初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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第2章 

4 澄斗の申し出

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 ほら、たいして面白くもないネタだろ? 陽キャ様たちの関心を引くようなネタでもなかっただろ——……と心の中でひとりごちる。

 母さんだって、実際僕に手伝ってほしいときももちろんあっただろう。忙しいのだから当然だ。
 でも僕が不器用なせいで、先回りして自分でやったほうが早いと思わせていたのかもしれない……

 ならせめて、母さんが不在のうちに家事一般と簡単な料理くらいはできるようになっておきたいと考えた。
 
 僕だってもう高一だ。
 身長も追い越したし、腕力も僕のほうが強いはず。もっと頼り甲斐のある息子になって、帰ってきた母さんをいい意味で驚かせたい。

 だから動画などを見て色々試みているのだが、なかなかうまくいかない。現実は難しい……

(……なーんて所帯じみたネタ、青春謳歌しまくってる陽キャ様にはつまんないよね) 

 ありがたくノートを写し終えて丁重にお返しするも、澄斗は腕組みをしてなにやら思案顔だ。

 顔もよけりゃスタイルも抜群だから、それだけで妙に絵になっている。
 
 ちらりとまわりを窺ってみると……ほら、少し離れたところでおとなしめの女子たちがぽうっとなて澄斗を見つめてる。

『澄斗くん、なんで朝霞なんかと一緒にいんの?』『澄斗に宿題写させてもらうなんて超贅沢』『それくらい自分でやってこいよな~』——……などなど、女子たちが胸の中で考えているであろう台詞が聞こえる気がして落ち着かない。

 たまりかねた僕は、トイレにでも逃げ込もうかと思い腰を浮かせた。

「あっ、ちょっと待った!」
 
 すると、我に返ったらしい澄斗に手首を掴まれた。

 僕よりも一回りは大きい手で手首を握り込まれ、僕は思わず「ヒッ」と小さく声を漏らしてしまった。
 反射的に手を引き抜こうとしたバレー部エース候補の握力に適うはずもなく、僕は中途半端に腰を浮かせたまま澄斗の動向を窺った。

「な、な、なん、なんだよ」
「ねえ郁也。実は俺、料理けっこう得意なんだよね」
「はっ、はぁ? だから何……てか手、離してってば」

 腕を振り払おうとしたがびくともせず、僕の肘だけが無様に揺れる。
 すると澄斗はおもむろに立ち上がって前屈みになり、僕の耳元でひそひそと囁いた。

「今日、部活ないんだ。郁也んちにご飯作りに行ったげよっか?」
「は? ………………は?」
「おばさんの留守中に、郁也んちが火事になったら大変だろ?」
「え? いや、そうだけど。……いや、だから、なんで!? なんで、本条、くんが……」
「澄斗な。……なんでって、昨日の調理実習のあれを見たら、誰だって心配になるだろ?」
「う。そりゃそうかもだけど……」
「心配だから様子見に行く、手伝いにいく。そのくらい、友達なら当たり前じゃん?」

 澄斗はどこまでも自然な口調でそう言うと、小首を傾げて密やかに微笑んだ。
 
 僕は混乱した。
 ただの友達——……お友達ランクがあるとしたら最下層の僕のために、澄斗がわざわざ時間を割こうというのか?
  
(そ、そういうもんなのか? 友達ってそういうのが普通なの……?)

 混乱が極まり、返事もできないまま澄斗をぽかんと見上げているうちチャイムが鳴った。
 澄斗は我に返ったようにパッと手を離し、「じゃ、またLINEする……って、郁也の知らないわ。LINE教えて!」と言いあっという間に連絡先を交換させられ、澄斗は僕の目の前から去っていった。

 わからない。友達って、そこまでしてくれるものだっけ……?

 
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