黒崎くんと佐藤さん

金魚

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第一章

​空虚な眼差し

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天童が海外出張へと旅立ち、嵐のような蹂躙の日々から一時の静寂が訪れる。

しかしそれは黒崎にとっての「自由」を意味するものではなかった。

​天童の狙いは黒崎の身体に穿った銀の鎖が、傷口と完全に同化し、最も美しい「完成品」となるまで待つことにあった。


薄暗い部屋の中で、黒崎は四肢を固定されたまま、ただ天井を見つめて過ごしていた。

耳、唇、両方の乳首、へそ、そして下半身の前後……。

身体をわずかに動かすだけで、あちこちに刻まれた銀のリングが肌に擦れ鈍い痛みを走らせる。


​(……私は、……玩具……。
ご主人様の、……コレクション……)


​かつて脱出を誓い天童を憎み抜いた「人間の黒崎」の意識は、今や霧の彼方へ消え去っていた。

今の黒崎にあるのは思考を停止させることで激痛と屈辱から精神を守る、空っぽの虚無感だった。


​天童の不在中、部屋を訪れるのはあの老執事だけだった。
彼は毎日、決まった時間に黒崎の身体を点検する。

​「黒崎様、失礼いたします」

​執事は感情を一切排除した動作で、黒崎の身体に触れる。
唇のピアスの周りに滲んだ膿を丁寧に拭い、乳首やへその銀をアルコールで消毒していく。

その手つきは、まるで高価なアンティークの汚れを落とすかのように丁寧で、そして残酷なほど無機質だった。

​「……あ、……っ……」

​消毒液が傷口に染みるたび、黒崎の肩が小さく跳ねる。
しかし、彼はもう声を上げて泣くことも拒絶の言葉を口にすることもない。

​「良好です。
腫れも引き、銀が美しく馴染んできました。

……天童様もお喜びになるでしょう」

​執事は鼻から通したカテーテルで淡々と栄養を流し込み、黒崎の排泄を処理し肌の艶を保つために保湿剤を塗り込む。

​黒崎の瞳には、もはや光は宿っていない。

自分の身体が誰の手によってどのように扱われようとも、自分にはそれを止める権利も、拒む力もない。

​(……早く、……全部、終わればいいのに……)

​うつろな目で天井にある照明の光を眺めながら、黒崎はただ、自分の心がどこか遠くへ完全に消えていくのを待っていた。


​天童が帰国し部屋に足を踏み入れた瞬間、黒崎の身体は条件反射のように震える。

しかしそれはもはや明確な拒絶ではなく、強者に屈服した「獲物」の震えだった。

​「期待通りだ。
傷は完璧に塞がり、銀は君の肉の一部となった」

​天童は黒崎の唇のピアスを指先で弄り、その不気味なほどの馴染み具合を称賛する。
そして、執拗なまでの愛撫という名の「点検」が始まった。

​天童の執拗な拡張と蹂躙によって、黒崎の最奥は天童を迎え入れるための器として完成されつつあった。

天童が容赦なく腰を叩きつけるたび、黒崎の脳裏には激痛が走る。

しかし度重なる侵食は、黒崎の防衛本能さえも狂わせていた。

​「……あ、っ……はぁ……ぁ……ッ」

​激痛の向こう側で、望まない熱が身体の芯を震わせる。

天童の所有物として徹底的に「開発」された肉体は、黒崎の強い「憎悪」を置き去りにして、卑しくも快楽を拾い始めてしまったのだ。

​「ほう、随分と素直になったじゃないか。
その声……もっと聞かせてごらん」

​天童が動きを激しくするたび、黒崎の口からは途切れ途切れの、甘い吐息が零れ落ちた。

(やめろ……私の、身体……っ。こんなの、嫌だ……!)

心の奥深くで叫んでも、身体は天童の熱に寄り添い震えることしかできない。

その自己嫌悪が、さらに黒崎の精神を削り取っていった。

​情事が果て、黒崎が屈辱と快楽の余韻にまどろんでいると、天童は冷たい金属を再び手に取った。

​「もっと美しくしてやろう。
君の『出口』は完全に私の銀で彩られる」

​天童は数日前に一つ目のリングを通したばかりの、そのすぐ傍らに狙いを定めた。

肛門のひだに、二個目のリングピアスを穿つ。

「……っ…………!!」

​背筋を突き抜けるような、鋭い刺通。

かつてなら「おやめください」と必死に乞うたはずの場所。
しかし、今の黒崎はただ銀の針が肉を裂く感触を、瞳を大きく見開いたまま受け入れるだけだった。

​言葉は出ない。

拒絶は無意味だと、細胞の一つ一つに刻み込まれているから。

​カチリ、と二個目のリングが固定された。

互いの銀が触れ合い、チリ、と冷たく鳴る音が、黒崎の耳に絶望的な終止符として響いていく。

​「いい子だ、黒崎。

……いや、私の愛しい『人形』。

もう二度と私に逆らうことはないのだね」

​天童の言葉に、黒崎はただ涙に濡れた睫毛を震わせるだけだった。

身体中に張り巡らされた銀の装飾。
それはもはや彼を人間へとは戻さない、重く、逃れられない鎖となっていた。
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