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第8章
5 誤解なんてしない
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「夏休みや冬休みは実家に戻らずにじいちゃんとこで過ごして、喫茶店の手伝いとかさせてもらってた。そしたら、さすがに親父も俺が本気で怒ってることに気づいたらしくて、無理にあの女を家族と認めなくてもいいって言ってきたんだ」
閉じた弁当箱の蓋をどこか愛おしげに撫でる澄斗の指先に、僕はふと目を落とした。
こういうお弁当も、おじいさんに教わったものだろうか。家庭的とは程遠い雰囲気を醸しているあの後妻さんが、澄斗に弁当が必要なときに準備してくれるとは思えない。
「ただ、たまには食事くらいはしてほしいって言ってくるから、年に一二度、外で飯食ったりはしてる。そんときの写真が、これ」
「なるほど……」
「俺が中三になった頃、親父とあの女は都内にマンションを買ったんだ。それであの家は、俺と兄貴とじいちゃんで好きに使っていいってことになった。……しめた! ラッキーって思ったよ。これでまた地元の高校通えるじゃんって」
家族のことを語る澄斗の瞳はずっと曇りがちだったけれど、にわかに輝きが戻ってくる。
ホッとして、なんだか僕のほうが泣きそうになってしまった。
「こっちの学校のほうが良かった?」
「そりゃそうだよ! 俺としては、中学は一時的な避難所のつもりだったし、頭ガチガチの秀才ばっかで話し合うやついなくて苦痛でさ。……それにこの街を離れてから、余計に郁也のことが気になってた。どうしてるかなって」
「え、ぼ、僕?」
「そ。郁也、あんまり友達作るのうまくないし、ぼっちになってないかなーとか?」
「そ、そっちか~……」
「ははっ、冗談冗談。でも、会いたかったのはほんと。同じ中学だったらどんなふうだったかな~とか色々想像したけど……あの頃の俺は、郁也に会いに行く余裕もなくて。ひとりじゃなんにもできない自分が、情けなくてたまらなかった」
きゅっと弁当箱をバンダナに包み、澄斗は自嘲の笑みを唇に浮かべる。
僕は思わず澄斗のその手を掴み、勢いよくかぶりを振った。
「そんなことないって! 澄斗はすごいよ! 自分の頭で色々考えて、行動して、本当にすごい。誰にでもできることじゃないよ!」
「……そう?」
「そうだよ! ご家族のことは……その、色々ありすぎてなんて言ったらいいかわからないけど! 今、澄斗が元気でいてくれて、僕はほんとに良かったと思ってる……!」
僕の必死の訴えを受け止める澄斗の瞳が、うるりと揺れる。
大きな手が僕のそれに重なって、柔らかく、あたたかく握り締められた。
「ありがと、郁也。郁也にそう言ってもらえると、なんかすげぇホッとする」
「だって、本当のことだ」
「……昨日の晩さ、LINEにどんどん通知が溜まっていくの見てて、怖くなった。ああ俺のこと色々言われてんだろうなーって。……これまで俺のことあんまりよく思ってなかった奴らが、ここぞとばかりに俺に悪意をぶつけてきてんだろうなって思うと、さすがにすげぇ不安だったよ」
澄斗はスマホをポケットに戻し、はぁ……と重たいため息をついた。
「それにな、俺、郁也に誤解されるのが一番怖かった」
「え? 僕?」
「付き合ってみてもいいって言ってもらえて、有頂天になってたとこにあの写真だ。うちのクラスのグループに流れたから、郁也も見てるかもしれない。女と腕組んでる俺を見たら、郁也がなんて思うだろうって。……それが怖くて」
「澄斗……」
「郁也に好かれるために頑張るっていったそばからママ活疑惑とか最悪じゃん? そっからもうスマホ見れなくて、眠れもしなくて……それで作ったのが、この弁当」
片手で弁当箱を持ち上げ、澄斗が苦笑した。
「そんなに不安だったなんて……。ごめん、僕はSNSとかほとんど見ないしクラスLINEも通知切ってるから、なにも知らなかったんだ」
「ふふ、そうみたいだな。でも、朝イチでこのこと知ったのに、郁也はすぐに俺を庇ってくれたろ?」
「そりゃあそうだよ。澄斗がそんなことするわけない。女性といたのも、きっと何か事情があったんだと思った。それよりなにより……冴島さんに腹が立って」
大切に想う人を貶められることが、あんなにも耐え難いものだとは思わなかった。
彼女は澄斗を好きだといいたげな顔をしていたのに、うまくいかなかったからといって澄斗を貶めた。そういう身勝手なやり口が、僕はどうしょうもなく許せなかった。
