初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

文字の大きさ
26 / 54
第6章 

5 二度目の来訪

しおりを挟む
 いるんだろといいたげな強い視線に抗えず、僕は震える指で通話ボタンを押した。

「はい……? どうしたの?」
『ごめん、突然。貰いすぎたものがあって、差し入れしたいんだけど……いい?』
「差し入れ? あ、ど、どうぞ」

 開錠ボタンを押すと、澄斗の映像が一瞬消える。
 そして数分ののち……

「い、いらっしゃいませ……」
「お邪魔します。ごめんな、急に」
「う、ううん。……あ、どうぞ」
「これ、焼き菓子の詰め合わせ。ひとりじゃ食い切れねーし、よかったらもらってくんない?」

 澄斗が差し出した紙袋は光沢のある深緑色に金色の縁取りがされたもので、見るからに高級だとわかる品物だった。
 受け取って中を覗き込んでみると、中に収まった箱も紙袋と同じ色だ。金色の英字で店の名前らしきものが書かれている。

「うわ、なんかすんごい高そう」
「気にしないでよ、もらいもんだし」
「あ、ありがとう。……その、ちょっと上がっていく……?」
 
 初めて澄斗を家にあげた日よりも緊張しつつ、僕はスリッパをそっと差し出してみた。
 すると澄斗は「じゃあ、ちょっとだけ」といって部屋の中へ。
 
 そういえば、部屋が散らかったままだと気づいたが——……時すでに遅し。
 
 リビングには洗濯物の山がそのままだし、使ったばかりのキッチンは野菜くずやボウルや菜箸でとっ散らかっている。

「あーっ!! ちょ、ちょっとそこで待ってて!! 今、ちょうどこのあいだ教わった親子丼を作ってたとこで……」
「作ってくれたの? ……ん、そういえば、いい匂いがする」

 澄斗がすんすんと鼻をひくつかせる。
 そしてふといたずらっぽい笑顔を見せた澄斗は、両手を広げて通せんぼしている僕の頭上から首を伸ばし、廊下からリビングの中を覗き込んだ。
 ……身長差があるのだからこれくらいは余裕か。そもそも目の前に立ちはだかった意味がなかったらしい。

「別にそんな散らかってないじゃん。平日のうちのほうが酷いくらいだよ」
「そ、そんなわけないだろ! めちゃくちゃ綺麗だったじゃん!」
「毎週土曜にハウスキーパーさんがきてくれるんだ。それで、あの日は片付いてただけ」
「ハウスキーパー……さすが金持ち」

 あの広さの家をあの整然さで管理するのは、確かに骨が折れるだろう。でもプロの手が入っているのなら頷ける綺麗さだった。

「ところで、見せて。親子丼、ひとりで作ったんだろ?」
「あ、あー……うん。でもちょっと恥ずかしいなぁ」
「いい匂いしてるから大丈夫っしょ。……あ、これかな?」

 ひょいとキッチンに入った澄斗が、僕が今まさに丼に盛り付けたばかりの親子丼を見つけたらしい。
 くんくん、すぅ~~~……と胸いっぱいに僕の作ったそれの匂いをかいだあと、澄斗はキラキラと眩い笑顔を見せてくれた。

「すごいじゃん! 完璧、すげー美味しそうだよ!」
「へ、へへ……そう?」
「なにより、教えたあとにすぐ実践してもらえるのが嬉しすぎなんだけど」
「そ、そういうもん? あっ、ちょっと作りすぎちゃったし、よかったら澄斗も食べない?」
「いいの!?」

 僕なんかが作ったものを、あんなにも嬉しそうな顔で欲してくれてる——……嬉しくて嬉しくて、胸の奥を熱い手でぎゅうっと掴まれるようだった。
 この一週間、見たくても見れなかった澄斗の笑顔を見ることができた喜びもあいまって、僕はやや涙目になりながらこくこくと小刻みに頷いた。
 
「待ってて、すぐもう一つ器を……。あ、リビング散らかってるけど、適当に座っててくれる?」
「オッケー」

 ソファに腰を下ろした澄斗だが……なんと、おもむろに積み上げたままだった洗濯物に手を伸ばした。
 僕のTシャツや肌着のランニングシャツ、パジャマ、そしてパンツなどが、澄斗の膝の上で畳まれようとしている……

「ちょっ!! ちょっと何やってんの!! いーってそんなことしなくても!!」
「待ってる間手持ち無沙汰だしさー。俺、けっこう畳むの上手いよ?」
「そういう問題じゃなくて!! ぱ、パンツとか、さすがに見られるのは恥ずかしいし……!!」
「パンツ……」

 僕のTシャツを綺麗に畳んだ澄斗が、ふと衣類の山のほうへ目をやり——大人しくなった。
 その視線の先には、使い古してクタクタになった僕の青いボクサーブリーフがある。
 僕は思わず二つのどんぶりをドン! とカウンターに乗せ、僕は風のような速さで洗濯物の山をリビング脇にある和室に放り込み、ピシャリと襖を閉めた。

「き、汚いから!! 恥ずかしいんだってば!!」
「ごめんごめん。でも、全然汚くないじゃん」
「だーもーいいから!」

 僕が必死で怒っているのが面白いのだろうか。澄斗は頬を赤らめて、くすぐったそうに肩をゆすって笑っている。
 学校では見たことない無防備な笑いかたは……なんだろう、すごく可愛い。
 そして、その笑顔を見られたことが嬉しくて、胸の奥がむずむずしている。

(な、なんなんだよ……可愛い顔しちゃってさ)

 どきどき、どきどきと胸が騒がしい。
 僕は澄斗に背を向けてひとつ深呼吸をした。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

処理中です...