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第5章
4 ドキドキ料理レッスン
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◇
「さーて、普段どんなふうに野菜を切ってるのか見せてくれる? 包丁はこれね」
「よ……よし!」
いよいよレッスン開始だ。
目の前に転がる玉ねぎを見据え、気合を入れた。
玉ねぎを切るくらいは余裕だ。
昨日ネットのレシピを見て予習した。こいつはくし切りってやつにすればいい。
そう、僕が苦手なのはそのあとの工程なんだ。
煮たり焼いたり味付けしたりっていうところができないだけであって、野菜を切るくらいは普通にできる……はず。
持ち手までステンレスのよく切れそうな包丁をチラ見しつつ、まずはぺりぺりと玉ねぎの皮を剥いていく。
すると澄斗が「上手上手! 郁也、ここまで完璧じゃん!」といって手放しで褒めてくれるのだが…………まだ皮しか剥いてない。複雑な気分だ。
(くそお……まるで保育園児扱いだ。よーし、ちょっとはマシなところを見せるぞ……!)
次はいよいよ玉ねぎを切る工程だ。
くし切り、くし切り……と念仏のように唱えながら、コロコロと転がる玉ねぎをまな板の上で大人しくさせる。
(くし切り? あれ? この丸い玉ねぎ、どうやったらあの形になるんだっけ?)
予習をしたはずが、澄斗にいいところを見せたいがあまり混乱してきた。
包丁を握りしめたまま長考していると、御子柴くんがストップが入ってしまった。
「あの~~郁也くん? 一旦包丁置いたほうがええんちゃう? これから人殺します~みたいな怖い顔になってんで」
「えっ? ぼ、僕はそんな顔を……?」
「玉ねぎ相手に力みすぎちゃう? 目が怖いねんて、俺、刺されてまうかと思った」
「いや、刺すわけないじゃん。なんで僕が悠巳くんを……」
「わーっ! 包丁もってこっちに見んといて! 怖いから包丁から一旦手ぇ離そか! な!」
包丁を握り締めたまま向き直ったのが良くなかったのか、御子柴くんが冷や汗を浮かべて両手を上げた。
「郁也、郁也。悠巳も野菜も襲ってこないし、包丁はそんなに力を入れて握らなくて大丈夫。軽く持って、握るだけでいいんだ」
大騒ぎしている僕と御子柴くんとは裏腹に、穏やかな口調の澄斗がすっと背後に回った。
後ろから長い腕が伸びてきて、ギチギチに包丁を握って小刻みに震えている僕の手に大きな手が重なった。
「へっ……」
「ほら、そんなに握りしめないで。一旦置こっか」
「うっ、……うん」
「こうやって、軽く握りしめる。玉ねぎはまず縦に切って面をつくるんだ。そうしたら安定して切れるだろ?」
「は、はい……」
後ろから耳をくすぐる澄斗の吐息とももに、低い声が僕の鼓膜を震わせる。
さっきとは違う意味で包丁を握る手が震えてしまいそうになるけれど、なんとか堪える。
澄斗の手に導かれながら包丁をスッと滑らせると、しゃくっと涼しげな音とともに玉ねぎは切れた。
「ね? 力入れなくてもこれくらいで切れるんだ」
「そ、そのようですね……」
「肩も怒らせないで、むしろ指先に集中して。切れちゃったら大変だから」
「う、ん……」
素直に頷くと、ふ……と背後の澄斗が小さく笑ったのが吐息でわかった。
すっと澄斗の体温が背中から遠ざかり、ホッとしたような寂しいような妙な気分を抱えたまま、言われた通りに玉ねぎを切った。
「よしっ、きれいにできたじゃん! 郁也、完璧!」
「あ、あははは……ありがと」
「玉ねぎ、目に染みてない?」
「これくらい余裕だよ」
とは言うものの、ストンストンと玉ねぎを切っているそばからツンとする刺激が眼球に襲いかかってきて、僕の目には見る間に涙が浮かんだ。
すると、ひょいと澄斗が僕の顔を覗き込んできた。
「郁也、大丈夫?」
「ううっ……だいじょうぶ、これくらい、そのうち慣れるから……ウッ」
目の痛みを堪えながらおっかなびっくり玉ねぎを切り終えると、不意に目元に冷たいものが触れる。仰天した僕は、思わずその場で飛び上がった。
濡れたタオルだ。澄斗が僕の目元を軽く押さえている。
「ちょっ……え?」
「涙、ボロボロじゃん。まあ、これもだんだん慣れていくから」
「あ、いや、そんな冷やしてくれなくても大丈夫……」
照れくさくて身を引きかけたけれど、熱くなった目元に冷たいタオルは気持ちがいい。
涙目のまま澄斗を見上げると、澄斗はちょっと困ったような顔で苦笑した。
そして今度は、冷たい指先で目尻をそっと拭われた。皮膚の淡いところに直接触れられたことに驚きすぎて、全身が硬直する。
(ひぇっ……!!??)
