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愛人もOKだなんて聞いてません。
(14)
しおりを挟む次に目を覚ました時は、翌朝……というか昼近く。
どうやら随分と寝てしまっていたらしい。
もう随分と慣れてしまった状況に肩を下ろしながら、ベッドから這い出た。
――――うぅ。また家事をさぼってしまった。
みんなは無理させたからと、いつも私が寝坊しても赦してはくれるけれど、やっぱり申し訳ない。もっともっと体力をつけなければならないと、毎度反省するのだ。
罪悪感を背中に背負って身支度を整えて食堂に下りる。
するとミルくんが待ってましたとばかりに扉の前で待ってくれていた。
「あ! カレンちゃんおはよ~!」
そう満面の笑みで近づきながら、彼の目線はずっと私の唇に釘付けだ。それどころか、両手で頬を掴んで、まじまじと唇を観察し始めた。
「あ~! やっぱり~! 隊長、俺がいないからってめっちゃキスしたでしょ~?! カレンちゃんの唇ちょっと荒れてるんだけどっ」
ぷりぷりと怒りながらミルくんは隊長に文句を言っているけど、でもね、ミルくん。この唇の水分を奪っているのはほとんどミルくんなんだよ? その名残でそうなっている部分もあるんだよ?
そう心の中で突っ込みを入れる。
けれどもすべて隊長のせいだと思ったミルくんは、面白くなさそうな顔をして私の唇をぺろりと舐めてきた。
「保湿!」
ぺろぺろと何度も私の唇を舐める彼は、まるで犬のよう。だんだんと舐めるだけではなくなったミルくんは、結局いつの間にか私の唇に吸い付いて、いつものようにキスをしていた。
「カレンちゃんとキスするのは今日は俺! 俺だけのカレンちゃんの唇!」
きっと当分は私の唇の荒れは治らないんだろうなぁ。
「……ふぅ、ンっ」
私はミルくんの唇を受け入れながら心の中で笑った。
そして、イグニスさんも今日はずっと私の手にご執心で、ミルくん同様ずっと離してはくれなかった。食事以外はずっとイグニスさんは私の手を触っては舐めて口に含んで弄ぶのを繰り返し、ミルくんもいつもより多くキスを落とす。
もう家事どころの話ではなくなってしまっていた。
「んで? 隊長のを最後まで受け入れてどうだった? 気持ちよかったか?」
そんな中、イグニスさんが至極真面目な顔をしてそんなセクハラまがいに聞いてくるのだから、これまた困った話で。彼も彼で、本気で聞いているから適当に誤魔化す事も出来ない。
いまだに彼のその言葉がどちらへの嫉妬なのかが分からない。
もしかすると両方なのかも?
「今日は俺らがカレンちゃんを独り占めしちゃうもんね! 隊長は今日はダメ~!」
「はいはい。分かったよ、ミル。俺は今日一日家の事をするから、思う存分いちゃつけ」
「俺は別にいちゃついているわけじゃ……」
「イグニス、お前今さら何言ったって説得力ねぇぞ。そんなにうまそうにカレンの指しゃぶっといてよぉ」
とりあえず三人にちゃんと愛されているのは、間違いないようです。
――――ならば私も、この気持ちを形にして示したい。
そう思うようになった私は、二週間後、みんなが任務のために家を空けてしまう前日にそれを実行した。
みんなを食堂に集めて椅子に座らせて、目の前に一人二つずつ贈り物を置いたのだ。
「カレン……これは……」
目の前に置かれたものを見て一様に目を丸くして驚いていた。そんな中、隊長がようやくかすれた声で私に聞いてくる。
「お守りです」
私が簡潔に答えると、戸惑ったかのようにまた贈り物に目を落とした。
「こっちの腕輪はこの国で一般的に贈られるお守りです。プレートにそれぞれの名前と、裏に私の名前を刻みました」
本当は贈る相手の名前だけを彫るのだけれど、時には命の危険も伴う仕事をする彼らの側に名前だけでもいいからいたいという、私の気持ちから裏に私の名前を彫った。遠くにいても心が繋がっていられるように。
――――そしてもう一つ。
「こちらの短剣は、みんなの命を守るようにと祈りを込めて贈らせていただきます。みんなのお守りを、命を預けていただきましたので、代わりにその身に危機が迫った時にその短剣で命を守る事ができるように、必ず無事に家に帰ってきますようにと願いを込められています」
既製品だけど、店で厳選に厳選を重ねたものだ。短剣の大きさは同じものの、デザインとかは一人ひとり違うものを選んだ。
いただいた『ズェシュラハーンの御剣』のように神の加護はないかもしれないけれど、でも私の三人を思う気持ちはたっぷりと、これでもかってくらいに込められている。
「ありがとう、カレン」
「めちゃくちゃ嬉しい、カレンちゃん」
隊長とミルくんは喜んでくれた。
ズェラに嫁から短剣を贈り返すという風習はないようだけれども、だからといって拒絶することはなかった。快く受け取ってくれたのだ。
けど、一人、ずっと戸惑ったまま短剣を見つめている人がいる。
私はそんなイグニスさんの側に行き、彼に贈った短剣を取って手に握らせた。
「先に私から贈らせてください。そして気持ちが決まったら、イグニスさんの短剣をください」
「…………」
「待ってますね」
イグニスさんはじぃっと手の中の短剣を見下ろして黙りこくった。
けれども、その顔は嫌なものではなく、言葉にならないといった感じだ。
そして、フッと顔を綻ばせて私を見る。
「ありがとう」
初めてだった。イグニスさんが私にこんな崩した顔を見せたのだ。
笑ってお礼を言う彼は、私の贈り物を喜んでくれている。そう実感するだけで何だか涙が出そうになって、私もまたくしゃりと相好を崩した。
「改めて家族としてよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた私にミルくんが抱き着き、イグニスさんが肩に手を置き、隊長が頭を撫でてくれる。
私は初めてできた家族に、言葉にできないほどの幸せを感じていた。
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みんなの感想(6件)
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隊長さん、絶倫なのね。
描写がエロくて………。
ありがとうございます!
描写がエロい……最高の褒め言葉です!
5.6順番が逆になってます。
ありがとうございます!
修正しました!
感想ありがとうございます!
イグニスに関してですが、隊長とミルに比べて心境としては複雑なので、カレンに対しては素直になりきれない部分はあると思います。それがぶっきらぼうな口調に現れたり、辛辣な言い方につながっていっているところがあります。
基本隊長が大好きで隊長(と、少しミル)しか信用できないイグニスが、同等に心を預けられそうな相手となったカレンを試しているというのもあるでしょう。
そこらへんはネタバレになってしまうので詳しくは控えますが、そのうちイグニスのお話とかで明らかにしていければなぁと思います。