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第6章
4 自力でなんとか
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「よっ……こうやって、切る……」
そしてようやく訪れた週末の夜。
僕はひとりで、ふたたび親子丼づくりに再チャレンジしていた。
うちの包丁は澄斗の家のものよりも切れ味は劣るけれど、きちんと面を作って玉ねぎを安定させれば、きちんと切れた。
(……あれから全然澄斗と喋ってないな。目も合わせてない)
鶏もも肉を一口大に切りながら、無意識にため息が漏れた。
正直言って、すごく寂しい。
どうしてこんなに寂しくて、虚しいのだろうか。ひとたび近づいた澄斗との距離が以前と同じように開いただけなのに。
澄斗の笑顔が見られないことで、こんなにも虚しい気持ちになるとは思わなかった。
「えーと確か、買ってきた白だしがここに……」
親子丼には白だしが合うし、味が簡単に決まって美味しいから俺はよく使ってる——と澄斗が言っていた。
澄斗の親子丼はものすごく美味かった。ぜひともあの味に近づけたい。
とろりと黄金色に輝く卵はとろっとふんわりしていて、キッチンの照明を受けてキラキラと輝いていた。
一口大に切った鶏もも肉はぷりっとした歯応え。甘辛く煮た玉ねぎと、とろとろ卵との相性が絶妙だった。
白く粒の立ったご飯と一緒に咀嚼すると、卵の甘い香りと鶏もも肉のふくよかな味わいが口の中に広がって——……ああ、思い出すだけで口の中によだれが溢れてくる。
「あんな美味しい親子丼が出てきたら、母さんも絶対喜ぶだろうな」
そのためには、学んだことをしっかり再現できるようにならなくては。
スマホにメモしてきた分量通りに、じっくり、きっちり水と調味料と玉ねぎを鍋に入れ、火にかける。
そして僕はボウルを取り出し、手にした卵をふと見下ろした。
(澄斗には勝手なことを言っちゃったよなぁ……)
こっちから料理を教えてくれと頼んでおきながら、勝手に断ってしまった。きっと、澄斗は腹を立てているのだろう。
そのせいかここ最近の澄斗は表情が薄く、常にうっすら苛立っているように見えた。あんな調子で、ノリを大事にしていそうな陽キャたちとうまくやれたのだろうか……
(ま、いい思い出だよ。初めてご飯を作ってくれた日の夜、たくさん話せてすごく楽しかったし。澄斗にたくさん褒めてもらえて、なんとなく自信もついてきたし)
この二週間ほどの楽しい日々は、偶然生まれた奇跡のような時間だったのだ。
そもそも僕と澄斗の世界は階層が違っているようなもので、交わりようがないのだから。
「……なんて、僕がひとりで小難しいことを考えてても仕方ないな。よーし、卵を入れて、しばらく蓋をして……」
くつくつと鍋の中で煮えている出汁と玉ねぎ、そして鶏肉。そこへしっかりかき混ぜたとき卵を流し込み、菜箸でひと混ぜして蓋をした。
そこですかさずスマホを確認すると、「三十秒待って火を消す」とある。僕はきっちり三十秒数えて即座に火を消す。さらに一分放置したあと、そっと蓋を開けてみた。
「わあ……」
ふわぁ……と出汁と卵の香りが湯気とともに鍋からたちのぼり、僕の鼻腔を美味しい匂いが優しく満たす。
すごい、大成功だ。
つやつやの卵はいい感じに半熟に煮えている。
ただ、ちょっと玉ねぎが大きくて分厚かったような……? ひょっとしたら生煮えの玉ねぎがあるかもしれない。とはいえ、ひとりで作ってこの出来栄えなら大成功なのではいだろうか。
丼にご飯をよそい、出来立ての卵とじをそっと載せる。これで完璧だ。
僕は鼻歌まじりにスマホを手にして写真を撮った。
その写真を誰かに見せたくて——思わず、澄斗のアカウントをタップしそうになる。
僕にもこんなに美味しそうな親子丼ができた。澄斗の教え方がうまかったからだ。だから、ひとこと御礼を言いたい。
しばらくぐるぐる逡巡していたが……結局澄斗にLINEを送ることはできなかった。
(でも、教え方がうまかったらこんなに上手にできわたわけだし……面と向かってありがとうと言いたかったな)
そうは思うが後悔先に立たず。澄斗はもう、僕と口を聞いてはくれないだろう。
言いようのない寂しさがひしひしと迫ってきて、なんだか泣きたい気分になってきた。
そのとき、ピンポーンとのんびりした電子音がインターホンから鳴り響いた。
母さんが留守の今、うちに訪ねてくる人なんて誰だろう? 怪訝に思いつつモニターを覗いてみて——……僕は仰天した。
「えっ……!? す、澄斗……!?」