「……目、真っ赤。涙とまんないね」
「っ……そ、そ、そのうち止まるよ!」
「あ、玉ねぎ切った手でこすっちゃダメだって!」
ぐいぐい拳で目を拭おうとしていると——……ぐしゃり、と軽いものが潰れるような音がとなりから聞こえてきた。
「さーて、普段どんなふうに野菜を切ってるのか見せてくれる? 包丁はこれね」
「よ……よし!」
いよいよレッスン開始だ。
目の前に転がる玉ねぎを見据え、気合を入れた。
玉ねぎを切るくらいは余裕だ。
昨日ネットのレシピを見て予習した。こいつはくし切りってやつにすればいい。
そう、僕が苦手なのはそのあとの工程なんだ。
煮たり焼いたり味付けしたりっていうところができないだけであって、野菜を切るくらいは普通にできる……はず。
持ち手までステンレスのよく切れそうな包丁をチラ見しつつ、まずはぺりぺりと玉ねぎの皮を剥いていく。
すると澄斗が「上手上手! 郁也、ここまで完璧じゃん!」といって手放しで褒めてくれるのだが…………まだ皮しか剥いてない。複雑な気分だ。
(くそお……まるで保育園児扱いだ。よーし、ちょっとはマシなところを見せるぞ……!)
次はいよいよ玉ねぎを切る工程だ。
くし切り、くし切り……と念仏のように唱えながら、コロコロと転がる玉ねぎをまな板の上で大人しくさせる。
(くし切り? あれ? この丸い玉ねぎ、どうやったらあの形になるんだっけ?)
予習をしたはずが、澄斗にいいところを見せたいがあまり混乱してきた。
包丁を握りしめたまま長考していると、御子柴くんがストップが入ってしまった。
「あの~~郁也くん? 一旦包丁置いたほうがええんちゃう? これから人殺します~みたいな怖い顔になってんで」
「えっ? ぼ、僕はそんな顔を……?」
「玉ねぎ相手に力みすぎちゃう? 目が怖いねんて、俺、刺されてまうかと思った」
「いや、刺すわけないじゃん。なんで僕が悠巳くんを……」
「わーっ! 包丁もってこっちに見んといて! 怖いから包丁から一旦手ぇ離そか! な!」
包丁を握り締めたまま向き直ったのが良くなかったのか、御子柴くんが冷や汗を浮かべて両手を上げた。
「郁也、郁也。悠巳も野菜も襲ってこないし、包丁はそんなに力を入れて握らなくて大丈夫。軽く持って、握るだけでいいんだ」
大騒ぎしている僕と御子柴くんとは裏腹に、穏やかな口調の澄斗がすっと背後に回った。
後ろから長い腕が伸びてきて、ギチギチに包丁を握って小刻みに震えている僕の手に大きな手が重なった。
「へっ……」
「ほら、そんなに握りしめないで。一旦置こっか」
「うっ、……うん」
「こうやって、軽く握りしめる。玉ねぎはまず縦に切って面をつくるんだ。そうしたら安定して切れるだろ?」
「は、はい……」
後ろから耳をくすぐる澄斗の吐息とももに、低い声が僕の鼓膜を震わせる。
さっきとは違う意味で包丁を握る手が震えてしまいそうになるけれど、なんとか堪える。
澄斗の手に導かれながら包丁をスッと滑らせると、しゃくっと涼しげな音とともに玉ねぎは切れた。
「ね? 力入れなくてもこれくらいで切れるんだ」
「そ、そのようですね……」
「肩も怒らせないで、むしろ指先に集中して。切れちゃったら大変だから」
「う、ん……」
素直に頷くと、ふ……と背後の澄斗が小さく笑ったのが吐息でわかった。
すっと澄斗の体温が背中から遠ざかり、ホッとしたような寂しいような妙な気分を抱えたまま、言われた通りに玉ねぎを切った。
「よしっ、きれいにできたじゃん! 郁也、完璧!」
「あ、あははは……ありがと」
「玉ねぎ、目に染みてない?」
「これくらい余裕だよ」
とは言うものの、ストンストンと玉ねぎを切っているそばからツンとする刺激が眼球に襲いかかってきて、僕の目には見る間に涙が浮かんだ。
すると、ひょいと澄斗が僕の顔を覗き込んできた。
「郁也、大丈夫?」
「ううっ……だいじょうぶ、これくらい、そのうち慣れるから……ウッ」
目の痛みを堪えながらおっかなびっくり玉ねぎを切り終えると、不意に目元に冷たいものが触れる。仰天した僕は、思わずその場で飛び上がった。
濡れたタオルだ。澄斗が僕の目元を軽く押さえている。
「ちょっ……え?」
「涙、ボロボロじゃん。まあ、これもだんだん慣れていくから」
「あ、いや、そんな冷やしてくれなくても大丈夫……」
照れくさくて身を引きかけたけれど、熱くなった目元に冷たいタオルは気持ちがいい。
涙目のまま澄斗を見上げると、澄斗はちょっと困ったような顔で苦笑した。
そして今度は、冷たい指先で目尻をそっと拭われた。皮膚の淡いところに直接触れられたことに驚きすぎて、全身が硬直する。
(ひぇっ……!!??)
「……目、真っ赤。涙とまんないね」
「っ……そ、そ、そのうち止まるよ!」
「あ、玉ねぎ切った手でこすっちゃダメだって!」
ぐいぐい拳で目を拭おうとしていると——……ぐしゃり、と軽いものが潰れるような音がとなりから聞こえてきた。
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