追放守護者の影光譚〜用済みだと追放され、平和な大陸に流れ着くもスローライフなんてする訳ない。〜

カツラノエース

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第21話「報告と沈黙」

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 王都・ギルド本部。午後。

 重たい扉をくぐった瞬間、あの騒がしくも賑やかな空気が戻ってきた。冒険者たちの声、依頼書をめくる紙の音、金貨の音色――

だが、四人の冒険者は、そのどこにも溶け込まず、真っ直ぐにカウンターへと向かった。

「……依頼達成報告。エルディア大聖堂跡地、調査終了」

ライゼンの淡々とした声に、受付嬢の女性がはっと顔を上げた。

「あ……はい。えっと、確か“遺跡の現状調査”でしたよね。報告内容を確認させていただきます」

手早く手続きが始まる。だが、彼女が記録用紙をめくる手が、ふと止まった。

「……え、魔物……? しかも“異形”って、これは……」

セリアが一歩進み、静かに告げる。

「正式な報告書に記載してあります。私は魔導士として、瘴気反応とその挙動も記録しました」

「はい……ええと……少々、お時間をいただいても?」

受付嬢が焦ったように奥へと引っ込み、ギルド内の空気が一瞬だけ、ざわめいた。

「……想定外だったんだな、やっぱり」

ルークが呟く。ライゼンは無言で頷いた。

「まさか、あそこまでの異常が発生していたなんて……」

リィナが小さく言って、ぽすんと近くにあった椅子に座る。

「疲れた~……でも、ライゼンがいなかったら、ほんとにやばかったよね」

「……感謝するなら、ルークにもな。最後の一撃、確実だった」

「へへっ、まあね!」

少しだけ場が和んだ空気になったその時――

「失礼。報告書の詳細について、お話を伺いたいとのことです」

受付に戻ってきた職員が、控えめに声をかけてきた。

「応接室をご用意しております。ギルド上級職員が、お待ちです」

「了解。案内を頼む」

ライゼンが短く返すと、四人は無言のまま立ち上がった。

 ◇ ◇ ◇

応接室は静かだった。

中には、年配の男がひとり。分厚い資料と報告書の束を前にしていた。

「ようこそ。まずは、依頼の遂行、感謝します」

「手短に。……あの場で何が起きたか、あんたたちがどこまで把握してるか知りたい」

ライゼンが先に口を開いた。男は驚いたように眉を上げたが、すぐに冷静な表情に戻る。

「異形の魔物。瘴気の集中。そして、“監視者”と名乗る人物が現れ、転移で姿を消した……ですね」

「把握してるな。なら――“なぜ”俺たちが何も知らされず、そういう連中の実験に巻き込まれたのか、説明してもらえるか?」

空気が張り詰める。リィナもセリアも息を呑み、ルークは腕を組んだまま沈黙を守っていた。

 男は一度深く息を吐き、そして、口を開いた。

「正直に言いましょう。……ギルド本部にも、“一部”でしか情報は共有されていませんでした」

「つまり、知らなかったという事か。――だが、その一言では済まされない話だ」

「はい……その通りです」

ライゼンの冷たい眼差しに、男は真正面から応える。

「“瘴気”は、ただの災厄ではありません。ある学派――あなた方が遭遇した“監視者”も含め、瘴気を利用しようとする動きが、裏で進んでいる。私たちも、それをようやく掴み始めた段階です」

「それが事実なら、俺たちは既に戦場に立たされたってことになるな。知らないうちに」

「……すみません」

沈黙が落ちる。

セリアが、そっと口を開く。

「このままでは、ギルドの信用に関わります。……どうなさるおつもりですか?」

「内部調査を進めます。監視者と名乗る人物についても、記録と照合し――」

「無駄だ」

ライゼンの声が割り込んだ。

「転移魔法、とセリアは言っていたか。おそらくあれは魔法の中でも上級に位置する。それを使えるレベルの者が、記録に残る痕跡を残すとは思えない」

「……かもしれません。ですが、私たちはやるしかありません」

 ライゼンは黙ったまま、わずかに目を細めた。

(ならば――俺が直接動く)

 ◇ ◇ ◇

部屋を出た後、廊下でルークがぽつりと呟いた。

「……あれが、瘴気の本性か。あれを生み出すやつらが、王都に潜んでるってことだな」

「ああ。……だが、これで確信が持てた」

「確信?」

「“瘴気”の流れは、作られていた。自然発生じゃない。あの魔物も……誰かが“意図して”生み出してる」

「つまり……」

ライゼンは歩みを止め、静かに言う。

「……この王都の中に、“瘴気を操る者”がいる。そして、ギルドにも手を回してる」

「そいつらが何を狙ってるのか……」

「それを突き止める。そのためにも……もう一度、“聖堂”へ行く必要がある」

セリアとリィナが、驚いたようにライゼンを見る。

「でも……もう調査は終わったって……」

「“表向き”は、な。」

 
「それなら今から俺が再調査の要請をしてこよう」
「あぁ、頼む」

 ライゼンはルークに顔を向けぬまま、静かにそう言った。

 ◇ ◇ ◇

 翌日、4人は宿で朝食を食べていると、外から役人の声が聞こえてきた。扉がノックされ、青年職員が息を切らして入室する。

「ライゼン・ヴァール殿、リィナ殿、セリア殿、ルーク殿──お待たせしました。王立ギルド本部から“再調査任務”の正式通達です」

 青年は分厚い封筒を取り出し、ライゼンに手渡した。封筒には王都の印章が押されている。

「内容は、先日の大聖堂跡地に対する“追加調査”――特に昨日魔物が現れた敷地付近の瘴気源の特定と封印再構築の検証。併せて、跡地内で発生した異形魔物の出現原因の調査もお願いします。」

「やはり──」

ライゼンはその場で封筒を開封し、文面を一瞥する。彼の目が次第に鋭く光った。

「裏の事情を知らない役員にも伝えた形か。これで正当性は担保されたな」

「はい。これでギルドとしても、公式に二度目の踏査が可能です」
青年は安堵した表情を浮かべた。

「ありがとう。準備を整えて、明朝には出発しよう」

ライゼンは封筒を机に置き、四人を見渡した。

「……行こう」

 ◇ ◇ ◇

再び王都南門の前。昨日の出来事からの配慮か、ギルドは馬車を用意していた。
四人はそれぞれ瘴気を警戒しながら乗り込む。

「ライゼン、今日はルークと私で先導の位置を入れ替えようよ。昨日のルート、もう覚えたでしょ?」
セリアが提案する。

「いい判断だ。俺は後方から全体を監察する」
ライゼンは頷き、仲間の配置を即座に指示した。

馬車が動き出し、古道を進む。昨日よりも深く繁る緑の中、四人は静かに集中を高める。

「うう……昨日ほど空気が重くない気がするけど……」
リィナが不安げに呟く。

「安心するな。瘴気は、場所によって強弱を作ることが可能だ。なんども言っているだろう、油断は命取りだと。」
ライゼンが背後から冷静に指摘する。

その言葉どおり、馬車が小さな谷に差し掛かると、突然風向きが変わり、湿った土の匂いとともに黒い煙が漂ってきた。

「っ……!」
ルークが振り返り剣を構える。

「来るぞ」
ライゼンが声を上げる。

馬車の左右から、昨日を上回る数の異形魔物が跳び出した――瘴気を纏い、触手を蠢かせた牙の集合体が、四人を包囲する。

「正位置だ、セリア、直線詠唱を合わせろ」
「了解よ!」

セリアは杖を掲げ、大気を震わせる詠唱を開始する。リィナはその隙に矢を放つが、触手が一振りで矢筋を遮る。

「くっ……やっぱり防御に瘴気を使ってるよ!」

ルークが疾風のように一撃を放ち、触手を斬り裂く。

「ライゼン、どう動けば良いっ!?」
リィナが叫ぶ。

「地形を使う。ここは丘だ。馬車後部の崖になっている部分を利用して誘導する」
ライゼンが指示する。

その声を合図に、ルークが異形を引きつけながら崖際へ誘導し、セリアの「《フロストケージ》」が一帯を氷結させる。

「今だ、リィナ!」
リィナの矢が氷の壁に反射し、後方の異形を貫通した。
続いて、ライゼンが跳躍して間合いを詰める。

「“瘴気の源”見つけたぞ……っ」
 魔物の動きと瘴気の流れ。そして長年の経験から――
 ライゼンの斬撃は魔物では無く大地を抉った。瞬間、黒く染まった魔石が露出する。

「――これだな」

彼はそのまま魔石を斬り裂き、瘴気が一瞬で蒸発する。

途端に異形たちは力を失い、崩れ落ちた。

一面に静寂が戻る。風が再び柔らかく吹き抜けた。

「……やった……ね」
リィナが震える声で言う。

ルークは深呼吸し、剣を鞘に収めながら笑った。

「さすが、ライゼン。あんたの頭脳と統率力は、やっぱ規格外だわ」

セリアも近づき、杖を下ろす。

「これで瘴気の源はほぼ把握できたわ。まさか魔石が埋まっていただなんて……封印は私に任せて。これからギルドに報告しましょう」

ライゼンは静かに頷き、露出した魔石の欠片を懐にしまった。

「これで“調査”は一応、終わりだ。だが……」
彼の瞳がわずかに陰った。

(裏の監視者は、おそらくこれも見ていたのだろう。次はどんな手を打ってくるか……)

四人は、互いの背を預け合いながら、馬車へと歩みを進めた。
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