琥珀に眠る記憶—番外編集—

餡玉(あんたま)

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もろもろ小話

珠生と千珠が入れ替わった話

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 ふと、身体の痛みに気づいて目を覚ます。
 かすかに呻きながら薄く目を開くと、そこは住み慣れた部屋ではなく、あちこち床板のめくれた荒んだ場所だ。珠生は何度か目を瞬いて、「え?」と声を上げた。

「な、なんだこれ……? あいたたた……何これ、床かたっ……えっ!?」 

 硬いはずだ。冷たく硬い床の上に、黒い衣を広げただけの場所で、珠生は眠っていたらしい。

 そして、起き上がろうとしてぎょっとする。重たい腕が、珠生の腰に巻き付いているではないか。何者かに、背中をすっぽり覆うように抱きしめられている。


 ——えええええ!!?? えっ!? ……しゅっ……舜、海……!?


 無理やり起き上がって相手の顔を覗き込んで見れば、そこで寝息を立てているのは舜海だった。ゆるく身にまとった濃灰色の着物の胸元から、たくましい胸筋が覗いている。


 ——こ、これはいったいどういうことだ!? こ、ここ……あの、廃寺……!!


 見回せば見回すほど、見覚えしかない場所だ。五百年前、舜海と千珠が逢瀬のために使っていたあの廃寺である。外はかすかに白んでいるらしい。明かりとりの細い格子窓から、ほのかな朝陽が差し込んでいる。埃っぽい板の間はただ広くて、何もない。かつて本尊があったと思しき場所に、燭台が一つ佇んでいるだけだ。


 ——な、なにこれ? なにこれ夢? 夢だよな? だってこれ……この状況……!!


「ん……? なんやもう起きたんか」  
「ひぃぃっ!?」

 背後から不意に肩に触れられ、珠生は仰天した。そんな珠生の反応を見て、舜海が訝しげな表情を浮かべている。

 まともに目が合って、珠生は思わず目を瞠った。
 ぼさぼさと伸び放題の黒髪の下から、意志の強そうな黒い瞳が、じっと珠生を見据えている。その目力の強さと、凛とした逞しい男の魅力に、視線が釘付けになってしまう。


 ——う、うわ……舜海って、こんなだっけ……? も、もっと……馬鹿っぽかったような気がしてたのに……。


 顔立ちも霊気の波長も舜平と瓜二つなのに、どうしてこうも雰囲気が違うのだろうか。はだけた着物から覗く分厚い胸板や、裾から覗く引き締まった筋肉質な脚……舜海の肉体からは、溢れるような野性味と男の色香が漂っている。


 ——良い男だな…………って、そうじゃなくて!! 夢にしてはリアルだな……。ていうか、夢、だよね? 


「どうした、千珠。変な夢でも見てたんか?」 

 珠生が目をしばしばさせながら舜海を観察していると、すっと大きな手が持ち上がり、珠生の頬を撫でた。熱い手のひらの感触はあまりにも生々しく、珠生は思わず「あっ……」と声を漏らしてしまう。

「舜ぺ…………じゃなくて、しゅ……舜海……?」 
「ん? え? 他に誰がいんねん」 


 ——っていうか、今、千珠って呼ばれた?


 ふと、自分の身体を見回してみる。耳元に触れてみれば、耳飾りの感触もあり、胸元を滑り落ちる髪の毛は銀色である。持ち上げた手の指には、只人にはあり得ないほど尖った鉤爪が……といっても、上司である常盤莉央の禍々しい付け爪に比べれば清楚なものだ、と珠生は思った。


