8 / 21
友情?
1 私のイラスト
しおりを挟む
里中明美の描いたイラストが奈良崎美玲のツイッピーアカウントに表示されている。
いいね数はもうすぐ三万、リツイート数はざっと五百。
くりっとした大きな目が印象的な美少女が、振り返って微笑むイラストだ。
襟元にフリルをたくさんあしらったブラウスとボウタイ、袖口にもたっぷりのレース。黒いスカートにはボリュームをもたせ、表面にはこっくりとした光沢を乗せる。
黒いヒールの丸い先端には宝石とリボンをあしらって、可愛らしさとゴージャスさを取り入れた。
『すっごく綺麗です!ドレス可愛い~!』『今一番絵を見るのが楽しみな神絵師』『本当に綺麗なイラスト。これでプロじゃないってなんで』『この絵師様、ご本人もすっごく綺麗』——……明美の描いたイラストに、美玲を賞賛するコメントが数百近くついている。
この歪な現象が始まってからもうすぐ三年。明美は、込み上げる吐き気をぐっとこらえてスマホをブラックアウトさせた。
——別にいい。美玲のアカウントだろうがなんだろうが、私の絵が評価されていることには変わりないんだから。
何度自分にそう言い聞かせただろう。初めはそれで納得することもできていた。
だって美玲が感謝してくれる。
生まれて初めて明美の絵を褒めてくれた相手だから、それでもいいと思っていた。
高校に入ったばかりの頃、明美は保健室でこっそりイラストを描いていた。
引っ込み思案な性格のせいでクラスに馴染めず、明美はいつしか教室から遠ざかり、保健室やカウンセリングルームで授業を受けていたのである。
理解ある大人たちに囲まれて、ひっそりとした毎日にそれなりに満足していた明美だが、心のどこかではやっぱり、他の人たちと同じように青春を謳歌してみたいと思っていた。
そんなとき、体育で突き指をした美玲が保健室にやってきた。いつも彼女の周りを囲んでいる取り巻きは連れず、ひっそりと保健室に入ってきたのだ。
絵に集中していた明美は美玲の気配に気づかず、背後からそっと手元を覗き込まれ、イラストを見られてしまった。隠す暇もなかった。
——『わぁ、里中さんすご~い! 絵うまいんだね!』
美玲は長いまつ毛に縁取られた大きな目を輝かせていた。
美人だけどほんのすこし天然で可愛らしい性格をした美玲は、学校中の人気者だ。明美も彼女の存在はもちろん知っている。でも、キラキラした美玲は、冴えない自分とは住む世界が違う。一生口をきくことなどないと思っていた。
明美は保健室登校をしていて絵ばかり描いている暗いオタクだ。自分でもわかっている。
校内のヒエラルキーのトップに自然と君臨する彼女に絵を見られたら、馬鹿にされると思った。ただでさえ教室に入れていないのに、イラストばっかり描いてる暗くてキモいやつっていうレッテルまで追加されてしまったら、高校生活はもう終わりだ——……明美は震えながら美玲を見上げることしかできなかった。
しかし、そうはならなかった。
美玲は明美のイラストをベタ褒めし、「里中さんのイラスト、すごく好き」と言ってくれた。親にも秘密にしていた趣味を認めてくれた。初めてのファンになってくれた。
そこからは毎日学校へ行くのが楽しくなって、少しずつ教室で授業を受けることができるようになった。
美玲は同じクラスではなかったから教室で顔をあわせることはなかったけれど、彼女は確実に明美に自信を与えてくれた。
だからこそ、『あたしね、ツイッピー始めてみたんだ。でも全然フォロワー増えないの』『あ、そうだ! 試しに明美のイラスト載せてみてもいい? 明美だって、もっといろんな人に絵見てほしいよね』と言われ——……軽い気持ちで、アナログで描いたイラストをネットにアップしたのだ。
美玲が変わっていったのはそこからだ。
いいね数はもうすぐ三万、リツイート数はざっと五百。
くりっとした大きな目が印象的な美少女が、振り返って微笑むイラストだ。
襟元にフリルをたくさんあしらったブラウスとボウタイ、袖口にもたっぷりのレース。黒いスカートにはボリュームをもたせ、表面にはこっくりとした光沢を乗せる。
黒いヒールの丸い先端には宝石とリボンをあしらって、可愛らしさとゴージャスさを取り入れた。
『すっごく綺麗です!ドレス可愛い~!』『今一番絵を見るのが楽しみな神絵師』『本当に綺麗なイラスト。これでプロじゃないってなんで』『この絵師様、ご本人もすっごく綺麗』——……明美の描いたイラストに、美玲を賞賛するコメントが数百近くついている。
この歪な現象が始まってからもうすぐ三年。明美は、込み上げる吐き気をぐっとこらえてスマホをブラックアウトさせた。
——別にいい。美玲のアカウントだろうがなんだろうが、私の絵が評価されていることには変わりないんだから。
何度自分にそう言い聞かせただろう。初めはそれで納得することもできていた。
だって美玲が感謝してくれる。
生まれて初めて明美の絵を褒めてくれた相手だから、それでもいいと思っていた。
高校に入ったばかりの頃、明美は保健室でこっそりイラストを描いていた。
引っ込み思案な性格のせいでクラスに馴染めず、明美はいつしか教室から遠ざかり、保健室やカウンセリングルームで授業を受けていたのである。
理解ある大人たちに囲まれて、ひっそりとした毎日にそれなりに満足していた明美だが、心のどこかではやっぱり、他の人たちと同じように青春を謳歌してみたいと思っていた。
