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7 命令違反
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中央艦隊の精鋭部隊、近衛隊の宇宙艦『マーキュリー』である。
レイモンドとマリオンが戦闘艇を降りると、そこにずらりと近衛隊の幹部が待ち受けていた。筆頭は連隊長のポールである。
膝を折り、頭を垂れるポールにつかつかと歩み寄ると、レイモンドはポールの胸元をつかみ顔面に拳を叩き込んだ。問答無用である。
どさりと倒れたポールに無慈悲に言い放つ。
「俺は命令も聞けぬ部下を持った覚えはない。死にたくなければ、今すぐ俺の前から消えうせろ」
ピシリと突き刺さるような冷たい言葉に、その場にいる全員が凍り付いた。
エメラルド・グリーンの瞳が、誰にも間違いようのない怒りをたたえていた。整った容貌は、表情をなくすとどこまでも冷たい。
着込んだばかりのようにシワ一つないジャンプ・スーツ。両手を組み仁王立つレイモンドは、クールで非情そのものに見えた。
マリオンでさえ、つい先ほどまで『マーキュリー』に戻りたくないと愚痴をこぼしていた男にはとても思えなかった。
殴り飛ばされたポールが立ち上がり、再び、レイモンドの前に跪く。
「命令に背いて、申し訳ありません。処分は覚悟しています」
「ならば、俺の前から消えろ! 追放だ。二度も言わせるなッ!」
キツい調子の暴言にこたえる様子もなく、ポールが言葉を継ぐ。
「いえ。近衛隊に置いてもらえないなら…、ゴールドバーグ様に見放されるくらいなら、その手で処刑していただきたい」
かすかに震えてはいたが、きっぱりと言い切った。あちこちで、ハッと息を呑む気配がする。
中央艦隊の連隊長であり、近衛隊を束ねるポールは腹の据わった男であった。命令に背いたときから、死を覚悟していたのだ。ポールにとっては、消えろと言われるのは、死ねと言われるより辛い。
「そうか、いい覚悟だ。望み通りにしてやろう」
レイモンドは腰のレーザーガンに手を伸ばした。ロックを外すと優雅な手つきでぴたりと狙いを付ける。その指はすでに引き金に掛かっている。
ポールは無言でレイモンドを見つめていた。恨みも悔いもない穏やかな顔であった。
近衛隊の中で、誰よりもレイモンドを支えてきた男である。レイモンドの厳しい要求に応え、最初から忠実に任務をこなしてきた。これから先も、コスモ・サンダーには欠かせない男であるのに。
レイモンドの胸中を思い遣ってマリオンが口を開こうとした、その時。
「お待ちください、ゴールドバーグ様! 『マーキュリー』を動かすよう勧めたのはわたしです。連隊長は命令違反は犯せないと反対しておられました。どうか、命だけは…」
「お願いします! 我々が連隊長の指示に従わなかっただけです」
「戦闘艇を指揮したのは俺です! 連隊長に責任はない!」
幹部から口々にポールをかばう声が上がった。
「黙れ! おまえたち全員が、俺の命令など聞けぬというのかッ!」
レイモンドが一喝した。
その迫力に幹部たちが口を閉ざす。全員の顔をゆっくりと睨め回してから、レイモンドが吐き捨てた。
「はッ! よくわかった。おまえたちはポールではなく、俺に、消えてほしいんだな。どうやら俺は『マーキュリー』には不要な人間らしい」
レイモンドはポールを殺さなくて済むことに、心の中で安堵のため息を吐いた。
それに。
もしかすると、どさくさに紛れて、マリオンと2人でコスモ・サンダーから離れられるかも知れないと期待すら…。この後、近衛隊の連中はどう出るだろうか。楽しみであった。
心中、不謹慎な考えに浸っていたのだが、天性とも言えるポーカーフェイスの持ち主であるレイモンドの表情からは何も読み取れない。
「行こう! マリオン」
くるりと背を向けて、いま降りたばかりの戦闘艇へと足を踏み出す。
マリオンには見透かされたかな。非難されるだろうか? いや、幹部たちの前だから、俺のことをあくまでも総督として扱うだろう。
ねえ、マリオン。このまま、黙っているの? 引っ込みがつかなくなるよ。俺は大歓迎だけど…。
心の中のつぶやきは誰ひとり聞こえない。
