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あやしい薬は適量で【セス視点】
3 近衛魔術師団長・クリスの来訪
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「お邪魔するよ」
「わぁっ、クリス様! どうなさったんです、こんなところに来られるなんて!」
素早い身のこなしで管理室の扉をすぐさま閉め、ユリアが目を丸くしている。
背後にふたりの騎士を従えた近衛魔術師団長のクリスは、紳士然とした所作でユリアの手を取りキスを落とした。彼が身を屈めると、高いところでゆわえた艶やかな赤毛がさらりと肩から落ちる。
「ノクトがここにいると聞いてね! 彼の仕事がどういった成果を上げているのか視察にきたんだ!」
「ああ、そうでしたか~! でもあと数分お待ちください、今からノクト様にお力を奮っていただくところですので」
「へぇ、そうなの? 私も協力しちゃおうかな」
貴族のご婦人たちには大人気のクリスだが、研究者のユリアはさほどクリスに関心はないようだ。キビキビと事務的にノクトの協力によって得られた成果をクリスに伝えているが、当のクリスは「ふんふん」と適当に相槌を打ちつつ管理室の中をぐるりと見回している。
そして、ノクトを見つけてパッと目を輝かせた。
クリスは形のいい唇をきゅっと吊り上げ、ユリアの傍をすり抜けてノクトにずんずんと近づいてきた。
つい条件反射ですっとノクトの前に立ち塞がると、進路を塞がれたクリスが、ややムッとしたような顔になる。
「やあセス、いたんだ。僕はノクトと話がしたいんだよね、どいてくれない?」
「お話ならこのままでもできるでしょう。どうぞ」
「セス、セス、何やってるの。前が見えないよ」
花壇と花壇の間に立ち塞がる俺の背後から、ノクトがひょこっと顔を出す。
するとわかりやすく、クリスがはしゃいだような笑顔になった。確か俺より十五ほど年上だったはずだが、無邪気すぎてまるで子どもみたいな人だ。
「やあノクト。ユリアがね、ここの壁を氷で覆ってほしいんだって。私も手伝うよ」
「あ、そういうことになったんですね。わかりました」
「そういうわけだから、セスはどいてなさい。ほら、私は近衛魔術師団長だよ? 命令だよ?」
「……わかりましたよ」
緋色の軍服の胸に手を当ててふんぞり返り、ニヤリと笑うクリスだ。立場を改めて口にされると逆らえない。
俺がすっと身を引くと、後ろから進み出てきたノクトの肩をクリスが親しげに抱き寄せた。
「さぁ、やろうか! 私がこの壁全体に水膜を張ってあげるから、バッキバキに凍らせてくれたまえ!」
「了解です」
さりげなくクリスの手を払いのけつつ、ノクトは両手を軽く握ったり開いたりと準備を始めた。
まるで楽団の指揮を執るようにクリスが優雅に両手をしならせると、壁の下部分からみるみる澄んだ水が湧き上がり、それが天井までを覆っていく。まるで生き物のようにふるふると揺れながら。
研究者たちの口から「わぁ~」と歓声を上がると、クリスは嬉しそうに微笑んだ。
「さあノクト、君の出番だよっ!」
「はい。みなさんは壁から離れていてください」
一人盛り上がるクリスとの温度差を気にする様子もなく、ノクトは淡々とした口調で研究者たちを部屋の中心部に集めた。
そして両手を高く掲げ、静かに深呼吸をひとつ。
「わ……すごい……」
ピキ、パキ……と微かな音を響かせながら、壁と天井を覆う水の膜が凍りつき始めた。
透明度の高い水晶のように美しい氷に覆われた煉瓦造りの研究室の中、部屋を見回す研究者たちの吐息が白く煙った。
「うん、見事なものだ! さ、これで仕事は終わりだね」
「ご協力感謝します。お話とは何でしょう?」
「ま、ここは寒いから外でお茶でも飲もう。さあ行こうか!」
クリスは白い息を吐きながら意気揚々とノクトを連れて研究室を出ていく。
背後では、研究者たちがガタガタ震えながら「す、すごい、こんなこともできるんですか……!! わぁ~……これなら、もっと広い部屋でたくさんユキミ草を育てることも可能かも!!」「室長! すぐに申請出しましょう! もっと広い研究室を作れるように……!!」「そ、そうね! あ、でもその前にノクトの様のご予定を押さえないと……!!」と盛り上がっている。
