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第24話「礎の石と継がれし意志」
しおりを挟む封印図書館、地下第三階層――
雷光が静まり、崩れた魔獣の残骸がゆっくりと煙を上げていた。
ライゼンたちは、なお警戒を解かぬまま、戦場に立っていた。
「……消えたな。仮面の従者も、瘴気の余波も」
ルークの呟きにセリアが魔力の波動を確認しながら呟く。
「最後に残された石――“門の礎”。やっぱり、これはただの″歓迎の義の報酬″なる物ではないみたいね」
ライゼンが静かに石を見つめる。
仮面の男が遺していった、それはただの“勲章”ではない。
それは、“次の鍵”であり、“門を開くための条件”だった。
「この石、魔力が生きてる。……継承者の魔力反応を記憶してるんだわ」
セリアが封印術式の痕跡を解析しながら続ける。
「つまり、奴らの目的は……」
「俺たちに“門を開かせる”ことだ」
ライゼンの言葉に、空気が緊張する。
「どういう意味? 門を開きたいなら、自分たちでやればいいのに」
リィナが首を傾げる。
「おそらく、“門”は誰にでも開けるものじゃない。……選ばれた者、つまり“継承者”の意志と力、それが儀式の最後の“トリガー”なんだ」
「力だけでなく、意志……ね」
ルークが納得するように頷く。
「自ら選び、自らの意志で門を開く。それで初めて、完全な“転移”が成る……そんな条件が組み込まれてるのか」
「それを利用している。“進化”と称して、門の力を引き出そうとしてるんだ」
ライゼンがふと天井を見上げる。
そこに広がるのは、崩れた瓦礫と、吹き込む冷たい夜風。
王都の深夜は、まだ終わっていなかった。
「戻ろう。……次の手を打つ前に、この情報を王都へ」
ライゼンの言葉に、皆が頷く。
図書館を出る途中――セリアが小さく口を開く。
「ねえ、ライゼン……もし、本当に“門”が開いたら、その先にあるのは何だと思う?」
「“別の大陸”。“別の世界”。あるいは、すべてを超越した“異界”かもしれない」
「……行く気?」
「行くしかないだろう。“門”がこの世界を侵すのなら――止めるためにも」
セリアは短く、息を飲んだ。
「やっぱり、あなたって……そういう人なのね」
地上へ戻った時、夜はもう明けかけていた。
東の空に白みが差し、王都の尖塔が朝焼けに染まり始める。
封印図書館の入口は、もはや瓦礫の山。
もはや誰にも入れない場所となり、その存在を再び闇に沈めた。
ギルド本部、特別報告室。
ライゼンたちは“図書館襲撃”と“門の礎”の件を報告していた。
対応に当たったギルド幹部の顔が、緊張に引き攣る。
「……これは重大な国家機密に関わる話です。王家との直接交渉になる可能性も」
「上等だ。こちらも命を賭けて得た情報だ。黙っている理由はない」
ライゼンの一言に、空気が凍りつく。
だが、誰も反論できなかった。
◇ ◇ ◇
その夜。
ライゼンの元に、一通の密書が届いた。
――『王家直属探索隊より、極秘任務への召集。明朝、王宮東塔にて待機せよ』
そこには、王家の印章と共に、こう記されていた。
《“門の根源”への道を、君たちに託す》
物語は、ついに“扉の向こう側”へと動き出す。
◇ ◇ ◇
翌日――王都、黎明の空に淡い光が差し込む頃――
ライゼンたちは、王宮東塔の前に立っていた。
厳重な警備の中、冒険者である彼らが招かれるなど、異例中の異例。
だが、それほどに“門”の問題は深刻であり、王家にとっても看過できぬ脅威となっていた。
「ここが……王家直属の“探索隊”の拠点か」
ルークが低く呟く。
「妙な空気……普通の兵士とは違う感じがするね……」
リィナが眉をひそめる。兵士たちの視線が、戦場帰りの者のように鋭く、殺気すら帯びていた。
「魔力の練度が高い。……恐らく、全員が“選抜された戦闘要員”だわ」
セリアが周囲を見回し、静かに結論を下す。
やがて、塔の扉が開き、一人の男が現れた。
「貴公らが、“封印図書館”の生存者か」
灰色の軍装。白銀の肩章。威圧を伴った佇まい――
それは、王国軍最上位に名を連ねる《王家探索隊》隊長、ヴァルド=リュシオン。
「……ライゼン=ヴァール、か。貴様に“命令”を下すのは初めてだな」
「命令、か。まずは“内容”を聞こうか」
彼にとっては懐かしい響き。
ライゼンが一歩、前に出る。その無表情の奥にある“冷徹な意志”に、ヴァルドの口元がわずかに吊り上がった。
「気に入った。……ならば単刀直入に言おう。“門の根源”が動き出した。我々王家は、貴様らにその調査と、必要ならば“殲滅”を命じる」
(門……上層部はやはりその存在を知っていたか)
ライゼンの視線が僅かに鋭くなる。
セリアが息を呑む。
「“門の根源”……場所は?」
「――“カテドラ砂漠”」
その名に、リィナの目が見開かれた。
「えっ、あの……南の“死の迷宮”って呼ばれてる場所!?あそこって、王国の記録上でも“封鎖区域”じゃ……!わたしでも知ってるレベルだよ……!?」
「封鎖していたのは理由がある。“門の構造体”の残骸が、古代より地下に埋まっていると判明してな」
ヴァルドはさらに一歩、近づく。
「そしてその“構造体”が――数日前より、魔力を帯びて脈動を始めた」
ライゼンが即座に察する。
「封印図書館で手に入れた“門の礎”が、連動した可能性があるな」
「その通りだ。“門”は部分では機能しない。複数の“根”が連動し、初めて“完全な開門”が起こる。……つまり、図書館の戦いは序章に過ぎん」
重く、鋭い沈黙が場を包む。
ルークが、静かに言う。
「……調査範囲は?」
「“カテドラ砂漠”南端、封印遺跡“サン=アルカナ”。本隊は入口で待機、探索は貴様ら主導で行ってもらう。――王命だ」
ライゼンは答えず、短く頷いた。
◇ ◇ ◇
――その数時間後。
王都の南門より、特別部隊の一団が出発した。
先導するのは、ライゼンたち四人。そして、護衛と連絡を担う、王家探索隊の精鋭たち。
目指すは、長年“禁忌”とされてきた砂の大地――“カテドラ砂漠”。
その深奥に眠る、“門の根源”。
そこで彼らを待つのは、未知の魔物か、あるいは――“門”の真実か。
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