初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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第1章 

2 イケメン陽キャとモブな僕

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 僕らの住む街は都心のベッドタウンにあたる地方都市。

 地元での進学先にはあまり選択肢がないから、大半の同級生はここ森塚山もりづかやま高校に進学する。澄斗とも小学生からの顔見知りだ。

 小学生の頃はみんなどんぐりの背比べだった身長差も、高校生にもなると目に見えて差が出てくる。
 特に澄斗は見違えるように背が伸びて、周囲よりも頭ひとつ飛び抜けた長身になっていた。

 おまけに、ビジュアルまで頭ひとつ……いや、頭十個分くらいは飛び抜けている。
 
 清潔感あふれる白い肌と淡い色あいの栗色の髪は、僕の目から見ても少女漫画の主人公のように爽やかだ。
 軽薄そうな性格とは裏腹に、雅やかなアーチを描く眉と整った目鼻立ち、アーモンド型の綺麗な二重まぶたはアイドル顔負けの華やかさ。

 小顔なうえに手足も長い。皆と同じ制服を着ていても、澄斗だけはまるでハイブランドのしゃれた服を身につけているように見える。
 
 しかも高校に入ってからこっち、澄斗は入部したバレー部のほうでも一年生ながら大活躍していて、次期エースとしてかなり期待されているらしい。
 澄斗と出会ってこいつに憧れない女子はいないんじゃないかっていうくらいモテモテなのだ。

 対する僕は、どこといって冴えたところないただの高校生。
 澄斗が主人公なら僕はただのモブキャラだ。

 小柄で痩せているせいか、シャツとブレザーの制服を僕が着ているとどことなく冴えないサラリーマン感が出てしまうし、忙しくてしばらく放置している前髪は目に届きそうで、冴えない僕の表情をよりいっそう暗く見せている。

 ……とまあ、澄斗と僕が並ぶとまるきり『陰と陽』という感じになる。

 澄斗が眩しければ眩しいほど僕という影が濃くなるので、あまり近づいてきてほしくないし構ってもほしくはないのだが……
 
「おい澄斗~、あんまイジってやんなや。ほら、朝霞くんが余計に悪目立ちしてまうやん?」
「はぁ? いや別に、イジってるわけじゃねぇし」
「そーだよ。ほら澄斗ぉ、はやく試食しちゃお~!」
 
 ほらみろ、と僕は思った。
 どこからともなく現れたクラスメイトの陽キャ組の男女が、郁也を作業台のほうへ引っ張り戻していく。

 毎日のように澄斗とつるんでいるバレー部の御子柴みこしば悠巳はるみと、澄斗への好意が常にダダ漏れの派手めの女子だ。
 
 視線を僕に残したままぐいぐい手を引っ張られていく澄斗の背中を見送って、僕は一つため息をつく。ようやく周りが静かになった。

  同じ班のメンバーに向かって、僕は改めてがばっと頭を下げる。
 それぞれ片付けに取り掛かっていたクラスメイトが、なんとも言えない顔で僕を見ていた。
 
「朝霞くん、調理はあたしたちがやるって言ったのに。いつも通り洗い物担当でよかったんだよ?」
「そうそう、郁也は不器用なんだから下手に手を出さないほうがいい」

 ……大人しく優しい同じ班のメンバーたちも、さすがに苦言を呈してきた。
 文学少女の田辺あかりと、部員が二人しかいない映画研究同好会会長の織田おだ さとるだ。
 このふたりは、僕と同じ小学校からずっと同じルートで成長してきた。

 智は幼い頃から老成した雰囲気を醸す変わり者だ。
 会話を盛り上げなきゃと気負うことなく話せる智と過ごすのは気が楽で、唯一緊張せずに言葉を交わせる相手である。
 
 このふたりは、僕が小さい頃から僕が不器用だということはよくよく知っている。
 なので今回の調理実習では、なるべく僕を危険な作業から遠ざけようとしてくれていた。僕も自分の立場をわきまえているから、いつもなら積極的に後方支援に回るところなのだが……

 だけど今日は、どうしても調理を担当したくてわがままを言った。そして案の定、多大なる迷惑をかけてしまった。
 
 しゅんとなって小さくなりながら燃えカスになったキャベツや豚肉をかき集め、「ごめん」と謝った。

「どうしたんだ、郁也らしくもない。お前が火を使えばこういう事故が起こる。そんなことは自明の理だとわかるだろうに」
「自明の理……? え、ひどい。言い過ぎだろ」
「だが実際そうなった」
「うう、ごめんって。どうしても簡単な料理くらいはできるようになりたかったんだよ……」
「そうなのか? でも、不器用なおまえが無理にやらなくてもいいように思うが」
「んー……それが、そうもいかなくなっちゃって」

 もごもごと口ごもりながら、僕は黒焦げになったフライパンをスポンジでこすり始めた。
 唯一食器洗いは得意分野だと思っていたけれど、硬く焦げついた黒い塊はそう易々とは剥がれてくれそうにない。

「え、どうして——」

 織田のとなりにいた田辺さんが事情を聞きたそうに口を開いたとき、家庭科教師のよく通る声が教室中に響き渡った。

「じゃあ試食するよ~! 朝霞くんの班は先生が作ったやつ食べちゃって! あと、そのフライパンはもうスポンジじゃ無理だから!」
「す、すみません……!」

 びしっと先生に指差され、また皆の視線が僕に集中する。
 穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。
 僕はさらに小さくなりながら、流れてゆく灰色の泡を物悲しく見つめることしかできなかった。

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