熱心な研究者たちに小さく一礼し、俺は騒がしい低音管理室の扉をそっと閉めて外に出た。
「わぁっ、クリス様! どうなさったんです、こんなところに来られるなんて!」
素早い身のこなしで管理室の扉をすぐさま閉め、ユリアが目を丸くしている。
背後にふたりの騎士を従えた近衛魔術師団長のクリスは、紳士然とした所作でユリアの手を取りキスを落とした。彼が身を屈めると、高いところでゆわえた艶やかな赤毛がさらりと肩から落ちる。
「ノクトがここにいると聞いてね! 彼の仕事がどういった成果を上げているのか視察にきたんだ!」
「ああ、そうでしたか~! でもあと数分お待ちください、今からノクト様にお力を奮っていただくところですので」
「へぇ、そうなの? 私も協力しちゃおうかな」
貴族のご婦人たちには大人気のクリスだが、研究者のユリアはさほどクリスに関心はないようだ。キビキビと事務的にノクトの協力によって得られた成果をクリスに伝えているが、当のクリスは「ふんふん」と適当に相槌を打ちつつ管理室の中をぐるりと見回している。
そして、ノクトを見つけてパッと目を輝かせた。
クリスは形のいい唇をきゅっと吊り上げ、ユリアの傍をすり抜けてノクトにずんずんと近づいてきた。
つい条件反射ですっとノクトの前に立ち塞がると、進路を塞がれたクリスが、ややムッとしたような顔になる。
「やあセス、いたんだ。僕はノクトと話がしたいんだよね、どいてくれない?」
「お話ならこのままでもできるでしょう。どうぞ」
「セス、セス、何やってるの。前が見えないよ」
花壇と花壇の間に立ち塞がる俺の背後から、ノクトがひょこっと顔を出す。
するとわかりやすく、クリスがはしゃいだような笑顔になった。確か俺より十五ほど年上だったはずだが、無邪気すぎてまるで子どもみたいな人だ。
「やあノクト。ユリアがね、ここの壁を氷で覆ってほしいんだって。私も手伝うよ」
「あ、そういうことになったんですね。わかりました」
「そういうわけだから、セスはどいてなさい。ほら、私は近衛魔術師団長だよ? 命令だよ?」
「……わかりましたよ」
緋色の軍服の胸に手を当ててふんぞり返り、ニヤリと笑うクリスだ。立場を改めて口にされると逆らえない。
俺がすっと身を引くと、後ろから進み出てきたノクトの肩をクリスが親しげに抱き寄せた。
「さぁ、やろうか! 私がこの壁全体に水膜を張ってあげるから、バッキバキに凍らせてくれたまえ!」
「了解です」
さりげなくクリスの手を払いのけつつ、ノクトは両手を軽く握ったり開いたりと準備を始めた。
まるで楽団の指揮を執るようにクリスが優雅に両手をしならせると、壁の下部分からみるみる澄んだ水が湧き上がり、それが天井までを覆っていく。まるで生き物のようにふるふると揺れながら。
研究者たちの口から「わぁ~」と歓声を上がると、クリスは嬉しそうに微笑んだ。
「さあノクト、君の出番だよっ!」
「はい。みなさんは壁から離れていてください」
一人盛り上がるクリスとの温度差を気にする様子もなく、ノクトは淡々とした口調で研究者たちを部屋の中心部に集めた。
そして両手を高く掲げ、静かに深呼吸をひとつ。
「わ……すごい……」
ピキ、パキ……と微かな音を響かせながら、壁と天井を覆う水の膜が凍りつき始めた。
透明度の高い水晶のように美しい氷に覆われた煉瓦造りの研究室の中、部屋を見回す研究者たちの吐息が白く煙った。
「うん、見事なものだ! さ、これで仕事は終わりだね」
「ご協力感謝します。お話とは何でしょう?」
「ま、ここは寒いから外でお茶でも飲もう。さあ行こうか!」
クリスは白い息を吐きながら意気揚々とノクトを連れて研究室を出ていく。
背後では、研究者たちがガタガタ震えながら「す、すごい、こんなこともできるんですか……!! わぁ~……これなら、もっと広い部屋でたくさんユキミ草を育てることも可能かも!!」「室長! すぐに申請出しましょう! もっと広い研究室を作れるように……!!」「そ、そうね! あ、でもその前にノクトの様のご予定を押さえないと……!!」と盛り上がっている。
熱心な研究者たちに小さく一礼し、俺は騒がしい低音管理室の扉をそっと閉めて外に出た。
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