初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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第2章 

1 毎朝のルーティン

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「ん……!? あれっ!? もうこんな時間!?」

 スマホ画面には、08:15という時刻が表示されていた。
 授業が始まるのは八時四十五分。うちから学校まで走って十分。
 
 現在八時十五分。寝起きの僕は寝巻きにしているTシャツと短パン。ただでさえ洒落っけのない黒髪の頭はボサボサといった有様で、朝ごはんも食べていないという状況だ。

「あぁ、またやってしまった……!!」

 タオルケットを蹴って起き上がり、ベットから転がり落ちる。
 椅子に引っ掛けていた制服のシャツを羽織って床に転がっていた通学用の黒いリュックを掴み、その足で洗面所へ。
 
 バシャバシャと顔を洗って歯を磨き、寝癖を治す暇もなく、昨日買ってキッチンに置いていた菓子パンを引っ掴み、僕は玄関から飛び出した。

 その瞬間、強い朝日が僕の目を灼く。
 今日も日差しがすごく強い。あまりの眩しさにしかめっ面になりながら、僕はハッとした。

 そういえば、昨日出された数学の課題をやってない……


   ◇


 ……というのがここ二週間の僕の朝のルーティンだ。

 とある事情から突然一人暮らし状態になってしまった僕は、毎朝毎朝性懲りも無くこの状況を繰り返している。

 スマホは五分おきにアラームを設定した上にスヌーズ設定まで重ねているのに、なぜかこの指が勝手に全てのアラームをオフにしてしまう。
 
 本当に謎だ。謎すぎる。どうして眠りながらそんなことができてしまうのだろう。
 起きているときの僕は不器用なのに、眠っているときの僕は五分ごとに鳴るアラームを間違うことなく切ることができるのだ。

 どんなに早い時間からアラームが鳴っても必ずオフにする。まったく、僕の無意識ときたら……

「はぁ……はぁ、なんとか間に合った……」

 汗だくになりながら教室に入り、リュックからタオルを引っ張り出して汗を拭う。

 大丈夫、においはしない。
 幸いなことに、うちには家事に手を抜きたい母親が購入した高機能洗濯機がある。洗濯機に突っ込んだものは全て綺麗にふんわり洗い上げてもらえるから、そこはすごく助かっているのだが……
 
(制服のシャツはさすがにちゃんと干さなきゃかな……なんか縮んできたかもしれない)

 シャツの裾をつまんでみると、心なしか丈が少し短くなっているような……いや、気のせいか。きっと僕の背が伸びているに違いない。

(そんなことより、課題だ課題)
 
 昨日の今日でまたやらかすのはごめんだ。
 数学教師に皆の前で嫌味を言われるのがいやで、僕は学校に着くなりノートとテキストを開いた。

 ここ森山塚高校は一学年五クラスだ。
 普通は高校二年生で文系、理系のどちらに進むか選択する学校が多いようだけど、うちの高校は基本的に文理混合で、高三からは文系理系に特化したそれぞれの選択授業が入ってくる。
 
 始業前の教室は皆の話し声でがやがやと騒がしくてあまり集中できそうにないけれど、答えが間違っていたとしても多少は解いておいたほうがいいだろう。白紙で提出したら何を言われるかわからない。

(集中集中!)

 ふう、と息を吐いて数学の課題を始めようとしたそのとき、空席だった目の前の席に誰かがひょいと腰を下ろした。

「おはよ、郁也。あれ、課題忘れ? 最近多くない?」

 朝練を終えて教室に入ってきた本条澄斗だ。そう親しくもないのに、澄斗は馴れ馴れしく僕のことを下の名前で呼ぶ。
 
 四月に同じクラスになり、最後の方で教室に入ってきた澄斗は僕の姿をすぐに見つけて、『わっ! 郁也じゃん! ひっさしぶり!!』と懐かしそうに目を輝かせていた。
 
 澄斗は中学三年間、地元を離れて東京の名門中学校に通っていた。
 中学でどんな生活を送っていたのか、なぜ地元に戻ってきたのかは知らないが、三年という名門校暮らしは、かつて同じ学び舎にいただけの僕をいっそう懐かしく感じさせたのだろう。
 
 今朝も夏服の白いシャツ姿で白いスポーツバッグを肩から斜めがけにしている澄斗は、すでに激しい運動をしてきたとは思えない爽やかさ。

 こちとら、たった今登校してきたばかりのくせに汗だくで疲れ果てているというのに……
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