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第6章
1 髪を切ったが
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あまり眠れないまま、月曜日の朝を迎えた。
奇跡的に、今日は一度目のアラームで目を覚ますことができた。
僕はむくりとベッドの上で起き上がり、ぼんやりと霞がかったような頭もそのままにフラフラと顔を洗いに洗面所へ。
「……あれ?」
鏡の中に写る自分と目が合ったものの、一瞬それが誰だかわからなかった。
「ああ、そうだ……。昨日、髪切ったんだった」
そうひとりごちながら、タオルで顔を拭う。
これまで顔の周りを黒く覆っていた髪の毛がさっぱりとなくなって、生まれ変わったような自分の顔がそこにある。
昨日澄斗の家で親子丼の作り方を学んだあと、僕はその足で駅前の美容室へ向かった。
あの場で感じた寂しいモヤモヤをスッキリさせたくて、思い立ったのが、髪を切ること。
三、四か月はほったらかしだった僕の頭は確かに無造作がすぎていたし、このまま放っておいたらなけなしの清潔感が消えてしまう。それはさすがによろしくない。
澄斗の家からひとりで坂を下りながらアプリで予約を入れ、そのまま流れるように案内された閉店間際の美容室の椅子に座り、「さっぱりしたいので、思い切って短くしたいです」とリクエストしたのだった。
額も耳もすっきり露わになり、ずいぶん印象が明るくなった気がする。
僕は色が白くて顎も首も細い。そのせいで、目立つ黒髪だけがヌッと前面に出て暗い印象を醸し出していた。それをわかりつつも、あまり顔を目立たせたくないために長めの髪型を保っていたのだ。
だけど美容室の大きな鏡の中にいる自分の姿を客観的に眺めてみて、心が変わった。
そして美容師さんは僕の予想以上にかっこいい髪型に仕上げてくれて、あれだけモヤモヤしていた気持ちをさっぱりと真新しくしてくれた。
「うん、うん……悪くないんじゃないかな」
根本からサラサラの髪の毛だ、ツンツン立てたりはできないので斜めに流す。
俯くとほとんど隠れてしまっていた目元がすっきりと露わになった。自分でいうのもなんだが、これまでよりもぐっと賢そうな顔に見える。たいして賢くはないけど……
鏡の中の自分の顔がなんだかこれまでの自分のものではないように感じて、気恥ずかしいような清々しいような、不思議な感覚だった。
「はー……さっぱりするなあ。心機一転、今日から気持ちを切り替えて頑張ろう!」
鏡の中の自分がニコッと笑う。
僕はこんなにも爽やかな顔で笑えたのかとびっくりしてしまった。
なんだか嬉しくなって、意気揚々とキッチンに立ち冷凍しておいた食パンをトースターへ放り込む。
今日は丸焦げになることなく、適度に焦げ目のついたトーストにありつくことができた。
幸先はよさそうだ。
◇
「あれっ!? えっ、郁也、髪切ってる!」
部活を終えてきた澄斗は教室に入ってくるなり、目ざとく僕の変化に気づいて声を上げた。
そして、「澄斗ぉ~! おはよ!」と満面の笑顔で駆け寄ろうとしていたらしい冴島さんには目もくれず、まっすぐ僕の席までやってきた。
「あ、お……おはよ」
「一晩でガラッと変わりすぎじゃん!? あのあと髪切りに行ったの?」
「うん、急な思いつきっていうか、気分転換っていうか……」
「そっか。うん、すげー似合うよ。短いほうが絶対似合う!」
「あはは……ありがと」
今日も今日とてベタ褒めしてくれる澄斗の顔を見上げることができず、僕はうつむいたままもごもごとお礼を言った。
「昨日は料理を教えてくれてありがとう」
「全然! 次はなにつくろっか? 昨日は郁也のおばさんの好物だったろ? 次は郁也の好きなもの——」
「あ、ああの……! 実は!」
うきうきと弾んだ口調で今後の予定を組もうとしている澄斗の言葉を遮る。