「馬鹿野郎! 俺一人が死ねば済んだのに。コスモ・サンダーにとって、俺の命とゴールドバーグ様のどっちが大切だと思ってるんだ! おまえたちのせいで総督がいなくなったら、この先、どうなる!」
沈黙を破ったのは、マリオンではなくポールの怒鳴り声だった。
「ゴールドバーグ様、申し訳ありません。コスモ・サンダーの総督は、ゴールドバーグ様以外に考えられません。わたしたちは全員、そう思っています。命令に背いたのは…、みなゴールドバーグ様のことが心配で…。もし捕らえられたら、もし傷でも負われたらと…、罰せられるのを覚悟で宇宙軍を囲んだんです。攻撃するつもりはありませんでした。
それに、ゴールドバーグ様が消えればいいなどと、誰ひとり考えたことすらありません。次期総督! 命令違反の責任はわたしにあります。どうか、わたしを処刑して、それで済ませてもらえませんか。……お願いします。わたしの最初で、最後のお願いです」
「おまえの願いなど聞けないね、ポール。それからおまえらもだ。一度、口から出した言葉は取り消したりできない。後悔するようなことなど、最初から言うな!」
こらえきれなくなったマリオンが、ようやく声をあげる。
「レイモンドッ! おまえにはポールの心がわからないのですか! ここに集まったものたちは、おまえのためを思って…」
振り返ったレイモンドのエメラルド・グリーンの瞳には、おもしろがっているような表情があった。じっとマリオンの顔を見据える。ほどなく。
「くっ、くくくっ、あはははははっ」
腹を押さえながら笑い出した。
レイモンドの突然の変化に、全員が固まってしまった。
「あ~、苦しい…。いつになったらマリオンがとりなしてくれるのか、心配しちゃったよ」
その声は穏やかであった。
「ポール!」
「はっ」
「やめだ。処刑は取りやめ!」
「しかし…」
「せっかくの寛大な申し出に、口答えするのか?」
「ゴールドバーグ様は総督でいてくださるんですか」
「ああ…、まだ、候補だけどな」
「それから…、先ほども申しましたが、わたしは近衛隊にいられなくなるくらいなら…」
「消えろといった言葉は撤回する。今まで通り、近衛隊で働いてもらう。これでいいのか」
「はいっ、ありがとうございます」
ポールは頭を下げた。
「ただし、寛大な措置はこれ一度きりだからな。今度、命令に背いたりしたら、その時は覚悟しておけ。戦闘艇で敵艦に体当たりしろっていう無茶な命令でもな」
「そのくらいのこと。ゴールドバーグ様が死ねとおっしゃるなら、いつでも喜んで死にます。わたしの命はゴールドバーグ様に差し上げます。しかし…」
「なんだ? まだ、しかし…、があるのか」
うんざりした様子でレイモンドが訊く。
「はい。わたしは…、今回のことでよくわかりました。もし、ゴールドバーグ様の命が危険にさらされたり、拉致されそうになったら、命令に背いてでも助けに行きます。ゴールドバーグ様が殺されたり、みすみす宇宙軍に拉致されるくらいなら、生きているゴールドバーグ様の手で処刑された方がいい。
あなたは、わたしたたちにとって、それだけの価値がある方です。それほど大切な方なんです…、だから、軽々しくコスモ・サンダーを、わたしたちを見捨てるような言動はやめてください。
それから…、少しでもわたしや部下たちのことを思ってくださるなら、お願いですから無茶はなさらないでください」
「なっ! 俺はそんなに無茶をしていないだろう?」
「いえ…、今回のことでも、ゴールドバーグ様がわざわざ乗り込むほどのことではなかいかと…」
「今回は俺でないと、収められなかった。それに、闘いを後ろで見ていろと言うのか? 俺の流儀じゃない!」
「ゴールドバーグ様の力は全員が認めています。それに、前で闘ってくださるから、みなついて行こうと…」
「それなら!」
「ですがっ! 危険に飛び込むときは、どうか連れて行ってください。ハラハラしながらゴールドバーグ様の無事を祈るのは、わたしの流儀じゃありません!」
「僕も連れて行ってください」
「俺も!」
ポールが言い張ったのに幹部たちが一斉に唱和した。
