氷の魔術師は王宮騎士の愛に甘く蕩ける

餡玉(あんたま)

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あやしい薬は適量で【セス視点】

7 子どもじみた不安

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「セス?」
「うう、……うっ」
「えっ!? セス、どうしたの? 涙目じゃないか」
「な、なんでもない……うぅ」
「……。レナード、ネオ、ちょっと扉の外で待機していてくれないか」

 騎士ふたりを部屋の外に出すと、ノクトは俺を抱いたまま軽々と立ち上がった。……信じられない。ノクトにそんな腕力があったなんて——と愕然とするが、今の俺の体重などほんの十数キロ程度か。

「セス? どうしたの?」

 俺を抱いて窓から庭を眺めながら、ノクトが穏やかな口調で問いかけてきた。
 ノクトの声は、こんなに低くて穏やかだっただろうか? 俺の声が高くなってしまったからそう感じるだけ?
 ただでさえ年齢差があることを気にしていのに、もっと差が開いてしまった。もどかしさがさらに募って、俺はさらに不安になってしまった。
 
「……ノクト、おれ、ずっとこのままだったらどうしよう」
 
 ぎゅっとノクトのシャツの胸元を掴み、俺は目の前にあるアイスブルーの綺麗な瞳を見つめた。
 ノクトは俺の言葉を促すようにゆっくりと瞬きをする。

「せっかくノクトをまもれるようになったのに、ノクトとこいびとになれたのに、こんなからだになってしまって」
「セス……」
「もしいま、まじゅうがおそってきても、おれはただのあしでまといだし、ノクトをだきしめたりできないし……ううぅ」

 そういう状況を想像するだけでぞっとして、俺の目からはとうとう大粒の涙がぽろぽろと溢れだす。
 するとノクトは眉を下げて優しい表情になると、俺の濡れた頬をそっと拭ってくれた。

「うう、っ……そんなのいやだ……」
「ありがとう、セス。大丈夫だよ、今は僕がセスを守るから」
「でも、でも……うぇ……っ」
「それにね、ずっとこのままなんてことはないから」
「へ……っ?」

 慰めかもしれないが、ノクトの言葉に希望を感じた俺は、泣きぬれた顔もそのままに勢いよく顔を上げる。
 するとノクトはうっとりするほど柔らかな微笑みを浮かべ、俺の髪を優しく梳いた。
 
「セスが浴びた薬は少量だ。少量でこの効果ってとこは驚くしかないけど、大丈夫、少しずつ呪いの気配は薄れているよ」
「……ほんと?」

 涙を堪えようとしても止まらなくて、声がつっかえつっかえしか出てこない。ノクトは嗚咽を漏らす俺をぎゅっと抱きしめ、とんとんと背中を柔らかく叩いた。

「ほんとだよ。だからね、今はただセスの可愛さを僕に存分に見せてくれたらそれでいいんだ」
「……かわいさ?」
「だって、だってさぁ……今のセスの姿ときたら、もう……ほんっと……」

 ふるふるとノクトが震えている。
 ああ、もしかすると今ノクトが俺にいったことは全て嘘で、ただ俺を慰めようとしているだけなのかもしれない。
 本当は俺は元に戻れなくて、ノクトもそれを悲しんで泣いている?
 居ても立っても居られない。ぐっと腕を突っ張ってノクトの表情を確認してみたら——……
 
「え」
「……ああああ可愛い。可愛いよセス……!! こんなにちっちゃくて、ぷくぷくのふわふわで、目なんてこんなに大きくてキラキラしてて……ああ、天使だ、天使すぎる……!!」

 目を潤ませ頬を桃色に染めたノクトにすりすりすりすり頬擦りをされ、むぎゅぅと強く抱きしめられる。俺の髪を何度も梳きながら、ノクトは改めてのように俺を顔をじっと見つめた。

「ノクト?」
「たぶん、孤児院に保護されてきたときと同じくらいの年齢だと思うんだ。あのときのセスは可哀想なくらい痩せてやつれてかわいそうだったけど、今はこんなに可愛くて……!」
「うう」
「大丈夫、ちっちゃいのは今だけだからね。すぐにおっきくてかっこいいセスに戻れるから、大丈夫だよ」
「うん……」

 ノクトは俺を抱いたままソファに戻った。そして俺を膝に乗せたまま、またニコッと優しい笑顔を浮かべる。
 そういえば、さっきから一度も俺は床に下ろしてもらえていない。自分の足で歩けない年齢ではないはずだが、ノクトがずっと俺を離してくれないのだ。

「ノクト……レナードとネオもいるのに、ずっとだかれてるってのははずかしいよ」
「そんなことないよ。転んだりしたら大変だ!」
「ころばないよ」
「ほんとに? ……じゃあ、ちょっとだけだよ」

 脇の下に手を入れられ、ひょいと身体が浮く。……なんだこの情けない格好は。恥ずかしすぎて死にそうだ。ノクトに年下扱いされることには少しずつ慣れてはきたが、文字通りの子ども扱いされると羞恥心が破裂しそうになる。 
 ようやく床にに下ろしてもらえたものの、格好が問題だ。軍服がブカブカすぎて、俺はクリスの幼い頃の服を借りている。
 子ども服に身を包んだ俺を、ノクトはとろけるように甘い笑顔で眺めまわしてくるという恥ずかしすぎる状況に耐えかねて、俺はすっとノクトに背中を向けた。
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