黒崎くんと佐藤さん

金魚

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第一章

意思なき影、高貴なる傀儡

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​展示への準備が進む中、黒崎は「展示品」としてだけではなく、天童の権威を象徴する「生きた従者」としての役割も叩き込まれていた。

​彼に着せられたのは、最高級の生地で仕立てられた漆黒のスーツ。

しかしその下には無数の銀のピアスが隠され、一歩歩くたびに鎖骨のリングや下半身の八つの銀が密かに肌を噛み、彼が「モノ」であることを思い出させる。

​「黒崎、上着だ」

​「……はい、ご主人様」

​黒崎は表情一つ変えず、流れるような動作で天童の背後に立ち、重厚なジャケットを羽織らせる。

かつては自分の誇りを守り媚びることのなかった背中は、今や主人の一挙手一投足を察知して動く、完璧な傀儡(くぐつ)のそれだった。

​黒崎はそのまま膝をつき、天童の磨き抜かれた革靴の紐を震える指先で丁寧に結ぶ。
その視線は常に主人の足元にあり、自分という人間を見失った虚無だけがそこにあった。

​天童は自分に従順な黒崎を眺め、悦に入りながら指を「パチン」と鋭く鳴らした。

その乾いた音が、静かな部屋に響き渡る。

​「黒崎」

​「……畏まりました……。私をお使いください」

​黒崎はその合図を聞くと、躊躇することなくその場で高価なスラックスを足首まで下ろした。
上質なスーツを纏った上半身とは対照的に、下半身は無惨なまでに銀の鎖で蹂躙された姿。

​黒崎は自ら絨毯に四つん這いになり、八つの銀がひしめき合う最奥を天童へと差し出す。

​「あ……っ、はぁ……ッ!!」

​天童の熱が、問答無用で黒崎の内部を埋め尽くした。

徹底的に作り替えられた肉体は、主人の侵入を「悦び」として変換するようにプログラムされている。
黒崎の口からはかつての抵抗の叫びではなく、湿り気を帯びた艶っぽい喘ぎ声が零れた。

​「どうした、黒崎。私の熱がそんなに嬉しいのか?」

​「……あ、あぁ……ッ! ご主人様、……の、……心地よい、です……あ、が……ッ!!」

​銀のリングが互いに擦れ合い、ジャラジャラと卑俗な音を立てる。

痛みは快楽のスパイスへと堕ち、黒崎は涙を流しながらも主人を悦ばせるための完璧な「玩具」として、その腰を自ら揺らすのだった。



​───天童の傍らに付き従う日々。

黒崎は主人の一動一静を読み取り、影のように動く術を身に着けていた。

しかし、肉体は限界を超えていた。
下半身に刻まれた八つの銀の重みと執拗な侵食による炎症が、彼の神経を常に鋭く削っていたのだ。

​天童が愛用するクリスタルのグラスに冷えた琥珀色の液体を注ぎ、捧げ持ったその時だった。

身体の奥深く、八つのリングが密集する場所で、火花が散るような凄絶な激痛が走った。

​「……あ、っ……!!」

​一瞬、意識が遠のくほどの衝撃に指先が凍りつく。

ガシャン、と高い音を立ててグラスが砕け、冷たい液体が天童の靴を濡らした。

​部屋の空気が一瞬で凍りつく。

黒崎の顔からは血の気が引き、彼は即座にその場に膝をつき、砕けたガラスの破片も構わずに額を床へ擦り付けた。

​「申し訳ございません! 申し訳ございません、ご主人様……!!
 私が、私が不調法なばかりに……っ!
 何卒、お許しを、っ……!!」

​必死の謝罪。

それは忠誠心からではなく、次に訪れるであろう「罰」への狂わんばかりの恐怖から来るものだった。

​天童は濡れた靴を見つめ無機質な沈黙を保っていたが、やがて低く冷たい声で命じた。

​「……台座へ。自分が何をしたか、その肉体に教え込む必要があるな」

​「……は、い……っ」

​黒崎は震える手でスラックスを脱ぎ捨て、教え込まれた通りの屈辱的な姿勢で台座へ伏した。

天童の手が、血の巡りが悪くなるほど黒崎の腰を強く押さえつける。

​「私の前で粗相をするなど、まだ自分を人間だと思っている証拠だ。
……黒崎、君は『物』だ。
物なら、ただ私を愉しませていればいい」

​次の瞬間、天童の指が黒崎の「前」のリングと、後ろに密集する「八つの銀」を同時に掴んだ。
そして、一切の手加減なしにそれらを反対方向へと力任せに引き絞った。

​「あああああああああああああああああッ!!!!!???」

​内臓を直接引きずり出されるような、比類なき激痛。

新しい傷口が裂け、鮮血が銀の環を伝って滴り落ちる。
黒崎の身体は弓なりに跳ね上がり、喉が張り裂けるほどの絶叫が室内に響き渡った。

​「ひっ、あ……あ、ああ……っ! ご主人、様、ごめんなさ……っ、あがっ、あああ!!」

​天童は手を緩めることなく、さらに銀の鎖を指に絡め、ジャラジャラと音を立てて弄り回す。
痛みはもはや快楽の域をとうに超え、黒崎の脳を真っ白に焼き尽くした。

​「これでもう、失敗はしないな?」

​「……は、い……はいっ……。
私は、……ご主人様の、おもちゃ、ですから……っ、どんな痛みも、悦び、です……っ」

​涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、黒崎は「悦びです」と、壊れた蓄音機のように繰り返した。
身体中に刻まれた銀が、彼の悲鳴に共鳴するように冷たく震えている。

​天童はこの無惨な姿を見て、ようやく満足そうに微笑んだ。

​「いい子だ。
……さあ、その血を拭いて、展示会の準備をしよう。
君が世界で一番美しい最高傑作であることを、皆に見せてあげるんだ」

「…は、い……ご主人様……」

​もはや黒崎の精神は、極限の罰によって「痛み=主人の愛」という歪んだ回路でしか保てなくなっていた。
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