小さなモニターの中でさえひときわ輝きを放つ美形が、じっとカメラを見つめている。
そしてようやく訪れた週末の夜。
僕はひとりで、ふたたび親子丼づくりに再チャレンジしていた。
うちの包丁は澄斗の家のものよりも切れ味は劣るけれど、きちんと面を作って玉ねぎを安定させれば、きちんと切れた。
(……あれから全然澄斗と喋ってないな。目も合わせてない)
鶏もも肉を一口大に切りながら、無意識にため息が漏れた。
正直言って、すごく寂しい。
どうしてこんなに寂しくて、虚しいのだろうか。ひとたび近づいた澄斗との距離が以前と同じように開いただけなのに。
澄斗の笑顔が見られないことで、こんなにも虚しい気持ちになるとは思わなかった。
「えーと確か、買ってきた白だしがここに……」
親子丼には白だしが合うし、味が簡単に決まって美味しいから俺はよく使ってる——と澄斗が言っていた。
澄斗の親子丼はものすごく美味かった。ぜひともあの味に近づけたい。
とろりと黄金色に輝く卵はとろっとふんわりしていて、キッチンの照明を受けてキラキラと輝いていた。
一口大に切った鶏もも肉はぷりっとした歯応え。甘辛く煮た玉ねぎと、とろとろ卵との相性が絶妙だった。
白く粒の立ったご飯と一緒に咀嚼すると、卵の甘い香りと鶏もも肉のふくよかな味わいが口の中に広がって——……ああ、思い出すだけで口の中によだれが溢れてくる。
「あんな美味しい親子丼が出てきたら、母さんも絶対喜ぶだろうな」
そのためには、学んだことをしっかり再現できるようにならなくては。
スマホにメモしてきた分量通りに、じっくり、きっちり水と調味料と玉ねぎを鍋に入れ、火にかける。
そして僕はボウルを取り出し、手にした卵をふと見下ろした。
(澄斗には勝手なことを言っちゃったよなぁ……)
こっちから料理を教えてくれと頼んでおきながら、勝手に断ってしまった。きっと、澄斗は腹を立てているのだろう。
そのせいかここ最近の澄斗は表情が薄く、常にうっすら苛立っているように見えた。あんな調子で、ノリを大事にしていそうな陽キャたちとうまくやれたのだろうか……
(ま、いい思い出だよ。初めてご飯を作ってくれた日の夜、たくさん話せてすごく楽しかったし。澄斗にたくさん褒めてもらえて、なんとなく自信もついてきたし)
この二週間ほどの楽しい日々は、偶然生まれた奇跡のような時間だったのだ。
そもそも僕と澄斗の世界は階層が違っているようなもので、交わりようがないのだから。
「……なんて、僕がひとりで小難しいことを考えてても仕方ないな。よーし、卵を入れて、しばらく蓋をして……」
くつくつと鍋の中で煮えている出汁と玉ねぎ、そして鶏肉。そこへしっかりかき混ぜたとき卵を流し込み、菜箸でひと混ぜして蓋をした。
そこですかさずスマホを確認すると、「三十秒待って火を消す」とある。僕はきっちり三十秒数えて即座に火を消す。さらに一分放置したあと、そっと蓋を開けてみた。
「わあ……」
ふわぁ……と出汁と卵の香りが湯気とともに鍋からたちのぼり、僕の鼻腔を美味しい匂いが優しく満たす。
すごい、大成功だ。
つやつやの卵はいい感じに半熟に煮えている。
ただ、ちょっと玉ねぎが大きくて分厚かったような……? ひょっとしたら生煮えの玉ねぎがあるかもしれない。とはいえ、ひとりで作ってこの出来栄えなら大成功なのではいだろうか。
丼にご飯をよそい、出来立ての卵とじをそっと載せる。これで完璧だ。
僕は鼻歌まじりにスマホを手にして写真を撮った。
その写真を誰かに見せたくて——思わず、澄斗のアカウントをタップしそうになる。
僕にもこんなに美味しそうな親子丼ができた。澄斗の教え方がうまかったからだ。だから、ひとこと御礼を言いたい。
しばらくぐるぐる逡巡していたが……結局澄斗にLINEを送ることはできなかった。
(でも、教え方がうまかったらこんなに上手にできわたわけだし……面と向かってありがとうと言いたかったな)
そうは思うが後悔先に立たず。澄斗はもう、僕と口を聞いてはくれないだろう。
言いようのない寂しさがひしひしと迫ってきて、なんだか泣きたい気分になってきた。
そのとき、ピンポーンとのんびりした電子音がインターホンから鳴り響いた。
母さんが留守の今、うちに訪ねてくる人なんて誰だろう? 怪訝に思いつつモニターを覗いてみて——……僕は仰天した。
「えっ……!? す、澄斗……!?」
小さなモニターの中でさえひときわ輝きを放つ美形が、じっとカメラを見つめている。
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