「あ~あ、守りがしっかりしてなくちゃ、前線は闘えないって言うのに。これからどうしたらいいんだよ、まったく。全員連れていくなんて、無理に決まってるだろっ!」
文句を吐いたレイモンドに
「いい部下たちをもって幸せだと思っていては?」
表情も変えずにマリオンが言う。
虎視眈々と上の者を倒す機会を狙っている海賊組織にとっては、珍しい現象なのである。レイモンドは部下たちに愛されているのだ。
「そう? ポールは正々堂々と、また命令に背くって宣言してるも同然なんだけど?」
「あなたが守れない命令をしなければいいだけのこと。わたしも常々、あなたの行動は無茶が多いと…。自分を過信しすぎですし、もっと部下を信頼して…」
続く小言にレイモンドは顔をしかめた。
「わかったよ、反省しろってことだよね! あ~あ、マリオンに叱られちゃったじゃないか」
マリオンとの軽いやり取りに、プライベートの姿を見たことのない幹部たちが目を見開いた。ゴールドバーグ様が、叱られちゃったとぼやくなんてと。
「ところで。処刑は取りやめるが、ポール以下、命令違反に関わったおまえたち、覚悟はいいだろうな。処罰は受けてもらうぞ」
レイモンドの宣告に、全員がしゅんとなった。
ポールは恐々としながらも「はい」とうなずく。少なくとも、この宇宙船から放り出されることはないとわかったのだから。
「艦内のトイレ掃除。それに、厨房の下働きを命じる」
謹慎や鞭打ちを覚悟した男たちがえッと顔を見合わせる。まるで、初めて宇宙船に乗り組んだ下級戦闘員への処罰。どちらも下っ端が担当する肉体労働である。
幹部連中にとってはなかなかキツい罰かもしれないとマリオンは思った。
「さぼるなよ。返事は!」
「はいっ! ありがとうございます」
勢いで返事をしたものの、つい聞いてしまう幹部がいても不思議ではない。
「……あの、いつまでですか」
「そうだな? とりあえず、本部に帰るまでだ。手を抜いたりしたら延ばすぞ!」
いたずらっ子のように、にやりと笑うレイモンドの顔を、みながあきらめたように見つめていた。
「ところで、第4艦隊の乗組員の方は…」
ポールが尋ねる。
「マリオン、俺の代わりに処理しておいて…、くれないよね? 仕方ないなあ、疲れちゃったから、さっさと片をつけてしまおう」
レイモンドとマリオンが戦闘艇を降りると、そこにずらりと近衛隊の幹部が待ち受けていた。筆頭は連隊長のポールである。
膝を折り、頭を垂れるポールにつかつかと歩み寄ると、レイモンドはポールの胸元をつかみ顔面に拳を叩き込んだ。問答無用である。
どさりと倒れたポールに無慈悲に言い放つ。
「俺は命令も聞けぬ部下を持った覚えはない。死にたくなければ、今すぐ俺の前から消えうせろ」
ピシリと突き刺さるような冷たい言葉に、その場にいる全員が凍り付いた。
エメラルド・グリーンの瞳が、誰にも間違いようのない怒りをたたえていた。整った容貌は、表情をなくすとどこまでも冷たい。
着込んだばかりのようにシワ一つないジャンプ・スーツ。両手を組み仁王立つレイモンドは、クールで非情そのものに見えた。
マリオンでさえ、つい先ほどまで『マーキュリー』に戻りたくないと愚痴をこぼしていた男にはとても思えなかった。
殴り飛ばされたポールが立ち上がり、再び、レイモンドの前に跪く。
「命令に背いて、申し訳ありません。処分は覚悟しています」
「ならば、俺の前から消えろ! 追放だ。二度も言わせるなッ!」
キツい調子の暴言にこたえる様子もなく、ポールが言葉を継ぐ。
「いえ。近衛隊に置いてもらえないなら…、ゴールドバーグ様に見放されるくらいなら、その手で処刑していただきたい」
かすかに震えてはいたが、きっぱりと言い切った。あちこちで、ハッと息を呑む気配がする。
中央艦隊の連隊長であり、近衛隊を束ねるポールは腹の据わった男であった。命令に背いたときから、死を覚悟していたのだ。ポールにとっては、消えろと言われるのは、死ねと言われるより辛い。
「そうか、いい覚悟だ。望み通りにしてやろう」
レイモンドは腰のレーザーガンに手を伸ばした。ロックを外すと優雅な手つきでぴたりと狙いを付ける。その指はすでに引き金に掛かっている。
ポールは無言でレイモンドを見つめていた。恨みも悔いもない穏やかな顔であった。
