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「は? やめる?」

 夜、皆で行きつけの酒場に行って隊長の奢りのご飯を食べているとき、私は皆にもうすぐ契約期間が過ぎるので家政婦を辞める旨を伝えた。
 ミルくんは持っていた骨付き肉を落とし、イグニスさんは珍しく食べるのを止めて、隊長は神妙な顔をして私の見つめた。
 ……ちょっとこの反応は意外。
 今まで何人もの家政婦が辞めていったから、別に気に留めないものかと思ったのだけれど、それは読み間違いだったようだ。

「え? え? な、何で? 何でカレンちゃん辞めちゃうの? お、俺が朝約束破って、ドアノブ壊したから?」
「違うよ、ミルくん。元々契約期間が決まっていたし、私も一年で辞めるつもりだったの」

 ミルくんがあらぬ誤解をしそうだったから、あわててそれを否定した。そう思われてしまうのは申し訳ない。

「辞めてどうする。この仕事、金はいいだろ。他で稼ぐよりいいはずだ」
「故郷に帰ります。確かにここで働けばお金はたくさん貰えますけど、叶えたい夢があって。だから一年間ここで働いてお金を貯めて故郷に帰ろうと思っていたんです」

 隊長も隊長で渋い顔をして今後の事を聞いてくる。心配……してくれているのかな? 案外隊長は面倒見がいいから、私の幸先が心配なんだろう。
 でも、ずっと前、王都に出稼ぎに来る前から決めていたことだし、この夢は子供からの年季ものだ。いまさら予定は変えられない。

「…………夢って?」

 ぽつりとイグニスさんが聞いてきた。他の二人も興味津々だ。
 私はちょっと照れ臭かったけれど、正直に答えた。

「あのね、私、故郷で定食屋さんを開くのが夢なんです。お値段リーズナブルで誰もが入りやすくて親しみやすいお店を開きたくて。そのための開店資金も貯まりましたし、毎日料理をし続けたおかげて腕も上がりました。だからそろそろ夢に向かって動き出そうと思って」

 家族がおらず孤児院で育った私は、絶対人がたくさんいるところで働きたいって思っていた。いろんな人の笑顔に出会って楽しく過ごせるよな場所。そんな場所を作りたくてずっと夢見ていたんだ。
 だからここでの生活はいつも人の気配を感じられて嬉しかったし、私の作ったご飯を美味しいと言ってくれる人がいる喜びを日々噛み締めていた。イグニスさんの食欲に料理の腕も随分と鍛えられたからね。

「もう上の人には言ってあるんです。後十日で働き始めてちょうど一年になりますし、契約更新せずにこのまま辞めようと思います。安心してください。もう後任の人を探してもらっているので、入れ違いでその人が入ると思います」

 アフターケアはばっちり。

 この三人との約束事と留意点とかも後任の人に引き継ぐ予定だし。何も問題なくあの屋敷を去ることができるようにするつもりだ。

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