26 / 32
あやしい薬は適量で【セス視点】
2 新たな力の使い方
しおりを挟む
——クリスがノクトの周りをちょこまかとうろついているのは嫌だけど、そこだけは感謝せざるを得ないな……
稀有な『氷の魔術師』について研究したくてしたくてたまらなかったクリスは、ノクトに危険性がないとわかるやいなやベタベタベタベタとノクトに絡みまくってくる。
表向き、近衛魔術師は王族に次ぐ高位な存在なのでクリスに文句は言えない。もしクリスに苦言のひとつでも呈そうものなら俺がきつい処罰を受けねばならない。
だが、クリスは魔術研究にのみ関心が強く立場にこだわるタイプではないため、多少の無礼には目を瞑ってくれている。いやむしろ、俺の牽制を楽しんでいるきらいもある。
それにクリスは王宮騎士団の同輩、レナードの実兄だ。はからずとも、最近はウィンラム兄弟との付き合いが増えている。
——それはさておき、王立植物園の研究者たちは『寒冷地に育つ薬草育成のため』にノクトの力を求めてきた。
幼い頃から薬草や植物に関心があったノクトは喜んでこの依頼を受け、ときに薬の調合に意見を聞かれるほど、王立植物園の面々とは親しくなった。
俺と離れ離れになっている間、力のみを求められ、ひどく孤独に過ごしていたノクトのこれまでを想う。ノクトは否定するけれど、俺のせいでノクトに魔力が発現したのは明らかだ。俺が迂闊な行動をしたから、十五歳のノクトと十歳の俺は、離れ離れになった。
ノクトのいない十年間は、俺に課せられた罰だった。
会いたくて、会いたくてたまらなかった。ノクトのことが心配で、俺の手の届かないところでノクトの身になにかあったらと想像するだけで身悶えするほど苦しかった。怪我や痛みといった苦痛がノクトにもたらされたとき、その苦しみが俺にも降り注げばいいのにと思っていた。俺がノクトの痛みを肩代わりできたらどんなにいいだろうと。
幼い頭で、ノクトのそばで戦うためにはどうすればいいのか必死で考え、がむしゃらに行動した。
念願は叶い、俺たちは再会を果たした。
そして今はこうして少しずつ、魔術師として、ひとりの人間として、エルシャルオンの人々に受け入れられている。
ノクトの唇に穏やかな笑みが浮かんでいるのを見つけるたび、俺はとても安堵するのだ。
——これからもずっと、俺はノクトのそばにいる。必ずこの笑顔を守り抜く。
心の中で誓いを新たにしていると、熱心に薬草学について語っていたノクトが、不意にこちらを見上げて笑顔を見せた。
「セス? 聞いてる?」
「……え? ああ、ごめん。ノクトの横顔に見惚れてた」
「へっ」
不意打ちの愛らしい笑顔が眩しくて、つい正直に思っていたことを囁くと、ノクトの頬がポッと薔薇色に染まる。恥ずかしそうに目を伏せて、ノクトは早口にこう言った。
「……こ、こら、セス。こんなところでなんてことを言うんだ。ちょっと前の僕だったら、全身からつららが飛び出してたかもしれないぞ」
「みんな議論に熱心だ。誰も聞いていないよ」
「そうかもだけど……ああ、顔が熱い」
火照った頬に両手を添えつつ、ノクトは気を取り直すように立ち上がった。照れ屋なノクトもすこぶる可愛い。
改めて、恋人のかわいらしさを噛み締めながらゆっくりと立ち上がったそのとき、低温植物管理室の扉が突然パッと開かれた。
稀有な『氷の魔術師』について研究したくてしたくてたまらなかったクリスは、ノクトに危険性がないとわかるやいなやベタベタベタベタとノクトに絡みまくってくる。
表向き、近衛魔術師は王族に次ぐ高位な存在なのでクリスに文句は言えない。もしクリスに苦言のひとつでも呈そうものなら俺がきつい処罰を受けねばならない。
だが、クリスは魔術研究にのみ関心が強く立場にこだわるタイプではないため、多少の無礼には目を瞑ってくれている。いやむしろ、俺の牽制を楽しんでいるきらいもある。
それにクリスは王宮騎士団の同輩、レナードの実兄だ。はからずとも、最近はウィンラム兄弟との付き合いが増えている。
——それはさておき、王立植物園の研究者たちは『寒冷地に育つ薬草育成のため』にノクトの力を求めてきた。
幼い頃から薬草や植物に関心があったノクトは喜んでこの依頼を受け、ときに薬の調合に意見を聞かれるほど、王立植物園の面々とは親しくなった。
俺と離れ離れになっている間、力のみを求められ、ひどく孤独に過ごしていたノクトのこれまでを想う。ノクトは否定するけれど、俺のせいでノクトに魔力が発現したのは明らかだ。俺が迂闊な行動をしたから、十五歳のノクトと十歳の俺は、離れ離れになった。
ノクトのいない十年間は、俺に課せられた罰だった。
会いたくて、会いたくてたまらなかった。ノクトのことが心配で、俺の手の届かないところでノクトの身になにかあったらと想像するだけで身悶えするほど苦しかった。怪我や痛みといった苦痛がノクトにもたらされたとき、その苦しみが俺にも降り注げばいいのにと思っていた。俺がノクトの痛みを肩代わりできたらどんなにいいだろうと。
幼い頭で、ノクトのそばで戦うためにはどうすればいいのか必死で考え、がむしゃらに行動した。
念願は叶い、俺たちは再会を果たした。
そして今はこうして少しずつ、魔術師として、ひとりの人間として、エルシャルオンの人々に受け入れられている。
ノクトの唇に穏やかな笑みが浮かんでいるのを見つけるたび、俺はとても安堵するのだ。
——これからもずっと、俺はノクトのそばにいる。必ずこの笑顔を守り抜く。
心の中で誓いを新たにしていると、熱心に薬草学について語っていたノクトが、不意にこちらを見上げて笑顔を見せた。
「セス? 聞いてる?」
「……え? ああ、ごめん。ノクトの横顔に見惚れてた」
「へっ」
不意打ちの愛らしい笑顔が眩しくて、つい正直に思っていたことを囁くと、ノクトの頬がポッと薔薇色に染まる。恥ずかしそうに目を伏せて、ノクトは早口にこう言った。
「……こ、こら、セス。こんなところでなんてことを言うんだ。ちょっと前の僕だったら、全身からつららが飛び出してたかもしれないぞ」
「みんな議論に熱心だ。誰も聞いていないよ」
「そうかもだけど……ああ、顔が熱い」
火照った頬に両手を添えつつ、ノクトは気を取り直すように立ち上がった。照れ屋なノクトもすこぶる可愛い。
改めて、恋人のかわいらしさを噛み締めながらゆっくりと立ち上がったそのとき、低温植物管理室の扉が突然パッと開かれた。
34
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない
天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。
「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」
――新王から事実上の追放を受けたガイ。
副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。
ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。
その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。
兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。
エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに――
筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。
※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。