異聞白鬼譚

餡玉(あんたま)

文字の大きさ
上 下
72 / 338
第三幕 ー厄なる訪問者ー

三、怪しい小僧

しおりを挟む
 この城だ。この城の中から、ものすごい妖気を感じる。

 山を抜け、町の片隅で一晩過ごした旅装束のその者は、三津國城の門前に来ていた。小柄な身体に大きな編笠という不釣合な格好、黒の着物と袴はあちこち破れ砂埃に汚れ、近くを通り過ぎる人々には胡散臭げな眼差しを向けられる
 そんなことはお構いなしに、その人物は門を守る二人の兵に近づいて行った。


「怪しい奴、何の用だ」
 二人は厳しい顔を更に渋くして、手にした薙刀をその者の前に交差させ、行く手を阻む。
「私は、旅の者でござんす。この城の中から、不穏な気を感じるのですが、何かお困りなことはあるまいか」
 二人は目を見合わせて、「不穏なのは貴様だ。この城は守られている。とっとと帰るがいい」「そうだ、小汚い輩に気にしてもらう謂れもない、帰れ」と、にべもなく言い渡す。
 その者は、ふと自分の服装を見下ろしてはたと気付く。ぼろぼろに汚れた装束に、擦り切れた草履……必死でここまで来たため、格好などには構っている余裕などなかったが、たしかに怪しまれても不思議ではない汚らしい格好だ。

「しかし、何か起こってからでは……」
「しつこいぞ、この国は軍神様に守られているのだ。余計な世話は結構だ」
「軍神……?」
「おい、あんまり外の者に言うなと命令されているだろ」
 口を滑らしたらしい兵が、もう一人の男にたしなめられている。その男は咳払いをすると、さらに大声で言った。

「とにかく! もうね! こんな怪しい奴、城に入れるわけにいかぬ!」
「……また、来ます」
 その者はその場から一旦引きつつも、"軍神"という言葉に引っ掛かりを覚えていた。


 神なものか、これはただならぬ妖気である。
 彼らもひょっとしたら操られているのではないだろうか……?

 旅人は顎に手を当てて考えながら、城下町を歩き始めた。どこか、城の中を覗ける場所がないかと探しながら。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

野垂れ死ねと言われ家を追い出されましたが幸せです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:20,980pt お気に入り:8,714

琥珀に眠る記憶

BL / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:508

【完結済】堕ちた神父と血の接吻

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:107

職業村人、パーティーの性処理要員に降格。

BL / 完結 24h.ポイント:205pt お気に入り:533

明日はきっと

BL / 連載中 24h.ポイント:4,878pt お気に入り:1,101

アプリで知り合ったイケおじと××する話 完結

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:64

鳴かない杜鵑-ホトトギス-(鳴かない杜鵑 episode1)

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:56

一年後に死ぬ予定の悪役令嬢は、呪われた皇太子と番になる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,558pt お気に入り:932

毒を喰らわば皿まで

BL / 完結 24h.ポイント:6,624pt お気に入り:12,777

処理中です...