【完結】呪われ作家と、小さなワケあり霊能者

餡玉(あんたま)

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14 天緒の生い立ち

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「……なるほどな、そういうことだったのか」
「あとですね、ぼくは父の愛人が産んだ息子なので、そもそもあの寺に居場所がありません。親戚たちも、ぼくがこっちに引っ越すことになってほっとしているみたいです」
「あ、愛人の子? えっと、それはどっちの天緒くんが?」
「生まれ変わったぼくのほうです。長男だったぼくが若くして死んでしまって、実家はかなり大変だったらしいです。そこへ突然、父親に隠し子がいることが発覚して、大騒動だったと……」

 ちら、と天緒が桂人を見やる。
 桂人は、思い出したくもないといった様子で目を伏せ、眉間に深く皺を刻んでいた。

「俺は当時高校生やった。兄さんのような強く立派な能力者になりたくて、修行に明け暮れていた。知らせを受けたときはほんまにショックやったなぁ」

 桂人はゆるりと首を振り、長いため息をついた。

「そこへきて親父の隠し子発覚。高齢のくせに若い女に引っかかって何をしてんねやと、お袋は鬼も泣いて逃げ出すんちゃうかっていう剣幕で大激怒や。それに親父も親父や。心臓を悪くして入退院を繰り返してたのに、そこで世話になった若い看護師さんにベタ惚れして……挙句隠し子つくってぽっくり死んで……ほんまに地獄やった」
「そ、それは……大変だったんだな、君も……」

 蓮堂家の大騒動を思うと、桂人の気苦労が偲ばれる。
 だが桂人はふと唇に笑みを浮かべた。

「突然できた腹違いの小さな弟が、突然『ぼくは天緒だ』と言い始めましたんや。はじめは何の冗談やと思ってたけど、俺と兄さんしか知らんことをペラペラと話し出しましてね。びっくりしたけど、あんときは嬉しかったなぁ」
「でもぼくのお母さんは、突然前世を思い出したぼくを気味悪がって家を出ていってしまいました。頑張って子どもらしさを演じてみてはいたけど、ダメで。それまでは可愛がってもらっていたから、ものすごく申し訳なくて……」
「それだけちゃうって。お袋や親戚からの冷たい目に耐えられへんかったんやろ。まだ二十代前半とかやったしな」

 珍しく寂しげに目を伏せた天緒を慰めるように、桂人がそう言った。
 想像するのは難しいが、わかる気はする。
 我が子が突然、人が変わったように大人びた口調で話し出したら、親は当然混乱するだろう。魂や肉体を奪ったわけではないにせよ、愛らしい我が子が違う人間になったと感じてしまったら……。

 つくづく複雑な事情を抱えていたようだ。
 天緒に感じていた違和感はきれいに拭い去れたものの、天緒は天緒でさまざまに悩むことがあったのかと思うと気の毒で、少ししんみりしてしまう。

「ほとぼりが冷めるまで家を出たいと言ったのはぼくからなんです。それならもう、過去のしがらみは忘れて新しい人生を歩みなさいと母に言われました。あ、魂の上では実母なんですが、ぼくの肉体は愛人の子なので、母さんもかなり複雑な心境みたいで……」
「うん、うん……僕もまだ混乱しているよ……」

 脳内で家系図を描きながらなんとか理解した律である。額を押さえていた人差し指をゆっくり膝に戻し、律は蓮堂兄弟を交互に見比べた。

「それで一人暮らしをしていたのか。名門校に通っているのはお母様の希望かい?」
「いえ、せっかくなら、地元のお偉方の子息が通う学校に入って、幼いうちから人脈を育てておこうと思いまして」
したたかだな……」

 律は素直に感心した。確かに、こういう仕事を続けていくのなら人脈は多いほうがいいだろう。

「ところで、深澄さん」
「あ、はい」
「私にも、三途の川の石というのを見せてもらえませんか?」

 ずい、と桂人が身を乗り出してくる。ローテーブルを乗り越える勢いで端整な顔が近づき、律は思わずのけぞった。

「あ、はい。いいですけど……」
「のんびり眺めてる暇はないよ、桂人。あれは早く黄泉の世界へ戻さなきゃならないものだ」

 興味津々といった様子の桂人諌めるように、天緒が冷静な声でそう言った。
 そして天緒はソファに座る桂人のそばへ近づいて、和服の膝の上にある桂人の手をぎゅっと握りしめる。

「に、兄さん?」
「力を貸して、桂人」

 子どもらしからぬ凛とした声に、桂人の背筋が伸びる。

「あの石は、うつにあってはいけないものだ。異界へ渡り、あの石を返しに行こう」
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