初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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第6章 

3 ふたたび平凡な毎日へ

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 澄斗は眉間に皺を寄せ、ひどく険しい顔をしていた。
 窓の外を食い入るように睨みつけ、唇を真一文字に結んで……

「……す、澄斗? どうしたの?」
「えっ……?」

 おそるおそる呼びかけてみると、澄斗の眉がぴくりと動いた。
 今も僕と澄斗そっちのけで料理レッスンのことで盛り上がっている御子柴くんと冴島さんも、ようやく澄斗の不機嫌に気がついたらしい。

「え? 澄斗めっちゃ顔怖いやん。どうしたん」
「……いや、なんでもねー」
「まさかどっか体調悪い? ねえ、あたしが保健室まで連れてったげよっか?」
「なんでもねーって。……もういーだろ、離れろよ」

 食い下がる冴島さんに向かって冷ややかな一瞥をくれ、澄斗はやや荒っぽい仕草で彼女の腕を振り解いた。
 そしてそのまま、廊下側の一番後ろにある自分の席へ戻って行ってしまう。

「え……どうしたんや、澄斗のやつ」
「あ、あたし、澄斗怒らせるようなこと、なんかした……?」
「してへんのちゃう……? いや、知らんけど」
「は!? 知らんけどってなんなんだよ無責任すぎ! 悠巳っていっつもそう、もー知らない!!」

 八つ当たりのように冴島さんにキレ散らかされて、悠巳くんが「そ、そんな怒らんでも……」と涙目になってしまった。
 僕は腕を伸ばしてポンポンと悠巳くんの腕を叩き、「ドンマイ……」と伝えておいた。

「なあ、郁也くん澄斗と喧嘩でもしたん?」
「……い、いや、してないんだけど。料理レッスンは、僕に時間を割いてもらうのが申し訳なくて、断ったんだ」
「え゛!? なんでなん!?」

 悠巳くんは僕の前の席にガタガタと騒がしく座り、ヌッと顔を近づけてきた。

「……なあ、俺のせい? 俺がホイホイ勝手に参加してもうたから?」
「いや、違うよ。ていうか、悠巳くんもかなり不器用みたいだから、澄斗に料理教わったほうがいいかもね」
「ほんなら一緒に習おうやぁ。なんでやめてまうん」

 捨てられた子犬のような顔でそんなことを言われても、困ってしまう。
 澄斗に気になる人がいるのなら、その子を落とすために時間を使ったほうがいいに決まってる。僕に構っている暇があるなら、自分の人生をより豊かにすべきだと僕は考えたのだ。

 昨日、楽しく三人で親子丼を食べながら、内心ひとりでずっと考えていたことだ。モヤモヤして苦しかったけど、この答えに辿り着いたらスッキリした。
 
 僕は僕で、澄斗のそばにいるから彼の優しさをもっともっとと欲しくなってしまう。それならいっそ、親しくなる前の距離感に戻って仕舞えば楽じゃないか——……それが僕の選んだ決断だった。
 モヤモヤを断ち切るためにも、心機一転するためにも、僕は髪を切ったのだ。
 
「だからさ、悠巳くんももう、僕に構わなくていいからね」
「え……なんでそんな寂しいこと言うん……」
「そういうわけだから。昨日はありがと。楽しかったよ」
「郁也くん……」
 
 さあ、これで陽キャ軍団との関わりは消えるだろう。
 これからはふたたび、平凡で静かな学校生活を送ることができる。

 自分に自信のある人たちが送る青春は僕には目まぐるしすぎて、あまりに眩しくて疲れてしまう。

 澄斗の傷ついたような顔を思い出すと、ずきりと胸が痛んだけれど——……こういう静かな毎日が、きっと僕に合っているんだ。
 
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