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しおりを挟む「俺がね、二人に言ったら二人とも賛同してくれたんだ!」
「別に俺は嫁は誰でもよかった。隊長が決めたのならそれに従うまでだ。お前であろうとなかろうと、俺にはさしたる問題じゃない」
「嘘だね、イグニス! お前、『飯が上手いからいいじゃないか?』って言ってたじゃん!」
「…………それは、別にカレンがいいって言ってるわけじゃなくて、こいつの作る飯がいいって言ってるわけで」
ズバッと言ったミルくんの言葉に、イグニスさんがそっぽを向いて言い訳をブツブツと言っていた。
いや、だから別に嫌だったら嫁にしなくも……って、そうはいかないんだよね。そういうルールだし、隊長が賛同するならイグニスさんにノーはないからね。
「俺も、カレンがいいって思ってた。お前だけだよ。俺たちの家族になると考えたときに、何の違和感がなかったのは。すんなりと一緒に生活する姿を思い浮かべることができた。だから、このままここを辞めずに俺たちと一緒に暮らそう。俺たちの嫁として、ここにいてほしい」
隊長も隊長でこの嫁とりには乗り気なようで、口説くような甘い言葉を言ってくる。
三人が三人とも私を嫁に求め、そしてその気持ちを言葉にしてくる。何だか面映ゆくて、顔が真っ赤に染まってしまった。こんなこと初めてでどうしていいか分からない。
顔だけじゃなくて身体中が熱くなって、いまだに隊長に触れられている胸が息苦しかった。動悸が凄くてそれが隊長まで伝わっていきそうで、たまらず顔を背けてその羞恥に耐える。
私、どうしたら……。
と、雰囲気に呑まれそうになったところで我に返った。
どうしたら……じゃない!
嫁になんかなれるはずもない。夢を叶えるためにここまでやってきたんだ、ここで流されてそれを潰えさせてはいけないのだ。うん、いけない。
だから、私は気をしっかり持って向き直った。
「お、お気持ちは大変ありがたいんですが、私にはさっきも言った通り夢がありますからここで頷くわけにはいきません。私は故郷に帰って、ここにはまた別の人が来ます。それはもう決定事項なんです」
これは覆さない。もうここに来る前から決めていたことだし。
もちろん、こんなに嬉しい話はないだろうし二度とモテるなんてことはないだろうから、大変もったいない話なんだけどね。でも、簡単に捨てられるような夢でもなかった。
両天秤をかけたら夢の方がわずかに重くて、ゆっくりとそちらに傾いていた。
「ダメ……? 本当にダメ? カレンちゃん……」
ミルくんが泣きそうな声を出す。
私も泣いてしまいそうだよ……。
その声にぐらりと心が揺れる。
「で、でもミルくん……私は……」
「嫌い? 俺たちのこと、……嫌い?」
ずるい。その聞き方はずる過ぎる。
嫌いだなんてありえないし、そういう理由で断っているわけじゃない。
多分、この夢がなければ『もう少し待って。考えさせて』と答えを変えていただろう。ここまではっきりはしなかった。……今もちょっと揺れてしまっているけれど。
「嫌いじゃないよ、ミルくん」
首を横に振ってきっぱりと否定する。
嫌いだったら、今頃ここでこうしていなかった。とっくの昔に転職して、資金集めに悲鳴を上げていただろう。
「じゃあ、好きか?」
今度は、隊長がずるい質問をしてくる。またもや答えに詰まって押し黙った。
ここで好きだと言ったらどうなるのだろう。
好きならいいじゃないかって言われるんだろうか。そしてこのまま流される?
かと言って、自分の気持ちに嘘は付けない。
嘘でも好きじゃないなんて言えるわけがなかった。
だから、ゆっくりと縦に首を振る。
素直に、自分の気持ちを表すように。
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