 ——せ、千珠に戻ってる……? す、すごい夢だな~あはは~~。


「千珠、どうした。ぼうっとして」
「え……わっ」
「ものたりひんかったんやろ。……もういっかい、するか?」

 大きな身体に抱き寄せられ、耳元で思わせぶりに囁かれつつ、はだけた千胸元を指でつつーっと撫でられた。珠生はぶるるっと震え上がる。

「ふぇっ!? ちょ、ちょっと待ってください!」 
「待ってください?」 
「あ、えーと……ちょっと、ま、待ちやがれ!?」
「えぇ? まちやがれ?」

 口調が安定しない珠生に、舜海が訝しげに首を傾げている。珠生は焦った。だが、舜海は心配そうに珠生の額に手を当てて、うーんと考え込んでいる。

「ちょい冷えたかな、熱でも……」
「あっ……ね、熱なんて、そんな……」 
「ん? どないしたんお前。かわいい顔して」
「あっ、いや、別に……」


 ——うう、なんだこの溢れる男の色気は……! む……胸板厚い……あ、いや別に舜平さんが貧相ってわけじゃなくて、なんていうか、アウトローなセクシーさがたまらん……。


 気恥ずかしさのあまり、舜海の目を見ることができない。そっぽを向いたっきりの珠生から、すっと舜海は手を引いた。そして、どことなく寂しげな声でこんなことを言う。

「触られんの嫌か?」 
「え!? い、いやじゃない……!! ……です」 
「ですぅ? やっぱ熱あんのちゃう? 顔真っ赤やで」
「ふぇぇっ……! な、な、なん、何でもないってば!!」
「なんやお前……別人みたいやで? うーん……なんやろなこの可愛さは……」

 そっぽを向く珠生の視線を追いかけるように顔を近づけてくる舜海の目には、明らかな好奇が浮かんでいる。ぐいと抱き寄せられたかと思うと、ぐいっと顎を捉えられ、まっすぐに顔を覗き込まれてしまった。


 ——ひぇぇ、迫ってきたどうしよう! しゅ、舜平さんに怒られる……え、いや怒られないよな、だったこれは舜平さんでもあるわけで……!!??


「ね、寝起きだからっていうか!! ゆ、夢見てたんだ!!」 
「ふーん。……寝ぼけてるときだけは、お前も無防備でかわいいもんな」
「ちょっ……何するんだよ!」 

 とさ……と押し倒されて、馬乗りになられてしまった。慌てもするが、緩んだ着物の襟元から見える胸筋や、下から見上げる舜海の整った顔にも、ついつい見惚れてしまう。


「千珠……」
「ん、ァ……はぁ……」

 はだけた千珠の着物の裾を割り、舜海の手のひらが太ももを撫で始める。ぞくぞくとした快感がそこから珠生の肉体を這い上がって、思わず甘い声が出てしまった。 


 ——な、何これ、何だこれ燃え…………い、いやいやいや!! 舜平さんというものがありなからこんなっ……! いやでもこの人は舜平さんでもあって!! うわああああややこしい!!


「夜は激しくやりすぎたもんな。次はめっちゃくちゃ甘やかしてやる……」
「ぁ、うそ、だめ、だめだって!! そんなとこっ……!!」 


 ・・・・・・・


「だめっ!! だめだったら……!! 俺は千珠じゃないからっ!! あぁ、そんなこと……!!!」 
「珠生? どないしてん、お前」
「はっ……!!!」


 ガバッと起き上がると、そこは珠生の部屋である。隣に寝転んでスマートフォンをいじっていた舜平が、物珍しげにこちらを見ていた。


 ——……あ……爽やかなイケメンがいる……。やっぱこうして見比べてみると、舜平さんってほんとスマートでかっこいい……。


 と、改めて舜平の洗練された男らしさに気づき、珠生はなんだかホッとした。すると舜平は肘枕をして、にやにやしながら珠生を見下ろす。

「おいおいおい、どんなエロい夢見てんねん。欲求不満かぁ?」
「ちち、ちがうよ!! んなわけないだろ!!」 
「どないしたん、むっちゃ怒るやん。しかし、あんだけ抱いても欲求不満とはな……俺、もっと頑張らなあかんな」 
「が、頑張らなくていい!! むしろもっと手加減し、あっ……」

 ちゅ、とキスをされ、やんわりとベッドに組み伏せられる。するりと珠生のシャツの中に手を忍び込ませながら、舜平は色っぽく微笑んだ。

「俺の愛し方が足りひんってことやろ? ……欲張りやな、珠生」 
「……ん、ァ……っ、しゅんぺいさん……」

 濃厚なキスを浴びながら、シャツの中で敏感なところを撫でられて、感じ慣れた快感に珠生はびくびくっと肌を震わせた。


 ——あぶない……危うく夢の中で浮気をしてしまうところだった…………って、でもこの二人は同一人物……うーん。


 舜平のキスに応じて舌を絡めながら、珠生はややこしいことを考えようとした。


 だが、徐々に熱を増す甘い愛撫に負けて、いつしか思考は舜平一色に染められてしまうのだった。



 おしまい♡
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