近衛隊の中で、誰よりもレイモンドを支えてきた男である。レイモンドの厳しい要求に応え、最初から忠実に任務をこなしてきた。これから先も、コスモ・サンダーには欠かせない男であるのに。
レイモンドの胸中を思い遣ってマリオンが口を開こうとした、その時。
「お待ちください、ゴールドバーグ様! 『マーキュリー』を動かすよう勧めたのはわたしです。連隊長は命令違反は犯せないと反対しておられました。どうか、命だけは…」
「お願いします! 我々が連隊長の指示に従わなかっただけです」
「戦闘艇を指揮したのは俺です! 連隊長に責任はない!」
幹部から口々にポールをかばう声が上がった。
「黙れ! おまえたち全員が、俺の命令など聞けぬというのかッ!」
レイモンドが一喝した。
その迫力に幹部たちが口を閉ざす。全員の顔をゆっくりと睨め回してから、レイモンドが吐き捨てた。
「はッ! よくわかった。おまえたちはポールではなく、俺に、消えてほしいんだな。どうやら俺は『マーキュリー』には不要な人間らしい」
レイモンドはポールを殺さなくて済むことに、心の中で安堵のため息を吐いた。
それに。
もしかすると、どさくさに紛れて、マリオンと2人でコスモ・サンダーから離れられるかも知れないと期待すら…。この後、近衛隊の連中はどう出るだろうか。楽しみであった。
心中、不謹慎な考えに浸っていたのだが、天性とも言えるポーカーフェイスの持ち主であるレイモンドの表情からは何も読み取れない。
「行こう! マリオン」
くるりと背を向けて、いま降りたばかりの戦闘艇へと足を踏み出す。
マリオンには見透かされたかな。非難されるだろうか? いや、幹部たちの前だから、俺のことをあくまでも総督として扱うだろう。
ねえ、マリオン。このまま、黙っているの? 引っ込みがつかなくなるよ。俺は大歓迎だけど…。
心の中のつぶやきは誰ひとり聞こえない。
「馬鹿野郎! 俺一人が死ねば済んだのに。コスモ・サンダーにとって、俺の命とゴールドバーグ様のどっちが大切だと思ってるんだ! おまえたちのせいで総督がいなくなったら、この先、どうなる!」
沈黙を破ったのは、マリオンではなくポールの怒鳴り声だった。
「ゴールドバーグ様、申し訳ありません。コスモ・サンダーの総督は、ゴールドバーグ様以外に考えられません。わたしたちは全員、そう思っています。命令に背いたのは…、みなゴールドバーグ様のことが心配で…。もし捕らえられたら、もし傷でも負われたらと…、罰せられるのを覚悟で宇宙軍を囲んだんです。攻撃するつもりはありませんでした。
それに、ゴールドバーグ様が消えればいいなどと、誰ひとり考えたことすらありません。次期総督! 命令違反の責任はわたしにあります。どうか、わたしを処刑して、それで済ませてもらえませんか。……お願いします。わたしの最初で、最後のお願いです」
「おまえの願いなど聞けないね、ポール。それからおまえらもだ。一度、口から出した言葉は取り消したりできない。後悔するようなことなど、最初から言うな!」
こらえきれなくなったマリオンが、ようやく声をあげる。
「レイモンドッ! おまえにはポールの心がわからないのですか! ここに集まったものたちは、おまえのためを思って…」
振り返ったレイモンドのエメラルド・グリーンの瞳には、おもしろがっているような表情があった。じっとマリオンの顔を見据える。ほどなく。
「くっ、くくくっ、あはははははっ」
腹を押さえながら笑い出した。
レイモンドの突然の変化に、全員が固まってしまった。
「あ~、苦しい…。いつになったらマリオンがとりなしてくれるのか、心配しちゃったよ」
その声は穏やかであった。
「ポール!」
「はっ」
「やめだ。処刑は取りやめ!」
「しかし…」
「せっかくの寛大な申し出に、口答えするのか?」
「ゴールドバーグ様は総督でいてくださるんですか」
「ああ…、まだ、候補だけどな」
「それから…、先ほども申しましたが、わたしは近衛隊にいられなくなるくらいなら…」
「消えろといった言葉は撤回する。今まで通り、近衛隊で働いてもらう。これでいいのか」
「はいっ、ありがとうございます」
ポールは頭を下げた。
「ただし、寛大な措置はこれ一度きりだからな。今度、命令に背いたりしたら、その時は覚悟しておけ。戦闘艇で敵艦に体当たりしろっていう無茶な命令でもな」
「そのくらいのこと。ゴールドバーグ様が死ねとおっしゃるなら、いつでも喜んで死にます。わたしの命はゴールドバーグ様に差し上げます。しかし…」
「なんだ? まだ、しかし…、があるのか」
うんざりした様子でレイモンドが訊く。
「はい。わたしは…、今回のことでよくわかりました。もし、ゴールドバーグ様の命が危険にさらされたり、拉致されそうになったら、命令に背いてでも助けに行きます。ゴールドバーグ様が殺されたり、みすみす宇宙軍に拉致されるくらいなら、生きているゴールドバーグ様の手で処刑された方がいい。
あなたは、わたしたたちにとって、それだけの価値がある方です。それほど大切な方なんです…、だから、軽々しくコスモ・サンダーを、わたしたちを見捨てるような言動はやめてください。
それから…、少しでもわたしや部下たちのことを思ってくださるなら、お願いですから無茶はなさらないでください」
「なっ! 俺はそんなに無茶をしていないだろう?」
「いえ…、今回のことでも、ゴールドバーグ様がわざわざ乗り込むほどのことではなかいかと…」
「今回は俺でないと、収められなかった。それに、闘いを後ろで見ていろと言うのか? 俺の流儀じゃない!」
「ゴールドバーグ様の力は全員が認めています。それに、前で闘ってくださるから、みなついて行こうと…」
「それなら!」
「ですがっ! 危険に飛び込むときは、どうか連れて行ってください。ハラハラしながらゴールドバーグ様の無事を祈るのは、わたしの流儀じゃありません!」
「僕も連れて行ってください」
「俺も!」
ポールが言い張ったのに幹部たちが一斉に唱和した。
「あ~あ、守りがしっかりしてなくちゃ、前線は闘えないって言うのに。これからどうしたらいいんだよ、まったく。全員連れていくなんて、無理に決まってるだろっ!」
文句を吐いたレイモンドに
「いい部下たちをもって幸せだと思っていては?」
表情も変えずにマリオンが言う。
虎視眈々と上の者を倒す機会を狙っている海賊組織にとっては、珍しい現象なのである。レイモンドは部下たちに愛されているのだ。
「そう? ポールは正々堂々と、また命令に背くって宣言してるも同然なんだけど?」
「あなたが守れない命令をしなければいいだけのこと。わたしも常々、あなたの行動は無茶が多いと…。自分を過信しすぎですし、もっと部下を信頼して…」
続く小言にレイモンドは顔をしかめた。
「わかったよ、反省しろってことだよね! あ~あ、マリオンに叱られちゃったじゃないか」
マリオンとの軽いやり取りに、プライベートの姿を見たことのない幹部たちが目を見開いた。ゴールドバーグ様が、叱られちゃったとぼやくなんてと。
「ところで。処刑は取りやめるが、ポール以下、命令違反に関わったおまえたち、覚悟はいいだろうな。処罰は受けてもらうぞ」
レイモンドの宣告に、全員がしゅんとなった。
ポールは恐々としながらも「はい」とうなずく。少なくとも、この宇宙船から放り出されることはないとわかったのだから。
「艦内のトイレ掃除。それに、厨房の下働きを命じる」
謹慎や鞭打ちを覚悟した男たちがえッと顔を見合わせる。まるで、初めて宇宙船に乗り組んだ下級戦闘員への処罰。どちらも下っ端が担当する肉体労働である。
幹部連中にとってはなかなかキツい罰かもしれないとマリオンは思った。
「さぼるなよ。返事は!」
「はいっ! ありがとうございます」
勢いで返事をしたものの、つい聞いてしまう幹部がいても不思議ではない。
「……あの、いつまでですか」
「そうだな? とりあえず、本部に帰るまでだ。手を抜いたりしたら延ばすぞ!」
いたずらっ子のように、にやりと笑うレイモンドの顔を、みながあきらめたように見つめていた。
「ところで、第4艦隊の乗組員の方は…」
ポールが尋ねる。
「マリオン、俺の代わりに処理しておいて…、くれないよね? 仕方ないなあ、疲れちゃったから、さっさと片をつけてしまおう」
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