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同期に告白された残業の夜(2)
しおりを挟む「もう三か月だろ? 俺としてはそろそろ大丈夫だと思ったんだけど……見込み違いか?」
「いや……別に、もう歩のことは引きずってはいないけど……」
「ふむ。なら、口説いてもいいか?」
「えーと……ちょっと待ってくれる?」
混乱している。
私が元カレを引きずってないと外崎が私を口説くってどういうこと?
え? 外崎って……
「…………私が好きだったりするの?」
まどろっこしいことが嫌いな私はストレートに聞くと、外崎もよどみなく頷いた。
「もう五年の片思いだ」
「五年って……入社時から? 出会ってすぐじゃん!」
「そうだな。自分でも相当お前に惚れこんでいると思う」
「…………そ、そう」
何と言っていいのか分からず、私は気の抜けた返事を返した。
今の今まで一番会社で仲のいい同期だと思っていた男が、私を好きだと言い長い間片思いをしていたと言うのだ。唖然とするしかない。
告白されたからには私は返事を返さなければならない。
けれども、もちろんイエスと言うわけにはいかなかった。
「えっとさ……正直な話、私、外崎のことをそういう目で見たことないんだよね」
「知ってる。お前はずっと彼氏しか見てなかったもんな」
「おっしゃる通りです……」
今になって私を捨てたあの元カレに夢中だった話を持ち出されると悶絶するほど恥ずかしいし、奴しか見えていなかった盲目な自分を殴ってあげたい。
そんな羞恥プレイを受けて神妙な顔になった私を見て、外崎は『別に悪いことじゃないだろ』と言ってきた。
こういうところが彼が他の女性にもてる要因なのだ。
さり気ない慰めが悔しいほどに様になるし、選ぶ言葉が的確過ぎる。
「お前が俺を男として見てないのは重々承知している。毎日お前を余すことなく見てきたからな」
「余すことなくって……変な表現しないでよ」
「事実だ」
これが本当に真面目に言っているってのがこの男のタチの悪いところで、恥じらいもなしに褒めたり自分の正直な気持ちを言い表したりするから女性はその気になってしまう。
今までその毒牙にかかったこともなく高みの見物をしていた私は、いざ我が身になれば情けないほどにたじたじ。
本当に罪つくりな男だ。
「えっと……だからさ、…………ごめんなさい?」
「いや待て。その答えはまだ受け取れない」
「え? どういうこと?」
眉一つ動かさず外崎は私の目の前に手のひらを掲げて待ったをかけた。
受け取れないって、それはイエスしか受け付けないってこと?
それはたとえ外崎だとしても傲慢過ぎない?
私は眉を顰めたが、どうやらそういうことではないらしい。
「チャンスをくれ。それで俺と付き合えるか判断してほしい」
「お試し、的な?」
「一泊二日の泊まりつきデート。セックス込」
「はぁ?! 何それいきなりハードル高くない?」
たとえ付き合い始めたとしても最初のデートで外泊とか経験ないんですけど。
「毎日顔を付き合わせて二人きりで飲みにも食事にも行ってるのに、今さら食事だけしてもしょうがないだろう。チャンスは一回しかないんだ。あえて男女の仲をお前が意識するようなコースで行く」
「はぁ……なるほど」
私は外崎の提案に素直に感心した。
二人で食事にいってそれで終わりってなっても、私の場合はいつもの同期のノリで終わってしまうのが目に見える。
外崎もそんな私の性格を見越しての今回の提案なのだろう。
伊達に長いこと同期をしていない。
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