追放守護者の影光譚〜用済みだと追放され、平和な大陸に流れ着くもスローライフなんてする訳ない。〜

カツラノエース

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第17話「聖堂と影の予言」

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 目的地は、ラシェルの北東。森を越え、川を渡った先にぽつんと存在する、石造りの小さな聖堂跡だった。

 地図にすら載っていないその場所は、最近になって森の中から“露出”してきたという。依頼の内容は、調査と簡易な記録、可能なら内部の安全確認。それだけ聞けば、ただの低ランク任務にも思えるだろう。

 だが──

「ここ、なにか……変だよね?」

 聖堂の前に立ったリィナが、眉をひそめながら呟いた。

 古びた石造りの建物。屋根の一部は崩れ、蔦が壁を這っている。だが、その廃墟にしては“匂い”が異様だった。湿った苔の香りの奥に、焦げたような金属臭。それに──何より、空気が重い。

「……間違いない。ここは、ただの遺跡じゃない」

 ライゼンは聖堂を見上げながら、そっと口を開いた。

「足元に残る魔力の痕跡が、前の狼と同じだ」
「あ、あのライゼンが地面を切り崩して倒したやつ……?」

 不安そうに尋ねるリィナ、ライゼンは返事を返さない。ただ、否定もしなかった。

「っ……ということは、中に“何か”いるかも?」

 セリアが即座に警戒態勢をとる。ルークは剣に手をかけ、じっと扉を見据えた。

「開けよう。先行は俺が務める」

 ライゼンがそう告げ、静かに木製の扉を押し開く。途端、内部から冷気と共に黒い風が吹き抜けた。

 暗い。だがその闇は、ただの光の欠如ではない。怨嗟にも似た圧力が、肌にぴたりとまとわりついてくる。

 全員が無言で頷き合い、足を踏み入れる。

 ――そして。

「おい、あれ……!」

 ルークが小声で指をさした先にあったのは、祈壇らしき石台。そしてその上に立てかけられていたのは――黒き魔導書。

 ライゼンが持っていたものと、まったく同じ意匠。違うのは、こちらはすでに“開かれている”ことだった。

「誰かが……読んだ?」

 セリアの言葉に、ライゼンは口を引き結ぶ。だが彼の意識は、すでにその本ではなく、祈壇の後方――壁に刻まれた“碑文”に向いていた。

(……読める)

 この大陸の言語ではない。だが、彼の脳には意味が流れ込んでくる。黒き魔導書に触れたときと同じように、誰かの声が直接語りかけてくるような──

『──かつて、二つの大陸は“一つの門”に繋がれていた』

『だが、門は封じられ、記憶は分かたれた』

『この書に選ばれし者よ。汝が開くならば、再び“境界”は裂けるであろう──』

「……!門……っ、」

 ライゼンの視界がぶれた。再び、あの幻影。

 黒い炎。砕ける空。海を覆う巨大な“門”。
 そして、白髪の男がその前に立っている──その姿が、どこか“自分”に似ていた。

「ライゼン!? 大丈夫!?」

 リィナが彼の腕を掴んだ瞬間、祈壇が揺れ、聖堂の奥から気配が走る。

「来るぞ……!」

 ライゼンが叫んだ瞬間、空間が“裂けた”。

 真っ黒な瘴気が壁から噴き出し、その中から、かつて見た異型の狼が現れる──いや、それ以上に強く、禍々しい“上位個体”だった。

「退け、全員ッ!! こいつの強さは前の比じゃない!」

 ルークが声を上げ、剣を構える。セリアが詠唱に入り、リィナが矢をつがえる。

 だが、魔物は“魔法”の詠唱を聞くや否や、瞬時に反応。空間を歪め、一気にセリアへと距離を詰めた。

「くっ……!」

 だが、その爪がセリアに届く前に──

 「そこだ」

 冷たい声と共に、ライゼンは腰に差していた探検を抜き、天井へと投げる。それは見事に脆い部分に命中。天井の一部が”落石トラップ”の様に作動した。巨大な瓦礫が一直線に魔物を潰すように落下する。

 ドゴォンッ!!!

「見えたか。前の“個体”の行動パターンをなぞってきたな」

 石煙の中で、ライゼンは剣を抜く。

「行け。三人とも。奴が動けないうちに、書を封印しろ」

「でも! ライゼンは──!」

「俺なら平気だ。……見せてやるよ、“守護者”の仕事を」

 その言葉に、ルークが一瞬息を呑み、そして頷いた。

「行くぞ、二人とも!」

 三人が奥へ駆け抜ける中、ライゼンは崩れた瓦礫の向こうで咆哮する魔物に歩み寄る。

 その瞳には、一切の迷いも、恐れもなかった。
 
 ◇ ◇ ◇
 
 それからライゼンは異型の狼を討伐し、セリアも魔法により今回の瘴気の原因であった黒き魔導書を封印した直後、ライゼンたちは聖堂の外へと足早に出た。
空はすでに夕暮れを迎え、赤く染まった雲が不気味に広がっていた。

「……ねぇライゼン……?さっき呟いてた“門”って、一体何なの?」
リィナが不安げに尋ねる。

「まだ確実ではないが、少しずつ伏線は繋がってきている。おそらく、古代文明が封印したとされる“空間の門”のことだろう。この大陸と、ヴァルメル、それが繋がろうとしているのかもしれない。」
 
「時間の問題、という事ね……」
 セリアが答える。

ライゼンは黙って空を見上げた。
彼の脳裏には、あの“影”の言葉が繰り返されていた。

『門は再び開かれ、選ばれし者がその鍵となる』

「……俺たちが動かなければ、世界がどうなるか分からない」
ライゼンは静かに言った。

「だったら、行くしかないよね」
リィナが力強く頷く。

「ええ、私たちの手で真実を確かめましょう」
セリアも同意する。

それから4人はギルドに帰り今回の報告を済ませた後、ハイルからの提案で古代の記録が保管されているというギルドの地下へと向かった。

◇ ◇ ◇

ギルドの地下深く、封印された扉の前に立つ4人。

「ここが“記録の間”……」
セリアが呟く。

「まさかギルドの地下にこんなところがあったなんてね、」
「あぁ、きっとここになにか大切な記録があるはずだ」

 リィナとルークも、真剣な眼差しで立っていた。

扉には複雑な魔法陣が刻まれており、中央には手形のような窪みがある。

「ライゼン、試してみて」
セリアが促す。

ライゼンが手を窪みに当てると、魔法陣が淡く光り、扉がゆっくりと開いた。

中には、古代の文献や遺物が整然と並べられていた。

「この魔導書……」
ライゼンが一冊の黒い本を手に取る。

その瞬間、彼の意識が遠のいた。

◇ ◇ ◇

ライゼンの意識は、どこか異なる空間に引き込まれていた。

そこには、巨大な“門”がそびえ立っていた。
門の前には、白髪の男が立っていた。

「お前が……“選ばれし者”か」
男が言った。

「お前は誰だ?」
ライゼンが尋ねる。

「我は、かつてこの門を封じた者。
だが、時は巡り、再び門が開かれようとしている。
お前には、その運命を背負う覚悟があるか?」

ライゼンは黙って頷いた。

「ならば、進め。真実は、お前自身の手で掴め」

◇ ◇ ◇

意識を取り戻したライゼンは、ギルドの地下に戻っていた。

「大丈夫?」
リィナが心配そうに覗き込む。

「ああ……見たんだ。門の記憶を」
ライゼンが答える。

「これからどうするの?」
セリアが尋ねる。

「門を探す。そして、封じる方法を見つける」
ライゼンの目には、決意の光が宿っていた。
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