氷の魔術師は王宮騎士の愛に甘く蕩ける

餡玉(あんたま)

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あやしい薬は適量で【セス視点】

2 新たな力の使い方

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 ——クリスがノクトの周りをちょこまかとうろついているのは嫌だけど、そこだけは感謝せざるを得ないな……

 稀有な『氷の魔術師』について研究したくてしたくてたまらなかったクリスは、ノクトに危険性がないとわかるやいなやベタベタベタベタとノクトに絡みまくってくる。
 
 表向き、近衛魔術師は王族に次ぐ高位な存在なのでクリスに文句は言えない。もしクリスに苦言のひとつでも呈そうものなら俺がきつい処罰を受けねばならない。
 だが、クリスは魔術研究にのみ関心が強く立場にこだわるタイプではないため、多少の無礼には目を瞑ってくれている。いやむしろ、俺の牽制を楽しんでいるきらいもある。
 それにクリスは王宮騎士団の同輩、レナードの実兄だ。はからずとも、最近はウィンラム兄弟との付き合いが増えている。
 
 ——それはさておき、王立植物園の研究者たちは『寒冷地に育つ薬草育成のため』にノクトの力を求めてきた。
 幼い頃から薬草や植物に関心があったノクトは喜んでこの依頼を受け、ときに薬の調合に意見を聞かれるほど、王立植物園の面々とは親しくなった。
 
 俺と離れ離れになっている間、力のみを求められ、ひどく孤独に過ごしていたノクトのこれまでを想う。ノクトは否定するけれど、俺のせいでノクトに魔力が発現したのは明らかだ。俺が迂闊な行動をしたから、十五歳のノクトと十歳の俺は、離れ離れになった。
  
 ノクトのいない十年間は、俺に課せられた罰だった。
 会いたくて、会いたくてたまらなかった。ノクトのことが心配で、俺の手の届かないところでノクトの身になにかあったらと想像するだけで身悶えするほど苦しかった。怪我や痛みといった苦痛がノクトにもたらされたとき、その苦しみが俺にも降り注げばいいのにと思っていた。俺がノクトの痛みを肩代わりできたらどんなにいいだろうと。
 
 幼い頭で、ノクトのそばで戦うためにはどうすればいいのか必死で考え、がむしゃらに行動した。
 念願は叶い、俺たちは再会を果たした。
 
 そして今はこうして少しずつ、魔術師として、ひとりの人間として、エルシャルオンの人々に受け入れられている。 
 ノクトの唇に穏やかな笑みが浮かんでいるのを見つけるたび、俺はとても安堵するのだ。

 ——これからもずっと、俺はノクトのそばにいる。必ずこの笑顔を守り抜く。

 心の中で誓いを新たにしていると、熱心に薬草学について語っていたノクトが、不意にこちらを見上げて笑顔を見せた。

「セス? 聞いてる?」
「……え? ああ、ごめん。ノクトの横顔に見惚れてた」
「へっ」
 
 不意打ちの愛らしい笑顔が眩しくて、つい正直に思っていたことを囁くと、ノクトの頬がポッと薔薇色に染まる。恥ずかしそうに目を伏せて、ノクトは早口にこう言った。
 
「……こ、こら、セス。こんなところでなんてことを言うんだ。ちょっと前の僕だったら、全身からつららが飛び出してたかもしれないぞ」
「みんな議論に熱心だ。誰も聞いていないよ」
「そうかもだけど……ああ、顔が熱い」
 
 火照った頬に両手を添えつつ、ノクトは気を取り直すように立ち上がった。照れ屋なノクトもすこぶる可愛い。
 改めて、恋人のかわいらしさを噛み締めながらゆっくりと立ち上がったそのとき、低温植物管理室の扉が突然パッと開かれた。
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