そして僕は澄斗の反応を待つことなく、ひと息に言い放った。
奇跡的に、今日は一度目のアラームで目を覚ますことができた。
僕はむくりとベッドの上で起き上がり、ぼんやりと霞がかったような頭もそのままにフラフラと顔を洗いに洗面所へ。
「……あれ?」
鏡の中に写る自分と目が合ったものの、一瞬それが誰だかわからなかった。
「ああ、そうだ……。昨日、髪切ったんだった」
そうひとりごちながら、タオルで顔を拭う。
これまで顔の周りを黒く覆っていた髪の毛がさっぱりとなくなって、生まれ変わったような自分の顔がそこにある。
昨日澄斗の家で親子丼の作り方を学んだあと、僕はその足で駅前の美容室へ向かった。
あの場で感じた寂しいモヤモヤをスッキリさせたくて、思い立ったのが、髪を切ること。
三、四か月はほったらかしだった僕の頭は確かに無造作がすぎていたし、このまま放っておいたらなけなしの清潔感が消えてしまう。それはさすがによろしくない。
澄斗の家からひとりで坂を下りながらアプリで予約を入れ、そのまま流れるように案内された閉店間際の美容室の椅子に座り、「さっぱりしたいので、思い切って短くしたいです」とリクエストしたのだった。
額も耳もすっきり露わになり、ずいぶん印象が明るくなった気がする。
僕は色が白くて顎も首も細い。そのせいで、目立つ黒髪だけがヌッと前面に出て暗い印象を醸し出していた。それをわかりつつも、あまり顔を目立たせたくないために長めの髪型を保っていたのだ。
だけど美容室の大きな鏡の中にいる自分の姿を客観的に眺めてみて、心が変わった。
そして美容師さんは僕の予想以上にかっこいい髪型に仕上げてくれて、あれだけモヤモヤしていた気持ちをさっぱりと真新しくしてくれた。
「うん、うん……悪くないんじゃないかな」
根本からサラサラの髪の毛だ、ツンツン立てたりはできないので斜めに流す。
俯くとほとんど隠れてしまっていた目元がすっきりと露わになった。自分でいうのもなんだが、これまでよりもぐっと賢そうな顔に見える。たいして賢くはないけど……
鏡の中の自分の顔がなんだかこれまでの自分のものではないように感じて、気恥ずかしいような清々しいような、不思議な感覚だった。
「はー……さっぱりするなあ。心機一転、今日から気持ちを切り替えて頑張ろう!」
鏡の中の自分がニコッと笑う。
僕はこんなにも爽やかな顔で笑えたのかとびっくりしてしまった。
なんだか嬉しくなって、意気揚々とキッチンに立ち冷凍しておいた食パンをトースターへ放り込む。
今日は丸焦げになることなく、適度に焦げ目のついたトーストにありつくことができた。
幸先はよさそうだ。
◇
「あれっ!? えっ、郁也、髪切ってる!」
部活を終えてきた澄斗は教室に入ってくるなり、目ざとく僕の変化に気づいて声を上げた。
そして、「澄斗ぉ~! おはよ!」と満面の笑顔で駆け寄ろうとしていたらしい冴島さんには目もくれず、まっすぐ僕の席までやってきた。
「あ、お……おはよ」
「一晩でガラッと変わりすぎじゃん!? あのあと髪切りに行ったの?」
「うん、急な思いつきっていうか、気分転換っていうか……」
「そっか。うん、すげー似合うよ。短いほうが絶対似合う!」
「あはは……ありがと」
今日も今日とてベタ褒めしてくれる澄斗の顔を見上げることができず、僕はうつむいたままもごもごとお礼を言った。
「昨日は料理を教えてくれてありがとう」
「全然! 次はなにつくろっか? 昨日は郁也のおばさんの好物だったろ? 次は郁也の好きなもの——」
「あ、ああの……! 実は!」
うきうきと弾んだ口調で今後の予定を組もうとしている澄斗の言葉を遮る。
そして僕は澄斗の反応を待つことなく、ひと息に言い放った。
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