あなたのすべてが性癖なのです。

ちろりん

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同期に大好きと言った日(3)

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 かと言って、このまま年末を迎えるのもなぁ……。

 昼休み。
 一人でゆっくりと考えたくて私は、一人で食堂の隅っこであまり進まないランチを突きながら考えた。

 あまりこういうのは引き伸ばしたくないというのが私の考え。
 けれども、はっきりとあの性癖を受け入れられるかも分からないのも本音だ。
 外崎も強引にでも奪いに来てくれたのならいいのに。
 まぁ、そう思ってことはまんざらでもないってことなんだろうけれど。

 私が思い悩みながらふと顔を上げると、食堂の入り口付近にいる外崎を見つけた。
 午前中彼は顧客回りをしていて会社にいなかった。帰ってきていたんだ、と思いながら私は何となく彼の動向を見ていた。

 すると、女性が一人彼に近づいてくる。

 彼女はたしか受付にいる可愛い子だ。
 元カレが心を奪われたふわふわ綿菓子みたいな女子力高めな女の子。うちの部署でも人気だったなぁと彼女のデータを頭から引きずり出していた。

 そんな彼女は、外崎に何やら懸命に話しかけているようで、彼はそれに眉一つ動かさず淡々と答えている。
 いつもの光景。今の今までは私が外崎に『おモテになりますねぇ』と茶化すような場面でもあった。

 けれども今はそんな茶化しの気持ちは一切生まれない。
 告白されてから一ヶ月以上外崎を男として意識させられ続けたからか、それとも私の気持ちが変わってしまったのか、大きなモヤモヤが生まれてきていた。

 あ、そっか……。

 私はその光景を見て思い知った。

 もしこのまま外崎を性癖を理由に断ってしまったら、私だけに見せてくれた甘えた顔や嬉しそうな顔、優し気な笑み、驚くほどの気遣いに、興奮した姿も。すべて見られなくなるんだなぁ。
 時間が経てばあのとき私が感じたドキドキや幸せな気持ちを、他の女性が味わうのかと思うと嫌で仕方がなかった。

 ってことはさ、外崎の性癖を差し引いても、私は彼が好きなんだなぁ。
 いつの間にか好きになってしまっていたのだと思い知った。

 私が胸を高鳴らせながら自分の気持ちを再確認していると、いつの間にか外崎がランチを持ってこっちにやってきていた。
 受付の女の子は遠くで恨めしそうな顔で外崎を見ているが、そんなこともお構いなしに彼は私の目の前にやってくる。

「おかえり」
「ただいま。ここ、座っていいか?」

 もちろん断る理由もなく、私はどうぞと頷いた。

 今日の外崎は天麩羅蕎麦。結構麺類が好きで、ランチもその割合が高いかもしれない。
 人参が食べられなくて、ここのかき揚げには人参が入っていないから助かるとも言っていた。できればレンコンの天麩羅も食べたいけれど、メニューにないからしょうがないともぼやいていたなぁ。

 今まで彼の性癖は知らなかったけれど、その他はいろんなことを知っている。
 食べ物の趣味や癖、行きつけの店や好きなブランド。家族の話もしたっけ。ときどき学生時代の話や友達の話もしてくれたし、私も同様に外崎にした。
 この五年、多分元カレよりも一緒にいる時間は多かった。
 一緒に残業することも多かったし、仕事の悩みも聞いてくれて一緒に悩んでくれて。
 それだけずーっと一緒にいても、私は外崎と一緒にいるのに飽きたり嫌な思いをすることはなかった。

 たしかに彼の性癖は……大変だ。
 でもそれを補って余りあるほどに、外崎と一緒にいる楽しさや喜びを私はもう知ってしまっていた。

 もう後戻りできないほどに。

「あのさ、外崎」
「何だ」
「ここで言うのも何だけど、私、外崎の告白を受けようと思って」

 私がそう言うと外崎は蕎麦を食べる手をいったん止めて私を見つめ、いつもと変わらぬ顔で『そうか』と言ってきた。

 『そうか』って……それだけ?
 拍子抜けだ。

「もっと喜んでくれてもいいんじゃない?」
「これでもかなり喜んでいる」

 全然見えないんだけど。
 いつもと変わらない外崎にしか見えない。

 けれど彼は蕎麦を食べるのをやめて、私をずっと見つめている。
 こういう微細な変化が彼の気持ちを表しているということなんだろうか。

 私は彼の澄ました顔をあえてここで崩してみたくて、ニヤリと笑う。

「大好きだよ、譲」
「…………っ!」

 外崎が箸を落とす。
 その姿が思った以上に愛おしい。

「言ってほしい言葉、第一位だっけ? これからはいくらでも聞かせるから、覚悟してよ?」

 外崎の目元がほんのりと赤く染まる。

「…………顔がにやけるのが止まらない」

 崩れた顔を隠すように手で覆う外崎は、とてもとても私の性癖に突き刺さった。


 年越しに二人で過ごした私は、先日のセックスを録音したものを聞かされながらセックスするというとんでもないプレイをさせられて、『もう一度お付き合いを考えさせてください』と言うことになるが、それはまた別の話である。

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