2 / 54
第1章
2 イケメン陽キャとモブな僕
しおりを挟む
僕らの住む街は都心のベッドタウンにあたる地方都市。
地元での進学先にはあまり選択肢がないから、大半の同級生はここ森塚山高校に進学する。澄斗とも小学生からの顔見知りだ。
小学生の頃はみんなどんぐりの背比べだった身長差も、高校生にもなると目に見えて差が出てくる。
特に澄斗は見違えるように背が伸びて、周囲よりも頭ひとつ飛び抜けた長身になっていた。
おまけに、ビジュアルまで頭ひとつ……いや、頭十個分くらいは飛び抜けている。
清潔感あふれる白い肌と淡い色あいの栗色の髪は、僕の目から見ても少女漫画の主人公のように爽やかだ。
軽薄そうな性格とは裏腹に、雅やかなアーチを描く眉と整った目鼻立ち、アーモンド型の綺麗な二重まぶたはアイドル顔負けの華やかさ。
小顔なうえに手足も長い。皆と同じ制服を着ていても、澄斗だけはまるでハイブランドのしゃれた服を身につけているように見える。
しかも高校に入ってからこっち、澄斗は入部したバレー部のほうでも一年生ながら大活躍していて、次期エースとしてかなり期待されているらしい。
澄斗と出会ってこいつに憧れない女子はいないんじゃないかっていうくらいモテモテなのだ。
対する僕は、どこといって冴えたところないただの高校生。
澄斗が主人公なら僕はただのモブキャラだ。
小柄で痩せているせいか、シャツとブレザーの制服を僕が着ているとどことなく冴えないサラリーマン感が出てしまうし、忙しくてしばらく放置している前髪は目に届きそうで、冴えない僕の表情をよりいっそう暗く見せている。
……とまあ、澄斗と僕が並ぶとまるきり『陰と陽』という感じになる。
澄斗が眩しければ眩しいほど僕という影が濃くなるので、あまり近づいてきてほしくないし構ってもほしくはないのだが……
「おい澄斗~、あんまイジってやんなや。ほら、朝霞くんが余計に悪目立ちしてまうやん?」
「はぁ? いや別に、イジってるわけじゃねぇし」
「そーだよ。ほら澄斗ぉ、はやく試食しちゃお~!」
ほらみろ、と僕は思った。
どこからともなく現れたクラスメイトの陽キャ組の男女が、郁也を作業台のほうへ引っ張り戻していく。
毎日のように澄斗とつるんでいるバレー部の御子柴悠巳と、澄斗への好意が常にダダ漏れの派手めの女子だ。
視線を僕に残したままぐいぐい手を引っ張られていく澄斗の背中を見送って、僕は一つため息をつく。ようやく周りが静かになった。
同じ班のメンバーに向かって、僕は改めてがばっと頭を下げる。
それぞれ片付けに取り掛かっていたクラスメイトが、なんとも言えない顔で僕を見ていた。
「朝霞くん、調理はあたしたちがやるって言ったのに。いつも通り洗い物担当でよかったんだよ?」
「そうそう、郁也は不器用なんだから下手に手を出さないほうがいい」
……大人しく優しい同じ班のメンバーたちも、さすがに苦言を呈してきた。
文学少女の田辺あかりと、部員が二人しかいない映画研究同好会会長の織田 智だ。
このふたりは、僕と同じ小学校からずっと同じルートで成長してきた。
智は幼い頃から老成した雰囲気を醸す変わり者だ。
会話を盛り上げなきゃと気負うことなく話せる智と過ごすのは気が楽で、唯一緊張せずに言葉を交わせる相手である。
このふたりは、僕が小さい頃から僕が不器用だということはよくよく知っている。
なので今回の調理実習では、なるべく僕を危険な作業から遠ざけようとしてくれていた。僕も自分の立場をわきまえているから、いつもなら積極的に後方支援に回るところなのだが……
だけど今日は、どうしても調理を担当したくてわがままを言った。そして案の定、多大なる迷惑をかけてしまった。
しゅんとなって小さくなりながら燃えカスになったキャベツや豚肉をかき集め、「ごめん」と謝った。
「どうしたんだ、郁也らしくもない。お前が火を使えばこういう事故が起こる。そんなことは自明の理だとわかるだろうに」
「自明の理……? え、ひどい。言い過ぎだろ」
「だが実際そうなった」
「うう、ごめんって。どうしても簡単な料理くらいはできるようになりたかったんだよ……」
「そうなのか? でも、不器用なおまえが無理にやらなくてもいいように思うが」
「んー……それが、そうもいかなくなっちゃって」
もごもごと口ごもりながら、僕は黒焦げになったフライパンをスポンジでこすり始めた。
唯一食器洗いは得意分野だと思っていたけれど、硬く焦げついた黒い塊はそう易々とは剥がれてくれそうにない。
「え、どうして——」
織田のとなりにいた田辺さんが事情を聞きたそうに口を開いたとき、家庭科教師のよく通る声が教室中に響き渡った。
「じゃあ試食するよ~! 朝霞くんの班は先生が作ったやつ食べちゃって! あと、そのフライパンはもうスポンジじゃ無理だから!」
「す、すみません……!」
びしっと先生に指差され、また皆の視線が僕に集中する。
穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。
僕はさらに小さくなりながら、流れてゆく灰色の泡を物悲しく見つめることしかできなかった。
地元での進学先にはあまり選択肢がないから、大半の同級生はここ森塚山高校に進学する。澄斗とも小学生からの顔見知りだ。
小学生の頃はみんなどんぐりの背比べだった身長差も、高校生にもなると目に見えて差が出てくる。
特に澄斗は見違えるように背が伸びて、周囲よりも頭ひとつ飛び抜けた長身になっていた。
おまけに、ビジュアルまで頭ひとつ……いや、頭十個分くらいは飛び抜けている。
清潔感あふれる白い肌と淡い色あいの栗色の髪は、僕の目から見ても少女漫画の主人公のように爽やかだ。
軽薄そうな性格とは裏腹に、雅やかなアーチを描く眉と整った目鼻立ち、アーモンド型の綺麗な二重まぶたはアイドル顔負けの華やかさ。
小顔なうえに手足も長い。皆と同じ制服を着ていても、澄斗だけはまるでハイブランドのしゃれた服を身につけているように見える。
しかも高校に入ってからこっち、澄斗は入部したバレー部のほうでも一年生ながら大活躍していて、次期エースとしてかなり期待されているらしい。
澄斗と出会ってこいつに憧れない女子はいないんじゃないかっていうくらいモテモテなのだ。
対する僕は、どこといって冴えたところないただの高校生。
澄斗が主人公なら僕はただのモブキャラだ。
小柄で痩せているせいか、シャツとブレザーの制服を僕が着ているとどことなく冴えないサラリーマン感が出てしまうし、忙しくてしばらく放置している前髪は目に届きそうで、冴えない僕の表情をよりいっそう暗く見せている。
……とまあ、澄斗と僕が並ぶとまるきり『陰と陽』という感じになる。
澄斗が眩しければ眩しいほど僕という影が濃くなるので、あまり近づいてきてほしくないし構ってもほしくはないのだが……
「おい澄斗~、あんまイジってやんなや。ほら、朝霞くんが余計に悪目立ちしてまうやん?」
「はぁ? いや別に、イジってるわけじゃねぇし」
「そーだよ。ほら澄斗ぉ、はやく試食しちゃお~!」
ほらみろ、と僕は思った。
どこからともなく現れたクラスメイトの陽キャ組の男女が、郁也を作業台のほうへ引っ張り戻していく。
毎日のように澄斗とつるんでいるバレー部の御子柴悠巳と、澄斗への好意が常にダダ漏れの派手めの女子だ。
視線を僕に残したままぐいぐい手を引っ張られていく澄斗の背中を見送って、僕は一つため息をつく。ようやく周りが静かになった。
同じ班のメンバーに向かって、僕は改めてがばっと頭を下げる。
それぞれ片付けに取り掛かっていたクラスメイトが、なんとも言えない顔で僕を見ていた。
「朝霞くん、調理はあたしたちがやるって言ったのに。いつも通り洗い物担当でよかったんだよ?」
「そうそう、郁也は不器用なんだから下手に手を出さないほうがいい」
……大人しく優しい同じ班のメンバーたちも、さすがに苦言を呈してきた。
文学少女の田辺あかりと、部員が二人しかいない映画研究同好会会長の織田 智だ。
このふたりは、僕と同じ小学校からずっと同じルートで成長してきた。
智は幼い頃から老成した雰囲気を醸す変わり者だ。
会話を盛り上げなきゃと気負うことなく話せる智と過ごすのは気が楽で、唯一緊張せずに言葉を交わせる相手である。
このふたりは、僕が小さい頃から僕が不器用だということはよくよく知っている。
なので今回の調理実習では、なるべく僕を危険な作業から遠ざけようとしてくれていた。僕も自分の立場をわきまえているから、いつもなら積極的に後方支援に回るところなのだが……
だけど今日は、どうしても調理を担当したくてわがままを言った。そして案の定、多大なる迷惑をかけてしまった。
しゅんとなって小さくなりながら燃えカスになったキャベツや豚肉をかき集め、「ごめん」と謝った。
「どうしたんだ、郁也らしくもない。お前が火を使えばこういう事故が起こる。そんなことは自明の理だとわかるだろうに」
「自明の理……? え、ひどい。言い過ぎだろ」
「だが実際そうなった」
「うう、ごめんって。どうしても簡単な料理くらいはできるようになりたかったんだよ……」
「そうなのか? でも、不器用なおまえが無理にやらなくてもいいように思うが」
「んー……それが、そうもいかなくなっちゃって」
もごもごと口ごもりながら、僕は黒焦げになったフライパンをスポンジでこすり始めた。
唯一食器洗いは得意分野だと思っていたけれど、硬く焦げついた黒い塊はそう易々とは剥がれてくれそうにない。
「え、どうして——」
織田のとなりにいた田辺さんが事情を聞きたそうに口を開いたとき、家庭科教師のよく通る声が教室中に響き渡った。
「じゃあ試食するよ~! 朝霞くんの班は先生が作ったやつ食べちゃって! あと、そのフライパンはもうスポンジじゃ無理だから!」
「す、すみません……!」
びしっと先生に指差され、また皆の視線が僕に集中する。
穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。
僕はさらに小さくなりながら、流れてゆく灰色の泡を物悲しく見つめることしかできなかった。
191
あなたにおすすめの小説
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛
中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。
誰の心にも触れたくない。
無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。
その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。
明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、
偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。
無機質な顔の奥に隠れていたのは、
誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。
気づいてしまったから、もう目を逸らせない。
知りたくなったから、もう引き返せない。
すれ違いと無関心、
優しさと孤独、
微かな笑顔と、隠された心。
これは、
触れれば壊れそうな彼に、
それでも手を伸ばしてしまった、
不器用な男たちの恋のはなし。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
初恋ミントラヴァーズ
卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。
飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。
ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。
眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。
知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。
藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。
でも想いは勝手に加速して……。
彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。
果たしてふたりは、恋人になれるのか――?
/金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/
じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。
集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。
◆毎日2回更新。11時と20時◆
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる