追放守護者の影光譚〜用済みだと追放され、平和な大陸に流れ着くもスローライフなんてする訳ない。〜

カツラノエース

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第18話「王都行きと焦げた世界」

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 あれから数日後――ラシェルの冒険者ギルド。
 陽の光が差し込む大窓の奥で、革靴の音が重く鳴った。

 受付の男――いつものハイルではない。
代わりに、黒い軍装をまとい、胸に王都の紋章を抱いた男が立っていた。
 彼の後ろには、二人の護衛兵が無言で控えている。

「ライゼン、と言ったか。例の異邦人が居るパーティーはどこだ」
鋭い視線を投げつけながら、男が静かに言った。

「へ? え、あ、はい! はいっ!」
リィナが慌てて手を上げた。
その横で、セリアが眉をひそめ、ルークは警戒の色を露にして男を見ている。
ライゼンは変わらぬ無表情のまま、椅子に腰掛けたまま視線だけを上げた。

「王都の命により、貴殿らに通達を伝える」
男が書状を取り出し、無造作に机に置いた。

「王都近郊にて、未確認の魔物の群れが出現。討伐にあたって、各地ギルドより戦力を集めるよう通達が下っている。貴殿らもその候補として選ばれた」

「えっ……ま、まじで?」
リィナがぽかんとした顔で紙を覗き込む。

「実力不相応だと思うなら、辞退しても構わない。ただし――」
男の目が冷たく光る。
「貴殿らほど今この大陸で名を挙げ、注目されている者が辞退するという事は、それ相応の評価がつくことを忘れるな」

セリアの表情が曇った。
「脅しかしら。……にしても、突然すぎるわ」

「急ぎの命令だ。準備は三日。その後、王都へ向かうことになる」
男は踵を返し、淡々と背を向けた。
部屋に残されたのは、重たい沈黙だった。

「……これは、普通じゃないな」
ルークがぼそりと呟いた。
「王都が地方の冒険者を直接召集? 色々な依頼をこなしてきたとは言え、何かが……隠されている」

 セリアが頷く。
 「未確認の魔物、って表現も気になるわ。あんな書き方、公式な文面では普通使わない」

「ま、でも行くんでしょ? あたしたち」
リィナが口を開く。
「王都なんて、行ったことないし……怖いけど。ライゼンがいれば、なんとかなる気がするし」

その言葉に、全員の視線が自然とライゼンへと向いた。

「……問題ない」
ライゼンはただ一言、そう告げた。
その瞳は、まるで既に戦場を見据えているかのようだった。

 ◇ ◇ ◇

 ギルドの廊下を歩きながら、ルークが口を開いた。

「ライゼン、お前……今回の召集、何か察してるんじゃないか?」

「……」

しばらくの沈黙のあと、ライゼンが口を開いた。

「この気配。闇の魔物……いや、それに似た“何か”。」
「俺のいたヴァルメルで、似た気配を感じたことがある」

ルークの表情が引き締まる。
「つまり、王都に現れたのは、ヴァルメルの魔物の可能性があるってことか……?」

「断言はできない。だが……準備しておけ。敵は“こちら”の常識で測れる存在じゃない。」

「――それに、例の”門”。それに繋がる情報も得られるかもしれない」

 ライゼンの鋭い視線の先で風が吹き抜ける。
 嵐の気配が、確かに迫っていた――。

 ◇ ◇ ◇

 3日後。予定通り王都エルドランに向けて、ライゼンたちは出発した。
 馬車の車輪が土の道を刻む音に混じって、風が静かに木々を揺らす。まだ朝靄の残る林道を、ライゼンたちの護衛として共に進むのは、他の冒険者数名と、そのリーダーらしき中年の男。

 馬車の荷台に腰をかけるセリアが、柔らかく笑う。

「……こうして王都に向かうなんて、ちょっと旅っぽくていいわね」
「そだねっ!王都って一回行ってみたかったんだ~!なんか憧れちゃうよね、こう……騎士団とかお城とか!」と、リィナが身を乗り出す。
「騎士団はお前みたいなのが飛び込むとすぐ剣が折れるぞ」と、ルークがぼやくと、「ひどっ!」とリィナが拗ねるように言い返す。

 馬車の横、歩きながら警戒を怠らないライゼンは、そのやり取りに目もくれず、周囲の地形を把握していた。
 木々の密度、見通しの悪い丘、伏兵に最適な遮蔽物。どこか、敵の待ち伏せがあってもおかしくない。

「……五分後、右手の丘から獣の匂い。大きい。」

それを聞いた瞬間、ルークが剣に手をかける。

「気配、感じ取ったのか?」
「ああ。間違いない。来るぞ。」

――ズズズ……ズンッ!

 土を揺らす轟音。次の瞬間、右手の斜面を駆け下りてきたのは、焦げた毛並みの巨大な四足獣。
 体長は三メートル近く、眼は真紅に染まり、牙には黒い瘴気が絡んでいる。

「ッ、災獣種かッ!?」

 冒険者のひとりが驚愕の声をあげる。
 それを聞いた周りの冒険者たちも一気にざわめきだした。
 その名前は、通常の魔獣よりも遥かに強く、かつ瘴気に侵された“厄災の系譜”――上級冒険者でも苦戦する対象だ。

「馬車を後方に動かせ!」ライゼンの声が鋭く響く。
リーダーの男がが慌てて指示を飛ばす。
 馬車が後退し始めたその瞬間、獣が突撃してきた。

「リィナ、セリア、必要になったら援護頼む。ルーク、正面は俺と行けるか」
「リィナちゃん任されたよっ!」
「分かったわ!」
「任せろ!」

ルークが抜剣し、ライゼンと並び立つ。

「獣の踏み込み、三歩で殺せ。俺が誘導する」
「……了解。合わせる!」

――ゴゥゥウウ!

 獣が跳躍。その直前、地面を砕きながらライゼンが動く。
魔法ではない。だが、狙い澄ました一撃。
地形を利用し、足場を崩して獣の着地をずらす。

「今だ、ルーク、っ!」
「――斬ッ!!」

銀の閃光が獣の喉元を貫いた。
咆哮すら上げる暇もなく、獣は地に沈む。

血が染み込んでいく地面に、しばしの静寂。
セリアが杖を下ろし、「さすが、連携が完璧ね……」と呟く。

「いや、あれ、ライゼンが完全にコントロールしてたよね!?」とリィナが驚きの目で見つめてくる。
ライゼンは肩に付いた土を払うようにして、静かに言う。

「この程度なら、戦いではない。」

――そう言い放つ彼の瞳には、かつての“戦場”がまだ色濃く焼き付いていた。

 ◇ ◇ ◇

 その翌日、王都エルドランの城門が見えた。
 これからライゼンたちを待ち受けるのは祝福か、それとも――
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