そんなとき、体育で突き指をした美玲が保健室にやってきた。いつも彼女の周りを囲んでいる取り巻きは連れず、ひっそりと保健室に入ってきたのだ。
絵に集中していた明美は美玲の気配に気づかず、背後からそっと手元を覗き込まれ、イラストを見られてしまった。隠す暇もなかった。
——『わぁ、里中さんすご~い! 絵うまいんだね!』
美玲は長いまつ毛に縁取られた大きな目を輝かせていた。
美人だけどほんのすこし天然で可愛らしい性格をした美玲は、学校中の人気者だ。明美も彼女の存在はもちろん知っている。でも、キラキラした美玲は、冴えない自分とは住む世界が違う。一生口をきくことなどないと思っていた。
明美は保健室登校をしていて絵ばかり描いている暗いオタクだ。自分でもわかっている。
校内のヒエラルキーのトップに自然と君臨する彼女に絵を見られたら、馬鹿にされると思った。ただでさえ教室に入れていないのに、イラストばっかり描いてる暗くてキモいやつっていうレッテルまで追加されてしまったら、高校生活はもう終わりだ——……明美は震えながら美玲を見上げることしかできなかった。
しかし、そうはならなかった。
美玲は明美のイラストをベタ褒めし、「里中さんのイラスト、すごく好き」と言ってくれた。親にも秘密にしていた趣味を認めてくれた。初めてのファンになってくれた。
そこからは毎日学校へ行くのが楽しくなって、少しずつ教室で授業を受けることができるようになった。
美玲は同じクラスではなかったから教室で顔をあわせることはなかったけれど、彼女は確実に明美に自信を与えてくれた。
だからこそ、『あたしね、ツイッピー始めてみたんだ。でも全然フォロワー増えないの』『あ、そうだ! 試しに明美のイラスト載せてみてもいい? 明美だって、もっといろんな人に絵見てほしいよね』と言われ——……軽い気持ちで、アナログで描いたイラストをネットにアップしたのだ。
美玲が変わっていったのはそこからだ。
56
あなたにおすすめの小説
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
オヤジ栽培〜癒しのオヤジを咲かせましょう〜
草加奈呼
キャラ文芸
会社員である草木好子《くさきよしこ》は、
毎日多忙な日々を送り心身ともに疲れきっていた。
ある日、仕事帰りに着物姿の女性に出会い、花の種をもらう。
「植物にはリラックス効果があるの」そう言われて花の種を育ててみると……
生えてきたのは植物ではなく、人間!?
咲くのは、なぜか皆〝オヤジ〟ばかり。
人型植物と人間が交差する日常の中で描かれる、
家族、別れ、再生。
ほんのり不思議で、少しだけ怖く、
それでも最後には、どこかあたたかい。
人型植物《オヤジ》たちが咲かせる群像劇(オムニバス)形式の物語。
あなたは、どんな花《オヤジ》を咲かせますか?
またいいオヤジが思いついたらどんどん増やしていきます!
あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜
南 鈴紀
キャラ文芸
妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。
しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。
掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。
五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。
妖×家族の心温まる和風ファンタジー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
もっと早く、伝えていれば
嶌田あき
キャラ文芸
記憶から生まれ、1ヶ月で消える運命のあやかし・憶。鎌倉の古い喫茶店「波音堂」で目覚めた彼が最初に出会ったのは、17歳の高校生・夏希だった。
同じ17歳なのに、夏希には18歳の誕生日が来る。憶には来ない。
憶は、大切な人を失った人々を「記憶の渚」へ導き、故人の記憶と対話する手伝いをしている。言えなかった恋の告白、12年越しのさよなら、認知症の夫への思い――4つの「弔い」を通じて、憶は生きること、死ぬこと、記憶することの意味を知っていく。
そして最後、憶は自分の正体を知る。憶は、夏希の母の記憶から生まれたのだと。
「もっと早く、伝えていれば」と後悔する人々に寄り添いながら、憶自身も夏希との限られた時間の中で、大切な気持ちを伝えようとする。
1ヶ月後、憶は静かに光の粒子となって消えていく。でも憶の存在は、夏希の記憶の中で永遠に生き続ける――。
鎌倉黒猫カフェ クロスオーバー
櫻井千姫
キャラ文芸
鎌倉の滑川近くにある古民家カフェ「クロスオーバー」。イケメンだけどちょっと不思議な雰囲気のマスター、船瀬守生と、守生と意思を交わすことのできる黒猫ハデス。ふたりが迎えるお客さんたちは、希死念慮を抱えた人ばかり。ブラック企業、失恋、友人関係、生活苦......消えたい、いなくなりたい。そんな思いを抱える彼らに振る舞われる「思い出のおやつ」が、人生のどん詰まりにぶち当たった彼らの未来をやさしく照らす。そして守生とハデス、「クロスオーバー」の秘密とは?※表紙のみAI使用
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる