかまわない。だから、黙ってこのまま見逃してほしい。もちろん、輸送船を襲ったものはこちらで確実に処分しておく」

 悪い話ではないと思うけどと続くレイモンドの話の途中で、宇宙艦『ジェニー』にいるエヴァから通信が入った。

「アドラー少尉だ。どうしたエヴァ?」

 ルーインが手短に訊く。

「はい、敵に囲まれました。こんなに近くにどうやって隠れていたのか、コスモ・サンダーの艦隊に囲まれたようなんです!」
「えッ!」
「あ~あっ」

 驚くルーインを尻目に、舌打ちをしたレイモンドが矢継ぎ早にマリオンに命令を下す。

「なぜ、のこのこ出てきたんだ。マリオン! ポールに連絡だ。いますぐ引かせろ! 俺は命令も聞けぬ部下を許すつもりはないぞ!」
「手間取ったんで、しびれを切らせたんでしょう。きっと威嚇のために出てきただけ。宇宙軍を攻撃するほど馬鹿じゃありませんよ。そんなことをすれば、あなたが怒ることを知っていますからね」
「あいつらは、俺が信じられないのか。今すぐ連絡して、手出しをせぬように釘をさせ!」
「わかりました」
「ルーイン、騒がせて済まない。大丈夫だとは思うが、そちらも挑発しないようにしてくれるとありがたい」
『エヴァ、攻撃はするな。すぐに戻る』

 ルーインは簡潔に通信を締めくくり、レイモンドに向き直った。

『ダンカン、こちらアドラー少尉。そちらは制圧したのか? 抵抗は? 戦闘員は?
 そうか。それなら、撤退するぞ。いや、コスモ・サンダーの乗組員はそのまま残して、我々だけ撤退する。質問はなしだ』
「2~3人、怪我をしたようですが、たいしたことはなさそうです。いいでしょう、条件を呑みます」
「ありがとう」

 交渉が成立したためか、レイモンドの雰囲気がふんわりしたものにかわった。

「抵抗したヤツがいたんだ。ごめんね、ほんとに誰も彼も俺の命令なんて聞きやしない。自信なくしちゃうなあ。でも、ただじゃおかないから安心して」

 ただじゃおかない、なんてことをサラリと言うレイさんが恐いとルーインは思った。この船の乗組員はどうなるのだろうか。抵抗した男たちは。しかし、そんなことはおくびにも出さず、

「レイさんと争っても勝てる気がしない。艦隊を隠しておくなんて、抜け目がないですね。もし、あなたを逮捕したら、僕たちは攻撃されてたわけですか」
「リュウがいるんだよ。俺が宇宙軍に刃向かうわけないじゃない。キミたちが着く前に、カタを付けてしまうつもりだったんだ。でも…、俺が捕まったら、あいつら、命令なんか無視して攻撃を仕掛けてくるかもしれない」
「レイさんは、コスモ・サンダーにとって、そんなに大切な人なんですか?」
「ん~、どうなんだろうね」

「アドラー少尉、撤退だなんて、納得がいかないッ…」

 息せき切って駆けつけてきたダンカンが大声で怒鳴った。

「部下にそんな口きかせちゃ、ダメだよ」

 レイモンドは笑いながらルーインにそう言ってから、ダンカンにやさしく声をかけた。

「俺が無理を押し通したんだ、ごめんね」
「阿刀野、さん…?」

 ダンカンはレイモンドを目にして、立ちつくした。
 それから、思い出したように、あわてて拳を胸に当てる。自分の上官でもないのに。

「ここで俺に会ったことは忘れてほしい。それから、リュウのこと、よろしくね」
「は、はいっ!」

 意味がわかっているのかどうか、レイモンドにめっぽう弱いダンカンは、素直にうなずいていた。

「レイさん、また、会えますか? 阿刀野と会ってやってくれますか?」

 立ち去りがたい様子を見せていたルーインが、これだけはと聞く。このままではリュウが納得しないから。
 リュウは、自分を捨てた兄に会ってくれるだろうか、とレイモンドは考えた。だが、これっきりリュウに会えないのは寂しい。

「う~ん、俺は海賊でリュウは宇宙軍士官だからね。難しいなあ…、けど、努力するよ」
「約束ですよ!」
「わかった、約束する。じゃあ、また」
「はいっ!」

 リュウは、ダンカンとルーインに抱きかかえられるようにして連れて行かれた。レイモンドは、その姿が消えるまでじっと見つめていた。


「わたしたちも行きましょうか、レイモンド」
「ん…」
「どうしたんですか? 後ろを振り返るなんて、あなたらしくない。阿刀野リュウに絆されて、逃げ出したくなったんですか?」
「違うよ。気が重いのは中央艦隊のほう。あ~あ、戻りたくないなあ! 戻ったら、命令違反を叱らなくちゃならない。マリオン、適当に罰を与えておいてくれないかなあ」
「何を甘えたことを。それは、あなたの仕事です」
「だよね。ポールを放り出すのは気がすすまないんだけど…」
「えッ!」

 マリオンはぎょっとした。レイモンドは宇宙艦『マーキュリー』を指揮した責任者をどこへ放り出す気だろうか。もしかして、宇宙にか?
 今さら、わたしが代わりにと言えるわけもないマリオンは、これから起こる事態にゾクリとする。それなのに、レイモンドの声は平静なままだ。

「マリオン?」
「は、はい」
「ここの乗組員は全員、『マーキュリー』に連れて行ったの?」
「向こうで総督の帰りを待っているはずですが」
「コスモ・サンダーの規律に逆らって民間船を攻撃したんだから、幹部連中は処刑しなくちゃ示しがつかないね。面倒だからダストシュートから宇宙に捨ててしまおうかな」

 涼しい顔で残酷なことを口にするレイモンドは、死刑執行部隊にいたころと同じ冷徹さを失ってはいないのだとマリオンは悟った。どの司令官にも負けない厳しい処罰だ。

「総督に意を唱えたりはしません。あなたらしく堂々と処刑してください」

 レイモンドを総督と呼ぶときに、マリオンは決して私心をはさんだりしない。

「わかった。でも、乗組員たちは上の命令を聞くしかないんだろう? ここにいるなら中央艦隊に組み込んでもいいな。イエロー・サンダーに戻りたいなら返してやってもいいけど、向こうでどんな処遇をされるんだろうか…。
 ふっ、俺もこんなことで悩むなんて、ずいぶん寛大になったと思わない?」
「……意見を控えさせていただきます」
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