初恋のレシピは、きみと

餡玉(あんたま)

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番外編② 御子柴視点

空回りしていた頃も……

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「俺をキュンキュンさせてどないすんねん。そういうことは郁也くんに直接言わんかい」
「言ってるから大丈夫だよ」
「どぇぇぇ……おまえ、その顔でそんな甘ったるいことサラッと言ってまえるタイプなん!?」
「うん、意外とそうみたい」
「へぇ……やるやん。もっとお手並み拝見してみたいわ」
「はぁ?」

 親友がどんな顔で郁也くんに愛を囁いているのか、ちょっとだけ好奇心が湧いてしまった。

 俺も澄斗の隣にみっちりくっついて窓枠に上半身を預け、ニコッと得意の笑顔を見せてやる。ほらほら俺も可愛いやろ~?

「澄斗はもっと空回り系の残念イケメンかと思ってたのに、つまらんわ~」
「はぁ? 俺のどこが空回ってるって?」
「調理実習のときとか、めっちゃウザ絡みして嫌われとったやん」
「いやあれは……郁也が危険に晒されてたから思わずさぁ」
「あと、校外研修んときもなかなかやったな、思い返せば」
 
 そう、うちの学校は五月になると『関東近郊の身近だからこそ行かない名所を知る』という名目のもと、遠足みたいな校外学習が開催される。
 まぁ生徒たちの親睦を深めるような意図でやってんねやろな。
  
 その時の澄斗は、俺も戸惑うくらい挙動不審だった。
 
 まずは班決めのときや。

 なんやめちゃくちゃそわそわしてて、席が近かった俺の「なあ、一緒に回るやんなぁ?」という声をかけをスルー。

 他に誰か組みたい女子でもいてんのかなと思って黙ってたら、澄斗はノリのいい取り巻きたちにあっという間に取り囲まれた。

 そんで「澄斗もこっち入るだろ!? よし決まりー!」「きゃーずるい! あたしも入りたかった!!」などなどキャーキャー言われながら勝手に班を決められていた。んで、俺も気づいたらその班に入ってた。

 俺は助け舟を出す暇もなかった。人気者の澄斗はあっちこっちで取り合いなのだ。

 いちおう、「お、おう……」って引き攣った顔で頷いてはいたけど、澄斗はまったく納得している顔じゃなかった。 

 今なら分かる。あのとき澄斗は、郁也くんと組みたかったんやな。
 
 でも、それはけっこう難しかったやろな。そもそも、ふたりの雰囲気はまるで真逆。ふたりを取り巻くクラスメイトの雰囲気も真逆なわけで、あそこで澄斗が脇目も振らずに郁也くんとこ突っ走ってたら、たぶんクラス全体が変な空気になってたと思う。
 
 そんなこんなで五月半ばに開催されたその校外学習。

 そのあたりから、今度は郁也くんのドジっ子な部分が少しずつ目立ち始めてきた。

 乗るべき電車を間違えたり、同じ班のメンバーとはぐれたり。
 配布された弁当の上にお茶をひっくり返してみたり——……と、まぁなかなかのドジっ子ぶり。

 ぱっと見賢げでおとなしそうやから、そういう一面があるのかとちょっと俺もびっくりしたもんや。

 んで、そういうとき、澄斗はすぐさま郁也くんを助けに行く。
 
 仲間とはぐれてキョロキョロしながらウロウロしている郁也くんに気づいた澄斗が、部活中にも見せへんような猛烈ダッシュで駆け寄って行ったときはさすがの俺も驚いた。
 
「郁也なにしてんの!? 大丈夫!? ひょっとしてはぐれちゃった!?」と満面の笑みを浮かべながら駆けつけた澄斗を、郁也くんは不審げに見上げてた。

 んで案の定、郁也くんは「べ、別になんでもない。僕に構わないでくれ」といってそそくさと澄斗から逃げていってしまった。

 ……そらそうやろ。いくら小学生時代の知り合いやゆうて、普段全然絡みない相手がいきなり迷子の自分に声かけてきたらドン引きやろ。

 ひとり取り残された澄斗のしょぼくれた後ろ姿は忘れられへん。どっちが迷子かわからへんような切ない背中やった。澄斗が雨に濡れた迷子のワンちゃんに見えたわ。
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