怒りに身を任せて酷いことを言ってしまった。それについては反省している。
でもあの場で反論できなければ、僕はずっと後悔しただろう。
澄斗を守れなかったことを、ずっと。
閉じた弁当箱の蓋をどこか愛おしげに撫でる澄斗の指先に、僕はふと目を落とした。
こういうお弁当も、おじいさんに教わったものだろうか。家庭的とは程遠い雰囲気を醸しているあの後妻さんが、澄斗に弁当が必要なときに準備してくれるとは思えない。
「ただ、たまには食事くらいはしてほしいって言ってくるから、年に一二度、外で飯食ったりはしてる。そんときの写真が、これ」
「なるほど……」
「俺が中三になった頃、親父とあの女は都内にマンションを買ったんだ。それであの家は、俺と兄貴とじいちゃんで好きに使っていいってことになった。……しめた! ラッキーって思ったよ。これでまた地元の高校通えるじゃんって」
家族のことを語る澄斗の瞳はずっと曇りがちだったけれど、にわかに輝きが戻ってくる。
ホッとして、なんだか僕のほうが泣きそうになってしまった。
「こっちの学校のほうが良かった?」
「そりゃそうだよ! 俺としては、中学は一時的な避難所のつもりだったし、頭ガチガチの秀才ばっかで話し合うやついなくて苦痛でさ。……それにこの街を離れてから、余計に郁也のことが気になってた。どうしてるかなって」
「え、ぼ、僕?」
「そ。郁也、あんまり友達作るのうまくないし、ぼっちになってないかなーとか?」
「そ、そっちか~……」
「ははっ、冗談冗談。でも、会いたかったのはほんと。同じ中学だったらどんなふうだったかな~とか色々想像したけど……あの頃の俺は、郁也に会いに行く余裕もなくて。ひとりじゃなんにもできない自分が、情けなくてたまらなかった」
きゅっと弁当箱をバンダナに包み、澄斗は自嘲の笑みを唇に浮かべる。
僕は思わず澄斗のその手を掴み、勢いよくかぶりを振った。
「そんなことないって! 澄斗はすごいよ! 自分の頭で色々考えて、行動して、本当にすごい。誰にでもできることじゃないよ!」
「……そう?」
「そうだよ! ご家族のことは……その、色々ありすぎてなんて言ったらいいかわからないけど! 今、澄斗が元気でいてくれて、僕はほんとに良かったと思ってる……!」
僕の必死の訴えを受け止める澄斗の瞳が、うるりと揺れる。
大きな手が僕のそれに重なって、柔らかく、あたたかく握り締められた。
「ありがと、郁也。郁也にそう言ってもらえると、なんかすげぇホッとする」
「だって、本当のことだ」
「……昨日の晩さ、LINEにどんどん通知が溜まっていくの見てて、怖くなった。ああ俺のこと色々言われてんだろうなーって。……これまで俺のことあんまりよく思ってなかった奴らが、ここぞとばかりに俺に悪意をぶつけてきてんだろうなって思うと、さすがにすげぇ不安だったよ」
澄斗はスマホをポケットに戻し、はぁ……と重たいため息をついた。
「それにな、俺、郁也に誤解されるのが一番怖かった」
「え? 僕?」
「付き合ってみてもいいって言ってもらえて、有頂天になってたとこにあの写真だ。うちのクラスのグループに流れたから、郁也も見てるかもしれない。女と腕組んでる俺を見たら、郁也がなんて思うだろうって。……それが怖くて」
「澄斗……」
「郁也に好かれるために頑張るっていったそばからママ活疑惑とか最悪じゃん? そっからもうスマホ見れなくて、眠れもしなくて……それで作ったのが、この弁当」
片手で弁当箱を持ち上げ、澄斗が苦笑した。
「そんなに不安だったなんて……。ごめん、僕はSNSとかほとんど見ないしクラスLINEも通知切ってるから、なにも知らなかったんだ」
「ふふ、そうみたいだな。でも、朝イチでこのこと知ったのに、郁也はすぐに俺を庇ってくれたろ?」
「そりゃあそうだよ。澄斗がそんなことするわけない。女性といたのも、きっと何か事情があったんだと思った。それよりなにより……冴島さんに腹が立って」
大切に想う人を貶められることが、あんなにも耐え難いものだとは思わなかった。
彼女は澄斗を好きだといいたげな顔をしていたのに、うまくいかなかったからといって澄斗を貶めた。そういう身勝手なやり口が、僕はどうしょうもなく許せなかった。
怒りに身を任せて酷いことを言ってしまった。それについては反省している。
でもあの場で反論できなければ、僕はずっと後悔しただろう。
澄斗を守れなかったことを、ずっと。
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